表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/32

27.あきまもる

 少し湿度が高くなってきた今日この頃。曇天が広がり気持ちが沈みがちになる。

 そんな日は気分を変えようと、望月、吉野、明田(あけた)間宮(まみや)は二十三階にある、イタリアンレストランで昼食を摂る事にした。


 「せっかく良い雰囲気のお店だったのに、道に迷ったのか、見当たらなかったんだ。吉野と明田さんは、"etroit"って知ってる?」


 望月はこの前間宮と下見で行った喫茶店が行方不明になって、この気持ちをどう消化したら良いのか分からずにいた。


 「いやぁ……知らないな。俺、喫茶店なんか行かないし……」

 「吉野さんはともかく、私もそんなに雰囲気の良い喫茶店には入らないので……力になれなくて残念です。」

 「明ちゃーん?余計な事を言っているんじゃないのかなぁ?」

 「え〜?気のせいですよ〜?」

 この二人は、まるでコントの様なやり取りをする。

 「ふふっ……!」

 間宮は小さく、くすくすと笑っていた。


 イタリアンレストランを出ると、望月は日課という名の仕事、いつもの双眼鏡を観に行った。

 そこには、一番奥の双眼鏡を使用している男性がいた。男性一人とは、結構珍しい。


 望月は真ん中の双眼鏡を観る。この双眼鏡が映せる限りのこの市を、くっきりと映していた。


 「よし、大丈夫そうだ。」

 「おう、日課の仕事は終わりか?」

 隣に立つ吉野が聞いてきた。

 「今日もキレイに映しているよ。」


 先程の男性は、いつの間にか一番手前の双眼鏡に移動していた。

 手には書類だろうか。ファイルに入った紙が覗いている。


 「あの。」

 その男性が望月と吉野の方を見た。

 「少し伺いたいのですが……」

 「はい、何でしょう。」

 二人は男性の元へ行った。


 その男性は、市役所周辺の地図を出した。

 「この金木犀の木の場所は、ここから確認できますか?」

 「……。」

 望月と吉野は、顔を見合わせた。

 随分と変な質問をされてしまった。


 望月と吉野は、地図と睨めっこしながら、窓の外に広がる光景と照らし合わせる。

 「これ、結構ギリギリかもな。」

 「うん……そうだなぁ……」

 望月はその双眼鏡を、北側へ向ける。

 「あー……あれか?」

 その木は、手前の木に半分程隠れている。


 「あー!あれか!確かに、半分程隠れてしまうな!」

 その男性は、うーんと唸りながら双眼鏡から目を離した。

 ——バサバサッ!

 彼が持っていたファイルから、書類がばら撒かれてしまった。


 「うわっ!すまん!」

 三人はその書類を拾う。

 「ん?……これは地図ばかり……ですか?」

 所々、赤く丸が付けられている。

 「そうだ。観測をしたい所が多々あって。」


 ——観測?

 「一体、何の観測を?」

 「秋に関するものだ。」

 「秋、ですか?」

 「お二人は、秋はお好きかな?」

 望月と吉野は顔を見合わせた。何だか不思議な人に捕まった。

 「まぁ、はい……」

 望月は、その妙な熱意に本音で答えていた。

 「俺は夏の方が好きだな。」

 吉野もきっと、本音だろう。


 「では……」

 彼は胸元から名刺入れを出すと、一枚取り出した。

 「私は、安芸(あき)(まもる)と申します。"秋"を守り、取り戻す為に活動をしております。どうぞお見知りおきを。」

 「はぁ……。」


 望月はその名刺を受け取った。

 安芸守……あきのかみと読んでしまう。

 「"あきのかみ"みたいだな。」

 吉野が相変わらずストレートだ。

 「残念ながら、安芸国とは関係は無い。"あき まもる"と覚えていただきたい。」

 「まぁ、そのまんまだから覚えていられますよ。」

 望月も思わずストレートに返してしまった。

 「ありがとう。では。」

 安芸守は、地図を大事そうに抱えて去って行った。


 「なんか、不思議な人だったな。」

 吉野がポツリと言った。

 「そうだな。きっと、本当に秋が好きなんだろう。」

 望月はその名刺をしげしげと見ていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ