第一章(2) 一夜明け、物語は盛大に始まらない
「おーい。起きろー。」
げしげし。
「早く、起きなさいよ。」
げしげし、げしげし。
なんだろう。俺、蹴られてないか?
「まったく。こいつは一度寝ると全然起きないんだから。」
ドタドタ。
どうやらどこかに行ったらしい。眠いからもう少し寝ていよう。
トトトトト。
なんだ、もう戻ってきたのか。もう少し寝かせてくれよ。
「これで起きなかった次はどうしてやろう。それっ!」
ザッバーン。
「冷たっっ!!」
こいつ水ぶっかけやがった!!
すっかり目が覚めて跳ね起きると、可笑しげな笑みを浮かべたエルが桶を持って立っていた。
「おはよう、アルト。よく眠れた?」
「今さっきまでよく眠れてたよ。誰かさんが突然水を浴びせたりしなければもっとよく眠れていただろうさ!!」
「しかたないじゃない!あんたを起こすのとっても大変なのよ?たまにはこっちの気持ちも味わってみてから言いなさいよ!!」
「なんだと?」
「なんですって?」
そのとき、誰かが声をかけてきた。。
「二人ともそのくらいにしときな。」
見ると、マーサおばさんがあきれた顔を浮かべていた。しまった。こいつと話すといつもこんな風に口げんかになってしまう。エルもちょっとばつが悪そうな顔をしていた。
「あの子が起きた。色々分かったこともある。アルト、親父さんもルベルトさんも揃っている。早く支度をしな。エル、こいつの支度が終わったら、広間に案内しておやり。」
「え、あ、はい。」
「分かったわよ。」
「それじゃあね。」
おばさんは行ってしまった。
「さてと、私は外に出てるから。さっさと着替えちゃいなさい。」
「わかってるよ。」
まったくしつこいやつめ。俺は濡れた服を着替えながら昨夜のことを思い返していた。
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「で、一体全体この女の子は何者なんだ?」
親父のその台詞は村人全員の思いを代弁していた。こんな時、頼りになるのはルベルトさんだ。
「とりあえず一つずつ片付けていこう。」
「まずは『神の代理者』という言葉について。マーサさんなにか知ってますか?」
巫女のおばさんは名前をマーサという。エルのお母さんで、巫術の腕はこの辺で一番なのだそうだ。
「詳しいことは書物を調べてみないと分からない。」
と、おばさんは前置きしてから言った。
「ただし、今アルト君には霊的な力がどんどん集まっている。今日はうちに泊まったほうがいい。ここまで急激な変化だと、悪霊の類いを引き寄せてしまうだろうし、最悪そのパワーが制御できないかもしれない。」
「では、アルト君のことについては巫女の家に任せよう。」
即決だった。皆に尊敬されるわけである。
「では次だ。こんな風に真っ白な女の子を見かけたり、噂を聞いたりした者はいるか?」
「見かけるも何もその子は天使様とかそういうお人ではねえのかい?」
「普通、そういったのはやることを終えたら帰ってしまうんだ。地上にとどまって寝てしまうなんて神話、聞いたことも無い。」
「それも、あたしたちに任せて欲しい。」
意外にもそれに答えたのはエルだった。
「書庫に一冊、この子みたいに真っ白な本があるんだ。何も書いてないから気になったんだよ。もしかしたら、何か変化が出てるかもしれない。」
「ではそれも巫女の家に任せよう。何か分かったらすぐさま呼んでくれ。皆、気になって仕方ないだろうからな。」
「では、解散!」
それで、昨日はお開きになり、俺はエルの家に泊めてもらったというわけだ。
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「終わったぜ。」
そう言いながら廊下にでると、エルがまたかみついてきた。
「遅いじゃない!何やってたのよ!?」
「おいおい、いきなりなんだって……」
「わかった!昨日の女の子のことでも思い出して惚けてたんでしょ。ああいう弱々しいお姫様みたいな子が趣味なんでしょ。押し倒して滅茶苦茶にしたくなっちゃうんでしょ!!この変態!!!」
「お前の中で俺はなにをしでかしたんだよ!?」
俺こいつに何かしたっけか?いやしてないよな。
「だ、だって、あの子が現れたときもなんかボーッとしてたし、あのもう一つの祝詞にも即答してたし。」
「えーと、あれはだな」
たしかに純白の光に包まれた彼女はとってもきれいだった。けど、俺がああしていたのはそういう理由じゃなくて、なんていうか、こう、
「彼女の瞳に惹かれたから、かな。彼女の瞳はとってもきれいで、お前みたいに強い意志と揺るぎない自信に満ちていたんだよ。」
「ふーん。馬鹿みたい。」
「そ、そういえば、マーサおばさんが悪霊が集まってくるとか恐ろしいこと言ってたが、特になにもなかったんだな。」
「え?あんた気づいてなかったの?災害級の大悪魔までやって来てたのに。」
「……ちょっとまて、いったい何の話だ?」
「あんたが寝てたあそこに結界を張ってたんだけどね。そこに大量の悪霊やら悪魔やらが群がってたのよ。相当強力なの張ったからうめき声とか聞こえてきたと思うんだけど。」
「まじか。全く気づかなかった。」
「あんたって、ほんっっとに鈍いわね……。あ、ついたわよ。」
広間の入り口には重そうな扉がついていた。戸を開けるとそこには他のみんなが座っていた。右手には親父とルベルトさんが。左手は二人分のスペースが空いていた。俺とエルの分だろう。そして奥にはマーサおばさんと、昨夜の白い少女が座っていた。
「やっと来たか。座りな、二人とも。ずいぶん長い話になりそうだ。」
活動報告に書いた二話の予告をしっかり読んで頂いた方。大変申し訳ありません。
二人の冒険が始まります。とか言っておきながら、タイトルの通り、盛大になにも始まってません。
前回名前だけ出てきたエルちゃんの設定がどんどん膨らんでいったため、なんとこの分量になってしまいました。ごめんなさい。反省してます。
次回予告は引き続き活動報告で行うので興味があったら読んでみてください。




