029-【閑話】いーかげんにしなさい
ちょっと長いです。
子どもたちの側の事情。
「何やってるの!もう、すっごく恥ずかしかったんだから!」
ミリアとコータがシャク=コターンを立ち去ったあと。
巫女姿のアヤネは元クラスメートたちのいる施設を訪れ、彼らの不義理に文句を言っていた。
そもそもアヤネは荷物を残してなかった。本来彼女は無関係なのだ。
なのに、結果として応対はエムネアと彼女になった。
はるばる旅してきたミリアたちに対しても、当事者が誰もおらず、伝言すらもないのは失礼だろう。
文句を言いに来たのも、無理もないことだった。
ここは某所にある子供たちの詰め所。
ビーチではないのでもちろん全裸ではなく、思い思いの配置で机が置かれていた。
部屋の反対側にはミリアがカートごと渡した荷物たち。
そしてその横には怒り顔のアヤネと、苦笑いしているエムネア(そしてその足元にはアヤカ)という構図だった。
「そんなに皆を責めないで、アヤネさん。
気持ちはわかりますけど、あなたはもう自分の道を選んでいる。
だけど他の人はまだ、何も選べてない人の方が多いでしょう?
そのことは忘れないであげてほしいの」
「──先生がそうおっしゃるなら」
「ええ、ごめんなさいね。横から口をはさんで」
「そんなことないです、こちらこそすみません先生」
何人かの生徒が首をかしげた。エムネアがアヤネを生徒扱いしてないと感じたからだ。
それはアヤネがここから巣立って職についた者で、なおかつ先方と直接対応した者だから。
しかし、それがアヤネの状況への配慮だと彼らは理解できない。
「あの方々は地球からはるばる一千光年、この荷物を運んできてくれたんですよ?
しかも、住んでいらしたところから地球へは、さらに二千光年あったとも聞いてます。
しかも敵方でもなんでもない、あえていえば善意の第三者が三千光年ですよ?
たとえ思うところがあったとしても、ありがとうの一言くらいはあって当然なのでは?
……先方に平謝りだった、こっちの身にもなってください」
「オイ、そんな言い方はないだろう!」
怒り顔のアヤネをどう思ったのか、生徒のひとりが叱ろうとしてきた。
しかし、伸ばしてきた手をアヤネはパシンと、大きな音がするほど派手に振り払った。
「触るな」
「な、おまえ、なんだよその言い方!」
「何がおまえよ失礼な。
いいわもう、好きにすればいいわ」
そう言うとアヤネは空中に空間を開いた。
すると、ぽっかりとそこに穴が開いた。
初心者用ではあるが、れっきとしたアイテムボックスの魔法であった。
えっ、なにあれ、という声が広がる。
巫女たちは不思議な力を使う。
そして彼女はたしかに神殿勤めの巫女になった。
でも、彼女が巫女になったのは、つい数日前のはず。
先週まで同じ教室で机を並べていたアヤネが、なぜ『魔法』を使える?
疑問をもつのは当然だった。
■ ■ ■ ■
実はこの瞬間、もうひとつの事件が静かに進行していた。
この星についた時、ミリアのポケットからこぼれ出たもの──実は精霊界で潜り込んだ妖精の一匹である──が、女生徒のひとりに目をつけて近寄ろうとしていた。
生徒たちは誰も気づいていない。
そして、その女生徒のうなじに向かい、音もなく飛び込んだ。
「!」
女生徒はその瞬間、ピクッと反応して──そして、ふたたびアヤネに目をやって「あれ?」と目をパシパシさせて、そして「なんかわかんないけど、おー見えた、あれが魔法ってやつなのか?」と目をキラキラさせている。
「──」
さらにその女生徒の様子をひとりの女子──サリナが見ていたが、サリナはその光景を目のすみにとどめ、アヤネに目を戻した。
サリナはアヤネがきた時から、ずっと無言でアヤネを厳しい目で見ており、どうもそちらが優先といった気配であった。
■ ■ ■ ■
さて、閑話休題。
「おいまて、それは俺たちのだろ!返せ!」
アヤネが空間に、せっかく運んできた荷物を収容しようとしているのを見て、男子生徒が怒りの声をあげて止めようとした。
しかし、アヤネは一切無視して収納してしまう。
「なんの話?
先生から連絡があった荷物はちゃんと手渡し完了してるわよ?マサカズ君のノートよね?
それ以外は知らないけど?
え、もしかして、なんの筋も通さず、モノだけ奪い取ろうっての?
渡すわけないじゃない、そんなものっ!」
反論しつつ、最後の「もの」ところで後ろも見ず正確に裏拳を叩き込んだ。
いつのまにか背後に近寄っていた男子生徒が、もろに食らって後ろにぶっ飛ばされた。
それを見たエムネア以外の全員が「えっ」という顔をした。
エムネアはというと「あらら、もうそんなとこまで」と少しだけ驚いていたが。
──初期の巫女や神官は、しばしば体力不足に悩まされる。
だから体力も、魔力も、持久力も、とにかく鍛え上げるカリキュラムができている。
まだ若すぎて身体のできていない子供用の鍛錬法もあり、とにかく健康的に成長させる。
……なのだが、鍛えついでに護身術を教え込む事もよく行われる。
なにげに女性神官や巫女には好評だったりもする。
倒れる生徒のことなど見もせず、アヤネは荷物の乗ったカートを収納してしまう。
そして、きっぱりと言ってのけた。
「先生、すみませんがフォローお願いしていいですか?」
「ええいいわ、任されました。でも、自分でやらないの?」
「わたしでは無駄に拗れそうなので」
「うふふ、そうね、わたしもそう思うわ」
「すみません、努力します」
「……アヤネさんは今、そんなことしてる時じゃないでしょ?
こっちのことはいいわ、せん……私が引き受けます」
エムネアの言葉に、アヤネが「えっ」という顔になった。
「先生、もしかしてご存知なんです?」
「私、ここで生まれたのよ。小さい頃なんて、下級巫女はみんなお姉ちゃんだったわ。
正式に入門はしてないけど、下級の修行は全部おさめたわよ?」
「なるほど、やはりお姉様でしたか」
「あらら、違うわよ待って。資格はあるけど巫女じゃないわよ私」
「一緒です一緒」
神殿巫女はその全員が姉妹である。男の巫女がいたとしても、やはり姉妹扱いなのだ。
そして正式に巫女かどうかは関係ない。
エムネアは自分を巫女だと思っていないが、神殿は彼女を巫女だと認識している。
巫女の去就は神様が決めることなので、本人がやめるといってもやめられないのである。
そんな話を交わしたあと、アヤネはそのまま立ち去っていった。
その間、裏拳で倒した生徒には目も向けようとしなかった。
「誰かこの子の手当てをお願い」
「あ、はいっ!」
男子のひとりが、あわててすっとんできた。
人ひとり運ぶためか、彼の目配せ一発で別の男子も手伝いに来た。
別に昔のクラスに決まった保険委員などはなかったが、倒れる子が出ると大抵動くのは昔から彼らだ。
彼らが出払っていたり女子の問題だと女子も動くが。
しかし。
「先生、富澤さんを窃盗と暴行の件で告発しようと思います。ご協力お願いします」
そういった女生徒の言葉に、エムネアは大きくためいきをついた。
「──どうやら私は、あなたたちに甘くしすぎていたようね」
「え?」
「窃盗?暴行?なんのこと?
あなたたちの態度に呆れて、託された荷物をいったん回収したのを窃盗というつもり?
さらににいえば、あなた女の子なのに、いきなり後ろから男性に襲いかかられて抵抗しないの?
あれを暴行というのなら、あなた暴漢に襲われても逆らうなっていうつもり?
それは先生、まったく同意できないわね」
「……それは」
「そもそも、加害者被害者というのなら、あなたたち、自分が加害者側だと理解していますか?
今回の件は、多くの方に迷惑をかけているのですよ。
貴方方の置いていった荷物を善意で整理してくださった方。
こちらで確認したノートの他に、電子機器類も置き去りになっていたのを見つけてくれた方。
その理由が電源だと気づいて地球式の電源をわざわざ用意してくださった、オン・ゲストロの地球駐在の方々。
依頼先に気を使って、わざわざ直筆の手紙を書いてくださった女王陛下。
依頼の中継をしてくださった神聖ボルダの中央大神殿。
そして依頼をうけ、はるばる合計3000光年を旅して荷物を届けてくださったトラファガー機関のおふたり。
そして最後に、ここの神殿と現職の巫女であるアヤネさん。
それらの方々に、あなたがたは今回、大きな迷惑をかけているのですよ。
おまけにさきほど、あなたがたは未遂とはいえ、アヤネさんに暴力を振るおうとした。
ここまでのことをやらかしているのです。
荷物を取り返す以前に貴方方は、これほどの人々に対して心からの謝罪をしなくてはなりません」
「ちょっと待ってください、先生」
あわてた女子生徒がエムネアに声をかけた。
「わたしたちは誰も頼んでいません!」
「そう、だったら荷物を受取る権利もないけど、それでいいのね?
そういうことなら連絡して、荷物はすべて処分してもらうけど、それでいいのね?」
「!」
え?と目を見開く者までいた。
「なんてこと言うんですか先生!」
「家族の写真も入ってるんですよ!?」
「ええ聞いたわ、でも、いらないのでしょ?」
「それは」
彼らは絶句していた。
それはたぶん、自分たちが悪いことをしていた、という認識すらなかったという事だろう。
「しかもです。
あなたたちの態度を見て、荷物を渡すべきでないと判断したアヤネさんに対し、彼女を無実の罪で断罪してでも奪い取ろうと考えて、しかも実際に行動しましたよね。
その考えと行動は、もはや完全に犯罪者のそれですよ?」
「……」
「まぁ、今回はもともと大人の善意の行動から始まったことだし、穏便にすませば小さな問題は見過ごされるでしょうね。
でも、それでも限度はあるし、ましてや善意の相手を告発するですって?
そんなことをしたら、その瞬間に善意は消え去り、あとは粛々と法的な対応に切り替わることになるわよ?
……こんなことは言いたくないのだけど。
子供のやることだから、なんでも見過ごされると思ったら大間違いと理解しなさい」
「先生、わたしたちはっ!」
「その『わたしたち』もおやめなさい」
エムネアは問答無用で切り捨てた。
「まるで、ここにいる全員が自分の仲間であるかのような物言いですが、違うでしょう?
荷物を残してない人、残した荷物がいらない人は、そもそも対象外です。
さらに年少組に至っては、今回の意味すらわかっていません。
それだけではありません。
一部の人が、自己判断でトラファガーの方に出そうとした謝罪連絡を握りつぶした人がいますね?」
「!」
一部の生徒が顔をひきつらせた。
「同意なく他者を巻き込み妨害し、場合によっては罪をも着せる。
そして利益だけはちゃっかり得ようとする。
……なにをやっているんですが、あなたたちは。
確かにあなたたちの周囲には昔から、汚れた大人が多かったと思います。
ですが、あなたたちまで、そうなる必要はないのですよ?」
そういうと、ゆらりと音もなくエムネアは立ち上がった。
「アヤカ」
「はい」
そのひとことで、一部の生徒はエムネアのそばにアヤカがいるのに気づいた。
驚くべきことに、完全に音を消し、猫のようにまったくの無音で潜んでいたのである。
「年少組のお兄ちゃんたちはもう寝る時間よね。3人を寝かせてあげて」
「わかった」
「アヤカもお休みの時間よね。一緒に寝てていいわよ」
「ん……」
「いいから寝なさい。大丈夫、あとで迎えに行くから」
「……わかった」
アヤカは3人の年少組のところにいくと、巧みに誘導して寝室に移動していった。器用なものである。
エムネアの方も、ちゃんとアヤカにできるかどうか、理解したうえで頼んでいるのだろう。
信頼関係が育っているのが、そこから伺えた。
立ち去っていくアヤカを見送ったあと、エムネアは告げた。
「まだ持っているなら、謝罪の手紙を出しなさい。まとめて中継します。それから──」
(方向性が間違っているのなら、直せばいい。何よりこの子たちは、まだ話をちゃんときいてくれる。
だったら直せばいいだけ。
私とて、教育者のはしくれなのだから。
あのひとたちなら、きっと笑顔で受け入れてくださるでしょうけど、なんなら私も一緒に頭をさげましょうか)
■ ■ ■ ■
建物からでていこうとしたアヤネだったが、玄関口でサリナにつかまった。
そしてサリナはなぜか、ひとりの女生徒もつれてきていた。
「えっと、なに?サリナ?」
「そこに座って」
「え?」
「いーから座って!エミさん椅子!」
「なんで私が「はやく!」わ、わかった」
神殿設備は例外なく、玄関口のフロアが広くなっている。
お昼を食べたり歓談したり、時には風雨を避けた通行人が逃げ込んできたりという感じに使うようで、座れる場所もあり、予備の椅子もいくつか壁のそばに常備されている。それは子供たちのいる施設も同様だった。
エミ・サキサカのもってきた椅子にアヤネは座らされ、そしてサリナは髪をいじりはじめた。
「髪なんていいのに「よくない!」……はい」
早々にアヤネは白旗を上げて、サリナのなすがままになった。
小さい時からアヤネの髪型はサリナが決めてきた。なのに、神殿でウルフカットっぽい髪型に変えられているのが気に入らないようだ。
慣れた手つきで以前のおかっぱに戻しつつ──思うところがあったのか、少しアレンジを加える。
幼女っぽいおかっぱ頭が、ほんの微妙な操作により、成人女性でもおかしくないボブカットに変わっていった。
「ほー、手慣れてるね石上。ボブ?」
「サリナでいいわ、咲坂さん。ええボブよ。
アヤネは巫女のお仕事しているし、だから神殿の人も髪型を変えたんだと思うの」
「おう、あたしもエミでいいぜ。ていうかさっき呼んだじゃん」
「非常時は名前で呼ぶんだけど、勝手に名前呼びしてごめんね」
「いいよ別に。それでサリナが慣れてるのはなんでだ?」
「アヤネの髪はね、おむつしてた頃からわたしが弄ってんの──ね、いい感じでしょ?」
「そういやサリナ、ずっとアヤネを見てたよな……あれって髪を見てたのか」
「あたりまえよ、もう。勝手にひとの髪をいじらないでほしい」
「富澤の髪は富澤のものだと思うが……いやすまん」
ツッコミをいれようとしたエミは、サリナを見てそれ以上の指摘をあきらめた。
ちなみにアヤネはというと、サリナを信頼しきって髪を任せているようだ。
「なるほど、富澤はおかっぱとかボブとか、この系列が似合うよな」
「でしょう?まぁ大人になったら変わるかもだけど、今のベストはこの形だと思うの」
「なるほど、それで基本を変えずに富澤の髪を大人っぽくしたと」
「えーと、アヤネでよろしく──ところで咲坂さん」
「あんたもか。エミでいいって」
「了解、ではエミさん」
「さんもいらねーよ。サリナもな」
「お、おう」
「はーい」
そういうと、アヤネはサリナに髪をいじられつつもエミに目をやった。
「それでさエミ、あなた、コアが起きてる」
「は?コア?」
「魔導コア。平たくいうとエミも魔法が使えるかも」
「え、あたしがか?なんで?」
「んー、なんかに入りこまれた?普通の励起じゃないよね、これ。
心当たりある?今朝はなんともなかったよね?」
「そういえば……さっき、アヤネがアイテムボックスってやつ?あれを開いてた時にこう、急にいろんなものが見えだしたっていうか……」
「アヤネ、さっき何かエミさんに入ったっぽい」
「うん?何かみえたのか?」
「うん」
「なるほど、それで連れてきたと」
「うん」
「了解、そうだよな。サリナとエミが話してるとこ見たことないのに、いきなりだもの」
「うん、いきなりで悪いけど、ちょっと問題だと思ったから」
「たしかに」
うんうんと納得している二人に、首をかしげるエミ。
「あれ、巫女になったアヤネはわかるけど、サリナも何かわかるってこと?」
「はーい、見習いだけど巫女になれたよ、今日から!」
「ああ、それで昼間いなかったのか。
けど、そんな即日でいろいろわかるもんなのか?アヤネも魔法、使ってたよな?」
その疑問をアヤネが引き取った。
「わたしの場合、メルさんって人が名前をくれたから。
巫女の名前は特別なの。
名前をもらうってことはそのひとの巫女としての子供になることで、その人にあやかった力が得られるんだけど──いきなり世界が変わったわ。びっくりしたよー」
「わたしは、いきなりアヤネのイメージが頭の中にパアッと広がったの。
こういうのって、たまにあるんだって。
姉妹とか、うんと距離が近い人が目覚めると、それに引っ張られるんだって。
それで帰ってきたアヤネに捕まって、神殿で検査受けて巫女になったの」
「検査?」
「魔法が使えること、イコールみんな神職になるわけじゃないんだって。
ほら、灯火」
「あ」
サリナの指先に光がともった。
「これは神殿のじゃなくて、ボルダ式の普通の魔法。灯りの魔法ね。
神殿できいたんだけど、巫女や神官にならなくても、コアが使えたら魔道士とか治癒師のお仕事もあるって。
でも、そういうお仕事はアマルーよりボルダがいいらしいよ。
アマルー領だと神殿のお仕事しかないけど、あっちじゃ魔道士はひっぱりだこで、使える魔法によっていろんなお仕事があるって言ってたよ……エミ?」
「いいけどさ、魔道士とか、なんかファンタジー映画みたいだな」
「あ、うん、そうだね」
「わたしたち、ここまで恒星間航行用宇宙船で来たんだよね。すっごいSFだよね」
「先生の自家用だけどな。中古で買ったっていってたぞ」
「もう、エミったら。それじゃクルマみたいじゃない。
でも、なのに、なんでこんな宇宙の果てで魔法とか巫女のお話してるんだろね?」
「あはは、たしかに」
3人は楽しげに笑った。
さっきの子どもたちのおかしな雰囲気とは、全く別のところにいる3人だった。
「それで、どうする?」
「ん?どうとは?」
「エミは魔法が使えるようになるかもしれない。
だけど、それをどうするか、今後何をするかっていうのを決めるのはエミ本人だと思うの。
エミはどうしたい?」
「できるってんなら魔法を覚えたいな。仕事の種になるんだろ?」
エミは断言した。
「村にいた時さ、中学出たらどうするんだって思ってたんだよね。
仕事をするにしろ専門の勉強をするにしろ、村を出るしかないじゃん?
村に残って誰かの嫁になるったって、身内や親戚ばっかで選択肢がないし、どうせなら外で何かやってみてえ。
そう思ってた時に今回の騒ぎだもんな」
「ええ、そうよね。わたしもそう思うわ。やっぱりエミもそう思ってたのね」
平和な村で生まれ育ったといいえば聞こえはいいが、そもそも考えてほしい。
地球人類と全く異なる姿の宇宙人で異種族のエムネアが、普通に先生できていたのはなぜか?
壊れた宇宙船つきの異星人の女性に学校の先生までしてもらっているのに、なぜそれが外に漏洩しなかったのか?
要するに、それだけ隔絶した限界集落レベルの場所だったわけだ。
その限界っぷりは深刻そのもので。
つまりエムネアが先生をしていられたのは、平和な村だったからではない。むしろ逆なのだ。
村人が助けにならず、エムネアの庇護下に入ったアヤカ。
そして未来に悩んでいたエミたち。
未来を憂う彼女たちにしてみれば、今の自分たちの状況は大きなチャンス以外の何者でもなかった。
巫女の打診を受けて快諾、神殿いりしたアヤネの選択は、ひとによっては驚きの状況かもしれない。
だけど選択肢のない超田舎の村に生まれ育った、しかも女ということでさらに選択肢の限られる彼女らにとっては、それは驚愕ではなかった。
どちらかというと「その手があったか!」という思いが近かったのだ。
「そういえばさ、トラファガーの人ってボルダの人なんだよね?」
「そうだな」
「もしエミの適性が巫女でなく魔道士だったら、謝罪のお手紙に添えてお仕事の相談もしてみる?」
「いやいや、遠すぎるでしょ!」
「ううん、マドゥル星系ボルダとここならゲートっていうのが使えて、1日でいけるってきいたよ?」
「あ、そんな近いの?」
「うん」
「んー、だけど、知らないひとに進路相談は……。
もう帰っちゃったんだよね?挨拶してないのが悔やまれる……」
「ほら、言ったでしょ。色々あるかもだけど、顔出しといて損はないって」
「なるほど、そっかぁ。しまったなぁ」
「ま、次から気をつけましょ」
「だな」
エムネアが日本で先生をしていた件について、改めて補足。
実際のところ、学校だって「最低限の教育が受けられる」場所でしかなく、それすらも異星人のエムネアに臨時教員を頼むほど人が足りない土地だったわけで……しかも宇宙船の落下なんて派手な事件も起きているのに、マスコミのひとりもこないどころか事件そのものが知られていないような場所。
こんな場所、日本にあるのって言われそうですけど。
でも個人的には、昔から国内でそういう場所をたくさん見てきました。
でも実際にバイクで国内旅行にいくと、どうやってインフラを成り立たせているのか不明な集落って結構あります……車でいくのをためらうような深い、深山幽谷の果てにぽっかりと存在する村とかね、本当にあるんですよね。
時間が停まっているように、そこだけ孤島状態の集落とかね。
その手の話だけで小説書けそうなくらいには。
あと、故郷にいた頃、村に電気が通りましたってニュースが流れたの見たことありますよ。まぎれもない日本の村で、もう21世紀に入っていたか、ぎりぎりまだ20世紀かって頃だったと思います。
エムネアが不時着したのは、その手の限界村落のひとつ。
しかも慢性的にひとがいないうえに、たまに誰か戻ってきたかと思うと、言い方は悪いけど、単に厄介事をごみの処分のように置いていくだけ。実際、アヤカもそうして村に捨てていかれた子でした。
そんな村だからこそ、異星人の先生なんてものが外にバレずにいられたわけでもありますが。
でもそんな村だからこそ、自分の未来に悩む子供たちもいるわけです。
アヤネたちは神殿で巫女として過ごしていくわけですが、エミは……。




