46.夏祭り-後編-
神輿を担ぎながら、望月と吉野は職員が配置されている角を気にしていた。
「さっきの所には神田さんらしき人はいなかったな」
「次の所はもうすぐだぞ」
次の角が近付いてきた。目を凝らすと知った顔がいる。
「なぁ吉野、神田さんっぽい人がいる」
他の職員はどうやらいないようだ。近付くにつれ、神田さんらしき老人の満面の笑みが見えてくる。
「あ、あの人か」
吉野もどうやら確認できたらしい。その神田さんと思しき人が手を振っている。
「おーい!ここは気を付けろよー」
そんな声が耳に届く。
「気を付けろよーって叫んでる」
望月が吉野を見ると、うん、と頷いた。
「凄く通る声だな!」
その後も街中を練り歩き、無事終着地点に着いた。
「お疲れ様でーす!」
関係者が神輿を担いだメンバーに、スポーツドリンクを配っていた。
「あい、お疲れ様」
望月達の元に来たのは……神田さんらしき老人であった。
「か、か、神田さん!?」
望月は不意をつかれ、声が上擦る。
「あぁ、私の兄がお世話になりました」
「……兄?」
「えぇ。退職し、今は入院中でして。毎年兄は神輿の様子を見てきましたが、実は私も見にきていまして」
「え、あ、そうだったんですね……一人で全ての危険箇所を見るのは、地図上からも無理だと……話していたんですよ。迷宮入りするかと思いました」
あはは、と望月は笑いながら返した。どう考えても全ての危険箇所を一人で見られない。
「そうですね。一人で見るには無理がありますよ。でも……」
そう言って、神田さんの弟はポケットからしわしわになった地図を出した。
「ここ。この角を見るには、どこかを犠牲にするか、この角を捨てるしか無くてね。毎年挑戦していたが、解決できないまま今日を迎えてしまったよ
」
はぁ、とため息をつく神田さんの弟の落胆ぶりを見ると、どうやら本当に不可能らしい。
「でも、毎年全部の箇所で、目撃されているようですよ」
すぐ近くで話を聞いていた吉野が、会話に入ってきた。
「はぁ、不思議な話ですなぁ……」
はて、と当の本人も首を傾げる。
「そっくりさんがそこだけカバーしてるとか!」
あはは!と笑いながら吉野は話しているが、実は満更でもないと望月は思っていた。
しわしわになった地図に目をやる。そのどうやっても見に行く事が不可能な角は、神社があった。
「きっと、そういう事かもしれませんね!」
「そっくりさんかー!いやぁ、来年は是非会ってみたいもんだ!」
「そうですね、協力関係ですし!」
そういう事にして、三人で大笑いをしてその話は終わった。そっくりさん。あながち外れてはいないかもしれない。この祭りを見守る為に、ちょうど良い姿だったのだろう、と望月は密かに思った。




