26.etroitーエトワー
ある日の会議室。午前から望月と間宮は話し合いをしていた。
十一月に行われる、新しいイベントについて、話を詰めている。
「イベント名の候補を、五つ考えてみた。」
望月が出したA4の紙には、簡潔なイベント名が並んでいる。
「あっ、私これが良いです。」
「本当?俺もそれが良いと思っていたんだ。」
二人が選んだのは、"珈琲日和"である。
「これなんだけど、珈琲が入ったカップを、珈琲と日和の間に入れるか、日和の後に入れたいんだけれど、どうかな?」
「良いと思います!今、作ってみますね!」
間宮が、AIとイラストレーターも駆使して形を整える。
「イラストレーター……?」
「はい。学生の頃少し触っていたんです。使い勝手が分かっているのでこちらも使っています。」
「へぇ……」
あっという間に案が十通りできた。
そのうち、カフェラテを思わせる様な色味とふんわりとした字体を選ぶ。コーヒーカップの位置は、真ん中の物にした。
「よし、これはすぐ上司に出してほしい。君の仕事は早いね。」
「あ、ありがとうございます……!」
二人は午後の外出を二時間取っていた。
昼休みと合わせて三時間の外出ができる。
「さて、etroitは……」
望月は地図を見ていた。
間宮は方向音痴の様で、市役所の西側に来たは良いが、その先を真逆の方向へ歩き出し、それを望月が早々に止めた。
大きなビルと団地の間にある店……
「あった!」
ひっそりとした空間に、etroitの看板が出ている。
——カラン、カラン
望月がドアを開けると、ベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」
カウンター五席。店内に客はいない。
小柄で垂れ目、真っ白な髪をオールバックにまとめたおじいさんがいた。マスターに違いない。
「こんにちは。」
「こんにちは〜。」
望月に続き、間宮が挨拶をする。
「初めて見るねぇ。よくここがわかりましたな。」
ふっ、ふっ、と優しく微笑むマスターが、さり気なくカウンターの向こうからメニュー表を二人に渡す。
本日のコーヒー
キリマンジャロ
カフェモカ、ウィンナーコーヒー等……
サンドウィッチやキッシュといった、軽食もある。
準備をしながら待っているマスターに、注文の声をかける。
「本日のコーヒーのホットと、BLTサンド。」
「カフェラテのホットと、キッシュとたまごサンド。」
「はい、ありがとう。」
コポコポコポ、とお湯を注ぐ音と、コーヒーの香りが店内に広がる。
「はい、本日のコーヒーとカフェラテ。」
カウンターに置かれたコーヒーからは落ち着く香りが漂う。
「わ!すごいフワフワ!」
間宮が頼んだカフェラテには、フワフワとしたフォームミルクが乗っていた。
「お待たせ。BLTサンドとキッシュ、たまごサンドね。」
BLTサンドは二センチ程の厚みの物が四切れあった。そこそこのボリュームである。
キッシュはほうれん草とたまご、ベーコンといったところだろう。しかし……
「間宮さんは、たまごとたまごで良いの?」
「たまご、被っちゃいました……」
BLTサンドとたまごサンドを一切れずつ交換し、二人はetroitでのひと時を過ごした。
——カラン、カラン
「ありがとうございました。」
優しい笑顔のマスターに見送られ、二人は店を後にした。
「素敵なお店でしたね〜!」
間宮が目を輝かせながら、持ってきた地図に丸を付けている。
「うん、結構良かった。あのマスターが参加してくれたら、イベントに深みが出るかもしれない。」
望月はもう、イベントに参加してもらう気でいる。
「帰り際に、もう一度行ってみるよ。」
個人的に、とても良い隠れ家的なお店になるかもしれない、と予感していた。
——その日の帰り。
「無い。何で?」
望月はお昼に来たビルと団地の所に来ていた。が……
「無い。隙間すら無い……」
場所が違うのか?と思うが、辺りを見渡せば午後に来た覚えのある所だ。
「え……何で……?」
腑に落ちないままがっくりと肩を落とし、望月は帰宅するのであった……




