10話 最弱、刺したら親が出てきた
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第10話「最弱、刺したら親が出てきた」
ドスッ、と確かな手応えが腕に伝わった瞬間、ハジメの思考は一瞬だけ止まった。
自分の突き出した槍の先が、確かに目の前のゴブリンへと届いている。
浅いが、確実に当たった感触。
スライムのように“効かない”という感覚とは明らかに違う、はっきりとした手応えだった。
「……当たった」
遅れて、口から言葉が漏れる。
その一言には、驚きと、そしてほんの少しの喜びが混じっていた。
目の前のゴブリンがよろめく。
バランスを崩し、数歩後ろへと下がる。
その動きは先ほどまでの素早さとは違い、どこかぎこちない。
(いける……?)
ハジメの中で、ほんのわずかに自信が芽生える。
(ちゃんと当たれば、効く……!ちゃんと当たれば…だが!)
当たり前のことなのに、それがこんなにも安心感を与えるとは思わなかった。
スライムのときは、何をしても手応えが曖昧だった。
だが今回は違う。
目の前の相手は、確実に当たれば”効く“ 存在だ。
(よし……落ち着け)
呼吸を整える。
焦る必要はない。
さっきのように突けばいい。
ただそれだけでいい。
槍を構え直す。
(距離を取って、来たところを突く)
シンプルな戦い方。
だが今の自分には、それが一番確実だ。
ゴブリンが顔を上げる。
その目が、先ほどよりもわずかに揺れているように見えた。
(……あれ?)
違和感。
さっきまでの“敵意”とは少し違う。
その瞬間——
「ギィィィィィィィ!!」
森に響くような高い叫び声が、ゴブリンの口から発せられた。
「うわっ!?」
思わず体がビクッとなる。
(なに今の!?)
威嚇ではない。
だが、明らかに普通ではない反応。
ゴブリンはその場で叫び続けている。
痛みによるものなのか?
そんなに痛かったのかな
(いや待て)
ハジメの中で、嫌な予感が膨らむ。
(これ……なんか呼んでない?)
静かだった森。
だが、その叫び声を境に、空気がわずかにざわついた気がした。
ガサッ。
「……え?」
足音。
今度は一つではない。
ガサガサッ。
「ちょっと待て」
嫌な予感が、確信に変わる。
(これ絶対まずいやつだろ)
ゆっくりと視線を動かす。
木々の隙間から、新たな影が現れる。
一体ではない。
二体。
「……は?」
思考が追いつかない。
一体は、今目の前にいるゴブリンよりも明らかに体が大きい。
筋肉の付き方も違い、持っている棍棒も一回り太い。
そしてもう一体は、やや細身だが、その目つきは鋭く、手に持つナイフもよりしっかりとしたものに見える。
(……え、なにこれ)
ゆっくりと、理解が追いつく。
(大人じゃね?)
そして、目の前で叫んでいるゴブリン。
(……子供?)
沈黙。
「……やばくね?」
声が漏れた。
親ゴブリン二体が、ゆっくりと前に出る。
その視線は、完全にハジメへと向けられていた。
そして。
「ギィィィ……」
子供ゴブリンが、こちらを指差す。
「……あ、チクった。こいつチクリよった」
終わった。
(完全に俺が悪者の流れじゃん!!)
いや実際刺したけども。
「てかお前、さっきまで殺意剥き出しだったよな!?急に被害者ヅラすんな!!」
理不尽である。
だが、そんなことを言っている場合ではない。
(いや無理無理無理無理!!)
頭の中で警報が鳴り響く。
(単体ならいけるって話だったよな!?)
三体いる。
しかもそのうち一体は強そう。
親ゴブリンの一体が、一歩前に出る。
(父ゴブリンとでも呼ぼう)
地面を踏みしめる音が、妙に重く響いた。
「……いやちょっと待って」
ハジメは思わず手を前に出した。
「これ、話し合いとか、最悪和解とか…」
無理だった。
次の瞬間、父ゴブリンが突っ込んできた。
「ですよねええええ!!」
全力で槍を構える。
ブンッ!!
なりふり構わずとにかく振る。
突く余裕がなかった。
「重っ!?」
弾かれる。
棍棒と槍がぶつかり、手に強い衝撃が走る。
(力強すぎだろ!!)
体格差がそのまま力の差になっている。
もう一体が、いや、母ゴブリンが横から回り込む。
「うわっ、挟むな!!」
完全に連携している。
(知能あるってレベルじゃねぇぞこれ!!)
距離を取る。
だが、逃げ場は狭い。
(やばい、これ普通に死ぬやつだ)
冷静な結論。
(どうする!?)
頭をフル回転させる。
(正面無理、力負け、数でも負け)
勝てる要素
(……ないな?)
即答。
(いやあるだろなんか!!)
必死に探す。
そのとき、足元に視線が落ちる。
泥。
「……あ」
思い出す。
(俺の戦い方って、これじゃん)
真正面から戦わない。
まともにぶつからない。
(姑息でいけ)
それが自分のスタイルだ。
「よし……」
小さく呟く。
そして
とりあえず逃げた。
「ごめんなさいいいいい!!」
全力ダッシュ。
前の人生も含めて人生1番のダッシュ。
「ギィィ!!」
後ろから追ってくる気配。
(来てる来てる来てる!!)
振り返らない。
振り返ったら負けな気がする。
(とにかく走れ!!)
頭の中で作戦を組み立てる。
(どっかで地形使う……!)
昨日と同じ。
それしかない。
だが
「うおっ!?」
横から影。
「速っ!?」
回り込まれていた。
(いや賢すぎだろ!!てかゴブリンって足速いの!?知らねーーーーそんな情報!)
完全に読まれている。
足が止まる。
囲まれる。
前に父ゴブリン。
斜め横に母ゴブリン
後ろには子供。
「……詰んだ?」
ぽつりと呟く。
子供ゴブリンは誇らしげな顔でこちらを見ている。
「その顔腹立つわー!!」
静かな森の中で、その言葉だけがやけに軽く響いた。
(……いや)
槍を握り直す。
「ここからが本当の勝負!」
汗が流れる。
心臓がうるさい。
(まだ終わってねぇ)
ゆっくりと構える。
最弱。
チートなし。
相手は親子三体。
(状況、最悪だな)
苦笑が浮かぶ。
それでも
「……やるしかねぇか」
ハジメは、小さく息を吐いた。
その目には、まだ諦めの色はなかった。
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