18.かつての上司
暑い。暑すぎる。
まだ五月だと言うのに、三十度近い気温を叩き出した今日も、市役所には沢山の人達がやって来ていた。
市民課の窓口には、様々な手続きをする人で溢れている。住民票や戸籍の発行手続き、住民票の異動、埋火葬等……市民生活に一番近い課といったところだ。
「はぁ…望月さん、なんで異動になったんだよ。」
そしてこの市民課に、望月の異動に関して文句を垂れる若手が一人いた。
彼は星田、望月が市民課にいた頃の部下である。部下、と言ってもたった一年だけだが……
「43番の方、こちらにどうぞー」
窓口でテキパキと仕事をする星田は、望月に憧れていた。望月の仕事の早さ、丁寧さ、的確さはとても参考になった。
一年間近で仕事を見て、教えてもらったり捌き方を横目で見て盗んだりもした。そして今の星田がある。
昼休み。星田は久し振りに食堂に向かった。
「あ!望月さん!」
「お、星田君。久し振り!」
望月は吉野と一緒にいた。
「星田君?あぁ、市民課の部下か?」
吉野は予想して言ったが、大当たりである。
「良く分かったな。そう、市民課の部下だよ。あれ?今も市民課?」
「そうです。俺は異動はありませんでした。まだ一年しか経っていませんしね。望月さん、市民課に戻って来てくれないんですか?と言うか、何をされてるんですか?」
星田は自身でも不躾な質問だと思ってしまったが、聞かずにはいられなかった。
三人は昼食を求める長蛇の列に並んだ。
「何を、と言われても……実はちゃんと定まっていない。」
「えー!じゃあ、余計にこちらに戻ってきて下さいよー!」
「随分熱烈オファーを受けているな。」
吉野が笑いながら言った。
「星田君がいれば、上手く回るんじゃないか?」
「えー、望月さんがいれば、もっと上手く回ります。」
トレーを取り順に注文をする。
望月は、今日から始まった冷やし中華を注文した。年々冷やし中華が始まるのが早くなる。
「何か困った事は無い?」
席に着いた三人は、冷やし中華をずずっ、と食べた。
「困った事は今のところ無いですけど……個人的な事なんですが、大事なボールペンを失くしました。」
「大事なボールペン?」
「はい。採用が決まった時に、母が買ってくれたボールペンなんです。あまり使わないんですけど、お守り的な感じで持ち歩いていました。」
「ボールペンなら、もしかすると……奥から二番目の机のペン立てに入ってるかもしれない。」
「え?何でそんな事分かるんですか?」
「変わっていなければ、だけれど。あのペン立て、結構ボールペンが入っているよ。」
「たぶん変わっていないんで、確認してみます。」
昼休みが終わる前、星田はペン立てを確認した。
「……あった。」
そのペン立ては、確かに他のペン立てよりもボールペンが多く入っている。その中に"Hoshida"と筆記体で名前が入ったボールペンがあった。
良く見ると、市役所のボールペンではない物も入っている。先日、ボールペンが行方不明だと騒いでいたパートさんに聞く事にした。
「あら!これこれ!どこにあったの?」
「あの奥から二番目の机のペン立てに。」
「へー!ありがとう!!」
——望月さん、"違和感回収課"ってこういう事なんですか……?
星田はその足で、御礼を言いに望月の元へ向かった。




