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怪談集  作者: appipinopi
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16/17

くだらないのに笑ってしまう


「この話、くだらないのに笑っちゃうんだよ。」


友達はそう言って、スマホを渡してきた。

画面には、夜の公園で撮られた短い動画。

街灯の下で、一人の男が何もない場所を指さしながら大笑いしている。


「アハハハハ! くだらねぇ!」


周りには誰もいない。

男はしばらく笑うと、突然カメラの方を向いた。


「……お前も笑え。」


そこで動画は終わる。


「これだけ?」


「うん。でもコメント欄が面白いんだよ。」


開いてみると、


> 「意味分からんのに笑った」

  >「なんか笑えるもな」

> 「なんかつられて笑った」

  >「このコメント3点」

    >「おもろ」

> 「夜中に見たら笑い止まらん」


本当にくだらない。

思わず「フッ」と笑ってしまった。

その夜。

寝ようとすると、部屋の隅から小さな笑い声が聞こえた。


「……フフ。」


テレビを消しても、エアコンを止めても聞こえる。

気のせいだと思って眠った。


翌日。

学校で友達が俺を見るなり笑い出した。


「お前、なんか面白い顔してる。」


別の友達も笑う。

先生まで笑う。

理由を聞いても、


「いや、なんか分からないけど笑える。」


と言うだけ。


その日の帰り道。

電車の向かいに座っていた女性が、俺を見て吹き出した。

次の駅では車掌まで笑っていた。

誰も理由を説明できない。

ただ、俺を見ると笑う。


数日後には街中の人が笑うようになった。

買い物をしても。

コンビニでも。

病院でも。

みんな腹を抱えて笑う。

俺は何もしていない。

鏡を見ても普通の顔だ。

それなのに。

世界中が俺を見て笑う。

耐えられなくなり、最初に動画を見せてきた友達へ電話した。


「なあ、あの動画……何なんだよ!」


友達はしばらく黙ったあと、小さく言った。


「……ああ、ごめん。」


「え?」


「俺も、誰かに見せられた。」


「笑うと移るんだ。」


通話は切れた。

慌てて掛け直したが、もう繋がらない。


翌朝。

俺のスマホに一本の動画が保存されていた。

撮った覚えはない。

再生すると、街灯の下で一人の男が笑っている。

……俺だった。

カメラへ向き直る。

画面の中の俺は、目だけが笑っていない。

そしてゆっくり指をこちらへ向ける。


「くだらないだろ?」


「……笑え。」


その瞬間。

なぜか吹き出してしまった。

理由なんて分からない。

ただ、おかしくて、おかしくて。

涙が出るほど笑いながら、俺はその動画を友達へ送信した。

送信ボタンを押した瞬間、画面には一行だけ表示された。


「次の観客へ送信しました。」


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