28.傘
梅雨に入った。
この日は、朝から雨がしとしと降っていた。
雨が降る日は来所人数は減るが、用事が無い人はいない。
「朝からジメジメですねぇ〜。」
明田が窓の外を見ながら、はぁ。とため息を吐いた。
「雨が降ると、面倒だよなー。」
吉野も頬杖をつきながら答える。
その様子を見ながら、望月はAIでチラシを作っていた。
"傘を忘れずに!"
と書かれたA4サイズのチラシを100部程印刷する。
「今日は一旦、雨は昼間にあがるらしいね。」
「昼間かー!俺もそれ、貼りに行くの手伝うよ。」
吉野が立ち上がった。
「私も行きますっ!」
明田も先を立つ。
「明ちゃんは、今やってる仕事があるでしょう?」
吉野が上司らしい事を言い、明田を留まらせた。
「だいたいこれで半分だな。」
望月は半分程を、吉野に渡す。
「俺、上から十六階まで降りてくるよ。」
吉野が人差し指で上を指した。
「じゃあこっちは、十五階から下に行けば良いのか?」
望月は確認した。どうやら吉野は少し多めにしてくれるらしい。
「おう。足りなかったら途中でコピーすれば良いかな?」
「うん、それで頼む。」
こうして二人は、手分けしてチラシを貼りに行った。
雨は不安定にしとしとと降っている。
不足分のチラシをコピーをして補いながら、望月は遂に一回まで来た。
そこで、ふと気が付く。
「あ、地下もあったなぁ。」
追加のコピーをし、地下へと向かう階段を降り始めた。
地下駐車場は、じめじめとしている。
出入口にチラシを貼り、市役所に入る人に声をかけ、出て行く人にも傘を忘れていないかと声をかける。
「すみません。」
一人の男性が声をかけてきた。
「はい?」
望月が振り返ると、そこには小さなお爺さんが立っていた。
「傘を、忘れてしまったね。」
「おや、今日ですか?」
「いやぁ、ずーっと前なんだけどねぇ。妻から貰った物だから、こちらに無いか確かめたくてねぇ。」
「でしたら、お忘れ物を置いてある課がありますので、そちらにお尋ねいただいてもよろしいでしょうか?」
「それは、どちらかね?」
「はい、あのエレベーターで一階に上がっていただいて……」
それは、望月がエレベーターを見て指を差し、老人に向き直った時だった。
そこには、誰もいなかった。
——!!
望月は辺りを見回した。
いない、どこにもいない。
老人がダッシュできる訳がない。理由も無い。
「えぇっ……!!」
望月は急いでチラシを貼り、三階の自身の席まで階段を走って戻って行った。




