025-おでむかえ
マドゥル星系ボルダから太陽系に向かい、そしてアマルー領へ。
長いようで短い旅も今、いよいよ大詰めを迎えていた。
■ ■ ■ ■
『こちらアマルー中央第四ゲート。おかえりなさいコータ』
『ああ、この時間はピーナだったのか。仕事中にごめんな。
島に戻りたいんだけど、いいかな?』
『それこそ仕事中だもん、かまわないよ。
でもちょっと待って。
あのねコータ、コータが戻ったら最優先で知らせてって複数箇所から言われてるの。
ごめんね、今送信するから、悪いけど少しだけ待ってくれる?』
『え、そうなのか?わかった』
「……」
どうやらゲートのオペレータがコータの友人らしい。
そのアマルー族の娘と通信で会話をするコータを、不機嫌そうな目でミリアは見ていた。
「また女……」
『なんじゃ、コータは異世界でもモテたのかい?』
「ええ、ひどかったわよ。その有象無象を追い払うのはわたしの仕事だったんだから」
どうやら先日融合した、ミレーヌとかいう異世界女の意識が強くなっているらしい。
ローラは少しだけ目を細めてから、何食わぬ顔で会話を続けた。
『ふふふ。ま、ひとつ弁護してやろうかネ』
「弁護?」
『あの娘は今回のクライアント関係者だヨ』
「え、そうなの?」
『子供らを助けたという臨時教員の名を見たかエ?』
「うん、みた、名前しか見てないけどアマルーの人だよね?」
『あれは、その女の義理の孫だヨ。
たぶん連絡先っていうのも一つはシャク=コターンで、もうひとつはアマルー王家なんじゃないかネエ』
『はい、ご名答ですローラさん』
突然にそのオペレータが会話に割り込んできた。
『おやピーナ、つもる話はすんだかネ?』
『はいローラさん、連絡もすんで移動許可も、あ、今出ました。
運行管理はローラさんですよね?』
『ああそうだね、この子らは仕事の方に集中させてるヨ』
『わかりました、ではローラさん、目的地の座標はおさえてますか?』
『もちろん大丈夫さ』
目的地は惑星シャク=コターンなんだけど、その名前は出さない。もちろん傍受の危険などを避けるためだ。
アマルー領は王族を収容するためにアマルー族たちがこしらえたものであり、出入りにも大きな制限がかかっている。
だから、これくらいは当然であった。
『では向かってください。皆さんを迎えの者たちが今かいまかと待っていますよ。
あと窓口対応もあると思います』
『ああ了解したヨ、ピーナも気をつけて。気を抜くんじゃないヨ?』
『はい、おばさま。お気をつけて』
うふふと笑い、そして通信が切れた。
『よし、あたしらも移動するよ──ってコータ、あんたは残っとくれ』
『え、なんで?現地の打ち合わせをかねてミリアと食事のつもりだったんだけど?』
『だめだ』
そういうとローラは首をふった。
『さっきの会話であの子がいってたろ、セキュリティ厳しいから途中で止められるよって。
移動中の認証にあんたが必要だ。だから残りな』
『え、いつそんなこと言ってました?』
『気づいてないならいいよ別に、とにかく残るんだ、いいネ?』
『お、おう』
そんな話をしているとミリアも振り向いた。
「はいはい、じゃあ、わたしも残ります!」
『そうだろうネ、よしよし、じゃあ悪いけど二人とも食事はちょっとお預けだ。イイネ?』
「りょうかいですー」
■ ■ ■ ■
『はい、こちら第六ゲート。認証しますのでお名前をフルネームで』
『コータ・パルティ・ハルファ・メル』
「ラーミリア・ノジマ・フルク・ユービ・ボルダです」
『はい、確認しました。行き先について申告名を』
たびたび呼び止められ、しかも当人の申告つきで目的地の提示を求められる。しかも実名で。
移動をはじめてから、ぽつりとコータがつぶやく。
『やけに厳しいな。何があったんだろ?』
「ねえローラさん、セキュリティ厳しいって、ピーナちゃん?との会話のどこかにあったっけ?」
『くわしい話は危ないから置いとくけどネ、あの子がわざわざコータでなく、あたし相手に迎えだの待ってるだの話したろ?アレがセキュリティ警告さネ』
【おやつとお茶どうぞ】
「あれ隠語だったんだ。あ、ありがと!」
【どういたしまして、コータはこちらを】
「ありがとう」
そして、なぜかお茶くみをしているのは言わずと知れたピアン号のコンピュータ。
しかも安物船であるピアンは人間型のロボットなんて積んでいないわけで、小さいとはいえ作業機械がやってきて置いていくのがまた、なんともいえない。
ふと、そのロボットを見てコータがつぶやく。
『蜘蛛型?あんなロボット、ピアンのリストにあったっけ?』
【あれはトラファガーの汎用機です。いいんですがお高いですね】
『んー、地上用になるけど、ロディ仕様のが単純で故障少ないんじゃないか?』
【メンテ設備の統一問題もありますが、そうですね。戻ったら提案してみます。
あ、お菓子とっちゃダメですミリアさん、コータのはコータが食べやすいようにしたもので、内容は同じですから!】
「すごいね、ていうか船のコンピュータってお料理もできるの?すごいね」
『往路でもお茶いれてくれてたじゃん』
「そうだった!」
そんな話をしながらも、目的地に少しずつ近づいていく。
「ねえコータ」
『なに?』
「お届け先のひとの名前って、エムネア・パルティ・アマルーさんだよね?」
『そうだな』
「コータのフルネームって、コータ・パルティ・ハルファ・メルっていったよね?」
『ああ、そうだよ』
「パルティってどういう意味?」
『あ、それが気になるのか』
うんうんとコータはうなずいた。
『惑星シャク=コターンのことだよ。
シャク=コターンは秘匿エリアにあるから、そのまま名前には使わないんだ。
そういう時はパルティとか、クイーン・アマルー第四なんて言い方をするんだよ』
「そっか、メルさんが保証人で登録したんだっけ?」
『うん、そうだよ』
「あー、じゃあパルティってついてるのはシャク=コターンの人なの?」
『そうじゃなくて、秘匿エリア登録の人をまとめてパルティっていうんだよ。
他の言い方は僕もよく知らないかな。たぶんあると思うんだけどね……ミリア?』
「……めんどくさい」
『はは、そうかもね』
名前は地域性が強い。
無数の国がある銀河では、フルネームに所属国名などを入れる地域は多い……だがこれは絶対ではない。そもそも音声名や文字による名乗りというのは対人用のものであり、プライバシーに属する国名や地域名を名前に含まないという地域もそこそこ多いのだ。
だけど個人名だけだと、同名が大量に出てしまって区別がつきづらい。
ゆえに親の名をいれたみたり、種族名のようなものを含めてみたり、いわゆる苗字とは別の氏族名があったり。
かように名前とは地域性が強く、銀河でも統一などは全くなされていないのが実情だ。
『さて、そろそろ検問もないだろ。次がシャク=コターンで……ありゃ』
【検問設備37番から通信が入っています】
『またかよ!』
だぁぁぁ、と皆が脱力するのだった。
■ ■ ■ ■
『おかえりコータ』
『やあロミ、ただいま。なんでまた、こんな検問が多いの?何があったのさ?』
「また女……」
『え、違うからミリア、彼女は──えっとロミ、君の続柄ってなんだっけ?』
『あんたねえ』
通信の向こうで、陽気そうなアルカイン女がケラケラ笑った。
『あたしはマキの息子の嫁だから、えーとそうだな……エムネアの義理の孫、といえば通じるのかい?
お嬢さん、あんたコータのお相手だろ?名前きいていいか?』
雰囲気を読んだのか、女がミリアに直接声をかけてきた。
「あ、すみません。ミリアといいます」
『ミリアか、いい名前だ。ありがとよ』
うんうんと女、ロミは笑顔でうなずいた。
「それでロミさん、コータの話だといつもはこんな検問ないって聞きましたけど、何があったんですか?」
『あんたらに直接関係はないと思うんだが、まぁ王族関連の騒動だな。くわしくは言えねえけど』
「王族の……なるほど、それでこんな検問すごいんですね」
アマルー領は、それ自体は経済圏でもなんでもない。悪意ある言い方をすれば、それはアマルー王家のためだけに存在するのである。
もう少し詳しくいえば、王族を閉じ込めるため、ともいえる。
アマルー族は種族的にフリーダムな気質が強く、ひだまりの猫のように平和に生き、たまに好奇心の赴くままに色々とやらかす。そういう傾向が強い。
そして、その気質は王族でも例外ではない。
だが王族はアマルー族という種族の代表なので、勝手にどこかに行かれては困ってしまう。
実際、始祖であるアマルダンキィ・ソロンの行方不明っぷりは有名で、彼女のような困ったちゃんを逃さないためにアマルー領は存在しているといえる。
ゆえに、王族に問題があるとアマルー領は厳戒態勢に入る。仕方のないことではある。
『王族かぁ。ちなみに誰かきいていいか?』
『ごめん、さすがにコータでも通信ごしはダメだ。着いてから誰かにきいてくれるか?』
『了解、おつかれロミ。ところで旦那は──いたか』
『ようコータ』
ロミの背後から、アマルー族の男が現れた。
『おつかれロブルーって、ちょっと通信中っ!』
いきなり嫁の身体をまさぐりだす男に、ミリアは目を白黒させた。
『ミリアさんだね、話はきいてるよ。ロブルーだ。コータを選んでくれてありがとうな、歓迎するぜ』
「あ、どうもミリアです」
『心配しなくても、コータのまわりにいる女は皆、歳が離れてるか片付いてるからよ。
あんたは安心して、コータだけを見てやってくれ。
俺らよ、なんだかんだでそいつに助けられてるのに、まだなんにも返せてねえんだ。頼むよ』
『おまえなぁ』
呆れたようにコータがぼやくが、ミリアは違ったようだ。
うふふと笑いながら上機嫌になった。
「ありがとうロブルーさん」
『ロブルーでいいぜ』
「わかったロブルー。だけど奥さんで遊ぶのはやめてあげて。
わたしが変な目で見ちゃったから、わかりやすくしてくれたんでしょ?
ごめんねロミさん」
『おうおうって、いてっ!』
『いつまでやってんの、もう!』
ロミはロブルーを突き飛ばした。ロブルーはそれで苦笑しながら離れた。
どうやら本当に仲良しのようだった。
『まぁバカが湧いたけど、現地は平和だからね。ゆっくりしていきな』
「ありがとう、おじゃまします」
『おう、じゃあな!』
それで通信が切れた。
「なんていうか、姉御肌?おもしろい人だね」
『古い言葉しってるなぁ。うん、ロミさんはそういう人だよ。
ケセオ・アルカイン事件の時にそのアルカイン王宮から三人のオペレータが逃げ出した話を知ってる?』
「知ってる知ってる、リーダーの子が混血で、その人の決断でボルダに逃げたんだよね?」
『そん時のサブリーダーがロミさんなんだ。
リーダーの人は当時、ドロイド再生したばかりで幼児化状態でね。
ボルダに渡航したのはもうひとりの人の手引らしいんだけど、その人はその人で、アルカイン時代から裏社会経由でボルダによく遊びにいってて、その伝手を使ってボルダに渡ったそうなんだけど、その件でボルダのスパイと間違われて指名手配もされたらしい。大変だったそうだよ』
「すごいひとなんだね」
『ああ』
■ ■ ■ ■
そしてしばらく飛んだところで、いよいよシャク=コターンに到着した。
【惑星シャク=コターン、衛星軌道に到達しました。
船舶用ゲートに接岸します、準備をお願いします】
「あれ、地上に降りないの?」
『シャク=コターンには地上に宇宙港設備がないんだよ』
「ピアンなら普通に降下できるよね?」
『そうしたいのはやまやまだけど、開発中の星だからね……って、ありゃ?』
船のコンピュータが反応した。
【港湾設備から連絡です。地上に降りてくださいとのことです】
『なんでまた?理由をきいた?』
【始祖母様の指示です。ピアン号を地上に下ろすようにと。着陸地点の案内も……今、届きました。神殿の横に降りてほしいようですね】
『……なにやってんだ、あのひとは』
コータがためいきをついた。
クイーン・アマルー第四:
パルティ名が「クイーン・アマルー第四」を意味するのは対外的にも知られています。
第一話で、オン・ゲストロのシステムがエムネア嬢の故郷を『クイーン・アマルー第四』だと子どもたちに話していたのがそれで、秘匿エリアである『シャク=コターン』の名を知らない地域では基本、パルティ名を見ると、宇宙のどこかにある『クイーン・アマルー第四』なるなぞのエリアで彼女が生まれたか、そこで住民登録されているのだと認識します。




