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29.地下駐車場にて

 今日も雨がしとしとと降っている。どうやら台風が近付いてきているらしい。

 肌にじめじめとした空気が纏わり付いて離れないが、同じ様に拭い去れない出来事が、望月の頭の片隅にあった。


 ——あの老人、何だったんだろう……?


 先日、"傘を忘れずに"と書いたチラシを貼っていた時に、地下駐車場で出会ったあのお爺さん。


 ——妻からもらった傘とか言ってたよな。


 今日も雨が降っている。

 「行ってみるかぁ……」

 あまり気乗りはしなかった。その正体を知りたい訳ではない。


 「お疲れ様でーす!」

 「お疲れ様です。何か探し物?」

 望月の姿は、一階の管理課にあった。

 「はい。ちょっと、傘を。」

 「どんな?」

 「いや……ちょっと探してみても良いですか?」

 「えぇ。どうぞ。」


 管理課のもとに置かれている忘れ物は、一定期間経つと警察署に届けられてしまう。

 ——あのお爺さん……ずっと前とか言ってたなぁ……。

 実質、もうここには無いかもしれない。

 に、しても。

 「傘の忘れ物、三十本近くあるんですね。」

 「そうなのよ〜」

 「傘を忘れないように、と注意喚起のチラシを貼ったんですよ。」

 「あら、そうなの?ここ二、三日は全然無いわよ。」

 どうやら効果は出ていたらしい。


 ——この傘の中には、無い気がするなぁ。

 ふと、奥の方に目が行った。

 「あの立てかけてある傘、いつ頃からありますか?」

 「え?」

 それは、奥の棚の近くに立てかけられている。

 紺色の傘だった。


 「こんな傘、あったかなぁ??」

 担当の人も、こんな調子だ。

 「それを借りて行っても良いですか?」

 「ええ、どうぞー。」


 紺色の傘を持って、地下駐車場へ向かう。

 先日出会った時間には、間に合いそうだ。

 「確かこの入り口……」

 心臓がバクバクしている。内心怖い。


 ブルルル、ブルルル……

 「うおっ!」

 ポケットに入れていたスマホのバイブだった。

 傘を近くの傘立てに入れ、入り口から少し離れる。

 吉野からの電話だった。

 「吉野お疲れー、どうしたんだ?」

 「望月どこにいるんだよー?チラシの作り方、ちょっと教えて欲しいんだけどさー……。」

 「ちょっと待って。もう少ししたら戻るから。」

 「あーぃ。」

 プツン。


 これだけの電話だった。

 入り口には、この間背を向けていたが、誰も通っていない。が、

 「傘が無い……」

 紺色の傘が、傘立てから消えていた。


 「あの傘で、合ってたって事で良いのか……。」

 

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