31.こども図書館ひよこ
七月の初め、望月はまた別の課の手伝いをしていた。
「中村さーん!これで全部?」
「そうねぇ、全部みたい!」
中村とは四月の花見以来、見かける程度にしか会っていない。望月の同期で、女性同期二人のうちの一人である。所属する課は、普段全く絡みの無い社会福祉課だ。
「本当に助かる〜」
市役所の地下二階、市役所の車の中に児童書やおもちゃを積んでいた。
「こども図書館に行くんだよね?」
運転席に乗った望月は、ナビで場所を確認していた。
「そう〜!総合センターの一階にあるの。」
これから二人が向かうのは、"こども図書館ひよこ"。ここは、たくさんのおもちゃや本に触れ、遊びながら子ども達の健やかな成長を支援している。
パパ、ママの情報交換や子育ての喜び、悩みを共有できる場として機能しているのだ。
そこに、これから社会福祉課の呼びかけで集めた、児童書であったりおもちゃなどを、二人で届けに行く。
「じゃあ、行きますか」
「お願いしま〜す!」
望月の運転で、およそ十五分程車を走らせた先にある総合センターへ向けて、出発した。
中村は市役所に入ってから、ずっと社会福祉課に所属している。ふんわりとした柔らかな雰囲気と口調が、きっと安心感を与えるのだ。もしかしたら長になるのでは、と望月は密かに思っている。
「望月君は、普段どんな事をしているの?」
「うーん、気が付いた事をしているよ。あとは、今みたいに他の課を手伝ってる」
「なんか、マルチ課だよね〜」
「マルチ課って初めて言われた」
マルチ課、意外と満更でも無いなと思っているうちに、総合センターに着いた。
「ありがとうございます〜」
玄関では責任者の女性が、二人を出迎えてくれた。
「よいしょっ、と。」
望月は児童書の箱を抱え、中村はおもちゃが入った箱を抱えて中に入る。
「じゃんけんぽん!」
「勝ったからそれ、貸してー!」
「いやぁ〜!」
うわーん!!と女の子がちょうど泣き出してしまったところに、二人は出くわしてしまった。
それは、最近流行りのキャラクターのぬいぐるみであった。
「中村さん、あのぬいぐるみあったよね?」
「うん、あったあった」
「ゆうちゃん、また次借りれば良いじゃない」
お母さんと思われる女性が、女の子にそう言い聞かせる。
「やーだーーー!!!」
うわーーー!!!と、顔を真っ赤にさせて大声で泣いてしまった。
じゃんけんでぬいぐるみを勝ちとった男の子も、頑なに渡そうとしない。
「あった……」
おもちゃの箱から、同じぬいぐるみがあった。が……
——このぬいぐるみ、まだ前の子の記憶が残っていそうだ。
ぬいぐるみの頭が、少し黒く靄がかかっている。
望月は、こうしたモノを時折感じる為、少し苦手な気持ちになる。
——うまくできるか?
「望月君、ちょっと貸して〜」
中村はそう言うと、ぬいぐるみを手にゆうちゃんと呼ばれた女の子に近付いて行った。
「ゆうちゃん、ぼくとあそぼう!」
中村が、そのキャラクターの声を真似しながら、ゆうちゃんの気を引いていた。
「ふぇっ……あっ、うんっ!」
泣き止んだゆうちゃんは、中村からそのぬいぐるみを受け取り、ギューッと抱きしめた。
「おぉ……」
望月は、中村のモノマネが意外とうまかった事と、ぬいぐるみの靄が抱きしめられた瞬間に、スッと消えた事に感動していた。
「すごい……!」
「今日はありがとう〜!重たい物も持ってもらっちゃって、とっても助かったよ〜」
ほわほわ〜と話す中村には、やはり向いている課なんだな、と感じさせる。
「あのモノマネ、凄い似てた!俺もあの手は考えてたけれど……やったこと無いし、勇気は無かったから助かった。」
「え〜?そう?私、結構特技なの〜」
そう言うと、自分達の世代の人気キャラクターのモノマネを、いくつか披露してくれた。
「あのぬいぐるみも、楽しく過ごせそうだね」
「ん?きっとそうだね〜」
子どもの為の空間が、いつまでも楽しく過ごせるものであるように、と願いながら市役所へと帰って行った。




