最初の獲物
「覚醒した六腕の戦士……」
父は申請書に書かれた名前をもう一度見た。
まるで、この数秒の間に別の名前へ変わっていてくれないかと期待しているように。
当然、変わってはいなかった。
「お前がこれを選んだ理由は分かる。常時管理下に置くことに成功している覚醒魔物は少ないからな。挑戦一回で銀貨五枚だ」
「知ってる」
「それだけじゃない」
父は紙を下ろした。
「もし勝って《追加腕》を手に入れた場合、契約上、お前はサクリスに加入する義務がある」
「別にいらない」
「本気か?」
サイキョウは肩をすくめた。
「技能そのものはめちゃくちゃ格好いいけどな。そのためだけにギルドへ入る気はない。俺が欲しいとしたら、《戦士の強靭》の方だ」
父はため息をついた。
「《追加腕》は五百年以上、一度も発現していない」
「じゃあ問題ないじゃん」
「なぜだろうな。お前がそう言うと、まったく安心できない」
サイキョウは笑った。
「じゃ、行こうぜ」
「……分かった。料金は私が払う」
二人は再び歩き始めた。
サイキョウは両手を頭の後ろで組む。
《追加腕》。
実際のところ、手に入るなら捨てるには惜しい。
自分が目指している戦い方にも、ほとんど理想と言っていい技能だった。
だが、そのために他人のギルドへ縛られるつもりはない。
それに五百年だ。
いったい、どれほどの確率だというのか。
サイキョウは数秒黙った。
やがて口元が少し吊り上がった。
(……まあ、腕が六本あるのはやっぱ格好いいけど)
必要になったら、いつか似た魔物を自分で探せばいい。
今度はもっと上の階級で。
◆
「着いたぞ」
サイキョウは顔を上げた。
目の前にそびえていたのは、巨大な建物だった。
ギルド本部というより、金持ちの貴族が住む宮殿に近い。
石造りの外壁には金色の装飾が走り、入口の左右から長い旗が垂れ下がっていた。
そのすべてに描かれているのは――六腕の戦士。
サイキョウは見上げた。
「こいつら、本当に六腕好きだな」
「この魔物のおかげで、サクリスは今の地位を築いたようなものだからな」
「いい建物だ」
「今の話を聞いて、それだけか?」
「聞いてたよ。ただ建物も本当にいいだろ」
父はため息をついた。
「料金の手続きは私がする。お前は戦闘区域へ案内されるはずだ。昇格中は第三者の介入が禁じられている。そうしなければ、相手の魔力を正常に取り込めない」
父はサイキョウの肩に手を置いた。
「だから、気をつけろ」
サイキョウは父を見た。
父は笑っていなかった。
「お前なら勝てると信じている」
今度ばかりは、サイキョウも冗談を返さなかった。
「もちろんだよ、父さん」
十年。
十年間の鍛錬。
そして今から初めて相手にするのは、最後の瞬間には剣を止めてくれる父でもない。
訓練場で戦う兄でもない。
遠くから見ていることしか許されなかったゴブリンでもない。
本物の敵。
サイキョウは再び笑った。
鋭い歯が覗く。
ようやくだ。
◆
「こちらへどうぞ」
ギルドの制服を着た女が扉を開いた。
「戦闘は遺物内部の空間で行われます」
小さな部屋の中央には、丸い石が置かれている。
その隣には契約書。
「こちらに署名した後、遺物に触れてください」
サイキョウは紙を取った。
読む。
最初から最後まで。
さらに怪しそうな項目だけ、もう一度読み直した。
戦闘の結果、《追加腕》を取得した場合。
取得者はギルド『サクリス』へ加入する義務を負う。
期間。
義務。
補償。
双方の権利。
サイキョウは鼻を鳴らした。
なるほど。
わざわざここまで来る人間がいる理由も分かる。
銀貨五枚で、比較的安全に最初の昇格へ挑戦できる。
覚醒魔物由来の技能を得られる可能性もある。
そして、とてつもなく運が良ければ、有力ギルドへの所属まで保証される。
一方、サクリスは希少な《追加腕》の所有者を確保できる。
悪くない仕組みだ。
「問題ありませんか?」
「うん」
サイキョウは署名した。
そして丸い石へ手を置く。
冷たい。
次の瞬間。
魔力の奔流。
床が消えた。
◆
足元には草が生えていた。
どこまでも続き、地平線が霞んで見えるほど広い。
サイキョウは空を見上げた。
「おお……」
青空。
だが、何かがおかしい。
巨大な四角い板を何枚も組み合わせて作ったかのような空だった。
遺物の内部空間。
周囲を見渡す。
百メートルほど先。
誰かが地面に胡座をかくように座っていた。
サイキョウは目を細める。
身長は二メートルほど。
頭には髪が一本もない。
広い肩。
筋肉質な身体。
そして三対の腕。
六本。
「へへ……」
魔物が目を開いた。
その瞬間、こちらの魔力に気づいたらしい。
立ち上がる。
ゆっくりと背筋を伸ばした。
そして六腕の戦士は大きく顔を上げる。
「ガァァァァァァァァッ!」
咆哮が草原を駆け抜けた。
全身の筋肉が膨れ上がる。
顔には、戦化粧のような赤い線が浮かび上がった。
サイキョウは瞬きもせずに見つめる。
「これは……」
大きく笑った。
「……絵で見るよりずっといいじゃん」
入口で好きな武器を選ばせてもらった。
剣。
槍。
斧。
普通なら、自分の身体に合ったものを選ぶだろう。
だから当然。
サイキョウが選んだのは――自分がまともに持ち上げられる中で、最も巨大な鉄の塊だった。
十歳の子供が持つには、冗談みたいに大きな両手剣。
刀身は根元が幅広く、先端へ向かうほど細くなっている。
表面にはいくつもの溝が刻まれ、柄の近くには保持を補助するための短い鎖まで付いていた。
サイキョウはそれを肩に担ぐ。
六腕の戦士がこちらを見ていた。
サイキョウは空いている手を上げる。
人差し指をくいっと曲げた。
来い。
そう言わんばかりに、歯を剥いて笑う。
魔物が歩き出した。
ゆっくり。
一歩。
また一歩。
五十メートル。
四十。
三十。
そして――
消えた。
「!」
足元の草が激しく乱れた。
ついさっきまで三十メートル先にいた。
なのに今。
拳がもう、サイキョウの脇腹へ迫っている。
速い。
サイキョウは腰を回し、両腕へ魔力を流した。
肩に担いでいた剣が飛び出す。
金属と肉がぶつかった。
――ゴキッ!
血が草へ飛び散る。
六腕の戦士の手首が一つ、地面へ落ちた。
サイキョウは落ちた手を目で追う。
そして相手を見る。
「バーカ」
六腕の戦士が止まった。
眉間に皺が寄る。
「お。分かった?」
魔物が地面を蹴った。
後ろではない。
横。
サイキョウが顔を向ける。
もう背後。
「そうそう! そっちの方がいい!」
三本の腕が、同時に別々の方向から飛んできた。
サイキョウは身体を沈める。
一つ目の拳が頭上を通り過ぎる。
二つ目が肩を掠める。
三つ目――
ドガッ!
サイキョウの身体が横へ吹き飛んだ。
転がる。
剣を地面へ突き立て、なんとか止まった。
脇腹がじんじんと痛む。
「ハッ……」
殴られた場所へ触れる。
痛い。
笑った。
「ハハッ」
魔物が再び突っ込んでくる。
サイキョウも前へ。
今度はただ力で押し切ろうとはしない。
腕が六本ある。
つまり攻撃方向も六つ。
なら、全部を自由に使わせなければいい。
一歩、横。
剣を上へ。
一本目を弾く。
二本目。
三本目が下から来る。
サイキョウは身体を反らした。
拳が顔の前を通り過ぎる。
「惜しい!」
笑いながら剣を回す。
魔力を刀身へ流し込む。
淡い黄色の雷が、細い線となって金属を走った。
ザンッ!
刃が肩から斜め下へ食い込む。
六腕の戦士の身体が震えた。
サイキョウはさらに押し込む。
剣が進む。
胴体が両断された。
両断された身体が左右に分かれ、草の上へ崩れ落ちた。
静寂。
サイキョウは荒く息をしていた。
血を見る。
死体を見る。
自分の手を見る。
そして両手剣を地面へ突き立てた。
「ハッ……」
自然と笑みが浮かぶ。
「ハハッ!」
ついに。
やった。
「一体目」
柄を強く握る。
「やっと、初めて魔物を殺した!」
◆
「第五十七空間。魔力圧が急上昇しています」
監視員が眉をひそめた。
「何?」
もう一人が観測用の水晶へ近づく。
数値は上がり続けていた。
「おかしい。魔物が死んだなら、魔力圧は下がるはずだ」
「遺物の異常か――」
男の顔から血の気が引いた。
「待て」
数値を凝視する。
「遺物じゃない」
数秒。
誰も何も言わなかった。
そして。
男が叫んだ。
「第二覚醒だ!」
室内が一気に騒然となる。
「何!?」
「第五十七空間! 急げ、緊急通路を開けろ!」
「ふざけんな、第二覚醒だと!?」
「話は後だ! 中の子供を出せ!」
「もうやってる!」
◆
「さて」
サイキョウは草原を見回した。
「……出口どこ?」
何もない。
「というか、俺なんか感じるはずじゃ――」
ドンッ!
景色が歪んだ。
肺から空気が全部吐き出される。
何かが背中へ直撃した。
内臓をまとめて掻き回されたような衝撃。
サイキョウは数メートル吹き飛び、草の上へ叩きつけられた。
「ぐっ――」
吐き気が込み上げる。
(くそ……骨だけは折れてんなよ)
顔を上げた。
そして固まる。
「なんだ……」
そこに、六腕の戦士が立っていた。
いや。
さっきまで六腕の戦士だった何か。
二つに裂けたはずの身体は、完全に元へ戻っている。
だが皮膚は、ほとんど黒に近い色へ変化していた。
全身に浮かんでいた赤い線は消え、代わりに紫色に輝く紋様が這っている。
拳の骨からは、鈍い骨棘まで突き出していた。
筋肉もさらに膨れ上がっている。
ここからでも感じるほどの魔力圧。
サイキョウはゆっくり立ち上がった。
背中に激痛が走る。
次の瞬間。
魔物が消えた。
「くそっ!」
サイキョウは辛うじて剣を持ち上げる。
ドガァァン!
六本の腕。
さっきよりも速い。
強い。
重い。
刃が激しく震えた。
サイキョウの足が地面を滑る。
「お前……」
剣越しに相手を見る。
口元が吊り上がっていく。
さらに。
もっと。
目が細い弧になるほどに。
「マジかよ?」
魔物が唸る。
サイキョウも唸った。
「ハッ……」
次の一撃。
弾く。
「ハハ……」
二撃目が肩を掠める。
「アハハハ!」
三撃目は剣で受けた。
「アハハハハハハ!」
これだ。
これが足りなかった。
死んだはずの相手が、もう一度立ち上がった。
しかも。
さっきより遥かに強くなって。
「来いよ!」
サイキョウは剣を握り直す。
「来いよ、六腕野郎!」
魔物が飛び込む。
サイキョウも前へ。
金属と骨。
衝突。
もう一度。
さらにもう一度。
打ち合うたびに、腕の感覚が薄くなっていく。
そのたびに、さらに多くの魔力を注ぎ込む。
そしてサイキョウは笑っていた。
「急げ! 北へ走れ!」
声が上から聞こえた。
四角く区切られた青空の一部がずれて開く。
そこから男が顔を出していた。
「坊主! 北へ逃げろ! その覚醒個体はお前じゃ無理だ! 銀級の戦士を入れる!」
サイキョウは一瞬だけ上を見る。
(うるせえ)
魔物の拳。
サイキョウは横へかわした。
剣が大きな弧を描く。
ガンッ!
骨棘が刃を受け止める。
六腕の戦士の足元で、草と土が沈んだ。
「ハハッ!」
もう一撃。
腕へ魔力。
振る。
さらに魔力。
もっと強く。
一振りごとに、巨大な岩すら砕けそうな威力が乗る。
それでも六腕の戦士は立っている。
最高だった。
「ハッ……ハハハッ!」
もう止まれない。
心臓が暴れている。
身体中が痛む。
腕が震える。
息もまともに続かない。
なのに身体が壊れていくほど。
内側の何かが、さらに先を求めていた。
もっと。
もっとだ。
魔物が拳を振るった。
サイキョウは肩で受ける。
激痛。
その瞬間。
感じた。
魔力を。
動き方が違う。
剣へではない。
いつもの身体強化のように、単純に筋肉へ流れているわけでもない。
もっと深く。
身体全体へ。
サイキョウが止まったのは、一瞬にも満たなかった。
「……お?」
魔物が再び飛びかかる。
サイキョウは笑った。
「捕まえた」
魔力が自ら流れようとしている方向へ。
逆らわず、そのまま通してやる。
その瞬間。
世界が重くなった。
赤い煙が身体から吹き出す。
サイキョウは息を吸い込み――
肺が焼けるように熱くなった。
皮膚に赤い線が浮かび上がる。
胸。
肩。
腕。
首。
まるで血管そのものが、身体の内側から燃え始めたかのように。
「フッ……」
息を吐く。
口から白い蒸気が漏れた。
サイキョウは自分の手を見る。
拳を握る。
力。
明らかに。
さっきまでとは比べものにならない。
ゆっくり顔を上げた。
両目が赤く輝いている。
「ハッ……」
魔物が止まった。
初めて。
「何止まってんだ?」
サイキョウは両手剣を肩に担ぐ。
赤い線は、なおも皮膚を這って広がっていた。
「行こうぜ、化け物」
六腕の戦士が咆哮した。
サイキョウも応える。
言葉ではなく。
喉が痛くなるほどの咆哮を胸の奥から吐き出した。
そして二人は再び激突した。
◆
骨。
鉄。
雷。
一撃。
一撃。
一撃。
今度は。
サイキョウも追いつけていた。
ぎりぎり。
それでも。
見える。
六腕の戦士が横へ回り込む。
もう動きが読めた。
剣を後ろへ振り抜く。
ザンッ!
もう一本の腕が宙を舞った。
「ギャァァァッ!」
魔物が飛び退く。
サイキョウは瞬きをした。
そして。
大笑いした。
「なんだよ、女みたいな声出しやがって!」
深く息を吸う。
「こうやるんだよ!」
「ガァァァァァァッ!」
サイキョウの咆哮が草原を震わせた。
周囲の魔力が、僅かにサイキョウへ引き寄せられる。
ほんの少し。
僅かに。
だが確かに。
大気中の魔力が身体へ流れ込む。
すぐに消費される。
そしてまた、新たな魔力が流れ込んでくる。
無限ではない。
そんな量には程遠い。
だが今は。
一滴でも意味がある。
「へへ……」
魔物が再び突進する。
「来いよ」
六本――
違う。
今は五本。
残った腕が襲いかかる。
一本を弾く。
二本目を通してしまう。
拳が腹へめり込んだ。
口から血が飛ぶ。
だが。
サイキョウの動きは、もう終わっていた。
六腕の戦士は攻撃に踏み込みすぎている。
懐ががら空きだ。
「もらった」
両手剣が胸を貫いた。
魔物が固まる。
サイキョウはそのまま剣を押し込み、巨大な身体を深々と貫いた。
六腕の戦士の口から大量の血が溢れた。
刀身を伝う。
サイキョウの手へ。
草へ。
数秒。
二人はそのまま動かなかった。
やがて。
魔物の身体から力が抜けた。
サイキョウは荒く息をしている。
身体を走っていた赤い線も、徐々に消えていった。
「……やっべ」
剣を引き抜く。
魔物が地面へ倒れた。
サイキョウはその姿を見る。
なぜか、少しだけ名残惜しかった。
「もう終わり?」
本当に。
もう少し戦いたかった。
そこで初めて、周囲の異変に気づいた。
暗い霧が自分の周囲を漂っている。
空もほとんど黒く染まり、まるでこの草原だけが日食に呑まれたようだった。
戦っている最中は。
まったく見えていなかった。
今になって、闇が少しずつ薄れていく。
「……何だこれ」
死んだ魔物の胸で。
何かが光っている。
紫。
小さな炎のような光。
サイキョウはしゃがみ込む。
まずは普通に見る。
次に、魔力へ意識を集中させる。
世界の見え方が変わった。
「ああ……」
見えた。
死体の内側。
小さな塊。
濃い。
紫色。
魔力。
サイキョウは手を伸ばす。
引き寄せようとする。
魔力の塊が震えた。
「来い……」
さらに。
魔力の塊が死体から離れた。
ゆっくり。
サイキョウへ向かって漂ってくる。
そして。
胸の中へ入った。
「――ッ!」
サイキョウの身体が反った。
自分の魔力が即座に反応する。
重くなる。
濃くなる。
魔力を蓄える器が、内側から押し広げられていく。
紫色の魔力が、自分自身の魔力へ溶け込んでいく。
サイキョウはその場で、血に濡れた草の上へ座り込んだ。
脚を組む。
目を閉じる。
痛み?
後だ。
まずはこれ。
この変化を。
一秒たりとも逃したくなかった。
◆
「おい……」
声が遠い。
「……少年!」
肩を揺すられている。
「少年! 聞こえるか!?」
サイキョウは目を開いた。
「ん?」
知らない男が目の前に座っていた。
「誰?」
男は数秒、サイキョウを見つめた。
「銀級の戦士だ。……あれを倒したのはお前か?」
サイキョウは横を見る。
六腕の戦士の死体は、まだそこにあった。
「ああ、あいつ?」
頷く。
「うん。急にもう一回覚醒したから、仕方なく倒した」
男は目を閉じ。
ゆっくり息を吐いた。
「……『仕方なく』」
「駄目だった?」
「駄目じゃない! そもそもお前が生きてるだけで驚いてるんだよ!」
男がサイキョウを指差す。
「自分の身体を見てみろ!」
「身体?」
サイキョウは下を見る。
「……お」
まともな場所がほとんど残っていなかった。
殴打による青あざ。
裂けた皮膚。
血。
腫れ上がった肩。
それを意識した途端。
全身の筋肉が一斉に痛みを主張し始める。
「あぁぁ……」
サイキョウは顔をしかめた。
「今になって痛くなってきた」
「立つことすらできないだろ!」
「できる」
立ち上がろうとする。
足から力が抜けた。
男が慌てて支える。
「できてない」
「……まあ、それはそう」
サイキョウはもう一度、自分の傷を見る。
次に六腕の戦士の死体。
そして笑った。
「でも、やった価値はあった」
「お前、頭おかしいだろ」
サイキョウは笑う。
「ハッ! よく言われる」
そして。
突然、商談でも始めるような口調で続けた。
「ところで、治癒費ってギルド持ちだよな?」
「は?」
「契約書には第二覚醒なんて書いてなかった」
男が瞬きをする。
「だから治癒師。それと治療費は全額そっち持ち。できれば迷惑料も上乗せで」
数秒の沈黙。
「お前、今さっき死にかけたんだぞ」
「だからこそ、上乗せは多めで頼む」
男はサイキョウを見つめた。
やがて吹き出した。
「……分かったよ。そこは後で何とかする。歩けるか?」
サイキョウは自分の脚を見る。
「……どうやら無理っぽい」
◆
「サイキョウ!?」
空間から運び出された瞬間。
父が立ち上がった。
隣には妹もいた。
「お兄ちゃん!」
血まみれの姿を見て、妹の顔から血の気が引く。
「大丈夫」
「それのどこが大丈夫なの!?」
サイキョウは親指を立てた。
「ちゃんと鉄級にはなったぞ」
父は答えなかった。
「しかも、二度覚醒した鉄級の魔力を取り込めた」
「サイキョウ」
「何?」
「黙れ」
「分かった」
少し考える。
「あと治癒師が必要」
「見れば分かる!」
すでに何人もの治癒師と神官が部屋へ駆け込んできていた。
サイキョウは寝台へ移される。
柔らかな治癒の魔力が身体を包み始めると。
ようやく目を閉じた。
今日は悪くなかった。
いや。
かなり良かった。
◆
翌日。
サイキョウはベッドの上に座っていた。
身体はすでに治療されている。
目の前には、検査結果の書かれた紙。
もう三回目だというのに。
また読んだ。
階級:鉄級
魔力密度:覚醒鉄級
その下。
取得技能
《狂戦士》――自己覚醒
《六腕の権能》――魔物由来技能
サイキョウは黙った。
数秒。
そして。
「……ハッ」
口元が上がる。
「悪くないじゃん」




