018-ソルへ
今話から現実世界パートです。
「ただいまー」
『おかえり』
戻ってきたコータとミリアを出迎えた老婆、ローラの映像だが──ミリアを見て面白そうに微笑んだ。
『ん?なに?』
『なんでもないサ。
それより、今から話はできるかねえ?』
『ああ、情報共有か。いいよねミリア?』
「うん」
ミリアも大きくうなずいた。
コックピットに戻り、ミリアたちが席についたところで説明が始まった。
空間にウインドウが投影されて、そこに映像が次々に写った。
『まず現在位置から説明するヨ。
本船は今、ソル系の小惑星帯にある汎用船着き場にいるヨ』
「え、もう着いたの?」
『まだだ、というより、ふたりが戻るのを待っていたんだヨ。
オン・ゲストロのサービス船で現物を受け取るのは、あんたらじゃないとダメだろ?』
「あ、そっか」
『しかし速いな。よくもまぁこんなポンコツで』
『お褒めにあずかり光栄だけど、この船にはいろいろ秘密があるのサ』
『なるほどなぁ、機関が採用するわけだ』
何もいわず笑顔のローラ。
ミリアはコータとローラを見て、目をキラキラさせていた。
無理もないことではあった。
旧式もいいところのピアン号で、しかも警戒しながら所要時間2日弱で2000光年を飛んだ事になる。
これは確かに素晴らしい。
『それで問題はある?』
ピアンでここまでやったのなら、当然引き換えにしたものもあるだろう。
コータのそんな推測に、ローラは大きくうなずいた。
『燃料をバカ食いしたんだけど、こればっかりは仕方ないネ』
『……なるほど、そりゃそうか』
『燃料節約システムも乗員安全機構もをすべてオフにして動力に割り振ったからネ。
状況からいえば、このままいけばアマルー領で補給が必要だねえ。どうする?』
『それは仕方ないな、安全優先で頼む』
『あいよ、ではこのまま進めるよ。
連中が一度近くにやってきたが、こっちが無人航走と知ると去っていったネ』
「え、そんな近くまできたの?」
『きたきた。ありゃ、ほんとに人員にしか興味がないようだネ』
『そうか……何者だった?』
『ほれ記録、こいつらだ……とはいえ情報まで偽装されててネ、実態はわからずじまいサ。すまないネ』
いくつかの情報と写真、通信内容が提示された。
それを見たコータと、そしてミリアも興味深そうにながめた。
『ふうん、見た目はオン・ゲストロっぽいけど偽装だよな……しかし』
所属を示すデータがない。
これでは証拠にならない。
証拠は必須ではないが、状況証拠すらないのは問題だった。
そんなこんなでデータを見ているコータとローラだったが。
小難しい態度のコータたちの横で、ふわりとツッコミを入れる娘がひとり。
「ねえコータ」
『ん?なに?』
「このマーキングなに?」
『マーキング?』
「ほらこれ、外装のすみっこの、ここ」
ミリアの示す一枚の写真。
その部分は表面の塗装のようなものが剥げていて、その下の、素材に描かれた何かのマーキングが少し見えていた。
なんだこれと目をこらしたコータだったが。
その記憶に、この世界にきて間もない頃に教えてもらった知識が蘇った。
『これは……ああ、工房のマーキングだな』
「工房の?」
『僕もよく知らないんだけど、この手の資材は現地で素材から自動生成されるだろ?
これは製造機の仕込みで、作った製品に「どこの装置で生成されたか」を機械的に印刷するやつなんだけど』
そこまで言ったところで、コータの言葉が止まった。
『ローラ』
『なんだい?』
『これ、製造された工房の情報になるかもしれない。調べられないか?』
『ん?工房の情報?』
『これだよコレ。ほら、自動生成機で資材作ると入るマーキングだよ。
これで、どこ製造とか推測できないか?』
『……』
ローラは険しい顔でコータの説明を聞き、そして、そのマーキングを見ていたが、やがて口を開いた。
『ふうむ……偽装の可能性もなくはないけど、いちおう情報とれたヨ』
『くわしく』
『これは連邦系の田舎の工房惑星のマークだネ。
もっとも自動生成されるものだし、単に連邦製の自動装置をオン・ゲストロで使ってる可能性もあるよ、念の為』
『可能性だけで十分だよ』
この手の製造マーキングは実用性のあるものではなく、なにかの証明に使うものでもない。
地球でもよくあるが、そもそも建築資材のマーキングなんてものは同業者むけのものであり、一般人むけの表示ではない。
ミリアは銀河の住民としての時間が短いから、逆に目についたのだろう。
『これは盲点だったネ。単純すぎて気づけなかったか』
『まったくだ……ところで、どうやって調べた?まさかネット検索したのか?』
ちなみに現状、彼らは潜伏中。
オン・ゲストロの設備の元にいるとはいえ、現状ネットで調べものは危険行為である。
しかし。
『そんな危険な真似するわけないだろ?』
『だったらどうやって?』
『映像記録さネ』
『映像記録!?』
『船体のメモリに、かつて遭遇した船舶の映像記録が大量にあるのサ。
そいつをスキャンさせたら、あるわあるわ。連邦の船の写真が大量に出てきたってわけサ』
『へえ……この船に保存してたってことだよな?
でも、なんでそんなもん保存してたんだ?』
『写真は、あとで意外なところで役立ったりするからネ』
「なるほど」
かつて、この船を教育したのは目の前のローラ。
おそらく当時の教育方針だったのだろうとコータは理解した。
『それでだ。
あんたらが戻ったことだし、明日には惑星「チキュウ」の衛星軌道にいるオン・ゲストロのサービス船のところに行くけど問題ないね?』
『ああ、ないよ。ミリアもいいか?』
「……」
『ミリア?』
「なんでもない。
うんわかった、明日ね」
ミリアは少し考え込んでいたが、やがてハッキリと了承するのだった。




