017-帰ってきてみたら
船でのひと仕事を終えたコータは、精霊界に無事もどってくることができた。
頭脳体の老婆ローラとの会話でミリアの体質について思うところのあったコータだけど、長い目で状況をみていくという事で意見を一致させていた。
まだミリアは若いし、銀河では人々の寿命が地球より長い。
地球生まれのミリアだけど彼女もまた、若いまま数百年は生きられるだろう。
急いで未来を決める必要などないのだと。
そんな思いで戻ってきたコータなのだけど。
戻ってきたコータはミリアを見て、いきなり目を剥くことになった。
『ただいま──って、おい』
ミリアはひとり、屋台で刺し身を食べていた。幸せそうに。
その風景に、コータは強い違和感をおぼえた。
「おかえりコータ、精霊界でもお刺し身食べられるんだねえ。はい」
『──ああ』
たしかに美味い。よい味だ。
だが今はその時じゃない。
『なんでミレーヌが混じってる?何があった?』
「うわ、即バレ!?」
『あのなぁ……で、説明』
「あははは……わかった」
『よりによって融合スキルかよ……あいつ、そんなこと一言も言わなかったのに』
「そりゃあ、コータに知られたら対策されるでしょ」
『対策って?どういうことだ?』
コータの疑問は当然だった。
融合は古くからある稀少スキルで、その内容もよく知られていたからだ。
つまり。
「切り札って思ってたみたい。
もしコータが死にそうになったら、自分を融合させて助けるつもりだったみたいだよ?」
『……あいつは』
「ミレーヌちゃんの気持ちは知ってたんだ?」
『まぁな……けど、とっくに心変わりしたと思っていたよ』
「甘いねえ」
『そうか……しかしその感じ、あくまでミリアがベースなんだな?』
「うん、そう。ごめんなさい」
『謝る必要ないよ、そもそもミリアは単に受け入れただけだろ?』
「知ってるの?」
『知識としてはな。
しかしそっか、ミレーヌと融合か。
追いかけてくる可能性は確かに考えてたけど──まさかこんな結末になるとはね』
「……」
猫の顔はわかりにくい。
だけどミリアには、コータが悲しげにしたのがよくわかった。
それはそうだろう。
融合したということは、その者は死亡したということなのだから。
だから何もいわず、ただミリアはコータを抱きしめた。
『ミリア?』
「悲しいね」
『っ!』
ピクッと反応するコータを優しくミリアはなで、そして話かけた。
「いいよ泣いても」
『……』
「親しい子が死んだら悲しいよね……どんな子だった?」
『融合したんなら知ってるだろ?』
「そうじゃなくて、コータから見てどうだったの?」
『ああ……元気で無邪気で、とても懐かれていた。一時期ちょっと疎遠だったけどね。
小さい時はおにい、とか、にーにで。大きくなってからはお兄様だったっけ』
「そう……大好きだった?」
『いい子だったし、僕としては癒やしだった。
ただ、周囲が婚約させようとした時には焦ったかな』
「迷惑だった?」
『いんや、むしろ嬉しかったよ。それはとても楽しい未来の予想だった。
だけど、僕は自分の空間魔法を極めたかった。
そんなワガママ野郎につきあわせるなんて、できるわけがなかった』
「……バカ」
『え?』
「それ焚き付けてるのと一緒だよ。逆効果だよ」
『え、そうなの?』
「あたりまえじゃん。
ねね、それより教えて。ミレーヌちゃんのことって、他にどんなこと覚えてるの?」
質問していたのはミリアのはずだったけど、いつのまにかコータが語り、ミリアが聞き役になっていた。
そしてコータはいつしか疲れ果て、ミリアの腕の中で眠ってしまったのだった。
「……」
そんなコータを、とてもとてもやさしい目で抱きかかえているミリア。
そして──いつのまにか、そんなふたりをこっそり見ている先刻の妖精たち。
彼女らがミリアに念話で声をかけた。
『うまくいった?』
『おせっかい?』
ミリアは苦笑した。
『あのね……ありがとう。
でも、コータを泣かせるのはイヤだから、こういうのはこれっきりにしてくれる?』
『うふふ、わかったわ』
『さあ、つぎはけっこんね!』
『……ほんとに大丈夫かしら?』
妖精たちの反応に、ためいきをつくミリアだった。
翌朝。
『ん?どうした?』
「あれ、なんか妖精がいた気がしたんだけど」
『荷物にまぎれてたのか?』
「うーん、そうなのかな?」
『気配は……ないな、よし。
でも怪しい感じがしたら、転移中でもすぐ戻るぞ』
「まずいの?」
『まさかとは思うけど、密航でもされたら面倒事になる』
「悪さでもするの?」
『いや、悪さはしないよ。でも大変だよ?』
「……どういうこと?」
『あー……なるほどね』
コータは納得げにうなずくと、ミリアにわかりやすく説明をはじめた。
『ミリア、今まで好奇心旺盛じゃない妖精ってみたことある?』
「え、妖精でしょ?歩く好奇心だよね?違うのは寝てる時だけ?」
的確すぎる返答がきた。
『それはそれで、ちょっとかわいそうな言い方だけど……そうだね正解だ。
で、その好奇心の塊が外に出る。どうなると思う?』
「……上を下への大騒ぎ?」
『どうだろう、外にでていいと思う?』
「まずい気がする」
『うん、とりあえずその理解でいいよ。
とにかく面倒事の元だから、間違っても密航させないように。いいね?』
「わかった」
『あ、そうそう。ミリア的にはもうひとつ問題があるぞ』
「なに?」
『妖精逃がしたら、たぶん精霊女王に怒られる。がっつりと』
「わかった、もっかい探そう」
『わかってくれて嬉しいよ、僕も手伝おう」
「よろしく」
しばらく探したが、幸いにもみつからず。
ふたりは安心すると、精霊界から宇宙船に戻った。
■ ■ ■ ■
精霊の森の奥にある、精霊女王の神殿にて。
当代の精霊女王は、現実世界に戻っていくミリアとコータを、精霊たちと遠くから見ていた。
「どうやらあの子は、無事にミリアと『融合』したようですね」
「はい、あくまでミリア嬢が主体のようですが」
「それでいいのですよ、彼女はミリアの中に溶け込み、ともに未来を見ることでしょう。
まぁ、今は見守る時ね……いいわねみんな」
「「はい、女王様」」
次回から現実世界パートに戻ります。




