22.防災ー前編ー
曇天が広がる朝、望月は市の広報誌を読んでいた。
「朝から望月は真面目だなぁ。」
「誰かさんとは大違いですねっ!」
「明ちゃん、言うようになったなー」
「誰が吉野さんだと言いましたか?」
「うぅ……望月助けてくれー最近明ちゃんが俺に厳しいー!」
せっかく真剣に読んでいたのに、相変わらず左斜め前に座る二人は、望月を笑わせるのがうまい。
「ふっ……はいはい。」
望月は広報誌を、パサッと机に置いた。幸か不幸か、いつでも読めるのだ。
「良いんじゃないか?明田さんが頭角を現してきてくれて。」
「え!望月さん、どういう意味ですか!?」
「吉野の御守りをしてもらおうかな?」
望月は、くくっ、と笑った。
「えっ!ぜーったいイヤです!!」
「俺は歓迎だぜ!」
「いーやーでーすー!」
そうしているうちに、始業の音楽が市役所に鳴り響いた。この音楽は、この市出身の有名な作曲家が作った、市の歌である。
望月が広報誌で見ていたのは、災害に関するページである。
昨今のゲリラ豪雨、雹被害、河川の氾濫など……これからの時期は何が起きるかわからない。梅雨だって、もしかしたら空梅雨で夏は酷暑が続くかもしれない。
こうしているうちにも、台風が近付いている。
望月は大学生の頃、大きくはないが川の近くにある実家に住んでいた。
一晩中、川に付けられたライブカメラを市役所のホームページから確認し、自室から外の様子を見、真上から鳴り響く雷に恐怖し、横殴りの雨が窓ガラスを叩きつける、そんな日があった事をそれから毎年思い出す。
田畑があれば、見に行きたくなる気持ちは良くわかる。
広報誌の、とある一文に目が留まった。
——職員延べ千八百人を動員し、危険箇所を確認します。
「俺の所には話が来なかったか——」
——いや、そう考えるのは驕りだろう?
そう考えるも、残念な気持ちが燻っている。
「よし、来年だな。」
「何が来年なんだ?」
吉野が望月の独り言を、即座に汲み取ってきた。
「これ、危険箇所の点検に参加したいな、と思って。」
「へぇ……来年、頑張れ!異動が無ければ!」
「異動は無い気がする。」
「是非、文化課に!」
「え、吉野さんいるんですか?」
「明ちゃーん!」
「ははっ!」
どうやら、すっかり良いコンビになっているようだ。
昼休み。
食堂で昼食を終えた望月と吉野は、二十三階の展望ロビーに来ていた。
イタリアンのお店は、今日も繁盛しているらしい。
職員もいるが、少し着飾った人達もちらほらいる。
望月は、いつものように双眼鏡を覗いていた。
吉野の「この市全部オススメ!」発言を機に、オススメスポットしか見せてくれなかった双眼鏡は、今や市全体をクッキリと見せてくれる。
ところが。
「ん?どうした?」
この日の双眼鏡は、眼下に広がる川しか映さなかった——




