くだらないのに笑ってしまう
「この話、くだらないのに笑っちゃうんだよ。」
友達はそう言って、スマホを渡してきた。
画面には、夜の公園で撮られた短い動画。
街灯の下で、一人の男が何もない場所を指さしながら大笑いしている。
「アハハハハ! くだらねぇ!」
周りには誰もいない。
男はしばらく笑うと、突然カメラの方を向いた。
「……お前も笑え。」
そこで動画は終わる。
「これだけ?」
「うん。でもコメント欄が面白いんだよ。」
開いてみると、
> 「意味分からんのに笑った」
>「なんか笑えるもな」
> 「なんかつられて笑った」
>「このコメント3点」
>「おもろ」
> 「夜中に見たら笑い止まらん」
本当にくだらない。
思わず「フッ」と笑ってしまった。
その夜。
寝ようとすると、部屋の隅から小さな笑い声が聞こえた。
「……フフ。」
テレビを消しても、エアコンを止めても聞こえる。
気のせいだと思って眠った。
翌日。
学校で友達が俺を見るなり笑い出した。
「お前、なんか面白い顔してる。」
別の友達も笑う。
先生まで笑う。
理由を聞いても、
「いや、なんか分からないけど笑える。」
と言うだけ。
その日の帰り道。
電車の向かいに座っていた女性が、俺を見て吹き出した。
次の駅では車掌まで笑っていた。
誰も理由を説明できない。
ただ、俺を見ると笑う。
数日後には街中の人が笑うようになった。
買い物をしても。
コンビニでも。
病院でも。
みんな腹を抱えて笑う。
俺は何もしていない。
鏡を見ても普通の顔だ。
それなのに。
世界中が俺を見て笑う。
耐えられなくなり、最初に動画を見せてきた友達へ電話した。
「なあ、あの動画……何なんだよ!」
友達はしばらく黙ったあと、小さく言った。
「……ああ、ごめん。」
「え?」
「俺も、誰かに見せられた。」
「笑うと移るんだ。」
通話は切れた。
慌てて掛け直したが、もう繋がらない。
翌朝。
俺のスマホに一本の動画が保存されていた。
撮った覚えはない。
再生すると、街灯の下で一人の男が笑っている。
……俺だった。
カメラへ向き直る。
画面の中の俺は、目だけが笑っていない。
そしてゆっくり指をこちらへ向ける。
「くだらないだろ?」
「……笑え。」
その瞬間。
なぜか吹き出してしまった。
理由なんて分からない。
ただ、おかしくて、おかしくて。
涙が出るほど笑いながら、俺はその動画を友達へ送信した。
送信ボタンを押した瞬間、画面には一行だけ表示された。
「次の観客へ送信しました。」




