008-どうして?
ミリアとコータだけの会話のところに、船舶頭脳の老婆『ローラ』が加わった。
ハイパードライブもおわり、通常航行に戻った。
【まもなく就寝時間です。健康のためには長めの睡眠を推奨します】
『おや、あたしもかい?』
【ローラはそこまでの睡眠は必要ないでしょう。あとで少し話を】
『はいよ、あんたも今のうちにシステム休ませときな』
【了解ローラ、それでは】
そういうと、コンピュータの声はやんだ。
『コンピュータと平行動作なのか?』
『あたしはただのオマケだからネ、本体に負荷はかかってないんだヨ』
「……昔から、今みたいな感じでお話してたんですか?」
『ああ、船舶コンピュータの教育としては邪道なのかも知れないね、まぁ。
当時あたしは、あんたより年下の本物の小娘だったからね……手探りでなんでもやったもんサ』
【ローラ、お茶】
『ああ、ありがとさん』
映像の中の老婆は、横から伸びてきたマニピュレータの手からお茶を受け取っていた。
ちなみにミリアとコータも、こちらは映像でなく本物だが同じお茶を受け取っている。
映像の向こうとこっちでお茶を飲みながら、和やかな雰囲気で会話が続いている。
……ただし会話の中身は不穏だが。
「お話戻しますけど……連邦って、そんなに地球を嫌ってるんですか?」
『嫌ってるのは地球というより地球人だねえ、この場合』
映像の中のローラは、お茶を飲みながら言い切った。
『ミリア、あんたら始祖母様の話をしてたろ?』
「あ、はい」
夢の中で魔法を習ったと言いそうになり、あわてて軌道修正したミリアだったが。
『ん?そうか、あんたたち魔術師だったね』
「!?」
ミリアだけでなくコータも目を剥いていた。
『隠す必要はないよ、これでもコアもちでね。ほれ』
「あ」
『お』
映像の手前に、ぽんとロウソクのような小さな火が灯った。
『狙って遠隔で使えるのかよ……なんで船舶頭脳が魔法なんか使えるんだ?』
『ただの趣味さ。さすがボルダだ、あたしにも使えるとは思わなかったネ』
『つまり知的好奇心で習ったと?』
『そうさ、わかってるじゃないか』
ローラはうふふと楽しげに笑った。
そしてそのあと、眉をよせてシリアスな顔に変わった。
『話を続けるよ。
始祖母様を知ってるなら、あの方の業績も知ってるんだろう?』
「えーとね……」
ミリアは自分の学んだことを、ローラに話すのだった。
ミリアの魔法の先生であること。
コータのこの世界における身元保証人でもあること。
彼女は不思議な能力をもつ人物であるが、彼女があるところで始祖母だのなんだのと呼ばれ、あるところではテロリスト呼ばわりされていること。
『わかってると思うけどこの件、始祖母様が悪いわけじゃないからネ』
「うん、わかってるよ……きいた時にも思ったけど、本当にひどい話だよ」
メル嬢が地球出身というだけで地球を焼き払い、人類をほぼ殺し尽くした。
もし本当にそれが理由だとしたら、どう考えてもやりすぎだろう。
ミリアもこの点はまったく許容できなかった。
『それで話をまとめるけど、まだ終わっていない可能性があると?』
『ああ、そうだネ。しかも移動中に襲われる可能性を考えてるヨ』
「え、そんなことできるの?」
宇宙の広大さに対して宇宙船は小さい。
しかも地球周辺は銀河の一般的な定期航路から外れている。
そんなところを旅する小さなピアン号を探し出して、さらに襲う?
そんなこと可能なのだろうか?
だが、そのミリアの考えに反論したのはコータだった。
『そこまで大変じゃないぞ』
「え、そうなの?」
『そりゃ宇宙は広いよ。
だけど、どこでも好き放題に飛べるわけじゃない。
結果として、使ってる星図も広域情報ネットワークも似たようなもんなんだよ』
「あ」
言いたいことを少し理解したミリアも、少し目を丸くした。
その意味を理解したコータも、うんとうなずいた。
『おなじデータから同じロジックで航路計算して最短ルートを割り出すんだ、当然、航路は似たようなもんになるよ。
地球で、ナビってやつで道順とか調べたことないか?
あれだって、最短はこれ、みたいな感じであんまり選択肢なかったろう?』
「あー……」
あまり外出しないミリアだったが、それでも納得できるところはあったようだ。
ナビは選択肢があるようで、実は合理性以外の選択肢がない。
つまり有料道路を使うか、なるべく安く、あるいは速くという選択肢はある。
だけど私鉄にこだわる、幹線道路を避けるといった、ちょっと踏み込んだ選択肢には対応していない。
『しかも、情報を特定する要素ってのもあってね。
こっちがピアン号だってのも知られてる可能性が高いし、なんらかの方法で監視していたなら出発も把握してるかもね』
「え〜……それむしろ狙われ放題じゃん」
渋い顔をするミリアに、ローラが補足してきた。
『一応、王道は外してるし撹乱用航路も織り込み済みだけど、いつまでも騙されちゃくれないだろうネ』
「撹乱用航路?」
『行き先を特定されにくいようにする、まぁ小細工だネ。
いちおうは軍用の撹乱プログラムだけど、ま、少しはマシだろ』
「少しなんだ」
『まぁ相手もバカじゃないからネ。
あっと、それとひとつ許可をもらいたいんだけど、いいかい?』
『なんだ?』
『撹乱航路のひとつなんだけど、許可の必要なものがあるのさネ』
「?」
『まさかおまえ、ピアンでしかも銀河内で、超ロングのハイパードライブをかますつもりか?』
『ご名答、まぁ可能ならだけどネ』
『んー……たしかにこの宙域なら可能かも、か。わかった、可能なら許可するが、でもいいのか?』
『かまわないよ、というか、この提案はふたりの能力を考えてのことだよ。できるかい?』
『ああできるぞ、できるが……まさかと思うが、そこまでやるか?』
『必要だネ』
『了解、ではそうしよう。やってくれるか?』
『あいよ、たしかに。了承ありがとさん。
あと問題があれば戻るんだヨ?その時はこっちも本気出すからネ』
『おう』
ローラとコータはそういって笑いあう。
その会話に。
「??」
ミリアは首をかしげるのだった。
結局、その日の夜はそこでお開きになった。
コータたちは狭い居住エリアに戻った。
「ねえコータ」
『ん?』
「最後のあれってなに?」
『ああ、あれね。要するに、超ロングハイパードライブ中に精霊界に避難してくれってことだな』
「え、なにそれ?」
『つまり僕らの事情まで知ってるんだよ。
で、船内にいない時は生命維持装置まで切るつもりなんだ』
「……生命維持装置を切る?なんで?」
『乗員の生命維持をしない前提だと、ハイパードライブの選択肢が大きく増やせるんだよ。
しかも敵はそんな手段が使えるなんて、そもそも知らない。
これを利用しない手はないだろう?』
「あー……よくわかんないけど、まぁわかった」
納得したミリアは大きくうなずいた。
次回から精霊界パートになります。




