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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
21/153

ダルシア帝国の継承者

197.

 ここまでは案外簡単だった、とギアス・リードは思った。

 ヘイダール要塞の司令室を乗っ取った手口は、以前ヤム・ディポック提督がこの要塞を落とした時に使った作戦にヒントを得て、もっと小さな規模で行ったのだ。

 司令室にいる『バウワフル』の仲間は一人だけだった。その一人だけで、この連中は取り仕切れるのだ。いかに『バウワフル』の能力が高いかが分かる、とギアス・リードは満足だった。人数が少ないだけに、他の者を扇動して仲間にすると言う方法が必須であった。

 今、司令室の中は、新政府ができるというニュースでワクワクしていた。その希望の所為で皆ギアス・リードについてきているのだ。彼自身の力だけではない、ということは十分わかっているつもりだった。ここの連中は、自分たちに都合の良い夢を見ているのであって、それが真実であるかどうかを見極める力はないのだ。

 ギアス・リードは、この初戦の勝利に酔いしれぬよう身を引き締めた。まだまだ、彼の目標とするところまでは、遠いのだ。

 首都星ゼンダから来た議員秘書ギアス・リードは、仲間に司令室を占拠させた後、ヘイダール要塞の司令室を一通り見た。彼はかつて帝国の軍人としてこの要塞に来て、この司令室にいたことがあった。だから、大抵のことはわかるつもりだった。

 今回司令室を見て感じたことは、昔と少しも変わっていないことだった。

 これは、妙だった。惑星カルガリウムのグーザ帝国の連中から得た情報によると、かの転送装置はヘイダール要塞の司令室に設置されているというのだ。だが、どこにもその痕跡はない。床を見ても傷跡がないし、新しい制御装置が設置された後もないのだ。

 これは、どういうことなのだろうか、とギアス・リードは思った。その上転送装置は別の部屋にあるという、ディポック司令官の話は本当なのだろうか?

 考えられることは、あのガンダルフの魔法使いレギオンが魔法で隠してしまったということだ。

 涼しい顔をしてダールマン提督と名乗って要塞にいるのは、どう考えてもガンダルフの魔法使い、大賢者とも言われているレギオンに違いない、とギアス・リードは思っていた。


 その昔、ロル星団で『バウワフル』という寄生種族が全盛を極めた頃、ガンダルフの魔法使いは突然やってきた。

 当時の大賢者レギオンは、白髪の目つきの鋭い老人だった。彼はドラゴンの背に乗って現れたのだ。そのドラゴンが単なる騎乗の生物ではなく、高度な文明を持った種族だったとは当初まるで気づかなかった。

 魔法使いレギオンは身体の周りに目に見えないバリアである結界を張って、寄生種族である『バウワフル』の侵入を阻んだ。ドラゴンの方は鉄よりも固い皮膚がその侵入を拒んでいた。

 レギオンとドラゴンがロル星団にやって来たのは、『バウワフル』がどのような目的で来たのかを確かめるためだった。

 現在首都星ゼンダと言われている惑星は、宇宙文明には至っていないが大小さまざまな国があるラウリヤと呼ばれる惑星だった。今より一万年程前の話である。

 『バウワフル』の一人がアンダイン種族の送った転送装置でその惑星を見つけた時、彼の支配する新世界がそこにはあった。未熟な文明の種族を従えることなど、簡単だったからだ。彼らは、まずラウリヤの大小の国々の支配者に寄生した。そうすることで、当初の目論見通り、惑星ラウリヤ(後の首都星ゼンダ)はそれほど時間を掛けずに、『バウワフル』の支配する惑星となった。

 だが、白金銀河であったように、『バウワフル』は非常に支配欲の強い種族であったため、やがて権力闘争に明け暮れることになった。

 ドラゴンに乗った魔法使いレギオンがやってきたのは、そんな時代だった。

 惑星ラウリヤの人々は、ドラゴンに乗った白髪の魔法使いをガンダルフの大賢者レギオンと呼んだ。なぜなら、古い言い伝えに彼の姿形とその名が残されていたからである。

 ドラゴンに乗った白髪の魔法使いレギオンは、ラウリヤの大国の一つ、ゴルダナの王であった『バウワフル』のクダラグに会いに来た。そして、言った。

「お前は、何のためにどこからこの惑星にやって来て王になったのか?」

 ゴルダナの王クダラグは、その問いに驚きながらも、

「我は、王になるためにやって来た王の中の王である」

と、言った。

「王の中の王だと?」

と、レギオンは言うと、ふんと笑って、

「お前は、このラウリヤにいたずらに戦乱を巻き起こしているではないか?何のためにそのようなことをするのだ?」

と、問うた。その言葉の中には、王に対する礼儀も敬意もなかった。

「無礼な、お前こそ何者だ」

「わしは、ガンダルフの魔法使いレギオンという。ラウリヤでも知らぬ者はない」

「そんなものは、ただの大昔の言い伝えにすぎん。王である私をたばかるつもりか?」

と、クダラグ王は言った。『バウワフル』に寄生された王は、本人の意志など無視され、別の人格になっているためラウリヤに伝わる伝説など意に介さなかった。『バウワフル』自身の持つ種族の知識では、魔法使いなどというものはなかったのである。

「なるほど、お前は見てくれはラウリヤ人だが、中身に違う者が入っているのか…」

と、レギオンは王を寄生種族が入った者だと見破っていた。

「ば、馬鹿なことを。私はラウリヤ人だ!」

「お前たちは、ラウリヤ人に多くの武器を作らせ、多くの人々を殺し、権力を握った。次に何をするつもりか?」

「そうだ。我々は、このラウリヤに高度な文明や技術を伝えてやったのだ。その何が悪いのだ?」

と、クダラグ王は胸を張って言った。

「その高度な文明や技術が、どれだけラウリヤ人を幸せにしたかどうかが問われているのだ。お前たちの持ってきたものは、多くの人々を殺す武器ではないか?」

と、レギオンは疑問を投げかけた。

「それの何が悪い。その武器によって、国が大きくなった。その国をもっと大きくしたいと思っている」

「それで、人々は幸せになったのかと聞いている」

「豊かになったのだから、幸せに決まっている」

「そうだろうか?貧しくなった者の方が多いのではないのか?それに、お前は仲間を増やしているな。お前たちに入られると、本人の意志は無視されるのではないか?」

と、レギオンは事実を指摘した。

「何をいう。寿命は延びるし、病気にはならぬし、頭脳も明晰になると喜んでいるわ……」

と、クダラグ王は狼狽えて言った。

「それは最初の内だけではないか?しだいに、本人の意志は妨げられ、何もできなくなる。本音の所では嘆いているのではないのか?」

 『バウワフル』のクダラグ王は、その話が事実であることを知っていた。このことを知られたら、寄生種族である『バウワフル』を宿す人間がいなくなる。これから仲間をもっと増やそうとしているときに。だからこそ、大声で魔法使いを罵った。

「ええい!この嘘つきめ。そのようなことは聞いたことがない。衛兵、この者を連れて行け!」

 だが、王の命令を無視して魔法使いは忽然と姿を消した。


 ロル星団には、惑星ラウリヤの他に人間族の住む惑星がいくつかあった。後に銀河帝国の首都星ロギノスと呼ばれる惑星でも、『バウワフル』は住み着いていた。

 この原因がどこからともなく送られて来た転送装置にあると、レギオンはダルシア人とともに調査して知ったのだ。

「このような装置は百害あって一利なし。危険すぎる」

と、レギオンは断じた。ダルシア人の考えも同じであった。

 そのためダルシア人とガンダルフの魔法使い達は、ふたご銀河に送られて来たこの転送装置をすべて地中深くに埋めたのだった。その場所は、ジル星団ではダルシア人が管理し、ロル星団ではテイミスという存在に管理を委ねることになった。

 だが、転送装置を使って入り込んだ『バウワフル』の排除は簡単ではなかった。すでに様々な惑星の支配者の中に入り込んでいたからである。

 そこで、ダルシア人はふたご銀河のすべての種族の遺伝子に、『バウワフル』を排除する因子を混ぜたのだった。『バウワフル』がふたご銀河の知性生物に寄生するとそれが発動し、ウィルスを駆逐するように『バウワフル』を排除するという遺伝子だった。

 そのため、『バウワフル』は寄生した者の寿命が尽きても、簡単に次の寄生相手を見つけることができなくなった。遺伝子によって排除された彼らは、次の宿主を見つけられずに死んでしまうのだ。その結果、彼らはできるだけ寄生した者の寿命を延ばし、そして寿命が尽きる前に次の寄生相手を見つけられない場合は、冬眠をするように特別な液体の中で過ごす方法を開発した。

 ダルシア人は『バウワフル』をすべて排除しようとしたのだが、長い年月の間に、『バウワフル』を排除する遺伝子が欠損するような個体が生まれることがあった。『バウワフル』はそうした個体を見つけ、種族として細々と存続してきた。

 議員秘書であるギアス・リードは代々その遺伝子が欠損する家系の一つとして、『バウワフル』が利用してきたのだった。

 このロル星団にやって来た『バウワフル』という寄生種族には、もう一つ悩みがあった。

 白金銀河の本家本元の『バウワフル』は、最初のバウワフルの知識や技術にアクセスできたが、ふたご銀河のロル星団にやってきて年月が経つうちに、その知識や技術にアクセスできる範囲が限られてきたのである。それは、白金銀河から遠く離れてしまったせいなのか、それともアクセスする能力がなくなってきたのか、それすらもロル星団にいる『バウワフル』にはわからなくなっていた。

 そんなとき、『バウワフル』達はふたご銀河のジル星団にいるというガンダルフの魔法使いの伝説を聞いたのだ。

 ガンダルフの五大魔法使い達は、死んでも蘇り、特定の魔法の呪文で全ての記憶を思い出すというのだ。これは、『バウワフル』の持っていた能力と同じものではないのか?しかし、彼らがロル星団にいる以上、ジル星団の魔法使いに会うということは不可能だった。それに、宇宙船は個人の知識や技術だけで作れるものではない。

 『バウワフル』はロル星団で、宇宙文明が発達するのを待つほかはなかった。


198.

 ノルド・ギャビは、エルシン・ディゴ議員から、家族を人質に取ったりしないという誓約書兼保証書を勝ち取った。けれども、だからと言って首都星ゼンダから来た議員と議員秘書を信用するつもりはなかった。

 現状要塞の司令室は、首都星から来た議員と議員秘書の仲間に乗っ取られたままである。さすがに、要塞司令室から手を引くと、彼らは言わなかった。

 ディポック司令官とノルド・ギャビは、要塞に戻って来るシャトルを迎えに、駐機場へ急ぎ足で向かった。

 一方、ダールマン提督はリドス連邦王国のバルザス提督の宿舎へ行った。


 バルザス提督は、要塞の副司令室になる部屋にずっといた。ディポック司令官に声を聞かせたのは、魔法を使ったのである。

「レギオン、無事でしたか」

と、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャが言った。

「ご心配をお掛けしました」

「それで、これからどうするおつもりですか?」

「おそらく、これから要塞の政治的代表を選ぶ選挙をやることになるでしょう」

と、ダールマン提督は言った。

「それ、私たちも参加できるのかしら?」

と、不安そうにタリアが聞いた。

「おそらく、参加できるようにディポック司令官が主張してくれると思う。タレス人の中には、この要塞に住処を定める者もいるようだからな」

「もし、あの議員たちが代表になることになったら、どうすればいいの?」

「もちろん、そんなことにならないようにするしかない」

「どうやって?」

「それをこれから考えるのさ……」

と、ダールマン提督は面白そうに言った。そして、

「だが、その前にすることがある」

と、意を決したようにバルザス提督の方を向いて言った。

「すでに、連絡をしましたよ。ディポック司令官たちをレギオンの城に集めますか?」

と、バルザス提督は言った。

「いや、まだ私の城に長くいた時からそれほど経っていない。この部屋か、それともディポック司令官の部屋かどちらかにした方がいいだろう」

「何をするつもりなの?」

と、アリュセアが聞いた。

「銀河帝国の皇帝陛下の件だ。あまり長くは待てない。要塞の代表を決める選挙の間は何もできないから、その前に要塞幹部の連中に話だけはしておきたい」

「それって、あの『死の呪い』のこと?」

「そうだ」

 本音を言えば、選挙などというものに関わっている暇はないというところだ。だが、行き掛かり上、そうなってしまったのは仕方がない。だとするならば、出来るだけこちらの有利に事が進むように考えることだ、とダールマン提督――レギオンは考えていた。

 銀河帝国の皇帝が掛けられている『死の呪い』を解くことは不可能ではない。不可能ではないが、かなり大変な労力がいるのは確かだった。準備だけではなく、こちらのダメージも大きいことが予想された。

「銀の月。あの剣は今どこにある?」

と、ダールマン提督は、珍しくバルザス提督を『銀の月』と呼んだ。あの剣とは、ナンヴァル人のケル・ハトラス・ナン元大佐が持っていた剣のことである。

「私が持っています」

「そうか。いずれ、それを使わざるを得ないだろう」

「しかし、それは……」

「一か八かになるが、他に方法はない」

 銀の月――バルザス提督は、あまり賛成できないという顔をしていた。


 ディポック司令官はノルド・ギャビと駐機場で、シャトルに乗っていたブレイス少佐やマクガリアン中尉、それにノルド・ギャビの家族と無事に再会した。

「けがはないか?」

と、ブレイス少佐と車いすに乗ったマクガリアン中尉にディポックは言った。

「大丈夫です。でも、何があったんですか?急に要塞に戻るようになってしまって……」

と、ブレイス少佐は自分がどんな目に会っていたのか知らずに言った。

「そうですわ、戦艦ベルデルによいお医者様が乗っていると聞いていましたのに……」

と、ギャビ夫人イズルカが車いすから身を乗り出して言った。

 エルシン・ディゴ議員は戦艦ベルデルにいい医者がいると言って、彼らをシャトルに乗せたらしい。

「私は何も聞いていなかったんだ。だから、どこへ行ったか、心配して探していたんだ」

と、ノルド・ギャビは言った。

「そうでしたの?それなら、シャトルに通信をして下さればよかったのに……」

と、イズルカは恨むように言った。

 イズルカ・ギャビの車椅子を押していたのは、上の娘のシターラだった。

「シターラ、他に誰かいなかったか?」

と、ノルド・ギャビが聞いた。

「誰のこと?」

「もう一人、お前と同じ年頃の子が乗っていたと思ったんだが……」

「ああ、リーラのこと?」

「リーラ?」

「シターラのお友達ですわ。ほら、昔からよく一緒だったでしょう?」

「ああ、あの親の転勤がいつも一緒だった子のことか?」

 ノルド・ギャビは思い出していた。彼が転勤するときに、いつも一緒に付いて来た子のことを。その時は偶然でいつも一緒になるのだと思っていたのだ。何しろ子供が一人で行動するはずがないので、親が同じ軍人で同じ所に転勤したのだとこれまで思い込んでいたのだ。

「ええ。本当に偶然て、よくあることなんですわね。私たちがこの要塞に来た時、親御さんも一緒に来たらしくて……」

と、イズルカ・ギャビは言った。

「そ、そうか……」

と言うと、ノルド・ギャビはディポックと目を合わせた。

「で、そのお嬢さんは今どこにいるんです?」

と、ディポックは聞いた。

「あら、どこに行ったのかしら。シャトルに一緒に乗っていましたのに……」

と言って、イズルカ・ギャビはあたりを見回した。

 そこへ、シャトルのパイロットが降りて来た。それは、ホランド・アルガイだった。

「ホランド、君が操縦していたのか?」

と、ディポックは言った。そう言えば、ホランド・アルガイを見るのは彼の船が着いて以来初めてだった。

「そうだが、いったい何事なんだ?急に戻るように命令されたんだが……」

「命令された?」

「そうだ。戦艦ベルデルに行きたがっていると言うから、パイロットを買って出たんだが、何かあったのか?」

と、ホランド・アルガイは言った。

 ディポックとノルド・ギャビは何も言えなかった。ホランド・アルガイまで騙されていたとは。

「ともかく、医務室まで一緒に行こう。もう今は何が起きるかわからないからな」

と、ノルド・ギャビは言った。


 マクガリアン中尉とイズルカ・ギャビとその子供たちを医務室に送って行った後、ディポックとノルド・ギャビ、それにホランド・アルガイとブレイス少佐はディポックの部屋に戻った。

 ゼンダから来た議員たちと秘書のことを一通り話すと、

「すると、もう少しで俺たちは死ぬところだったのか?」

と、ホランド・アルガイは驚いて言った。

「死ぬところどころか、あのギアス・リードとか言う議員秘書は始めから殺すつもりだった」

と、ノルド・ギャビは言った。

「しかし、それならどうして助かったんだ?」

「バルザス提督によれば、同じシャトルにリドスの六の姫が乗っていたんだ」

「六の姫?五番目ではなくて、六番目ということか?」

「そのようだ。娘のシターラの友達のリーラという子が、おそらくその六番目らしい」

と、ノルド・ギャビが言った。

「あの時、戦艦の主砲があのシャトルを直撃していた」

と、ディポックは言った。

「本当か?シャトルの方は、何ともなかったが、どうしてだろう」

と、ホランド・アルガイは不思議そうに言った。

「どうやったのかはわからないが、要塞のスクリーンでは爆発炎上する様子が映っていた。君は何も知らなかったということか……」

と、ディポックは不思議そうに言った。

 その時、ディポックの隣の空間が揺らぐのが見えた。


199.

 次の瞬間、ダールマン提督とバルザス提督の姿が現れた。

 彼らは現れてすぐ、黙っているように指を口に当てた。そして、ダールマン提督があたりを見回して片手をゆっくりと振ると、

「さて、いいだろう」

と、言った。

「何をしたんです?」

と、ディポックが聞いた。

「この部屋が監視されているからだ。おそらく、要塞司令室で監視しているはずだ。それをうまくごまかせるようにしただけだ」

と、ダールマン提督が言った。魔法を使ってと言う部分は省略して言った。

「あのギアス・リードという奴か?」

と、ノルド・ギャビが言った。

「これから、お前さんたちに話がある」

と、ダールマン提督が言った。

「選挙の話ですか?」

と、ディポックが言った。

「いや、その前に、銀河帝国の皇帝のことを何とかしなければならない」

「例の『死の呪い』と言う話ですか?」

と、ノルド・ギャビが言った。

 ゼンダから来た議員たちのことで、ディポックやノルド・ギャビはすっかりそのことを忘れていた。

「そうだ。今すぐ呪いを解くことはできないが、その準備は必要だ。ここの選挙の間は、何もできないから急がなければならない」

「でも、我々ではどうすることもできないでしょう。我々に何かできるというのですか?」

 銀河帝国皇帝はこの要塞から遠い帝都にいる。何かしようにも、遠すぎて何もできないではないか、とディポックは思った。

「もちろん、できると思うから来たのだ。この要塞には、少なくとも銀河帝国の皇帝をおびき寄せるための理由となることができるはずだ」

と、ダールマン提督は言った。

「つまり、ヘイダール要塞に銀河帝国皇帝をおびき寄せるということですか?そんなことが可能ですか?」

と、ノルド・ギャビは眉根を寄せて言った。何かとても危険な話になって来た。

「皇帝だけをおびき寄せるのではなく、銀河帝国軍を率いる皇帝をおびき寄せるのだ。以前、そうしたことがあったではないか」

 確かに、新世紀共和国と銀河帝国との戦争では、そんな場面もあった。銀河帝国皇帝が十万を超える艦船を率いてこの要塞に迫って来たのだ。それは戦争の最終局面だった。

「しかし、銀河帝国軍までおびき寄せるというのは、ちょっとその後が大変なことになると思うのですが?」

 皇帝をおびき寄せると言うのは構わないが、一緒に付いて来る帝国艦隊はどうするつもりなのだ、とディポックは思った。魔法で消したり、どこかへ移動させるつもりだろうか?十万もの艦船をそんなに簡単に扱えるのだろうか?この前惑星連盟の艦隊がやって来た時のように。しかし、あの時は銀の月の他に惑星連盟の古い国々の魔法使いも協力していたのだ。

「だが、皇帝一人をおびき寄せることはできまい。銀河帝国軍となら皇帝はこの要塞にくるだろう」

「しかし、どんな理由で?」

と、ディポックは聞いた。

 銀河帝国の皇帝とその艦隊をこの要塞におびき寄せるには、かなりの理由が必要だ。

「それほど難しいことではない。我々、つまり銀河帝国の大逆人がこの要塞にいるということが、銀河帝国や元新世紀共和国に知れ渡ることがまず必要だ」

「あなたが大逆人であると言うことを利用するというのですね」

 確かにそれなら皇帝が大艦隊を率いてやってくると言う可能性は高くなる。少なくとも皇帝自身は来なくても、銀河帝国軍は来るだろう、とディポックは思った。

「そうだ。それに、ここには元新世紀共和国のヤム・ディポック提督がいる。それだけで、銀河帝国の連中はディポック提督と大逆人どもが結託して帝国に徒名すつもりだ、と邪推してやって来る可能性は更に高くなる。それに今現在リドス連邦王国と銀河帝国は例の皇帝の姉である大公妃の失踪事件が絡んで揉めてきている」

 その話は、確かにディポック自身も聞いたことがある。

「その、大公妃の失踪については、リドス連邦王国が関係していないというのは本当でしょうね」

と、ディポックは聞き質した。

「本当だ。銀河帝国の連中はリドス連邦王国が企んだのではないかと疑っているが、何の関係もない。だが、あの『死の呪い』を掛けた連中は、もしかしたら、その失踪事件に何か関係しているかもしれない」

「何か証拠でもあるのですか?」

「いや、まだ何も出ていない。だが、その事件が原因でリドス連邦王国と外交関係を断絶することにでもなれば、リドス連邦王国に大逆人が属しており、要塞に皇帝陛下の宿敵ヤム・ディポック提督と大逆人がいることを考えると、皇帝自ら艦隊を率いてやって来る可能性が更にもっと高まるだろう。そうではないか?」

「確かに、皇帝の性格から言えば、そうなる可能性が大きいでしょうね」

と、ディポックは認めた。

 まだ若い皇帝は、自ら率先して軍事行動を取るのを好むところがある。人任せにするのは嫌うのだ。だから、配下の提督にヘイダール要塞攻撃を任せるよりも、自ら出てくる可能性が高い。

「しかも、これは嘘をつく必要がない。このまま放っておけば、噂が噂を呼んで自らの体面のため何かをせざるを得なくなる。もっとも、我々がここに居るという情報はあちこちで流す必要はあるが……」

と言って、ダールマン提督はディポックを見た。

「だから、選挙で忙しくなる前に、私に一言言っておきたかったということですか?」

「そういうことだ」

と、悪びれることもなくダールマン提督は言った。

「わかりました。いいでしょう。ですが、銀河帝国の皇帝陛下とその大艦隊が来た後はどうするのです?」

と、ディポックは聞いた。それが一番大事なところだ。その大艦隊の相手はいくらディポックでも容易ではない。

「その後については、我々に任せてもおう。できるだけ双方に損害のでないようにするつもりだ」

 ダールマン提督には何か考えがあるのだと思えた。

「しかし、怒って押し寄せて来た皇帝に何というつもりです?」

と、ノルド・ギャビが口を出した。彼には、どう考えてもうまく行くとは思えないのだ。

「いや、何も言うことはない。必要なのは『呪いの呪文』を解くための儀式だ。それは、その時しかできない。だが、それが必ずうまく行くことは保障できる」

と、ダールマン提督は断言した。

「保障できるとまで言えるのですか?」

と、驚いてディポックは言った。

「もちろんだ」

 その自信はどこから出てくるのだ、とディポック司令官とノルド・ギャビは顔を見合わせた。この間はグーザ帝国の艦隊が首都星ゼンダに向かう、という予想が外れたばかりではないか。彼らは、ダールマン提督をどこまで信用していいのか不安に思った。

「何なら、我々の仲間を一人ここに置いておこう」

と、ダールマン提督が突然言った。

「何のためにですか?」

と、ディポックは聞いた。

「お前さんのところのマクガリアン中尉だったかな、彼がいないから司令官の警護が足りないのではないか。少なくとも、その役には立つ。特に、選挙などをやるとなると、要塞の兵士であっても、何を考えるかわからないところがあるだろう。あの司令室を占領している連中のようにな」

「そこまでする必要はありません」

 なぜ、突然こんな話になったのだろうかとディポックは思った。まるで人質を出させるような気分だ。

「いや、本人のためにもなると思ってのことだ」

「本人のため?誰ですか?」

と、ディポックは聞いた。

「ナル・クルム少佐だ。お前さんも知っていると思うが、少佐はリドス連邦王国の者ではない。それでも多少はリドスの事を知っている。それに、どちらかと言えば色々な経験をした方が本人のために成ると考えているからだ。少佐はディポック司令官になかなか興味を持っている。それに、かなり腕もいい。司令官の警護も十分務まるだろう」

「ナル・クルム少佐に、あなた方のことを聞けばいいということですか?」

「それもある。少佐は我々のことをお前さんたちよりも知っているからな」

と、ダールマン提督は言った。


200.

 ノルド・ギャビはダールマン提督が帰った後、

「本当にやるのか?」

と、ディポックに聞いた。

「今すぐにどうこうするわけではないし、もし彼の言っていることが本当なら、知らぬ顔をすることはできない。いずれにしろ、時が経てばもう少し事実関係もはっきりするだろう。その時に、どうするか決めてもいいのではないか?」

 その時、ディポックの部屋のインターホンが鳴った。

 扉を開けると、ナル・クルム少佐が立っていた。

 ディポックはまさかこんなにすぐやって来るとは思っていなかったので、

「ええと、ここに来たのは誰に言われて来たのかな?」

と、ナル・クルム少佐に聞いた。

「ダールマン提督に言われて来た。司令官は私が来ることに反対なのだろうか?」

「いや、そんなことはないが、その何だか人質のような感じがして、……」

「私は、司令官の護衛のつもりで来たのだが…」

「それなら、いいけれど…」

 ノルド・ギャビはそんな二人を見て、

「ナル・クルム少佐、君はあのダールマン提督をどんな人物だと思っているんだ?」

と、聞いてみた。

「そうだな、タヌキ爺というところかな?」

と、クルム少佐は正直に言った。

「タヌキ爺?そんなことを言ってもいいのか?」

と、驚いてノルド・ギャビは言った。彼にとってはダールマン提督の印象は、まだまだ帝国軍人という方が強いのだ。

「リドスの艦隊の中ではそう言われている。私もそう思うというだけのことだ」

と、平然とクルム少佐は答えた。

「なるほど、リドス連邦王国の艦隊というのは、かなり自由度が高いと見える」

と、ノルド・ギャビが言った。

 本当は、リドスの艦隊ではダールマン提督について良いことも悪いことも、もっと様々に言われていた。

 それにクルム少佐は、興味があったので直接本人に聞いたことがある。率直に、銀河帝国で大逆人と言われていることについてどう考えているか、と。その時の答えは、彼の想像とはかけ離れた変わったものであった。それを今ここで言うことは躊躇われた。

「確かに、ここでの上級将官に対する感想ということなら、似たような感じだと思う」

と、クルム少佐は言った。

「君の国ではどうかな?」

と、ディポックは聞いた。

 クルム少佐の態度や言葉から、彼がディポックの知っているような共和制国家に属しているとは思えなかった。どちらかと言えば、銀河帝国の方に近いのではないか?

「私の国では、そのようなことはない」

と、とんでもないと言いたげにクルム少佐は言った。

「君の国は、リドスのような君主国家なのかな?」

と、ノルド・ギャビが聞いた。

「そうだな。ここで帝国と言われているものに似ている」

「帝国か。君はそこにいずれ帰るつもりなのか?」

「帰りたいと思っている。だが、今はまだ帰れない」

「何か事情があるということか……」

「そういうことだ」

 とすると、ナル・クルム少佐というのは、亡命者ではないが、何か冤罪事件にでも巻き込まれてそれを晴らすまで帰れないとか、そうした事情なのだろうか、とディポックは想像力を働かせた。

「それで、私はここに居てもいいということなのか?」

と、クルム少佐は聞いた。

 再びディポックはノルド・ギャビと顔を見合わせると、頭を振って言った。

「いいでしょう。私の警護を兼ねて、よろしくお願いします」

と、ディポックは言った。

「了解した」

と、クルム少佐は言った。


 ヘイダール要塞では、ほどなく要塞の政治的代表を決める選挙をすることに決定したことを発表した。

 発表したのはエルシン・ディゴ議員である。おそらく、彼とフランブ・リンジ議員や秘書のギアス・リードたちが決めたのだろう。ディポック司令官に何の話もせず、その同意も得ずに勝手に決めたのだ。

 そのことについて、ディポック自身は別に意を唱えたりはしなかった。ともかく、彼としては政治にかかわることは避けたいというのが本音だった。

 代表になるための立候補者は、要塞に居住している者で25歳以上の者、中でも要塞で軍務についている将官や士官クラスの者はその対象にはなれないとした。けれども、選挙権は要塞に居住する18歳以上の者にならすべてにあるとした。

 そこに、少し問題があった。エルシン・ディゴ議員たちはジル星団のタレス連邦から来た人々のことを知らなかったのである。タレス連邦から来た人々は当然、自分たちにも選挙権があると考えた。それは、ナンヴァル連邦からの亡命者である、マグ・デレン・シャやタ・ドルーン・シャも同意見だった。そして後々、これは物議を醸すことになる。

 選挙で最初に立候補したのは惑星ゼンダからきた元新世紀共和国の議員だったエルシン・ディゴ議員である。フランブ・リンジ議員はエルシン・ディゴ議員の支援に回ったのだ。そのため、対立候補がいないので、エルシン・ディゴ議員の不戦勝になるのではないかと、予測された。

 なお、選挙は立候補者の出そろった後、選挙の告示後の二週間で選挙が行われる予定だった。


 ヘイダール要塞が選挙戦で大騒ぎになって居る頃、宇宙都市ハガロンから出発した惑星連盟の艦隊がやってきた。その数、五万ほどの艦隊だった。その中心はゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊で、他に惑星連盟の中小の国家の艦隊とダルシア帝国の艦隊が数十隻程入っていた。もちろん、その中にリドス連邦王国の艦隊は入ってはいない。

 ダルシア帝国の艦隊は数は少なかったが、ヘイダール要塞に着いてまず最初に主砲を撃った。

 ジル星団最強の艦隊の主砲は、要塞全体を大きく揺るがした。それは、要塞史上初めてと言えるほどの損害を与えるものだった。


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