27.あきまもる
少し湿度が高くなってきた今日この頃。曇天が広がり気持ちが沈みがちになる。
そんな日は気分を変えようと、望月、吉野、明田、間宮は二十三階にある、イタリアンレストランで昼食を摂る事にした。
「せっかく良い雰囲気のお店だったのに、道に迷ったのか、見当たらなかったんだ。吉野と明田さんは、"etroit"って知ってる?」
望月はこの前間宮と下見で行った喫茶店が行方不明になって、この気持ちをどう消化したら良いのか分からずにいた。
「いやぁ……知らないな。俺、喫茶店なんか行かないし……」
「吉野さんはともかく、私もそんなに雰囲気の良い喫茶店には入らないので……力になれなくて残念です。」
「明ちゃーん?余計な事を言っているんじゃないのかなぁ?」
「え〜?気のせいですよ〜?」
この二人は、まるでコントの様なやり取りをする。
「ふふっ……!」
間宮は小さく、くすくすと笑っていた。
イタリアンレストランを出ると、望月は日課という名の仕事、いつもの双眼鏡を観に行った。
そこには、一番奥の双眼鏡を使用している男性がいた。男性一人とは、結構珍しい。
望月は真ん中の双眼鏡を観る。この双眼鏡が映せる限りのこの市を、くっきりと映していた。
「よし、大丈夫そうだ。」
「おう、日課の仕事は終わりか?」
隣に立つ吉野が聞いてきた。
「今日もキレイに映しているよ。」
先程の男性は、いつの間にか一番手前の双眼鏡に移動していた。
手には書類だろうか。ファイルに入った紙が覗いている。
「あの。」
その男性が望月と吉野の方を見た。
「少し伺いたいのですが……」
「はい、何でしょう。」
二人は男性の元へ行った。
その男性は、市役所周辺の地図を出した。
「この金木犀の木の場所は、ここから確認できますか?」
「……。」
望月と吉野は、顔を見合わせた。
随分と変な質問をされてしまった。
望月と吉野は、地図と睨めっこしながら、窓の外に広がる光景と照らし合わせる。
「これ、結構ギリギリかもな。」
「うん……そうだなぁ……」
望月はその双眼鏡を、北側へ向ける。
「あー……あれか?」
その木は、手前の木に半分程隠れている。
「あー!あれか!確かに、半分程隠れてしまうな!」
その男性は、うーんと唸りながら双眼鏡から目を離した。
——バサバサッ!
彼が持っていたファイルから、書類がばら撒かれてしまった。
「うわっ!すまん!」
三人はその書類を拾う。
「ん?……これは地図ばかり……ですか?」
所々、赤く丸が付けられている。
「そうだ。観測をしたい所が多々あって。」
——観測?
「一体、何の観測を?」
「秋に関するものだ。」
「秋、ですか?」
「お二人は、秋はお好きかな?」
望月と吉野は顔を見合わせた。何だか不思議な人に捕まった。
「まぁ、はい……」
望月は、その妙な熱意に本音で答えていた。
「俺は夏の方が好きだな。」
吉野もきっと、本音だろう。
「では……」
彼は胸元から名刺入れを出すと、一枚取り出した。
「私は、安芸守と申します。"秋"を守り、取り戻す為に活動をしております。どうぞお見知りおきを。」
「はぁ……。」
望月はその名刺を受け取った。
安芸守……あきのかみと読んでしまう。
「"あきのかみ"みたいだな。」
吉野が相変わらずストレートだ。
「残念ながら、安芸国とは関係は無い。"あき まもる"と覚えていただきたい。」
「まぁ、そのまんまだから覚えていられますよ。」
望月も思わずストレートに返してしまった。
「ありがとう。では。」
安芸守は、地図を大事そうに抱えて去って行った。
「なんか、不思議な人だったな。」
吉野がポツリと言った。
「そうだな。きっと、本当に秋が好きなんだろう。」
望月はその名刺をしげしげと見ていた。




