6話 最弱、初めての夜を過ごす
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夕焼けに染まった街を歩きながら、ハジメは自分の体を見下ろした。
「……汚すぎだろ」
泥。ほこり。謎のぬめり。
どこからどう見ても、“戦った後の人間”ではなく“畑仕事帰りの人”だった。
「いや、戦ったんだけどな?」
むしろ命がけだったはずなんだが。
どうしてこうなった。
ギルドでもらった報酬の袋を握り直す。
ずしりとした重み。
「……よし」
ハジメは小さく頷いた。
「まずは風呂だな」
優先順位、完全にそこだった。
宿の扉をくぐると、木の匂いとほんのりした温かさが迎えてくれた。
「一泊頼みたいんですけど」
受付の女性に声をかける。
少しだけ値段にビビりつつも、無事に部屋を確保。
「あと……風呂ってあります?」
「ありますよ、奥に」
「……神か」
思わず本音が漏れた。
浴場は思っていたよりちゃんとしていた。
木造の広い空間に、湯気が立ちこめている。
「おお……」
思わず声が出る。
服を脱ぎ、湯に足を入れる。
「っ……」
じんわりと温かさが広がる。
「はぁぁぁぁ……」
声が漏れた。
今日一日の疲れが、一気に溶けていくような感覚。
「……生きてるわ」
泥を洗い流す。
腕も、足も、顔も。
さっきまでの“泥男”が嘘みたいに消えていく。
「これだよこれ……」
戦闘?レベル上げ?
いや違う。
「風呂が一番のチートだわ」
風呂から上がると、体が軽かった。
さっきまでの疲労が、半分くらい消えている。
「すげぇな……」
タオルで髪を拭きながら呟く。
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
「……おお」
さっきと違う。
体が綺麗なだけで、ここまで快適さが変わるのか。
「人間って大事だな、清潔感」
誰に言ってるか分からないが納得した。
ぐぅぅぅ。
「……腹減ったな」
風呂に入ると腹が減る。
これは世界共通らしい。
「行くか」
再び外へ。
夜の街は、昼とは違う顔を見せていた。
ランプの灯りが通りを照らし、酒場からは笑い声が響く。
「……いい雰囲気だな」
さっきより怖くない。
むしろ少し落ち着く。
屋台を見つけ、軽く食事を済ませる。
温かいスープとパン。
「……うま」
シンプルなのに、やけに染みる。
「これが異世界飯か……」
なんかそれっぽいこと言ってみる。
宿に戻る。
部屋に入ると、静けさが広がった。
「……」
「……静かだな」
日本とは違う夜。
車の音も、電子音もない。
「……逆に落ち着かねぇな」
ベッドに横になる。
天井を見上げる。
「……今日」
ぽつりと呟く。
「普通に死にかけたな」
スライムに殴られて、泥に突っ込んで、踏みつけて。
「無双どころか泥試合だわ」
苦笑が漏れる。
「……でも」
目を閉じる。
「ちょっと楽しいな」
不思議だった。
しんどいはずなのに、どこかワクワクしている。
「明日は……どうすっかな」
武器もない。
防具もない。
「そろそろちゃんとした装備欲しいな」
そんなことを考えているうちに——
意識が、ゆっくりと落ちていった。
……数分後。
ガタン。
「……ん?」
目が覚める。
「……今の音なに?」
静かな部屋。
外も静か。
「……いや待て」
天井を見る。
「上、誰かいないよな?」
ギシッ。
「いる!?ねぇいる!?」
一気に覚醒。
「やめろやめろやめろ!」
布団を頭までかぶる。
「いや冷静に考えろ……」
数秒、沈黙。
……何も起きない。
「……気のせいか?」
ゆっくり顔を出す。
静か。
「……」
「……寝よ」
判断が早い。
こうして。
ハジメの異世界での初めての夜は——
風呂に感動し、少しだけビビりながらも、
なんだかんだで平和に過ぎていった。
——本人の心臓はちょっと忙しかったが。
ちなみにさっきの音は上の階のただの足音だったけど
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