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俺は弱すぎる

白い殺し屋との戦いを終えたサイキョウは、病院へ戻ることになった。


まただ。


ベッドに横になり、黙って天井を見つめる。


頭の中では、さっきの戦いが何度も繰り返されていた。


ギリギリだった。


相手の動きの弱点に気づかなければ、負けていた。


腕を斬り落とすのが間に合わなければ、負けていた。


あと数分早く魔力が尽きていたら、負けていた。


しかも、白い殺し屋はとんでもなく高い階級の魔物だったわけでもない。


ただ青銅級の中で強い個体だっただけだ。


サイキョウは片腕を上げ、それを見つめた。


包帯。


切り傷。


痣。


その下にあるのは、十年間鍛え続けてきた身体。


それでも、ギリギリだった。


「弱い」


その言葉が気に食わなかった。


だが、他に相応しい言葉もない。


サイキョウは弱すぎる。


なら、もっと強くなればいい。


問題は――どうやって?


腕から、回復薬の入った袋へ細い管が伸びている。


サイキョウはそれを見た。


次に管を見る。


そして、もう一度袋を見る。


「そもそも、なんで回復薬を点滴で飲むんだ?」


針を引き抜いた。


袋を外す。


そして、中に残っていた回復薬をそのまま飲み干した。


「こっちの方が早いだろ」


空になった袋を机へ放り投げる。


今、部屋には誰もいない。


そして、ただ寝ているだけなのにも飽きていた。


サイキョウはベッドから降りた。


痛い。


だが、動ける。


なら、鍛えられる。


片手を床につき、脚を持ち上げる。


そのまま片手で腕立て伏せを始めた。


一回。


二回。


三回。


十五回目で腕を替える。


さらに十五回。


また替える。


一時間後、医者が再び部屋を覗いた。


その時、サイキョウは片手で逆立ちしていた。


二人は数秒間、無言で見つめ合った。


「体型を維持しないと」


「あなたは患者です」


「別に両立するだろ」


「普通はしません」


サイキョウは仕方なくベッドへ戻った。


納得したからではない。


単純に、筋肉が疲れ始めていたからだ。


普段の身体鍛錬を、サイキョウはほとんど休んだことがない。


走る。


筋力を鍛える。


剣。


そして今は、斧もある。


このまま続けるだけでもいい。


一年後には、今より強くなる。


二年後には、もっと。


五年後には……


サイキョウは眉をひそめた。


「長い」


もっと早く強くなりたい。


視線が自分の腕へ落ちた。


これまでの訓練や戦いでできた傷痕が、いくつか残っている。


その一つを指でなぞった。


そこだけ、皮膚が少し硬い。


強く押してみる。


もう一度。


「んー……」


皮膚は何度も傷つけば、治った後に硬くなる。


別に珍しいことじゃない。


普通のタコだって似たようなものだ。


なら……


全身でやればいいんじゃないか?


サイキョウは数秒、自分の腕を見つめた。


回復薬のことを思い出す。


そして、笑った。


「へへ」



退院すると、サイキョウはまず人を探し始めた。


条件は単純だった。


十分に強い。


武器の扱いが上手い。


攻撃の威力を調整できる。


余計な質問をしない。


そして、金を払えば十歳の子供を殴ったり斬ったりしてくれる。


最後の条件だけ、なぜか一番難しかった。


だが最終的には見つかった。


名前はサユラ。


腰に剣を下げた、痩せた老人だった。


一見すると、まったく強そうには見えない。


サイキョウはそこが気に入った。


「つまり、俺にお前を斬れと?」


「うん」


「武器で?」


「うん」


「血が出るまで?」


「できれば」


サユラは数秒、無言でサイキョウを見つめた。


「何のために?」


「訓練」


「これは訓練じゃない」


「今から訓練になる」


「お前、頭おかしいのか?」


サイキョウは少し考えた。


「たぶん」


サユラは深いため息をついた。


「金を見せろ」



最初の一撃で、腕に長い切り傷ができた。


サイキョウの身体が跳ねる。


「くっ……」


痛い。


そりゃ痛い。


たった今、剣で皮膚を切られたのだから。


血が前腕を伝って流れていく。


サユラは剣を下ろした。


「もういいか?」


サイキョウは傷を見る。


「いや」


「そうか」


二撃目は肩。


三撃目は背中。


四撃目は脚。


サユラは重傷を負わせようとしているわけではない。


関節は狙わない。


太い血管も避ける。


深く斬りすぎない。


やることは単純だった。


皮膚を傷つける。


もう一度。


もう一度。


さらにもう一度。


サイキョウが止めろと言うまで。


問題は、その言葉をサイキョウがほとんど口にしないことだった。


「もう一回」


「もう血まみれだぞ」


「見れば分かる」


「なら、なんで『もう一回』なんだ?」


「まだ立てるから」


サユラはサイキョウの目を見た。


「いつかお前のせいで、ものすごく疲れそうだ」



それだけで訓練が終わるわけではない。


サイキョウは剣と斧の訓練も続けた。


右手に剣。


左手に斧。


白い殺し屋との戦いで、性質のまったく違う二つの武器を組み合わせる有用性は十分に分かった。


剣の方が速い。


攻撃の軌道も変えやすい。


正確な一撃も狙いやすい。


斧は重い。


遅い。


だが、まともに当たれば威力は遥かに大きい。


それに、剣と斧で敵を両側から挟めば、避けにくいうえにまともな一撃を叩き込める。


問題は、二つを同時に扱うことだった。


重さが違う。


長さが違う。


慣性も違う。


左腕が遅れることがある。


斧に身体を予想以上に引っ張られることもある。


片方の武器の動きが、もう片方を邪魔することもあった。


だからこそ、サイキョウは二つを同時に使う訓練が気に入っていた。


一つ。


単純にカッコいい。


二つ。


ミスが多い。


つまり――まだ強くなれる。


だが、徐々に別の問題が出てきた。


武器が軽すぎる。


サイキョウは剣を振る。


止める。


刀身を見る。


次に斧でも同じことをした。


「軽すぎるな」


以前なら利点だった。


だが今の身体なら、重量を増やしても十分な速度を維持できる。


二つの武器を付与術で重くしたらどうなるか。


サイキョウはもう想像していた。


もっと重い剣。


もっと重い斧。


一撃ごとの威力も増す。


そして、その重量にも身体が慣れたら……


サイキョウは笑った。


また重くすればいい。



そんな日々が続いた。


サユラが斬る。


サイキョウが回復する。


そして、また繰り返す。


同時に、普段の身体鍛錬も続けていた。


だが、そこには簡単には誤魔化せない限界があった。


筋肉は疲れる。


激しい訓練の後は筋肉が張り、動きが鈍くなり、力も落ちる。


回復薬で傷を治すことはできる。


だが、運動そのものによる疲労までは消えない。


身体が疲れ切ってしまえば、休ませるしかなかった。


それがサイキョウには気に食わなかった。


とはいえ、自分の筋肉と喧嘩しても意味はない。


だから、訓練の予定は身体の回復に合わせた。


身体が元気なら、筋力訓練。


筋肉が張っているなら、別の訓練か休息。


皮膚が十分に治ったら、またサユラ。


少しずつ、攻撃の威力も上げる必要が出てきた。


最初は普通に剣を振るだけで十分だった。


そのうち、サユラはもっと力を込めるようになった。


さらに時間が経つと、剣は皮膚の上を滑り、浅い跡しか残さなくなった。


ある日、サユラが剣を振った。


刃が肩を走る。


サイキョウは下を見る。


ほとんど血が出ていない。


「もっと強く」


「最初よりずっと強く斬ってるぞ」


「なら、もっと」


サユラは眉をひそめた。


「これ以上強くしたら、そのうち大事なところまで斬るぞ」


「じゃあ魔法使って」


「お前の言い方だと、俺がお前を傷つける努力を足りてないみたいに聞こえるんだが」


「まあ……」


「答えるな」


剣に炎が走った。


サユラは火属性だった。


剣そのものより先に、熱が皮膚へ触れる。


鋭い痛み。


そして今度こそ、刃が皮膚を裂いた。


「お」


サイキョウは血を見る。


笑った。


「こっちの方がいい」


サユラは剣を下ろした。


「たまに、この仕事は金に見合ってない気がする」


「もっと払おうか?」


「なら見合ってる」



一か月ほど経った頃、サイキョウは改めて自分の身体を確かめていた。


変化は明らかだった。


皮膚は強くなった。


筋肉は密度を増した。


身体能力も上がっている。


いきなり何階級も飛び越えるほどではない。


だが、自分ではっきり分かる程度には。


特に違いが分かりやすかったのは、白い殺し屋から奪った武器だ。


サイキョウは空間パネルから巨大な斧槌を取り出した。


前に持った時は、その重さがすぐ腕に伝わってきた。


今は……


持ち上げる。


何度か振る。


「ハッ」


まだ重い。


だが、以前ほどじゃない。


サイキョウは斧槌を空間パネルへ戻した。


いい。


ちゃんと効果は出ている。


だが、同じ方法を永遠に続ける意味はない。


皮膚はどんどん硬くなる。


サユラが必要とする力も増えていく。


訓練そのものが、より危険で、より高くつくようになっていた。


そして何より、十二の魔力環を形成してから、ほとんど手をつけていないものがある。


魔力。


そろそろ、そっちも鍛えるべきだ。



出発する前に、サイキョウは消耗品を補充することにした。


まずは回復薬。


何本もの瓶が、店のカウンターに並ぶ。


店主は本数を数えた。


「こんなに?」


「うん」


「よく怪我するのか?」


「まあね」


「そうか……」


店主は瓶をまとめ始める。


だが、ふと手を止めた。


「まさか、これを直接飲んだりしてないよな?」


サイキョウは一瞬黙った。


「なんで?」


店主が顔を上げた。


「『なんで』?」


「飲んだらどうなるの?」


「お前、本当に知らないのか?」


サイキョウは肩をすくめる。


「回復薬は少しずつ身体に入れるんだ。そのための点滴だろ」


「それは知ってる」


「なら理由も知ってるはずだ」


いや。


そこは知らなかった。


店主は瓶の一本を指で軽く叩いた。


「この量を直接飲むと、一気に身体へ作用する。最初はだいたい目眩だ。それから吐き気が来る」


「それだけ?」


「血を吐く」


サイキョウは瞬きをした。


「あ」


「『あ』じゃない!」


店主は続ける。


「飲みすぎれば、筋肉まで内側から傷つく。筋繊維が本当に裂けるんだ。何本も一気に飲んで、治療院まで自力で歩けなくなった馬鹿もいる」


サイキョウは回復薬を見る。


(そういうことか)


「分かった?」


「うん」


「点滴で」


「うん」


「ゆっくりだぞ」


「うん」


店主は疑わしそうにサイキョウを見た。


「本当に分かってるか?」


「もちろん」


サイキョウは回復薬を空間パネルへしまった。


表情は変わらない。


もう飲んでいる。


一度どころではない。


それに今は、以前より身体も頑丈になった。


だから、やめるつもりはなかった。


続いて、別の液体も何本か買った。


濁った液体。


あれだ。


市場の小さな店で売られている。


店主の話では、昔は戦士の身体を鍛えるために使われていたらしい。


具体的に何をするものなのかは、誰もまともに説明できない。


サイキョウは以前にも飲んだことがある。


前の大きな戦いの後だ。


その時は回復に使えそうなものをいくつも買い込み、役に立ちそうなものは片っ端から飲んだ。


この濁った液体だけの効果は、特に感じなかった。


だから今回も、


害がないなら、続ければいい。


その程度の考えで買っていた。


何より、安かった。



サイキョウは村を出た。


これでようやく、魔力環に取りかかれる。


十二の魔力環はすでに形成されている。


次は、それを満たすこと。


そのためには、また魔物が必要になる。


強い奴。


できれば、自分が生き残れる限界ギリギリまで強い奴。


サイキョウは笑った。


こっちの方が、ずっと楽しい。


だが、その前に武器だ。


右手に剣。


左手に斧。


サイキョウはいくつか動きを試す。


剣。


斧。


身体を捻る。


左右から同時に一撃。


止まる。


軽すぎる。


もう間違いない。


「重くしよう」


重量を増やす付与術は、比較的安かった。


大半の戦士には、ほとんど需要がない。


普通は武器を軽くしようとする。


サイキョウは逆だった。


重量が増えても速度を維持できるなら、一撃の威力は上がる。


そして、その重さに慣れたら。


また増やせばいい。


武器を空間パネルへ戻す。


しばらくの予定は決まった。


付与術。


魔物。


魔力環。


サイキョウは数歩進んだ。


そして、突然立ち止まった。


何かがおかしい。


自分の腕を見る。


拳を握る。


皮膚が強くなった。


それは分かる。


何度も傷つけた。


治った。


また傷つけた。


また治った。


だが、筋肉は……


サイキョウは眉をひそめた。


筋肉も変わっている。


それも、予想していたよりずっと早く。


訓練のおかげかもしれない。


階級が上がったからかもしれない。


《狂戦士》の影響かもしれない。


食事。


回復。


原因になりそうなものが多すぎる。


サイキョウは一度、その考えを捨てようとした。


だが、もう一つ思い出した。


前の戦いの後も、身体は妙に良く回復していた。


あの時、初めて飲んだのは……


サイキョウはゆっくり空間パネルへ視線を向けた。


そこに入っている、濁った液体の瓶へ。


「……」


前回は、全身傷だらけだった。


そして、あれを飲んだ。


今回は、定期的に身体を傷つけていた。


そして、同じものを飲んでいる。


サイキョウは数秒間黙った。


やがて、口元の片方が上がる。


「マジかよ……」


偶然。


その可能性は十分にある。


二回だけじゃ、何の証明にもならない。


だが、もし違ったら?


もし、あのクソまずい液体が――傷ついた身体にだけ、何かをしているとしたら?


笑みが広がった。


サイキョウは右腕を見る。


次に、左腕。


ほとんど同じ二本の腕。


「へへ……」


どうやら、魔力環は少しだけ後回しになりそうだった。

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