40.行動
日々普通の生活が送れるのは、とても有難いことである。
その日、望月と吉野は市役所の一階にある総合受付にいた。
「藤井さん、俺らの金を頼んだぜ」
キラーンという効果音が聞こえてきそうな歯を見せる笑顔とサムズアップをしているのは、吉野である。
「ねぇ望月君、吉野ってまだお調子者なの?」
やれやれ、と言いたげな顔を望月に向けるのは、受付の藤井である。
「まぁ、お調子者は治らないよ」
はは、と笑いながらそう答えるしか無かった。
毎日勤めている所で義援金を受け付けているならば、わざわざ別の方法で義援金を寄付しなくても良いので、市役所の受付に直接頼んだのだ。
「このお金は大事にお預かりして、日赤に頼みますから大丈夫でーす」
「おうよ!」
今や義援金なるものは至る所で募っている。しかしそれが全て安全なのか、確実なのかは断言できないような気がする。
であれば自身の勤務先で募っているのを使わない手は無い。
「ここは本当に自然災害は少ないからなぁ……だから、支えなくちゃいけない」
望月はぽつりと話した。支える事しかできない。自然災害が少ないのは有難いが、経済を回す……と言っても微々たるものである。年月をかけて協力をすることはできる。
「そうだな。直接行く訳にはいかないから、ここからできることをするしかないな」
「直接行くのはまだまだ先になるなぁ」
今は現地に訪れても碌に力になれないなぁ、と吉野の考えには同意しかない。
「少しでもできる事を無理なく、続けられれば今は良いんじゃないかな?」
「車を運転中に地震が来たら、とりあえず左に寄れば良いのか?」
「確かそう」と言いながら、望月はスマホで調べ始める。
「ハザードを点けて徐々に減速、左側に停車。駐車場や空地があればそこに停車して、エンジンを切る。揺れが収まるまで待って、カーラジオで情報収集。避難する時はキーをつけたままロックせずに、連絡先メモを残す……」
「メモかー!車に紙とかペンは置いてない!」
「案外置いてないよな」
その日の帰り、ダッシュボードに紙とペンを備える二人なのであった。




