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13.野外音楽イベント

 4月29日は、広場にで野外音楽イベントが開催される。地元のインディーズや、少し名前が売れてきたバンドなど、総勢15組が演奏をする、意外と大きめなイベントだ。


 市役所から助っ人で手伝いに行くのは、吉野がいる班だった。屋台も少し出るため、ステージやら屋台やらの準備を手伝い、イベントが終わるまで見回りつつ終わりまでいて、その後の片付けも手伝う。


 「みんな、おはよう!今日は一日頑張ろうな!」

 一年後輩が三人と、その下の今年の新入社員二人に向けて気合の入った声で挨拶をした。

 吉野はというと、この野外音楽イベが楽しみで仕方なかった。中学生の頃から少しずつギターを触っており、高校生ではバンドを組んだ。まさに青春の延長線上に、今日の演奏者達はいるのだ。

 夢を、現実にしようと追いかけている人達がいる。率直に羨ましかった。


 「あれ?望月さんじゃない?」

 「え?本当だー!」

 吉野が挨拶をした後、余韻をかっさらった人物が手を挙げ、よっ、と吉野に向かってきた。

 ——今日、望月は休みのはずだよな?

 「おはよう、吉野。」

 「おぅ、おはよう……今日休みだよな?どうした?」

 「暇だし、少し手伝おうと思って。」

 一日いるかは気分次第だけどな、と少し笑いながら望月は言った。

 吉野は意気揚々と、各々に打ち合わせ通りに指示を出し、準備に取りかかった。


 望月は、本当に気分で手伝いに来た。暇だし、音楽が聴けるなら良いじゃないか、と思って。

 「手伝いに来てくれてありがとう。でも、良いのか?」

 吉野は、せっかくの休みなのに、と言いたげな様子だ。

 「休みと言っても明日は仕事だし、音楽でも聴こうかと思って。楽しそうだから。」

 そう言うと、吉野はキラキラと目を輝かせた。まるで、音楽やろーぜ!と熱心に誘った相手が、仕方ないなぁ、と仲間になってくれたような反応だった。

 「一緒に聴こーぜ!」


 イベントが始まるまでは、ゴミ拾い、ステージの設置、屋台の確認、テーブルの設置など……広場をイベント仕様にきちんと整えた。準備中なのに少しずつ人も来だし、先に屋台のクレープやらを買っている人も見受けられた。


 出演者達は、楽器の調子や音の聴こえ方、立ち位置などの最終確認をしていた。

 「アンプはここに置きますねー!」

 吉野が少し助言をしながら、ステージでの動きを確認している。なんならギターを見せてもらっていたりもする。

 「望月、少し離れて演奏を聴いてみよう!」

 まだ人が少ない広場で、どんな風に音が響くのかを確かめたいようだった。人が集まったら、音が人に吸収される。だから今、広場いっぱいに音が届くか確かめる必要があるのだ。


 二人は特設ステージから走り始めた。今日、最初に演奏をするバンドが、一曲通しで練習をし始めた。

 どんどん音の熱源から離れて行く。が、広場に響くその音は、熱を帯びたまま拡がっていた。今日は雲一つない快晴で、とても気持ちが良い。

 広場の端に辿り着くと、二人は日頃の運動不足がたたって、肩を大きく上下させながら息をしていた。

 「あー!久しぶりに走った!」

 バンドの演奏に負けないような大きい声で、吉野が半ば叫んだ。

 「はぁ、これだけでこんなに疲れるなんて。」

 ノリは高校生だったが、体力は……残酷である。


 その後も他のバンドが演奏し、最後はパンクロックのバンドだった。吉野は急にヘドバンをし始めた。ノリにノッている。

 「望月、後でその場所での聴こえ方を教えてくれー!」そう言うと、吉野は特設ステージに走って戻ってしまった……。

 

 ——上手いかどうかはわからないが……音がズレているような気がする。

 ビヤンビヤンと、ノイズのような音も聴こえる。楽器の調子か何かか?

 目を凝らして見てみるが、遠いのと、特設ステージの真ん前で、吉野が一人でヘドバンをしまくっている。普段の肩凝りとは、まるで無縁の動きをしている。


 吉野のヘドバンを見過ぎで気が付くのが遅くなってしまった——アンプから黒くモヤモヤしたものが見える。——あれは、まずい。

 ——望月は、走った。こんなに音が割れているなら、今は演奏しない方が良い。

 広場の半分あたりまで戻って来た時——


 バンッ!!ビィヤアァァアン!!

 破裂音と、エレキギターの耳をつんざくような音が鳴り響いた。

 ステージ上のバンドメンバーは飛び退き、アンプに一番近いメンバーがコードを引き抜いた。


 吉野はというと……腰が抜けていた。

 「おいっ、吉野っ、大丈夫かっ!」

 息を切らした望月は声をかけた。さっきまでヘドバンをしていた吉野は、全ての気力が抜け切っていた。

 これが本番でなくて良かった……壊れたアンプからは、まだ黒いモヤが出ている。このモヤは、階段の時と同じような物だ。

 「はぁ、先輩からもらったアンプなのになぁー」

 バンドメンバーは、参ったといった顔をしている。


 結局、他のバンドから急遽アンプを借り、どうにか本番にこぎつける事ができた。

 あの黒いモヤを吹き飛ばすようなバンドの演奏が鳴り響き、吉野のヘドバンで一日を締め括った。

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