表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
19/153

ダルシア帝国の継承者

191.

 今から数万年前、ダルシア人とガンダルフの魔法使いは、ふたご銀河のロル星団に侵入してきた異星人を撃退するために大変な労力を注いだ。その元凶が妙な形の転送装置であると気が付いたのは、かなりの侵入者が入った後だった。当時のロル星団には人間は住んでいたが、宇宙文明に達してはいなかった。従って、侵入者に対抗できるような存在はいなかったのだ。


 かつてのアルフ族は数百万年も前にロル星団を後にして、ジル星団の惑星ガンダルフに移住していた。彼らがいれば、この異星人は簡単に侵入できなかっただろう。

 ダルシア人とガンダルフの魔法使いにより、この侵入者の故郷がどこから来たかわからない転送装置を送って来た銀河だと分かったのは、侵入者によってロル星団がかなり蹂躙された後だった。この侵入者は、単独で存在するのではなく、ロル星団の人間種族に寄生する種族であったので、さらに厄介だった。

 この寄生種族に寄生されると、体力や知力だけではなく、免疫力まで高まり寿命が延びるということで、ロル星団の人間たちは当初争って寄生を歓迎した。ところが寄生されると、自分の意志が阻害される事態となり、寄生種族の支配下に置かれることになった。それが知られるようになると、今度は寄生種族を排斥する人々が多くなった。だが、寄生された者たちは人間の中でも支配者層に多かったので、逆に人間を奴隷化するようになった。

 この事態がジル星団のダルシア人に伝わったのは、そうした事態がかなり進んだ後だった。

 ダルシア人は異星人の侵入と言う場合、艦隊等での侵入に関してはかなり排除する力を持っていたが、このような寄生種族の侵入に対しては、排除するのが困難であることに気が付いた。それは寄生種族を排除するためには、寄生された人間も同じく排除することになってしまうからだった。その場合、人間たちを統治する能力を持つ人々を排除することにもなるので、社会の混乱が避けられない。

 そのため、ダルシア人はガンダルフの魔法使いに援助を乞うた。これは、珍しい事態だった。

 ガンダルフの文明は最初の文明を創った人々が去った後、以前ほどの高みまで文明が達することはなかった。ダルシア人はそれをよく知っていた。けれどもガンダルフ人は人間族であるので、何か別の智慧があるのではないかと考えたのだ。特にガンダルフの五大魔法使いと呼ばれる五人の魔法使いは、別格だとダルシア人は考えていた。


 ダールマン提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人、大賢者と言われたレギオンは、かつて侵入してきた寄生種族の故郷がどこであるかは、当時は残念ながら突き止めることはできなかった。今回それがわかったのは、数年前に白金銀河から発信された救助信号を受信したのが、リドス連邦王国の艦であったからである。

 リドス連邦王国の艦隊司令部は白金銀河があまりにも遠すぎると考えたのだが、女王アスカの要請によって動いた。リドス連邦王国の女王アスカは、高次元の霊界の助言を得ることのできる稀有な存在だった。女王アスカの要請は高次元からの啓示によって行われたのである。

 このような存在はどの文明にもいるというわけではない。

 リドス連邦王国の王族の故郷は、ふたご銀河から遠く離れた、おそらく宇宙が創造された初期の頃に生まれた古い銀河にそのルーツはあった。

 その昔、ふたご銀河のジル星団の惑星ガンダルフに最初に生まれた文明の人々が行き着いた、と古い物語がその星には伝えられている。彼らは、そこで別の文明の種族と出会い、新しい文明を創ったのだ。そこでは、高度な科学技術と目に見えない力を駆使する技術の両方を発展させていくことになった。それには高次元宇宙との交流も含まれていた。

 そうした彼らがふたご銀河にやってきたのは、ダルシア人の要請である。

 ダルシア帝国が人口の減少により滅亡に至るのが分かっていたので、ふたご銀河を守る役を担える種族を探していたのだ。

 ガンダルフを去った人々は、故郷との連絡を完全に絶ったわけではなかった。何かあった時のために、わずかにその手段を残していた。それを知っているのは、ダルシアの最高指導者のみであった。最高指導者が代々、それを次代の指導者に伝えていったのである。

 最初にその連絡手段を使ったのは、ダルシア帝国の皇帝ライアガルプスであった。

 すでに、ライアガルプスの時代に人口減によるダルシア帝国の滅亡は明白になっていた。彼女は時間の許す限り、ダルシア人に変わってふたご銀河を守る役を担える種族を探した。その結果、最後に行き着いたのが、彼らリドス連邦王国の人々だった。

 そして、現実にリドス連邦王国がふたご銀河にやってきたのは今から二百年前だった。ダルシア帝国ではすでに最後のダルシア人となる、アントルーク・コアの時代である。


 白金銀河は、古くはアンダイン種族がいた銀河である。彼らは人間型種族であった。そして、ふたご銀河のダルシア人のように高度な科学技術を発達させていた。

 時代が下るにつれて、アンダイン種族はこの三次元に重きを置いて肉体寿命を長くすることを重視する者達と、肉体寿命は限られているので、高次元の存在つまり肉体を離れた存在でいることを重視する者達とに分かれた。

 肉体にこだわらない者たちは、高次元の存在になり、さらに高みを目指して行くことにした。しかし、肉体にこだわる者たちは、様々な実験を繰り返して、この世で長い寿命と健康な肉体を持つための知識と技術を探し続けた。

 後者は、やがて人間型ではなく、別のまさに彼らにとって理想の形態をとることに成功した。それが、最初の『バウワフル』である。

 その姿はもはや人間ではなく、まるで蛇のような形態になっていた。寄生型の種族である『バウワフル』は、それを発見したアンダイン種族の科学者の名をつけたものだ。

 バウワフル博士は、『バウワフル』自体はそれほど頑強ではないが、その寄生種族が自ら寄生した種族を使ってかなりの環境の激変にも耐えられるとともに、お互いの長所を伸ばせるということに注目した。

 しかし問題は、彼らアンダイン種族が持つ科学技術や知識をどうやって保つかだった。これについては、その主要な保管場所が肉体の脳と呼ばれる場所ではなく、異次元に存在する『霊』の本体にあるということがすでに発見されていた。脳というのは、知識や経験や技術の保管場所ではなく、本来の保管場所への伝達の機能が主な役目だった。

 すなわちバウワフル種族がアンダイン種族の知識や経験、そして技術を持つためには、アンダイン種族の魂がバウワフルの肉体に宿り、アンダイン種族の膨大な知恵の保管場所である異次元の本体の霊と直接アクセスできることが必要だった。それが可能になったとき、白金銀河の支配者として『バウワフル』が誕生したのだ。

 この『バウワフル』は、人間族に寄生し、アンダイン種族の智慧である『霊』の本体にアクセスすることによって、その免疫力や寿命を引き出す知識や技術を得るとともに、寄生している人間自体の肉体寿命が限界に達した時、別の人間に寄生することによってさらに自らの寿命を長くすることができた。


 一方、アンダイン種族の中で三次元の肉体に執着しない人々は、この肉体を去っても自我とアンダイン種族の膨大な知恵を保つ存在である『霊』の本体としていられるということに満足していた。彼らは神に限りなく近い存在となったと自負していたのだ。その力は三次元宇宙に何らかの変化をもたらすことも可能だった。だが、年数が経つにつれて、彼らは白金銀河最強の種族であったと言う記憶から、より高い文明を目指し、彼らと比較して低い文明の種族と交流することを拒むようになって行った。

 目に見えない世界に住む彼らは、白金銀河に於いて肉体を持つ支配者となった『バウワフル』を非常に嫌悪し、二つに分かれた種族は元に戻ることはなかった。それぞれが自分たちの進化と思える道を行くようになった。

 白金銀河の支配者となった『バウワフル』は白金銀河にいた様々な種族を支配し、自分たちの思いのままに銀河を支配するようになって行った。


 時が経つにつれて、白金銀河にはアンダイン種族の末裔たちが増えて行った。彼らはアンダイン種族が二つに分かれた時に、どちらにも与しなかった人々の子孫だった。その魂は、かつてアンダイン種族であったものや、そうでないもの、他の宇宙からやって来た者もいた。ただ、かつて持っていたアンダイン種族の膨大な知恵を失って行った者達だった。

 一方、三次元の肉体に宿ることを選んだアンダイン種族から分かれた『バウワフル』は、大きな失敗があった。それは、時間である。最初の『バウワフル』は異次元の『霊』の本体に完全にアクセスできたのだが、生まれ変わる時にその方法を忘れてしまったのだ。もちろん思い出すことができるようにしていたが、思い出すまで時間が掛かると共に、完全にその方法を思い出すことが年月の経過とともに次第に難しくなって行ったのだ。

 その中で、いつしか白金銀河の支配者『バウワフル』に対抗する種族が生まれた。それがサムフェイズ・イージー少佐やオルフス・リガル准将の属する惑星だった。だが、その科学技術や知識の差はあまりにも大きく、いつ滅ぼされるかわからない運命だった。

 その最大の危機がやってきたとき、彼らは最後の望みを託して、広大な宇宙に救難信号を発した。それを受信した種族の一つが、リドス連邦王国だった。

 女王アスカの意を受けたリドス連邦王国の艦隊は、十億光年の道程を銀河間のジャンプ・ゲートを使って、ほんの数分で踏破した。リドス連邦王国の高速戦艦の艦隊が白金銀河にやって来た時、サムフェイズ・イージー少佐やオルフス・リガル准将の属する惑星は、風前の灯だった。

 白銀銀河の支配者である『バウワフル』の艦隊がその惑星を包囲していたのだ。


192.

「で、ディポック司令官。転送装置というのは、どこにあるのだ?」

と、エルシン・ディゴ元議員が聞いた。

「転送装置?」

と、ディポックは驚いて聞き返した。どうしてそんなことを知っているのだ?

 だが、深呼吸をして落ち着いてからディポックは考えた。惑星カルガリウムの連中からその話を聞いているのかもしれない。突然聞かれたので驚いたが、それほどおかしなことではない。

 転送装置は本来ならこの司令室にあるのだが、今はその姿が消えている。コントロール装置まで見えなくなってしまった。ある場所が変わったのではない、おそらく、例の異次元とやらに移動しているのだ。

 その時、バルザス提督の声が耳元でした。

「転送装置は、別の部屋にあるので、案内しましょうと言ってください。ただし、今は壊れているので使えないと」

 ディポックは、バルザス提督の言っている意味を数秒考えてから言った。

「転送装置のことをよくご存じですね。それなら転送装置がある部屋にご案内しましょう。ですが、今現在は故障しているので、使えません」

「故障している?そんな話は聞いてない」

と、秘書のギアス・リードが言った。

「どなたに聞かれたのか知りませんが、今現在は使えません」

と、きっぱりとディポック司令官は言った。

「本当か?」

と周りを見回して、エルシン・ディゴ元議員が他の者に聞いた。

「本当です」

と、フェリスグレイブが平然と言った。

 他の者は頷くことによって肯定した。余計なことを言うと、嘘がバレると思ったのだ。

「それなら仕方がない。だが、そこへ案内してもらおう。一度見ておきたいのだ、重要なものだからな。ここに転送装置があるとするなら、我々はそれをよく研究しなければならん。おそらく銀河帝国がここで秘密裏に研究していたのだろうからな…」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。

 なるほどそういう風に聞いているのか、とディポックは思った。もしここに銀河帝国の連中がいたら、何というだろう。だが、元議員にそんな話を吹き込んだのは、いったい誰なのか?彼ら元議員たちを送り込んで来た、元新世紀共和国最高評議会議長だったチェルク・ノイだろうか。

「司令室を出て、リフトで一階降り、それから廊下を右へ歩いて行くと、部屋があります。そこへ転送装置の形をしたものが置いてあります」

と、バルザス提督がまた耳元で囁いた。

「それでは、これからその転送装置のある部屋までご案内しましょう」

と、ディポックは言った。ともかくバルザス提督の言う通りにするのが、嘘がばれずに済む一番いい方法だった。

 ディポックの声に一緒に行く者たちが行こうとすると、

「議員、ちょっとお待ちください」

と、秘書のギアス・リードが言った。

「どうしたのだ?」

「転送装置が壊れたのは、いつですか?」

と議員秘書のギアス・リードは、疑わしそうにディポックに聞いた。

「それは、確か、四週間ほど前になります」

と、ディポックはすぐに答えた。

 四週間前にグーザ帝国の艦隊の襲撃があってから、惑星カルガリウムからの転送を止めたのだ。それはまだ、再開はしていない。

「現在修理中なのですか?」

と、ギアス・リードは聞いた。

「いえ、転送装置は我々にはよくわからないので、修理はできないのです」

と、ディポックは言った。

「なに、ではせっかくの発明品がもう使えないというのか?」

と、エルシン・ディゴ元議員が驚いて言った。まるで自分の物が壊されたとでもいうようだった。

「ここには銀河帝国の研究開発者もいませんでしたし、どうしようもありません」

と、ディポックはエルシン・ディゴ元議員の話に合わせて言った。

「何てことだ!」

と、大げさに失望してエルシン・ディゴ元議員は両手で顔を覆った。まるで下手な芝居を見ているようだった。

「いいえ、大丈夫です。ご安心ください議員。私は、転送装置を開発した者を知っております。もちろん、故障しているとしても、それを修理する者を見つけることもできます」

と、ギアス・リードは言った。

「本当ですか?」

 今度驚くのはディポックの方だった。あの転送装置については、バルザス提督やダールマン提督を始めガンダルフの魔法使い達にどんなものが聞いている。その話によると、転送装置を作ったのは白金銀河のアンダイン種族である。それに、あの転送装置は銀河帝国や新世紀共和国でも知っている者はいないはずなのだ。最近発見した物なのである。グーザ帝国の連中ですら知らないのだ。それを知っていると言う、この議員秘書は何者なのか?

「気をつけてください。あのギアス・リードという議員秘書は、非常に危険です」

と、バルザス提督が警告した。


「そうだ。転送装置はダメでも、確かここにはダールマン提督がいるのではないか?」

と、エルシン・ディゴ元議員が突然思いついたように言った。

「確かにいますが、お会いになりたいのですか?」

と、ディポックは聞いた。

 コロコロ話が替わるので、ディポックとしても付いて行くのがやっとだった。本当は何をしようというのだろう。

「もちろんだ。ダールマン提督は、銀河帝国では大逆人だ。つまりわが新世紀共和国新政府においては、味方ということではないか?」

 エルシン・ディゴ元議員は、突然『新世紀共和国新政府』などということを言いだした。これには、要塞幹部の連中にも緊張が走った。

「ディゴ議員閣下、そのことはまだ……」

と、元議員秘書のギアス・リードが注意した。

 やはり、この元議員一行の目的はヘイダール要塞に新世紀共和国の臨時政府を樹立するのが目的なのか、と彼らは思った。

 この要塞にいる百万の兵士の中にはそれを歓迎する者もいるかもしれない。だが、ディポックとその仲間たちはそのようなことは考えてはいなかった。いや考えることさえしていなかった。だが、これはいずれ遡上に上ることは明らかだ。

「ともかく、ダールマン提督に会えるように図ってくれ……」

と、エルシン・ディゴ元議員は言った。

「わかりました。連絡してみましょう」

とディポックは言うと、すぐにダールマン提督のいる部屋へ連絡を入れた。

「ダールマン提督ですか?」

と、ディポックは要塞内通信機で聞いた。

「そうだが、何か用だろうか、要塞司令官?」

「実は、ホランド・アルガイの船で来られた元新世紀共和国最高評議会のエルシン・ディゴ元議員があなたに会いたがっているのですが……」

「ほう、この私に?どんな用があるのだろうか?」

と、いつもとは違う口調でダールマン提督は言った。けれども、傍から見ればこの口調が元帝国軍人の提督らしいと思うに違いない。

「それは、会ってみなければわかりません。いかがですか?」

「わかった。会おう。で、今すぐにか?」

「ちょっとお待ちください」

と言って、ディポックは、

「どうしますか議員。これから転送装置を見に行くのですか?それともダールマン提督に会いますか?」

と、聞いた。

「もちろん、壊れた装置など後でもよいわ。まず、大逆人のダールマン提督に会うことにする」

と、エルシン・ディゴ元議員は言った。

「ダールマン提督、今すぐに会いたいそうです。もし、よかったら私の執務室に来られませんか?」

 いくらなんでも元議員とダールマン提督の会見を要塞司令室でやることはできない。どんな話がでるかわからないからだ。ここには通信員を始めとして他の兵士たちもいるのだ。だから、咄嗟に自分の部屋を思い出してディポックは言った。

「わかった。行くとしよう」

と、ダールマン提督は言った。

 議員秘書のギアス・リードは、しまったと言う顔を一瞬した。彼の考えていた状況と違うことが起き始めたのだ。

「で、私はどうすればいいかしら?」

と、今まで黙って聞いていたフランブ・リンジ元議員が言った。その口調には何か面白いことが起きそうだという期待感があった。

「もちろん、私とダールマン提督に会うのだ。ダールマン提督は女にはうるさいということだが、議員ならそうでもあるまい。まして美人ならなおさらだ」

と、エルシン・ディゴ元議員は言った。

「私としては、こちらのディポック司令官とお話をしていたいのですけれど…」

と言って、ディポックをちらりと見て微笑んだ。ディポックはどうしていいかわからずに黙っていた。

「ふん。ダールマン提督はあの銀河帝国の元帥だった男だ。それにかなりの野心家で男前と聞いている。君にとっても、一見の価値はあるだろう」

と、エルシン・ディゴ元議員は真面目に言った。

「なるほど、面白そうですわね。それでは、ディポック司令官には失礼して、その部屋まで案内していただけますかしら?」

と、フランブ・リンジ元議員は言った。

 秘書のギアス・リードは転送装置を見に行くかそれとも元議員たちとダールマン提督と会うか迷っていたが、

「私も行きます」

と、言った。この議員たちから目を話したら何をするかわかったものではない、と思っているようだった。


193.

 宇宙都市ハガロンでは、ナンヴァル連邦の艦隊とゼノン帝国の艦隊、それに惑星連盟の中小国の艦隊を合わせて五万隻程の艦隊がヘイダール要塞へ向けて出発した。

 それを見送る人の中に、リドス連邦王国の惑星連盟大使であるチャーミー・ユウキがいた。

「仕方がないわ。私のできることはここまで……」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

 この惑星連盟の艦隊の出発を、様々な手段を用いて、チャーミー・ユウキことガンダルフの五大魔法使いの一人であるフェリシア・グリネルダは邪魔をしてきた。古い国々の反対だけでなく、それぞれの艦隊の機関部の故障や、乗員の俄かの病等、出来るだけの手を使って邪魔をしてきた。

 そのことを知ってか知らずか、惑星連盟議長マグ・ファルファドール・シャは惑星連盟の艦隊を決定したのだ。


 およそ四週間前、ゼノン帝国の科学者たちがダルシア帝国の艦を動かすことに成功した日のことだった。

 ゼノン帝国惑星連盟大使ボルドレイ・ガウンは、ゼノンが動かした艦に命じた。

「海賊『フォーズ』の艦隊が宇宙都市ハガロンに近付いている。その艦隊を撃破せよ」

 ゼノンが動かせたダルシアの艦はたった一隻だった。それに対して、少なくなったとはいえ宇宙都市ハガロンに近くに集結していた海賊『フォーズ』の艦隊は千五百隻近くあった。ヘイダール要塞攻撃後に半減してしまったのだ。それでも、彼らが宇宙都市ハガロンを襲撃しようとしたら、ひとたまりもない。

 海賊フォーズの首領オルノ・ホルの乗艦する旗艦ボゴダはかなり被弾していたが、まだ動くことはできた。

「ヘイダール要塞など攻撃したために、我らの仲間が多数やられてしまった。ハガロンのゼノン大使に少しでもその賠償をせしめねば後々面倒なことになる」

と、首領オルノ・ホルは副官のバルタイ・アカントに言った。

 そもそもヘイダール要塞への攻撃は、ゼノン帝国大使によってオルノ・ホルがそそのかされて、その話に乗ってしまったのだ。海賊『ナッシュガル』が同時期に攻撃すると聞いて、それなら簡単に落とせると考えてしまったのだ。

 このままでは海賊『フォーズ』の面目丸つぶれではないか。ヘイダール要塞にぶつかった海賊ナッシュガルなどは知った事ではなかった。あのナルゼンの海賊があそこで自滅するのは彼らの勝手だ。だが、我々は違う。このままで済ますわけにはいかない。それに、まだ船は千五百隻ある。それだけあれば、ハガロンなど簡単に落とせるだろう、とオルノ・ホルは思った。

 宇宙都市ハガロンに接近し、ゼノン帝国大使に通信を送った後、彼らはダルシアの艦に気が付いた。

「あれは?どうして、あんな所に一隻いるのでしょうか?それにダルシアのコア大使は死んだのでは?」

と、バルタイ・アカウントは言った。

 さすがにヘイダール要塞で散々な目にあった艦なので、覚えていたのだ。彼らにしてみれば、ダルシア帝国の艦を動かせる者がいようとは思わなかったのだ。だから、最初の一撃をくらってやっとゼノン帝国の企みに気が付いた。

 ダルシア帝国の艦がその主砲を旗艦ボゴダに向け、発射した。旗艦ボゴダは一瞬で消滅した。そのあおりを受けて数十隻の艦も巻き添えになった。他の船は首領オルノ・ホルの船がやられたのを見て、どうすることもできなかった。

「降伏せよ!」

と、残った海賊たちへ通信があった。

 ゆっくりとゼノン帝国の艦隊が、宇宙都市ハガロンの影の側から現れた。

 ダルシア帝国の艦が、海賊『フォーズ』の船をあらかた消滅させてからのことだった。だが、海賊たちはすぐには投降しなかった。海賊はどんな理由があるにせよ発見しだい殺しても構わないことになっているのが普通だ。だからこそ、最後まで抵抗するのが常だった。

 ゼノン帝国艦隊は、ダルシアの艦の攻撃から免れた艦を狙って攻撃していた。

 『フォーズ』の船がなくなるまでその攻撃は続いた。


「これではまるで、殺戮だわ」

と、一部始終を宇宙都市ハガロンの外郭の頂上付近で見ていたチャーミー・ユウキは、不快そうに言った。

 海賊を庇おうとは思わないが、やり方があまりにもひどすぎるとチャーミー・ユウキは感じたのだ。そして、彼女はナンヴァル連邦とゼノン帝国の今回のヘイダール要塞攻撃作戦はかなり綿密な計画をしていると感じていた。

 まず最初に海賊にヘイダール要塞を攻撃させて、要塞の攻撃力を確かめ、同時にその攻撃力を弱めるつもりだったのだ。

 それはかなりうまく行った。未だヘイダール要塞は、海賊『ナッシュガル』の要塞が衝突したままになっている。それはゼノンとナンヴァルの両艦隊がヘイダール要塞を攻撃するときに、要塞を防御するのに邪魔になるだろう、と彼らは思っているのだ。

 また、そのついでに海賊の勢力をそぐこともできた。次はナンヴァル連邦とゼノン帝国の艦隊と惑星連盟の艦隊によって、ヘイダール要塞を攻撃し降伏させるのが次の段階なのだ。

 たとえ惑星連盟の古い文明の国々が反対しても、それを強行するに違いない、とチャーミー・ユウキは思った。

 今現在、ヘイダール要塞はグーザ帝国艦隊の急な襲撃を受けて、占領されている。この数週間でどこまでそれを排除できるかわからないが、この惑星連盟の艦隊が出発するころには、何とかその占領を脱して、グーザ帝国艦隊を追い払うだろう、とチャーミー・ユウキは予測していた。向こうには、ガンダルフの五大魔法使いが二人もいるのだ。他にリドス連邦王国やダルシア帝国の艦隊もいる。

 そして、次にこの連中がヘイダール要塞を襲うのだ。

「彼らの目的は何なのでしょうか?」

と、ハガロンが聞いた。

 ハガロンは宇宙都市ハガロンの中枢脳の本体の『霊』、かつてダルシア人であった魂だった。

「惑星連盟をヘイダール要塞に移して、銀河帝国を侵略する足場にすること。そして、ゼノン帝国はロル星団の人間族を彼らの餌にできるわね。でも、ナンヴァル連邦はどんな得があるのかしら?」

 そこがチャーミー・ユウキである、ガンダルフの五大魔法使いフェリシア・グリネルダが分からない点だった。

「ですが、昔と違って今ではゼノン帝国でも人間族を食べるのは高位の貴族の一部にすぎません。ナンヴァル連邦はそのような傾向はありませんし、彼らは人間族でいうベジタリアンの部類です」

と、ハガロンは異議を唱えた。

 フェリシア・グリネルダは、惑星ガンダルフのある国にチャーミーとして生まれ変わり十六年の月日が過ぎていた。その間に少しはゼノン人も、倫理観が進歩したと見える。彼女はハガロンの意見を考慮した。

「なるほど、では彼らの目的は何かしら。と言っても、単に領土を拡張するという目的とも思えないし……」

 グーザ帝国のように資源が欲しいわけでもないだろう。彼らが欲しているのは何だろうか。そう考えると、一つ思い当たることがあった。

「あの連中がダルシア帝国の継承者に拘るのは、ダルシアの高度な科学技術や知識が欲しいからだわ」

と、チャーミー・ユウキが言った。

「しかし、銀河帝国やあの新世紀共和国にはダルシアを超えるような高度な科学技術や知識はありますまい」

 ロル星団の科学技術や知識はゼノン帝国やナンヴァル連邦が欲しがるようなものではない。ジル星団の他の国々も同じだ。

「でも、昔あのロル星団にはアルフ族がいた。ダルシアにない物と言ったら、それは魔法と呪文だわ。アルフ族にはガンダルフにもない強力な呪文があったはず」

 今ではその影さえないのだが、かつてロル星団には高度な魔法を使う種族が住んでいた。それをアルフ族という。彼らは元々別の銀河からやってきたと言われている。ガンダルフの最初の人々が、彼らを呼んだのだ。

 アルフ族の魔法と呪文は惑星ガンダルフにあった魔法文明をしのぐような物もあったことを、フェリシア・グリネルダは思い出した。後には、その呪文によって滅ぶところを、惑星ガンダルフに移住することによって命脈をつないだのである。

 その遺跡や遺構はロル星団ではまだ発見されてはいない。あった事さえ今の人々は知らないのだから、不思議ではない。だが、全ての惑星の地表を全て掘り起こせば、アルフ族の文明の遺跡が出てくる可能性はある。

「このふたご銀河を支配するためには、科学技術だけではできない。魔法とそれを使う呪文がなければならない、ということですか?」

と、ハガロンは聞いた。

「もちろん、それもあるでしょう。でもゼノン帝国とナンヴァル連邦の二つの竜族の国がそれを欲しがるのは、彼らの国がもう新しいものを生み出す力が無くなっているからだわ。彼らもダルシアと同じように滅びる恐れを感じているのではないかしら……」

と、チャーミー・ユウキであるフェリシア・グリネルダは言った。

「ゼノン帝国とナンヴァル連邦が滅びるというのですか?それはいささか、突飛な考えではありませんか?」

 ゼノン帝国もナンヴァル連邦も滅びるという話は、その原因や理由とともに人の噂に上ったことはないのだ。そのようなことを考える者はこれまでいなかった。

「そうかしら。でも彼ら竜族の国では久しく新しいものが発見されたと言う話は聞かないでしょう?」

「しかし、それは古い文明の国にありがちなことではありませんか」

「彼らには悪いけど、ジル星団の他の古い文明は、ダルシア文明の亜流のようなものだわ。それでも、彼らは一つの諦観がある。彼らは人口も減り、衰退していくように見えても、それが真実ではないことを知っているの。一つの文明の高みを作った人々、その魂は、また別の文明に生まれ変わって、新しい文明を創っていくことを知っている」

「すると、人口の減っていないゼノン帝国とナンヴァル連邦では、何が起きているのですか?」

 確かに、古い文明は人口が減っている。だが、ゼノン帝国やナンヴァル連邦で人口が減っているという話は聞いたことがない。

「竜族としての経験を終えた彼らは、次は人間としての経験を積もうとするでしょうね。これまでのダルシア人がそうだった。ただ、すぐに人間として生まれることは難しいわ。だって、ダルシア人はあの伝説のドラゴンそのものなんですもの」

と言って、チャーミー・ユウキはかつての巨大なドラゴンの姿のダルシア人を思い浮かべた。そして、

「確かに姿かたちも考え方も人間とはまるで違っている。だから、まず人間に近い竜族に生まれたの。そのためにゼノン人やナンヴァル人が作られたともいえるわ。彼らは覚えていないでしょうし、否定するでしょうけれど。そして次に人間として生まれてくることになった。それで、ダルシア帝国はその人口減により滅びてしまった。でもその魂は、別の文明や国に生まれて、新たなものを生み出そうとしているの」

と、続けた。

 そうしたダルシア人の生まれてくる国は、タレス連邦やリドス連邦王国など主に人間族の国だった。

「つまりダルシア人として人間が生まれるのは相当大変だったというわけですね。伝説のドラゴンそのものだったから、とても人間として生まれることは難しかった。想像することもできなかったのですね。でも半分人間の竜族なら、それほどではなかった。だから、最初はゼノン人やナンヴァル人などの竜族の国に生まれ、次に人間として生まれる。そうした段階を踏んでいるということですね」

と、ハガロンは自分に言い聞かせるように言った。

「そういうこと」

「では、何が竜族として生まれているのですか?まさか人間の魂ですか?」

「そうよ。逆に人間が竜族として生まれて来ている」

「しかし、そのことを彼らは知らないということですね」

「ゼノン人はともかく、ナンヴァル人は昔はそうしたことを知っていたのだけれど、残念ながら、今のナンヴァル人はわかってはいないわね」

と、チャーミー・ユウキはため息をついた。そして、

「あなたも、元はダルシア人だったのよ。覚えていない?」

と、ハガロンに言った。

「私が、ですか?」

「そうよ。ダルシアでは、竜族や人間に生まれ変わると言う選択肢の他に、宇宙船、都市の機能の中枢等、有機生物ではないものを選ぶことがあった。それが可能だったのは、ダルシア人が非常に強靭な肉体を持った種族だったから。宇宙船に宿ることを怖がらなかったのね。それだけの勇気をもった種族だったわ」

「でも、私はそんなこと覚えていませんし……」

「それは、当たり前のことだわ。生まれる前のことを覚えているのは、非常に特殊なの。この世に生まれて呼吸をすると、それ以前のことを全て忘れてしまうというのが真実なの」

と、チャーミー・ユウキは言った。

「でも、ガンダルフの五大魔法使いは覚えているのでしょう?」

「ええ、そうね。でも、それはこの世に生まれ変わった時に覚えているのではないわ。普通の人と同じように、生まれ変わった時は、それ以前のことは忘れているの。ただし、成長して、必要になった場合は思い出すように魔法をかけているの」

「つまり、死ぬといような非常に危険な目に会った時にですか?」

「そう」

 惑星ガンダルフの五大魔法使いは、普通の人間としての寿命を生きた。ただし、その使命を果たさずに死んだ場合、生き返ることが出来る魔法の呪文を予め掛けていた。一度死んだ後蘇った魔法使いは、それまでの経験と知識をすべて思い出し、その使命を果たすと言われていた。

 チャーミー・ユウキことガンダルフの五大魔法使いのフェリシア・グリネルダは、すでにガンダルフの魔法使いとしての自分を思い出している。それは、彼女が一度死んで生き返ったということの証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ