32.七夕コンサート
七月七日。
今日は七夕である。
市役所の一階ロビーには大きな笹が飾られており、沢山の短冊が結び付けられていた。
一週間ほどで、訪れた市民の方々が書いて行った短冊が溜まり、結び付けられた場所を上へと移動させつつ、七夕を迎えている。
そして今日は、すぐ結び付けられるようにと、笹の下の方には短冊がほどほどに結ばれており、訪れる人々によって少しずつそのスペースが埋まっていくのだった。
「そういえば、短冊には何て書いたんだ?」
十分休憩に、吉野がふと話題に出した。
「え?何て書いたかな?健康でいられますように、とかだったかな?」
望月達職員の短冊は、もはや笹の上部に付けられ、内容は確認できない。
「ふーん。明ちゃんは?」
「私ですか?"前進あるのみ!"って書きましたよ」
「願いじゃなくて、宣誓なのかな?」
「えー、だって、最初は下の方に付けられたじゃないですかぁ。呼水的な。皆に見られるの、恥ずかしいですよ〜」
「それも良いじゃん。願いを書けって言われても、パッと浮かばない時だってあるんだから。」
ふと、望月は吉野を見た。バチッと目が合う。
「んで、吉野は何て書いたんだ?」
「俺?あぁ、秘密だ」
吉野がニヤッと笑った。
「ええー!そんなのありですか!?」
明田がツッコミを入れところで、十分休憩は終了してしまった。
昼休みは、ロビーで三十分間だけのミニコンサートが行われる。地元の楽団の生演奏だ。
十名ほどが、簡単なアンサンブルを演奏してくれる。
笹の葉に結び付けられた短冊や飾りがキラキラと揺れ、ロビーには楽団員を囲むように輪ができ、待合のソファに座る人々も耳を傾け、自分の願い、家族の願いにきっと想いを馳せている。
望月はこのロビーで生演奏を聴くのが好きだ。そして、人々の純粋な願いが、この日のこの瞬間、ロビーに溢れているように見える。
正確には、空気が澄んでいるように感じられるのだ。
短冊には沢山の願いが書かれている。その一つひとつは、小さなものから大きなものまで様々だ。
しかし、その純粋な願いを未来に繋げていきたいと思いながら、キラキラするロビーを望月は見つめていた。
「あ、そういえば」
望月は隣の吉野をじと、と見た。
「え、何だよ?」
「お主の願い事は何だ?」
「え、ぇー……」
「予想は着いてるから、渋らなくて良いよ」
「何だ、バレバレかー。勿論、織姫様とうまくいくように、だな!」
「吉野の願い事は、そのくらいだもんな」
「それは、良いのか悪いのか?」
「シンプルでわかりやすくて良いと思う」
「お、う?あ、そういえば水無月は何とかなった!」
「お、良かったな!」
いつの世も、人々の願い事は尽きない。一年も後半となった。小さな一つでも叶えておきたいと改めて思いながら、二人はフロアへと戻って行った。




