45.夏祭り-前編-
いよいよ夏祭り初日を迎えた。
天気は曇、少し蒸しているが、日が出ているよりは断然過ごしやすい。外に長くいるには十分だ。
「では、神輿を担ぐ方はこちらに!」
威勢の良い声が神輿のスタート地点で響いた。青年会の青木さんが、人混みの中で大声を出している。
「なぁ、危険地点に何人か回ったけれど、絶対神田さん一人じゃ無理だよな?」
例年、退職した職員の神田さんが一人で危険な曲がり角に立ち、神輿の通過を見届けてきたらしい。
しかし、全ての神輿を見届けるには、曲がり角までの距離が短ければ追い付くはずもなく、体力も無ければずっと着いて行く事など……ご老体には不可能に近いと思われる。
「一人は無理だよな。一体どう回っていたんだろう?」
「では、最初の神輿が出まーす!」
係の人の声と共に、前方から「わっせ、わっせ」と声が聞こえる。望月と吉野は、ちょうど真ん中辺りの十番目である。
「わっせ、わっせ!」
「きゃー!可愛いー!!」
「こっち!こっち向いてー!」
二、三前方の神輿は、少し小さめの神輿だ。何故なら園児から小学校低学年の子達が担いでいるからである。その子達の親が、所々でスマホを向けて写真を撮っていた。
「もしかして、これで少しずつ間が開いて、全部確認できるようになるのかな?」
望月は何となくそう思った。吉野は汗だくになりながら小さな神輿を見る。
「でもさぁ、神田さんの体力だと厳しくないか?」
「そうだよなぁ……はっ!」
望月がふと見やった危険地点の曲がり角に、神田さんのような風貌の男性が立っていた。
「おい、吉野!あれ神田さんに似てる!」
神田さんは今、危篤状態で入院をしているはずだ。しかし、望月はそう言わずにはいられなかった。あまりにもそっくりだ。
「えっ?どこ?」
「あの角だよ……!」
「あぁ……俺、あんまりちゃんと見た事無いから何ともって感じだけど、見た事ある気はする」
その角がどんどん迫ってくる。彼の姿が近付いてきた。
わっせ、わっせ……
ゆっくりと角を曲がった。
——こういうの、目を離したらいなくなるやつか……?
望月は密かにそんな事を思っていた。
彼の顔前を曲がって行く。少しずつその姿は後ろへと行く……確認できる最後まで、彼はいた。そして、やはりそっくりだった。
「吉野、やっぱり神田さんにそっくりだったよ」
吉野は後ろを一瞬振り返った。
「今もまだちゃんといてるぞ」
「一体あれは誰なんだ……?」
「なぁ望月……」
吉野がふと声のトーンを落として聞いてきた。
「あの角、誰か配置されてたよな?それらしき人がいなかった気がする」
「えっ、まさか」
望月と吉野はもう一度振り向いたが神輿が進んでいて、曲がり角から離れたところまで来てしまっていた。




