38.写真
その日、望月は助手席に吉野を乗せて車を走らせていた。
「望月、来てくれてありがとう。本当に助かるよ」
「こんなの、どうってこと無いよ」
二人が向かっているのは、市役所から北の方へ三十分程車を走らせた所にある城跡だった。
「広報の表紙の写真、遂に番が回ってきたと思ったけどさー、」
吉野がデジカメとスマホで交互に景色の写真を撮っている。
「涼しい所に行きたかったなー」
撮影した写真を見ながらぶつくさと文句を垂れていた。
「まあ、仕方無いさ。俺の番が回ってきたら、その時は一緒に来てほしい」
「おうよー」
広報の表紙の写真は順番に回ってくる。今回は文化課に当たり、吉野が撮る事になった。
「サングラスも良い感じで、運転していても見やすい」
「な、この前明ちゃんに来てもらって本当に良かった」
そんな話をしているうちに、城跡に着く。
二人が見上げた先には、緩やかではない坂が続いていた。
「そうか……城、だもんな」
二人はがっくりと肩を落とした。暑い中いくらクールビズで楽な格好をしているとは言え、さすがに厳しい。
道中購入した水を片手に二人は登り始めた。
十五分程登っただろうか、二人は既に息が切れていた。
「あぁ、もうムリだ……」
木陰にちょうどベンチがあった。その先に進む木の矢印が横に立てられている。
「少し、休もう……」
木陰から吹く風は涼しく、心地良かった。水を飲み、二人はスマホのカメラを起動させる。
「ここは、いつも祭りをやってる場所だよな」
「そうそう。もうすぐ草が刈られるはずだけど一枚練習で撮っておこう」
望月がスマホを構えると、その向こう側に人が一人立っていた。
「望月悪い、俺ちょっと手洗い行ってくる」
「おう」
少し標高が高いとは言え、暑いものは暑い。それなのに向こう側にいる人物は着物を着ている。
「あ、そうか!案内の人か!」
撮影スポットを聞いておこうと思い立った望月は、一点を見つめるその人物の元へ駆け寄った。
「あの、すみません」
「……何だ?」
望月は、そのコスプレした案内人であろう人物の後ろに拡がる景色に魅入ってしまった。
「ここから……一望できるんですね」
「そうだな。とても良い眺めだ」
「然程有名ではありませんが、何度もここで攻防が繰り広げられていますよね。それが無ければもしかしたらこの県自体違った形だったがしれないと思うと……先人に感謝ですね」
「ほぅ……そう思っていただけるか」
「え?はい」
パシャリと、念の為風景を一枚撮る。
「あちらには門を建ててもらった」
それは十年ほど前に復元した門である。そちらも二、三枚写真に収めた。
「こちらは堀切だ」
「うわ……深い……」
「おーい!望月ー!」
望月は、はっとした。案内人と回るうちに吉野の事を忘れていた。
「あっ……ごめん!!」
はぁ、はぁと駆け寄って来た吉野は、デジカメとスマホを両手に持っていた。
「戻るの大変だから、撮りながら来ちゃったよ。まったく、俺の事を忘れんなって」
「ごめん、今案内してもらっててつい……」
後ろを振り返ると、ただ木々が生い茂るだけであった。
「えっ、いない……」
「はぁ?呼びかける前も一人だったぞ!」
「嘘だろ……」
あれは……一体誰だったのだろうか。




