11.大事なこと
新年度最初の大きなイベントといえば、ゴールデンウィークである。
市役所の道路を挟んで向かいにある広場では、連日大きなイベントが開かれる。
野外音楽イベントや飲食店が多く出店するイベントを控えており、助力ながら市役所からも数人、人員を出すのだ。
そして助力の人員というのが、入所して三年目までの職員である。
望月達の年代は三年目という事で、部下達の面倒を見る立場となった。当日まで何をするか、当日はどのような動きをするかを確認、決定していかなければならない。
この日は午後、対象となる面々が会議室に揃っていた。
望月達の年代は、なんだかんだで五人しかいないが、二年目は十五人、一年目は十人と、人手には困らない人数が揃っている。
ちょうどキリの良い人数なので、三年目一人あたり、二年目三人、一年目二人といった具合に組む事になった。
「えーと、今年のイベントは、まず4/29に野外音楽イベ、5/2,3はご当地ラーメンイベ、5/4,5はこどもの日イベ、5/6は午前中のみ親子で参加体操イベです!」
吉野が司会をしており、書記を務めるのは藤井だ。ホワイトボードに綺麗な字で、つらつらとイベント名と日にちを書いている。
皆の予定を確認しながら、前半と後半のどちらの休みを個人が重きに置くか、6日の午前だけはどうするか、といった具合だ。
望月は実家も近いし、出かける用事も入っていなければ、前半で用事は済んでしまうと思っていた。後半の5/4-6に出ると名乗り出た。
「あ、私も大丈夫でーす!」
明田が元気良く手を挙げた。
「まみも一緒に出られるんでしょ?」
明田の隣にいたのは、間宮という女性だった。望月は以前、自販機の所で見かけた女性だと思い出していた。
「予定が無いのわかってて言ってるんでしょー?」
あとはもう、各々の予定を擦り合わせて着々と決まって行った。
イベントの前後には全員総出で掃除をする。まず初動は28日で、午後に広場やお堀の掃除をがっつりする。翌日は音楽イベントなので、参加者が音の響き方やステージの場所など確認をしに来る。
それぞれの担当するイベントと、細々した動きを確認し、その会議は終了となった。
書記の藤井がホワイトボードの字を消していた。
「あ、やっべ、消されちゃった。」
どうやら誰かがメモを取り忘れていたらしい……
明田が話しかけていたので、彼は入所一年目なのだろう。
「どの辺りを書ききれなかったんだ?」
ホワイトボードの近くにいた望月は、声をかけた。このホワイトボードなら、大丈夫だ。
「右下の辺りです。時間が書かれていました。」
そう答えた彼は、席を立って望月の方へとやってきた。
「あれ?まだ残ってた?ラッキー。」
後で同じメンバーに聞かなくて済んだと、ホワイトボードにうっすらと記された時間をメモしていた。
このホワイトボードは随分と気が利くんだよなぁ。望月も何度か助けてもらったことを思い返していた。
彼が書き終えた後、そのうっすら浮かび上がった字をさっと消した。
が、また新たに文字が浮かび上がってきた。
——指輪
——え?
一瞬、意味がわからなかった。
関係無い言葉が浮かび上がってきたことは今まで……無い。
思わず、サッと消してしまった。
見なかったことにしてしまいたかった。
再びその二文字が浮かび上がってくることは無かった。




