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28/32

28.傘

 梅雨に入った。

 この日は、朝から雨がしとしと降っていた。

 雨が降る日は来所人数は減るが、用事が無い人はいない。


 「朝からジメジメですねぇ〜。」

 明田(あけた)が窓の外を見ながら、はぁ。とため息を吐いた。

 「雨が降ると、面倒だよなー。」

 吉野も頬杖をつきながら答える。

 その様子を見ながら、望月はAIでチラシを作っていた。


 "傘を忘れずに!"

 と書かれたA4サイズのチラシを100部程印刷する。

 「今日は一旦、雨は昼間にあがるらしいね。」

 「昼間かー!俺もそれ、貼りに行くの手伝うよ。」

 吉野が立ち上がった。

 「私も行きますっ!」

 明田も先を立つ。

 「明ちゃんは、今やってる仕事があるでしょう?」

 吉野が上司らしい事を言い、明田を留まらせた。


 「だいたいこれで半分だな。」

 望月は半分程を、吉野に渡す。

 「俺、上から十六階まで降りてくるよ。」

 吉野が人差し指で上を指した。

 「じゃあこっちは、十五階から下に行けば良いのか?」

 望月は確認した。どうやら吉野は少し多めにしてくれるらしい。

 「おう。足りなかったら途中でコピーすれば良いかな?」

 「うん、それで頼む。」

 こうして二人は、手分けしてチラシを貼りに行った。


 雨は不安定にしとしとと降っている。

 不足分のチラシをコピーをして補いながら、望月は遂に一回まで来た。

 そこで、ふと気が付く。

 「あ、地下もあったなぁ。」

 追加のコピーをし、地下へと向かう階段を降り始めた。


 地下駐車場は、じめじめとしている。

 出入口にチラシを貼り、市役所に入る人に声をかけ、出て行く人にも傘を忘れていないかと声をかける。


 「すみません。」

 一人の男性が声をかけてきた。

 「はい?」

 望月が振り返ると、そこには小さなお爺さんが立っていた。

 「傘を、忘れてしまったね。」

 「おや、今日ですか?」

 「いやぁ、ずーっと前なんだけどねぇ。妻から貰った物だから、こちらに無いか確かめたくてねぇ。」

 「でしたら、お忘れ物を置いてある課がありますので、そちらにお尋ねいただいてもよろしいでしょうか?」

 「それは、どちらかね?」

 「はい、あのエレベーターで一階に上がっていただいて……」

 それは、望月がエレベーターを見て指を差し、老人に向き直った時だった。

 そこには、誰もいなかった。


 ——!!

 望月は辺りを見回した。

 いない、どこにもいない。

 老人がダッシュできる訳がない。理由も無い。

 「えぇっ……!!」

 望月は急いでチラシを貼り、三階の自身の席まで階段を走って戻って行った。

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