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4.階段 —後編—

 明田あけたは、名前の通りというべきか、明るい雰囲気を纏っている。


 市民課に着いてからまず用事のある人の所へ行き、その後は同期にも軽く声をかけ、隣りに座るその上司にも、文化課の明田です。明るい田んぼって書きます。なんて軽い自己紹介をしていた。


 さっさと書類を返してきた望月は新たな書類を受け取り、明田のそんな様子を見ていた。


 「明田さんはよく、人に話しかけやすいとかって言われない?」


 自分から人に話しかけるのが苦手な望月は、ふと率直な感想を話していた。


 「そうですね、何回かは言われた事があります。それに今は、こちらから話しかけておけば後々、こんな人いたね!って覚えてもらえる気がして!」


 「そんな考え、したこともなかった。」


 なんて眩しい考え方なのだろう。


 自分が以前市民課にいた事や、ここにいない吉野の事を話しつつ、階段を登り始める。明田は新たに増えた書類をちらちら見ているようだ。


 ——もうそろそろ音が鳴っても良い時間だけど……。


 前回鳴った時から、三十分が経ってしまっていた。そして、もう踊り場まで五段しか無い。


 ——明日に持ち越しか…

 あと四段。


 ——気になるのはこの辺なんだよなぁ。

 あと三段。


 ——明田さん、書類に気を取られているな。

 あと二段。


 ——コッ。

 「あっ!」


 それは、ほぼ同時に起きた。

 踊り場まであとニ段のところで——例の音が鳴り、明田が躓いた。抱えていた書類は宙を舞った。


 バサーッと踊り場から廊下まで、書類が広がってしまった。その中には、反射的に放り出した望月の書類も混ざっていた。


 明田が躓いた時に、望月は自分でも驚くほどの反応でその腕を掴み、体勢を支えていた。


 「えっ……わ、ぁ……」


 「えっと、大丈夫?」


 「あ、ありがとうございます!」


 頭が混乱しているであろう明田は、お礼の言葉を発するのが精一杯だった。


 「足、挫いてない?」


 望月もまた、自分の反射神経に驚きつつ、怪我が無いか確認することで精一杯だった。

 大丈夫だと返事があったので、二人して書類を掻き集める。任せられた内容は違うし、量が少なかったのが幸いだ。


 ——あの音の原因は、多分あの段の所だ。


 目星がついたので見に行くと、ちょうど明田が躓いた位置に少し深めのキズや、黒いモヤのようなシミが薄く広がっていた。


 「あ、もしかしたらこのキズの所にヒールが引っかかったかもしれません。」


 明田が少し申し訳なさそうな顔で、そのキズを見ていた。


 「そうかー……うん、わかった。」


 黒いシミが見えるかどうかは聞かなかった。どうせ見えていないのだから。


 望月は文化課兼違和感回収課の課長、上野に書類を提出していた。


 「その階段のキズが、ちょうどヒールが引っかかりやすい深さになっているので、少し危ないかと思いまして……。」


 これは、初の課としての仕事と言うにはあまりに個人的な見解だが、所内が安全になるなら修繕をするべきだと自分を奮い立たせて、思い切って話したのだ。


 「ほぅ……まぁ、話してみるよ。大方通ると思う。ありがとう。」


 どこの誰に通してくれるのか……と気になったが、今すぐ知らなくても良いか、と一旦置いておく事にした。


 その数日後、階段は綺麗に修繕をかけられた。

 あの黒いシミも、コッという音もそれから無くなった。

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