014-状況
コータは猫型の知性体であるが、同時に重サイボーグでもある。
その肉体は銀河の科学による改造と、精霊女王の手によるファンタジーな加工のハイブリッド構成になっていて、銀河の普通のサイボーグにできないようなことも色々できたりする。
とはいえ、彼の真骨頂は過酷な環境ですぐに死なないことにある。
完全に生命維持装置が止まっている宇宙船での活動など、その最たるものだろう。
『ふう』
無事に空間転移が行われたこと、目的地を確認したコータは安堵のためいきをついた。
『おかえりかい』
『ああ、ただいま』
『中継点とはいえ、本当にこんな、何もない空間に転移してこれるんだね。大したもんだ』
『ま、なんとかね……ミリアほどうまくはないけどな』
『ん?あんたはあの子の先生じゃないのかい?』
『あいつは天才だから』
コータは小さくためいきをついた。
『なんだい、教え子が優秀だと問題あるのかい?』
『いや、ちょっと方向性に問題があってね』
『方向性?』
『同じ空間魔法なんだけど、やっぱ天才ってことかな、僕とは違うようなんだよね。
おかげさまで、どれがベストかってのを掴みそこねてる』
『ほう?くわしく聞いていいかい?』
興味深そうにするローラに1つため息をつき、コータは続けた。
『ローラ、あんたメルさ……失礼、始祖母様のことを知ってるかい?知識でなく本人をさ』
『言い直さなくても知ってるさ。神殿の大巫女様じゃないか』
『!』
えっと驚くコータにローラは続けた。
『何を驚くんだい、あたしもあの方に直接、恩のある身だからネ。ご同輩?』
『なんだ、そういうことかよ』
『そんなわけさ。さ、続けな』
『おう』
コータはうなずくと話を続けた。
『ミリアの才能って、魔術師じゃない気がするんだ。どっちかってーと神職っぽい感じがするんだな』
ふーむと映像の中で腕組みをしていたローラだったが、ふと一言告げた。
『なるほど……しかし、その心配はないんじゃないかねえ?まぁ確認は必要だろうけど』
『どういうことだ?』
映像の中の老婆が肩をすくめた。
『あんたが心配してるのはあの子、ミリアが、あの方と同じ才をもつんじゃないかって事だよネ?』
『……それは』
『その心配はいらないと思うヨ……あんただって感じてるだろ?
あの子はそういう意味じゃ普通の子だ。そうだよネ?』
『……』
老婆の言葉にコータが黙り込んだ。
『あたしだって、いわゆる巫女ってやつが一般的にどういうもんなのかは知らないヨ。
知らないけど、これだけはわかる。
あの方は、違う。うまくいえないが、この世にいながら別の世界にいる、そんなお方だ。
けどミリアは、あの子はそうじゃない、この世界の子だ。そうだろ?』
『でも、それは単に素人とプロの違いなんじゃないか?
あの人が普通じゃないのはつまり修行の成果であって、もしかしたらそれは』
『あの子も魔の才能を磨けば、同じになるかもしれない、か……ふふ、考えすぎだヨ』
幼子を見るようにコータを見て、そして微笑みながら老婆は続ける。
『自己紹介する時、自分のことを風渡る巫女ってあの方はおっしゃるだろ?』
『ああ』
『この場合の風とは人間の運命そのもので、つまり風渡る巫女とは運命を渡るもの、すなわち人の運命から外れた存在なんだそうだヨ。
よくいえば超越者。
だけど現実には、普通の人として生きられない異端。
……コータ。
あんたはミリアが、そんなとんでもない存在に見えるのかい?』
『……』
『ま、焦る必要はないサ。これから確認していけばいいヨ』
『……ああ、そうだな』
猫と映像の老婆は、静かに話を続けるのだった。
■ ■ ■ ■
対するこちらはミリア。
船を見に行くというコータを見送ったあと、ミリアはルクリウム通りとバルリウム通りの間にある屋台広場でお茶と軽食にありついていた。
主力は飲食店の屋台で、食材などはバルリウム通り側から提供されている。
当たり前だけどボルダ発行の電子マネーは使えないので、コータに少しお小遣いをもらっている。
ミリアは、お店のひとつで甘いお茶と甘くないお菓子を買い、場所を定めて座り、幸せそうにスイーツタイムとしゃれこんでいたわけだが。
(え、漂流者?)
周囲の会話に耳を傾けていると、その中に、気になるキーワードが紛れ込んでいた。
思わずミリアはその方を見てしまった。
噂をしているのは、人間サイズの存在が3体。
おそらく人でなく、妖精のたぐいだろうと思われた。
妖精には色々いるが、人間と寸分変わらぬ姿の個体もいる。そういう個体は人間のように自活している者が多い。
耳が尖っていたり、金属のものを全く身に着けなかったり、まるでファンタジー作品に出てくるエルフ族のようだ。
やたらと美人ぞろいなのも特徴で、確かに見ていると目の保養にはなるのだが、ひとつだけ注意点がある。
それは。
「あら」
「!」
しまった、気づかれた。
ミリアの視線に気付いた妖精たちは、一斉に「あらあら、うふふ」と楽しげな顔になった。
さらにミリアにむかい笑顔で「おいでおいで」をはじめた。
こうなると妖精たちは止まらない。
サラダや果物をもちあげて、おいしいよーと誘いだす者までいる。
悪意などまったくない、無邪気な笑顔。
(……あらら)
とはいえ、たしかにおいしそうだ。
ミリアは苦笑いしつつ、お姉様たちとの会話にのぞむのだった。
「え、行き倒れ?」
お姉様たちのサラダを美味しそうに食べながら、ミリアは眉をしかめた。
……ちなみに、この手の妖精で注意すべきというのは、ここである。
彼らに悪意などはないが、飲食物を皆で分け合って食べる習慣がある。
しかし、勧められるままに飲食してしまえば、この精霊界にしばられてしまう……とまぁ、そういうわけだ。
ミリアやコータは精霊女王の加護つきなので平気だけど、普通はこの時点でおしまいなのである。
さて。
「そうなのよぅ」
「そうなのよって、大事件だよね?」
「そうなのよぅ」
大事件のわりにはノリが軽い。
ていうか、まるでコータじゃんと思ったミリアだったけど、続く妖精たちの言葉に目を剥いた。
「行き倒れも珍しいけど、猫型もめずらしいよねえ」
「ほんとほんと」
「猫型!?」
なんだそれと思ったミリアは、思わず聞き返した。
「ひとなんだけど、猫なのよねえ」
「まるでコータみたいよねえ」
「コータを知ってるんですか?」
「もちろん知ってるわよぅ」
「あたしら、あのコの時も第一発見者だもんネ」
「ねー」
「そうなんですか?でもなんで?」
「でももなにもミリアちゃん、あなたコータのニオイべったりじゃん」
「だから呼んだのよぅ。
なになに、あたしらのこと、にんげんに飲み食いさせるやつって思ってた?」
「……あはは、ごめんなさい」
「まぁ、間違ってないけどー」
「間違ってないんかいっ!」
思わずミリアはツッコみ、笑いがあふれた。
妖精たちの根城は海と陸の隙間にあるらしい。
干潮の時間に面白いもの探しをするのは彼女らの日課で、だから漂着者もよく見つけるのだという。
口々に言う妖精たちの言葉をつなぎあわせつつ、ミリアは眉をしかめた。
まさかコータと同族なんてことは……。
「たぶんコータと同郷よねえ」
「えっと、それはどうしてですか?」
「理由なんてないよー」
「みればわかるの」
「興味ある?ある?」
話をしながらミリアは妖精たちの挙動を観察した。
妖精たちは気まぐれで適当なところもあるけど、精霊と同じで基本、うそは言わないし悪意もない。
もちろん、うそじゃないからといって正しいとは限らないのだけど。
──時間の無駄かもしれないけど、見てみたいかも。
もしかしたらコータにつながる何かの情報があるかもしれない。
「興味ある。おしえて」
気がつけば、ミリアはそう答えていた。




