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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
18/153

ダルシア帝国の継承者

187.

「彼らは、何か隠している!」

と、ノルド・ギャビは珍しく興奮して言った。

 ディポックもそれは感じていた。今回の銀河帝国皇帝リーダルフ・ゴドルーインが『死の呪い』を掛けられているという話のことだが、彼らリドス連邦王国の連中は何か肝心なことを隠している。

「それで、どうするんですか?彼らの話に乗るんですか?」

と、フェリスグレイブは聞いた。

「ただ、彼らの話は嘘とは思えない。もう少し彼らが持って来る情報を精査してみようと思っている」

と、ディポックは言った。

 何しろ彼らガンダルフの魔法使い達は、突然現れたあのフェリシア・グリネルダという魔法使いのように、宇宙船など使わずに宇宙空間を移動できるらしい。それも、広大な距離を移動できるようだ。他にも、様々な魔法や科学技術を持っていると思われた。それを使えば、多くの情報が得られるに違いない。

「確かに、彼らは我々が考えている以上に色々なことができそうですな」

と、フェリスグレイブはその点については認めた。

「だからと言って、本当のことを言っているとは思えない」

と、ノルド・ギャビは疑り深く言った。

「しかし、本当の事かもしれない。要するに今すぐには判断できない、ということだ」

と、ディポックは言った。

「ですが、本国の政治家連中が来るというのは、困った事です」

と、グリンが正直に言った。

 本国の連中が来るのを喜べないのは、彼らがディポックの味方であるとは思えないからだった。要塞幹部の者達は皆そう思っている。

「そうだな。そちらの方も、どうするか考えておかなければならないか……」

と、ディポックは言った。

「それで、惑星連盟の艦隊の方はどうします?」

と、フェリスグレイブが言った。

「そちらは、どうしようもない。惑星連盟がどういうものかも、まだよくわかってはいないんだ。特にその構成国については、分からないことの方が多い」

と、ディポックは言った。

 どうしても、今まで接触のなかったジル星団の国々は扱いが難しい。それに惑星連盟が面倒なのは、その中に魔法使いだの魔術師だのが要る国が多いからだ。

「困るのは魔法使いや特殊能力者だ。彼らに関わると、何が起きるかわからない。とは言え、向こうから来ると言うのでは、どうにもならない」

 やっとグーザ帝国の艦隊をやり過ごしたというのに、新たな問題がやって来た。これではきりがない、とディポックは思った。


 ディポック司令官の側近たちが話を終えると、ディポック本人は医務室へ行った。

 以前海賊に襲われた時、要塞司令室のスタッフなどが逃げるために転送機を使った。しかし転送の失敗で長時間実体化しなかったためから、キリフ・マクガリアン中尉の体調がよくなかった。それがますます悪化して、体調を崩して入院していたのだ。

 医務室に行くと、そこにダールマン提督がいるのにディポックは驚いた。

「彼は、ここで何をしているんだい?」

と、キリフ・マクガリアン中尉の見舞いに来たのだが、ディポックは傍にいた医師に聞いた。

「さあ、白金銀河からきた兵士の健康問題が気になっているようです」

と、医師もよくわからないような答え方をした。

 ダールマン提督はやがてディポックがいることに気が付いた。そして、

「どうしたんだ、ディポック司令官。こんなところで…」

と、聞いた。

「私の方こそ聞きたいです。こんなところで、何をしているんですかダールマン提督」

とディポックは聞いた。

「ちょっと、気になることがあって…」

「気になること?」

 それにしては、ダールマン提督と一緒に来ている者達が多すぎるとディポックは思った。

「そちらは?」

「ああ、こちらは、例の白金銀河から来た船の医師だ」

 ダールマン提督の後ろに数人の医師とプロキシオン号の艦長オルフス・リガルがいた。他に、サムフェイズ・イージー少佐とナル・クルム少佐もいた。

「で、何をしているんです?」

と、ディポックは聞いた。

「ついでに要塞の兵士の健康診断の結果を見せてもらっているんだ。彼らは遠くから来たので、我々の身体のことも知りたいそうなので…」

と、ダールマン提督は大した事ではないように答えた。

「ふーん。で、本当は何をしているんですか?」

と、疑り深くディポックは聞いた。彼にしては珍しくしつこい態度だった。これにはダールマン提督が隠していることが何か関係しているような気がしたのだ。

「まだ、司令官に報告するほど把握できていないのだ」

と、仕方なくダールマン提督が言った。

「で、いつごろわかるんです?」

「そうだな、ホランド・アルガイの船が着く前にはっきりしたいとは思っている」

「ホランド・アルガイの船の客に何か関係するのですか?」

「たぶん……」

と、言葉を濁してダールマン提督は黙った。

 ディポックはそれ以上聞くのを止めた。ダールマン提督が何を調べているのかわからないが、それが分かれば必ず報告してくると思ったのだ。


 ディポック司令官が去ると、

「いいのか、あんな言い訳で……」

と、オルフス・リガル准将が言った。

「大丈夫だ。分かったら、きちんと報告しに行くつもりだ」

と、ダールマン提督は言った。

「しかし、本当にこんなことがあるのか?」

と、オルフス・リガル准将が言った。

 彼らは自分たちの身体調査と称して、密かに要塞の兵士の健康調査票をも入手していた。彼らがチェックしているのは、体の脊髄のスキャンと血液データだった。

 オルフス・リガル准将と彼の医師たちが見るところ、要塞の兵士の中に、いくつか白金銀河で見られるデータと同じものがあったのだ。それは、この要塞に白金銀河の支配種族である寄生種族の存在の印が見られたのだ。

「昔、あの転送装置が奴らを呼び込んだのだ」

と、ダールマン提督が言った。

「こちらでも、古代にアンダイン種族の転送装置を使った連中がいたというのか?」

と、オルフス・リガル准将が言った。

「そうだ。当時はロル星団では宇宙文明はなかったので、あっという間に支配されていった。そのことに気が付いたダルシア人が奴らを駆逐したのだが、完全とまではいかなかった。艦隊で排除できるような連中ではない。当時は、人間を一人一人チェックすることまではできなかった。それで、ふたご銀河の種族の遺伝子の中に寄生種族を排除する遺伝子を入れたのだ。だが、それも個人差があって、あまり効果のない者も時には生まれた。だから、こちらにも奴らの子孫が残ることになったのだ」

と、ダールマン提督は説明した。

 このことは、まだディポックを始めとした要塞の者達には話してはいなかった。これほど深刻だとは思っていなかったのだ。

 この調査によると、要塞にいる百万を超える兵士の中に4、5人ほどの寄生種族に入られた者がいる。数は少ないが、目的を持って動かれると危険だった。この結果と、ホランド・アルガイの連れてくる元新世紀共和国の政治家との関連が何かあると暗示されるのだ。

「まさか、とは思うが、疑ってみた方がいいだろう」

と、ダールマン提督は言った。

「しかし、こちらではそんなことはこれまで聞いたことがないのだろう?」

と、オルフス・リガル准将が言った。

「だからこそ、厄介だ」

 目的が新世紀共和国の再興を通じての政治支配か、それともジル星団の惑星連盟と何か関連があるのか。惑星連盟の艦隊もいずれこの後来ることになっているので、何か関係があるかもしれない。

「で、どうするつもりなのだ?」

と、これまで黙って聞いていたナル・クルム少佐が言った。

 ナル・クルム少佐がダールマン提督とオルフス・リガル准将の話に当然のことのように割り込んでくるのは、他の者が見たら変に思うだろう。軍人には階級差があると、遠慮をしてあまり話をしないものだ。だが、二人とも特にそれを咎める風はなかった。

「今の所、連中の目的がよくわからないことが最大の問題だ」

と、オルフス・リガル准将は言った。

「そうだな。我々がこのことに気づいたことを、連中に気づかれぬようにするしかない。何か必ず動きがあるはず。それも近々だ。ホランド・アルガイの船が来るのだから」

と、ダールマン提督も仲間に注意を喚起した。


188.

 ホランド・アルガイの自由貿易商船がヘイダール要塞に到着する前日、その船から超高速通信が入った。

「司令官、ホランド・アルガイ船長から通信です」

と、通信員が言った。

「ホランドから?」

 ディポックはホランド・アルガイに何かあったのかと思って、急いで通信に出た。

「やあ、ディポック!」

と、スクリーンに映じたホランド・アルガイは言った。

「どうしたんだ?何かあったのか?」

と、ディポックは心配そうに言った。何となくホランド・アルガイに元気がなさそうなのに気が付いたのだ。

「いや、そうではなくて、乗船客がディポックに挨拶があるというのでね…」

と、ホランド・アルガイは言いにくそうにした。

「乗船客?誰がいるんだい?」

「もっと早く連絡しようと思ったんだが、何しろ、まだ遠かったもので、…。それで、元新世紀共和国最高評議会議員のエルシン・ディゴ議員とフランブ・リンジ議員が乗船しているんだ」

「政治家を連れて来たのか?」

と驚いたふりをして、ディポックは言った。演技は下手だが、スクリーンなので誤魔化せた。

「すまない。色々しがらみがあって、頼みを断れなかったんだ。それで、明日着く予定なんだが、その前に君に知らせてほしいと彼らが言うのでね…」

というと、ホランド・アルガイから他の者に変わった。

「君がヤム・ディポック提督かね?」

と白髪交じりの老紳士が出て来て、偉そうに聞いた。

「あなたは?」

と、ディポックが聞いた。政治家については元々興味がないせいで、顔も覚えていない。

「私が、元最高評議会議員のエルシン・ディゴだ。もう一人、フランブ・リンジを紹介しよう」

と言って、まだうら若い女性をスクリーンの端に入らせた。

「どうも、始めまして……。それで、何かご用でしょうか?」

と、挨拶を適当に引き上げて、ディポックは聞いた。

「我々は、明日ヘイダール要塞に着く予定だ。その際に、それなりの用意をしてほしいということだ」

と、エルシン・ディゴ元議員は要求した。

「それなりの用意と仰られても、こちらは軍事要塞なので、あまりできることはありませんが……」

と、ディポックは困ったように言った。

「そんなことはわかっている。だが、ディポック提督、君は我々とこれまでのように敵対することを続けるつもりなのかな?」

と、エルシン・ディゴ議員は言葉上は穏やかに聞いた。

「敵対と言われましても、私が望んでそうなったわけではありませんが…」

と、ディポックにしては珍しく異を唱えた。

「我々は今、あることを考えている。そのことについて、君と話をするつもりできたのだ」

「あること?」

「非常に重要なことだ。これからの新世紀共和国をどうするかということだ。それについては、そちらに着いてから詳しく話すつもりだ」

と、エルシン・ディゴ元議員はもったいぶって言った。

 嫌な予感がしたのは、ディポックだけではない。司令室の者達はスクリーンの政治家を疑惑の目で見ていた。だが、何も言わなかった。

 突然通信の最中に、司令室にバルザス提督が現れた。これは魔法で移動してきたのだった。そして、近くにいたグリンとノルド・ギャビに、

「通信が要塞全体に流されているぞ!」

と、バルザス提督は低い声で警告した。

「何だって!」

と、驚くと共に、慌ててディポックに合図をした。

「わかりました。明日、あなた方議員をお迎えすることにしましょう」

と言って、ディポックは話を切り上げて、通信を切った。


 バルザス提督は、

「今の通信は、廊下や食堂、至るところで配信されていた。いったい誰がそんなことをしたのか?」

と、司令室の連中に聞いた。

「いや、わからない。どうしてそんなことが……」

と、ノルド・ギャビが困惑して言った。

 いつの間にか、要塞の通信設備が何者かによっていじられていたのだ。

「しかし、いったい誰がそんなことを……」

と、グリンも首を捻った。

「少なくとも、我々はそのようなことはしていない」

と、ノルド・ギャビが言った。

「我々の中に、あの政治家連中のスパイがいるということか?」

と、まさかと言う思いでノルド・ギャビが言った。

「たぶん、そうだろう」

と、バルザス提督が言った。

「だが、何のために、誰がしたんだ?」

と、フェリスグレイブが言った。そのことをバルザス提督が知っているのでは、と思ったのだ。

 元新世紀共和国の政治家である議員たちは銀河帝国に併合された時にあらかた解散させられ、監視を受ける立場にあった。それなのに、ディポック提督の部下の中に工作員を紛れ込ませるようなことができるとはとても思えなかった。

「だが、誰かがやったんだ」

と、ディポックは気を引き締めるように言った。


 翌日、ホランド・アルガイの自由貿易商船がヘイダール要塞に入港する時、それを出迎えに多くの元新世紀共和国の人々が集まっていた。

「一体これは、何が起きるんだ?」

とダズ・アルグ提督が、その数の多さに驚いて言った。

 口コミで集まった人々は惑星カルガリウムから移って来た人々だけではなく、百万近くいる要塞兵士の中で来られる者は来ていると思われた。

「昨日、ホランド・アルガイの船の通信が要塞内に中継されたんだ。それで集まってきているんだろう」

と、フェリスグレイブは言った。

 もちろん要塞幹部の面々は、ホランド・アルガイの船が駐機場に入るときには、すでに出迎えるために不承不承来ていた。

 彼らにしてみれば、本国の政治家連中は厚かましいとしか言えなかった。なぜ、彼らがこのヘイダール要塞を占拠しなければならなかったのか?それは本国の政治家連中がディポック司令官を始め、彼らを追い詰めたからでもあるのだ。それなのに、要塞にやってくると言うだけならまだしも、来るから出迎えろという要求をしてきたのだ。

 最初に現れたのは、エルシン・ディゴ元議員だった。彼は、降車場の階段の上で手を振った。次にフランブ・リンジ元議員が現れた。こちらは、前のエルシン・ディゴ元議員よりも派手な歓呼の声で迎えられた。

「すごい、まるで現役の政治家のようではないですか」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「あるいは、スターかな?」

と、フェリスグレイブが言った。

 彼らが降りてくると、まず要塞司令官のヤム・ディポックとエルシン・ディゴ元議員が握手した。その様子を要塞にいる自称カメラマンと称する者たちが撮りに来ていた。

「ようこそ、ヘイダール要塞へ」

と、ディポック司令官は何とか笑顔を浮かべて言った。

「これまで要塞を維持していてくれたことを感謝する。このことは必ずや新世紀共和国の再興のための最高の贈り物となるだろう」

と、エルシン・ディゴ元議員は言った。

 妙なことを言う、とディポックは思った。まるでヘイダール要塞が新世紀共和国の物のようだ。だが、多くの耳目のあるここで異見を言うのは憚られた。

「それで、こちらはフランブ・リンジ元議員だ」

と、エルシン・ディゴ元議員は若く美しい元議員をディポックに紹介した。

 ディポックが同じように握手すると、

「ディポック司令官。初めまして、このような歓迎を感謝します」

と、フランブ・リンジはディポックのさらに後方にいる出迎えに来た一般市民と兵士たちにも笑顔を振り撒いた。

 その時、市民と兵士たちの間から歓声があがり、

「新世紀共和国万歳!」

という声がいくつも上がった。

「では、ダヤン・ガル中佐がお部屋までご案内します」

と、ディポック司令官は言った。

 すると、

「いや、その前にヘイダール要塞の司令室を見せてはくれまいか」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。

「しかし、長旅でお疲れではないのですか?」

と、ディポック司令官が言った。

「構わないよ、君。せっかくヘイダール要塞に来たんだ。銀河帝国自慢の要塞にね。その司令室を見ないでどうする?」

 ダヤン・ガル中佐はディポック司令官を困ったように見た。

「わかりました。中佐、お二人を司令室にご案内してくれ」

と、ディポック司令官は言った。

「ああ、秘書のギアス・リードも一緒に行くので、いいかな?」

と、エルシン・ディゴ元議員は言った。

「もちろん、構いません」

 一行は駐機場から要塞司令室まで移動した。途中リフトに乗ってもいつものように転送装置は使わなかった。だから、ことさら司令室まで遠く感じた。


 バルザス提督は、その様子をかなり離れた場所から見ていた。

 元新世紀共和国の議員一行が要塞司令室に行くために駐機場を去ると、大勢いた人々は解散し、バルザス提督の姿も消えた。


189.

 リドス連邦王国のリイル・フィアナ提督は、部屋の扉に新しく魔法を掛けていた。

「これでいいわ。それと、あなた達もしばらく部屋を出ない方がいいわ。何が起きるかわからないから」

と、銀河帝国のアルトラス・ヴィル提督とウルブル・フェルラー提督に言った。

「我々は、ここにはいないことにするつもりですね」

と、ツインズ・グイン少佐は言った。

「そう。私たちのことを知っているのは、司令室の人達の他はタレス人の一部、要塞の連中はほとんど覚えていないことにするから……」

と、リイル・フィアナ提督は言った。

 ここに居るのは銀河帝国の提督たちだけではない。その艦隊も一緒にいるのだ。部屋の中央程にある二つの球の中にそれぞれの艦隊が入っている。知らない人が見れば、何かのゲーム機に見えるかもしれない。だが、本物の艦隊が球体の空間に浮かんでいるのだ。これに何かをされたら、中にいる兵士たちが大変なことになる。だから、リイル・フィアナは特に念入りに魔法を掛けていた。誰もこの部屋に気づかないように、そして入ることが出来ないように。

「一体、何が起きると言うのだ?元新世紀共和国の政治家どもが来たからか?」

と、ウルブル・フェルラー提督が聞いた。彼は、グーザ帝国艦隊が去ってから、こちらでも元の姿に戻っていた。その彼も昨日要塞内に流れた映像を見たのだ。

「それもあるけれど、もっと事態は深刻なのよ」

と、リイル・フィアナ提督はため息をついて言った。

「それは、どういうことです?」

と、アルトラス・ヴィル提督が聞いた。

「それはまだ言えないわ。ディポック司令官にだって、話していないのよ。ま、うまくいけばグーザ帝国の艦隊が来た時ほど長くはかからないと思うけれど……」

 リイル・フィアナ提督の部屋は廊下から見ると、どこにも見えなかった。扉が壁と見分けがつかなくなっている。その上、出入りは魔法を使わないとできないようになっていた。

「少佐、この扉を守っていてね。ここまでやって来るとは思えないけれど。用心はしておかないといけないから…」

「わかりました」


 ブルーク・ジャナ少佐は、駐機場でバッタリとバルザス提督と出会った。

「連中は、部屋か?」

と、バルザス提督は聞いた。

 ジャナ少佐はグーザ帝国のキンドルラ提督たちの事だと思って、

「そうです。」

と、答えた。

「いいか、彼らは要塞にはいない。誰かに聞かれたら、知らないと言ってくれ」

と、バルザス提督は急に妙なことを言い出した。

「どうしたんですか?」

「特に、あの元新世紀共和国の政治家連中がグーザ帝国の捕虜のことを聞いたら、そんな者たちはいないと言うんだ」

と、バルザス提督は繰り返した。

「なぜですか?」

「彼らの命に係わるからだ」

「まさか、…」

「用心に越したことはない。ディポック司令官には後で私から話をしておく…」

「しかし、…」

「今は、あの本国の政治家連中のことで手一杯で、ディポック司令官もそこまでできないだろう」

 もっと聞きたかったが、バルザス提督は口に指をあて、黙っているように示すと、こつ然と姿を消した。

 その消え方に驚いて立ち尽くしていると、

「ジャナ少佐ですか?」

と、話しかけてくる者がいた。

 振り返ると、要塞の兵士だった。

「何だ?どうかしたのか?」

と、ジャナ少佐は聞き返した。少し気味が悪かった。この兵士はなぜこのタイミングでここに居るのだ?

「いえ、今誰かいたように思ったので」

「いや、誰もいなかった。それにしても、彼女は美人だったな……」

と、ジャナ少佐は話題を変えて言った。

「そうですね。要塞に本国の政治家が来るのはいいことです」

と、兵士は言った。

「そうだね。さて私も、いつもの任務の戻るよ」

と言ってジャナ少佐が去ろうとすると、

「少佐、あのグーザ帝国の捕虜はどうしました?」

と、その兵士は唐突に聞いた。

「グーザ帝国の捕虜?何のことだ?私は、知らないが……」

とジャナ少佐はドキリとしたが、平静を装って言った。今のバルザス提督の忠告を思い出したのだ。

「いえ、少佐と一緒の所を見たと思ったので……」

「それは、何かの見間違いだよ」

「そうですか?」

と、その兵士は疑わしそうに聞いた。

「そうだよ」

と、ジャナ少佐は笑って、その兵士から急ぎ足で離れた。心臓が早鐘のようになっていた。いったい何が起きようとしているのだ?すぐにもディポック司令官に報告したいが、あいにく邪魔な本国の政治家連中が一緒にいるのだ。


 タリア・トンブンは駐機場に来た元新世紀共和国の政治家のことには何の興味もなかったので、行きもしなかった。

「あの、タリア・トンブンですね、ディポック司令官がお呼びです」

と、要塞の兵士がやって来て言った。

「ディポック司令官が?私に何の用なのかしら…」

 いつもなら士官を呼びに出すのに、今回は兵士だった。別に兵士でも構わないが、何かおかしいとタリア・トンブンは思った。

(こいつを騙してうまく捕らえれば、いい取引ができる)

と、その兵士の心の思いが突然タリアの心の中に流れ込んで来た。

「え?」

と、驚いてタリアは相手を見た。

 最近、自分のTP能力が突然強くなる時があった。そんなことは普通はないものだが、タリアには起きるのだ。それはバルザス提督によると、元々備わっている力が発現するということらしい。

「ちょっと用事があるから、それを済ませてから行くわね」

と、タリアは言った。

「あの、ディポック司令官はお急ぎのようなのですが…」

と、困ったように兵士は言った。

「大丈夫よ。終わったらすぐに行くから。それに、そんなことで怒るような人ではないでしょう?」

 ディポック司令官の温厚な性格は、要塞の兵士なら誰でも知っていることだ。

「それは、まあそうですが…」

「それじゃ、…」

と言って、タリアは急いでその場を離れ、リドス連邦王国の人達のいる宿舎へ急いだ。

 何か起きているのだ。タリアの知らない何かが。


190.

 ダヤン・ガル中佐は、エルシン・ディゴ元議員とフランブ・リンジ元議員に加えて、秘書のギアス・リードを要塞司令室に案内した。

 まず、司令室の巨大なスクリーンに三人は驚いて見とれていた。そして、我に返ると、

「通信員はいるか?」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。

「何かご用ですか、元議員」

と、ディポック司令官は聞いた。

「通信をしたいのだ」

「どちらへですか?」

「そんなに遠くではない」

と二人が話していると、通信員が言った。

「通信です」

「どこからだ?」

と、ディポック司令官が聞いた。

「ええと、要塞の近くです。これは、我々の新世紀共和国軍の通信帯域です」

「そうだ。通信を開いてくれ」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。相手が誰か知っているようだった。

 グリンやノルド・ギャビ、ブレイス少佐などは嫌な予感がした。

「こちらは、新世紀共和国戦艦ベルデル。ヘイダール要塞、応答せよ」

と、声がした。

「こちらは、ヘイダール要塞だ。新世紀共和国の戦艦だというのは本当か?」

と、ディポック司令官が聞いた。

「本当だ。銀河帝国によって解体を免れた艦だ」

 やがてスクリーンに三千隻程の艦隊が映じた。

「我々は新世紀共和国の艦隊だ。旗艦はベルデル。ヴィエ・デヤンゴ提督の艦隊である」

と、筋肉隆々のまさに軍人らしい人物が映像に出て言った。

「よく来た。待っていたぞ」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。

「これは、いったいどうしたんですか?」

と、ディポック司令官が聞いた。

「銀河帝国によって解体を免れたのは、君の艦隊だけではない。他にもあるのだ」

「それで、何をしようというのですか?」

「もちろん、新世紀共和国の再興だ。他に何がある。本国の人々は銀河帝国の圧制によって、どれだけ疲弊しているか、知っているか?いや、我々を見捨てて出て行った君たちに分かるわけはないか……」

 話が替わっていた。エルシン・ディゴ元議員の頭の中では、ディポックたちが彼ら元新世紀共和国の人々を見捨てたことになっているらしい。

 これは、さらにまずいことになった、と司令室にいる要塞幹部の面々は思った。

 その時、ディポックの耳にバルザス提督の声が聞こえて来た。

「この話、また要塞内に配信されている。気をつけた方がいい。連中は本気でこの要塞を乗っ取るつもりだ!」

 まるで傍にいるように思えた。もしかしたら、魔法を使って姿を隠しているのかもしれない、とディポックは思った。

「ブレイス少佐、要塞内放送のスイッチを切ってくれ!」

と、ディポック司令官は命じた。

 すぐにブレイス少佐はスイッチのあるところへ動いた。だが、先に動いた者がいた。

「そこを、どいてください」

と、ブレイス少佐は言った。

 立ちはだかったのは、議員秘書のギアス・リードだった。

「いや、この話は、この要塞のすべての市民に関わることだ。彼らも知るべきだ。知る権利がある!」

と、ギアス・リードは権利を強調して言った。

「そうだとも、それが民主共和制というものだ。人々にあまねく知らせることは大事なことではないかな?」

と、エルシン・ディゴ元議員が言った。そして、

「要塞にある駐留艦隊と、今回やって来たデヤンゴ提督の艦隊三千、それに他にもあちこちに残って隠れている艦隊を糾合すれば、新世紀共和国の再興も夢ではない」

と、宣言した。


 この要塞内に放送されたエルシン・ディゴ元議員の宣言は、要塞内にいた兵士や市民たちが狂喜して聞いた。

 新世紀共和国が銀河帝国によって占領されて以来、すでに三年が立っていた。それが、再び蘇るというのだ。喜ばない方がどうかしていた。

 その間、銀河帝国によって新世紀共和国の議会は解散し、艦隊は解体され、人々の権利は剥奪された。そして新世紀共和国は銀河帝国の領土となったのだ。その喪失感は、遺憾ともしがたかった。二度と再び新世紀共和国が戻ることはないと思われたのだ。

 要塞内の兵士や市民たちの間では『新世紀共和国万歳』と連呼し、歓喜に沸いていた。仕事など手に着くような気分ではない。


「さて、始まったようだな」

と、ダールマン提督は言った。

 バルザス提督の宿舎になっているその部屋にも、要塞司令室の映像が流れていた。

 元々この部屋はヘイダール要塞の司令室に何かがあった時に、司令室として使えるように作られた部屋だった。だから、正規の司令室と同じ機能を持っている。

「でも、悪いことではないのではありませんか?多くの人々が望んでいることなら……」

と、マグ・デレン・シャが言った。

 ナンヴァル人はあまりロル星団については詳しく知らないながら、国を亡くした者達については同情を感じるのだ。おまけに現在マグ・デレン・シャは本国のナンヴァル連邦に対しては、ディポックと似たような立場にある。彼女は母国の指導者になるべき者だったが、考えの異なった者達に排除されてしまったのだ。

「うまく行ったとして、また長い戦争が続くことになるだけだ。悪くすれば、つまりこの企てが銀河帝国によって阻まれれば、ディポック司令官は悪者の烙印をおされるだろう。銀河帝国に背いた提督として……」

と、ダールマン提督は言った。

「別に、この要塞が独立の政治勢力になるというのなら構わないのです。あの元新世紀共和国の政治家連中は本国を取り戻そうとして、それができるまでやめようとしないでしょう。それが良くないのです」

と、バルザス提督は言った。

「それに、何が協力しているかも問題だわ」

と、リイル・フィアナ提督が言った。

「それで、あの連中の中に奴らはいるか?」

と、ダールマン提督は言った。

「エルシン・ディゴ元議員やフランブ・リンジ元議員には、何も感じないわ」

と、サムフェイズ・イージー少佐が言った。

「そうだ。感じるのは、あのギアス・リードという秘書の男だ」

と、ナル・クルム少佐が言った。

 サムフェイズ・イージー少佐とナル・クルム少佐は、密かに駐機場にいたのだ。そこで、元新世紀共和国の議員と秘書を真直に見ていた。ある程度近寄らないと、これはわからないことだった。

 サムフェイズ・イージー少佐やナル・クルム少佐はダールマン提督の言う『奴ら』をよく知っていた。

 『奴ら』とは、白金銀河の支配者である寄生型種族のことだった。その種族を彼らは『バウワフル』と呼んでいた。



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