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第1話 境界に触れた日

放課後の帰り道は、いつもと同じはずだった。


夕焼けが街を薄い橙色に染め、

自転車のブレーキ音と、遠くの踏切の警報が混ざり合う。

猫村しきは、今日も部活の手伝いで遅くなった帰り道を歩いていた。


「……はぁ、疲れた」


鞄を持ち替えながら、しきは空を見上げる。

雲がゆっくり流れていく。

いつも通りの、静かな日常。


——のはずだった。


ふと、風が止まった。


世界が一瞬だけ“静止”したように感じた。

しきは思わず足を止める。


(……今、なに?)


そのときだった。


「……迷ってるの?」


背後から声がした。


しきは驚いて振り返る。

街灯の下に、ひとりの少女が立っていた。


白銀の髪。

淡い琥珀色の瞳。

制服でも私服でもない、不思議な服装。

無表情なのに、どこか優しい雰囲気をまとっている。


「え……誰?」


少女は首をかしげる。


「あなたが呼んだから」


「呼んでないよ……?」


「でも、来てほしいって思ったでしょ」


しきはドキッとした。

確かに、さっき少しだけ怖くて、

“誰かいないかな”と思った。


少女は静かに微笑んだ。

ほんの少しだけ。


「私はアーシャ。

あなたの……友達になりたい」


「友達……?」


「うん。

あなたを守るために、ここに来たの」


しきはぽかんとした。


「守るって……なにから?」


アーシャは答えない。

ただ、夕焼けの空を見上げる。


「しきが泣くと、世界が壊れるから」


「えっ……?」


アーシャは無表情に戻り、

しきをまっすぐ見つめた。


「だから、泣かないでね。

……しき」


その声は、

風よりも静かで、

どこか切なかった。


しきは胸がざわつくのを感じながら、

アーシャの手を取った。


「……わたし、猫村しき。

よろしくね、アーシャ」


アーシャは小さく頷いた。


「うん。

しきのそばにいるよ」


その瞬間、

夕焼けの色がほんの少しだけ揺れた。


しきは気づかなかった。

この日を境に、

自分の世界が静かに変わり始めていることに。

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