20.ワッペン
五月の終わり。初夏を思わせるような暑い日と、三月終わりを思わせるような肌寒い日をいったりきたりする気候は、少し蒸し暑い空気を纏うようになった。
毎年夏に行われる祭りに向けて、市役所では準備が着々と進められている。
「今年のワッペンは、どういうデザインになるんだろうなー」
「な、今日から一週間投票だから楽しみだ。」
夏祭りのワッペンは、市民から広く募り、小学校と中学校にもなるべく全員出すようにと、ほぼ義務のような形だが応募してもらっている。
その成果があってか、毎年公募総数は二千五百〜三千点ほどになる。
担当は観光課がしており、市役所の人間と祭りに関わってくる人間にアンケートを取り、候補を十点程決めたところで、観光課と文化課が話し合って決める。
吉野は文化課の為、その最終選考に立ち会うのだ。
「毎年、グランプリを当てている望月殿は、今年はどのデザインがグランプリに輝くとお思いかな?」
吉野は望月に"お伺い"を立てた。
「そうだなぁ、吉野君。今年はこれじゃないかな?」
望月も乗ってみる。実際、望月は毎年グランプリを当てているのだ。
望月が選んだのは、観音様が夜空に咲く大輪の花火を見上げているデザインだった。
「どうしてそれなんだ?」
「ただ、"良い"からだよ。」
「"良い"は、わかるよ。そんな感じで毎年グランプリを当てているじゃないか。」
「吉野は"良い"と思わないのか?」
「俺はこっちかな。」
吉野が選んだのは、神輿を担いだ人達を描いたものだ。
「それも迫力があって良いけれど、今年はこれ。」
「ふぅん。その基準は何なんだか。毎年当ててる人なんていないんだけどなぁ。」
——夏祭りの準備は、きっと手伝うことになるんだろうなぁ。吉野経由でなくても、普段手が空いているから招集されるに違いない。
望月はそんな事を考えつつ、準備の手伝いに招集されるのを楽しみにしていた。
ワッペンのアンケートの票が集まり、グランプリが決まった。
「望月ー!今年もグランプリ、おめでとう!」
会議の後に、吉野が真っ先に望月に告げた。
「ほらな。やっぱりあのデザインだって。」
「でも、今年は俺が言ってたあのデザインも健闘したんだぜ!」
吉野の話によると、三つ巴の戦いだったらしい。
「でも、何で分かるんだよ。コツは?」
「コツ?そんなの、だから"良い"からって言ってるじゃないか。」
「その"良い"を分解して教えてくれよ。」
望月はふっ、と笑った。
毎年グランプリに選ばれるのは、どれだけ祭りを楽しみにしているかというその気持ちや、期待の熱量が一番あるものなのだ。




