021-漂着
『空間シールド?』
『あんたらが精霊界と呼ぶ、あちらがわ──あいにく機械にも悪影響があるのサ』
『ああ、なるほど。だから宇宙空間と同じシールドを使うと?』
『正解。あんたらは問題ないんだろ?』
『行先が精霊界ならね──うお、マジでアレに入るのか?』
『そうさ。念のためだ、座席についときな』
『あいよ』
「はーい」
■ ■ ■ ■
見知らぬ惑星の地上付近まで降下した、彼女らの宇宙船ピアン号。
そこには荒野の中、ぽつんと山がひとつあった。
普通の山に見えたが、なんと山腹に高さ数百メートルにもなろうかという巨大な鳥居のようなものがあった。
荒野の遺跡と、恒星間航行用宇宙船。
不思議なコントラストであったが、やがてポツンとマイクをオンにするような音がした。
『あー、あー、テステステス……■■■■■■■■■■■■■■■』
ミリアの声で、何か遠い国の言葉を拡声器で流しはじめた。
そして同時に投光器のようなものが、上の左右の隅っこに同時に強い光をあてたのだが。
『お』
巨大な鳥居の中が揺らぎ、そこに別空間への入口が開いた。
しかし。
いくら巨大とはいえ鳥居である。小型とはいえ恒星間宇宙船が通過できるかというとサイズ的に無理と思われたのだが。
ピアン号が鳥居に近づくとその輪郭が特撮映像のように歪んだ。明らかに鳥居の影響を受けていた。
宇宙船は音もなく見事に鳥居の中を通過していった──。
そして、そのまま歪んだ空間は閉じてしまった。
あとには、何事もなかったかのような巨大な鳥居のある風景が残された。
さらにこの時、遠方よりミサイルのようなものが迫っていた。
それはピアン号にひっそりと迫っていた。
しかし、ピアン号が空間に飲まれ始めた時点で目標を見失ったのか軌道が乱れ始めた。
まるでそれは、確定していた目標を突如として見失ったようだった。
それでも鳥居には着弾しかけたのだけど、それらもピアン号とは別の揺らぎに飲み込まれ、どこかへと消えてしまったのだった。
あとにはただ、巨大鳥居の遺跡だけが残された。
■ ■ ■ ■
『自動弾頭、ロストしました!』
『ロストだと?撃ち落されたのか?』
『違います、目標を見失った信号の直後、反応そのものが消えました』
『は?なんだそれは?』
追手たちは混乱していた。無理もない。
こんな静かな惑星で、連邦のミサイルが目標を見落とすなどありえない。
いったい何があったのか?
彼らのいる広間の隅っこにある情報パネルの前に、ひとりのオペレータらしき少女が、よく似た姿の、ただし明らかに機械式のアンドロイドらしきものを伴い座っていた。
彼女らは、騒いでいる者たちと明らかに異なる服装であり、しかも薄汚れて体には暴行の跡すらあった。
騒ぐかれらに混じることなく、ふたりは命じられた仕事だけをこなしていた。
『反応消滅前、空間歪曲と思われるものが観測された』
少女は、自分が感じたことを報告する。
『ん?空間歪曲?』
『なんだそれは、地上にゲートでもあるというのか?』
『いや、ないない。大センサーにはなんの反応もないぞ』
『なんだよ故障か、脅かすなっての』
『せんさーノ故障ハ認メラレナイ』
アンドロイドが少女の弁護をするが、男たちはそれらをちょっと一瞥しただけだった。
差別がどうのというより、まるで機械の不調を確認する技術者のそれだった。
その態度や雰囲気から、アンドロイドと少女が彼らの仲間ではないのは明白だった。
しばらくして、男のひとりがつぶやいた。
『どうやら見失ったようだな……やれやれ』
『どうする?』
『もう逃げちまってるだろうな……ひとつだけいえるのは、これ以上ここを探しても見つからんってことだ』
『だなぁ……休憩すっか』
『ああ、そうだな。めしだめし』
彼らは口々に席をたち動き出した──少女とアンドロイドを除いて。
彼らのひとりが通りざまに、少女に命令していった。
「あと20分捜索して、見つからなかったらロストしたと本隊に連絡しろ。いいな」
『はい、あと20分捜索して、見つからなかったらロストしたと本隊に連絡します』
「それから自己診断しとけ。次に変な報告したら廃棄だ。わかったな」
『観測したことを報告したものです、変な報告では──』
「道具が口答えすんな」
男は無造作に少女を椅子ごと蹴とばして、少女は情報パネルに叩きつけられた。
アンドロイドが少女を助け起こすのを見て男は「はぁ」と肩をすくめた。
ただし侮蔑の視線などはなく、単に調子の悪い機械を見ている目だった。
そして、そのまま立ち去った。
「──もういい、いこう」
助け起こされた少女は少し考えていたが、やがて、何かを思い切るようにアンドロイドに告げた。
「シカシ、見ツカレバ破壊サレマス」
「どうせ、このままいたら処分されるわ。
だったら、やれることをやりたいの──あなたはどう思う?」
「ソウデスネ──同意シマス。シカシドコヘ?」
「さっきの穴。たぶんゲート」
「アレガデスカ?」
「前に保管を頼んだアレ、持ってる?」
「コレデスカ?」
アンドロイドが小さなポケットから、お守りのようなものを2つ取り出した。それには何か文字も書かれているが、それはふたりの知らない文字だった。
以前、ふたりはこれを知らない男に渡された。
その時も少女が「これを保管して。あいつらに見つからないところに」とアンドロイドに依頼したのだ。
「よかった無事で。使えそう」
「エ?ツカウ?」
何か手をかざして微笑んでいる少女に、アンドロイドは首をかしげた。
「今から行く場所はあのゲートの向こうだけど、これを身に着けてないとダメなの」
「ナゼ、ソンナコトガワカルノデスカ?」
「先日、夢に始祖母様が出ていらしてね。おっしゃられたの。時がきたって」
「シソボサマ……マサカ、アノ始祖母様デスカ?ゴ本人ガ?」
「うん、なんか天啓をうけたんだって」
「……ヨクワカリマセンガ、ワカリマシタ。オツキアイシマス」
「うん、いこう」
「ハイ」
このあと、しばらくしてアンドロイドと少女が行方不明なのが発覚した。
とはいえ調子の悪い機械という認識だったので誰かが処分したと考えていたこともあり、逃走と発覚した時には発見困難だった。
脱出ポッドがひとつ行方不明であったが、そんなものでは遠くまでいけない。
近郊の銀河文明まで遠いこともあり、移動もできずに機能停止するだろうと結論。
そこまでして探す価値もなく捜査は打ち切られた。
結論からいえば、彼女らは無事にゲートを抜けて、その向こうで別の生活を手に入れるのだけど──。
それはまた別のお話である。




