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18/32

18.かつての上司

 暑い。暑すぎる。

 まだ五月だと言うのに、三十度近い気温を叩き出した今日も、市役所には沢山の人達がやって来ていた。

 市民課の窓口には、様々な手続きをする人で溢れている。住民票や戸籍の発行手続き、住民票の異動、埋火葬等……市民生活に一番近い課といったところだ。


 「はぁ…望月さん、なんで異動になったんだよ。」

 そしてこの市民課に、望月の異動に関して文句を垂れる若手が一人いた。

 彼は星田、望月が市民課にいた頃の部下である。部下、と言ってもたった一年だけだが……


 「43番の方、こちらにどうぞー」

 窓口でテキパキと仕事をする星田は、望月に憧れていた。望月の仕事の早さ、丁寧さ、的確さはとても参考になった。

 一年間近で仕事を見て、教えてもらったり捌き方を横目で見て盗んだりもした。そして今の星田がある。


 昼休み。星田は久し振りに食堂に向かった。

 「あ!望月さん!」

 「お、星田君。久し振り!」

 望月は吉野と一緒にいた。

 「星田君?あぁ、市民課の部下か?」

 吉野は予想して言ったが、大当たりである。

 「良く分かったな。そう、市民課の部下だよ。あれ?今も市民課?」

 「そうです。俺は異動はありませんでした。まだ一年しか経っていませんしね。望月さん、市民課に戻って来てくれないんですか?と言うか、何をされてるんですか?」

 星田は自身でも不躾な質問だと思ってしまったが、聞かずにはいられなかった。


 三人は昼食を求める長蛇の列に並んだ。

 「何を、と言われても……実はちゃんと定まっていない。」

 「えー!じゃあ、余計にこちらに戻ってきて下さいよー!」

 「随分熱烈オファーを受けているな。」

 吉野が笑いながら言った。

 「星田君がいれば、上手く回るんじゃないか?」

 「えー、望月さんがいれば、もっと上手く回ります。」

 トレーを取り順に注文をする。

 望月は、今日から始まった冷やし中華を注文した。年々冷やし中華が始まるのが早くなる。


 「何か困った事は無い?」

 席に着いた三人は、冷やし中華をずずっ、と食べた。

 「困った事は今のところ無いですけど……個人的な事なんですが、大事なボールペンを失くしました。」

 「大事なボールペン?」

 「はい。採用が決まった時に、母が買ってくれたボールペンなんです。あまり使わないんですけど、お守り的な感じで持ち歩いていました。」

 「ボールペンなら、もしかすると……奥から二番目の机のペン立てに入ってるかもしれない。」

 「え?何でそんな事分かるんですか?」

 「変わっていなければ、だけれど。あのペン立て、結構ボールペンが入っているよ。」

 「たぶん変わっていないんで、確認してみます。」


 昼休みが終わる前、星田はペン立てを確認した。

 「……あった。」

 そのペン立ては、確かに他のペン立てよりもボールペンが多く入っている。その中に"Hoshida"と筆記体で名前が入ったボールペンがあった。


 良く見ると、市役所のボールペンではない物も入っている。先日、ボールペンが行方不明だと騒いでいたパートさんに聞く事にした。

 「あら!これこれ!どこにあったの?」

 「あの奥から二番目の机のペン立てに。」

 「へー!ありがとう!!」


 ——望月さん、"違和感回収課"ってこういう事なんですか……?

 星田はその足で、御礼を言いに望月の元へ向かった。

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