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ミリアとコータ  作者: hachikun
宇宙のエージェント研修?
35/40

007-地球をとりまく状況

 改めて、現在の地球についての話が始まった……銀河系の映像つきで。

 小船とはいえ機関所属の船の中なので、資料もすぐに用意できた。

『ここいらでちょっと、マクロレベルの復習をしようか。

 銀河系は周辺の島宇宙の間でトゥムと呼ばれている。意味は知ってる?』

「トカゲ」

『正解、イーガの言葉で意味はトカゲ。銀河系はトカゲの銀河ってわけだ。

 銀河系の筆頭種族が爬虫類系人類のアルダー族で、彼らは昔から銀河系を代表しているからね』

 うんうんとミリアもうなずいた。

 そうなのである。

 実のところ太古の昔から、銀河系の筆頭種族は爬虫類系なのだ。

『さて、そんな銀河なんだけど……今はオン・ゲストロが筆頭集団になってるけど、つい最近まで筆頭は銀河連邦だったんだ。

 当時、連邦は銀河系の六割に広がっていて、むしろオン・ゲストロは暗黒街呼ばわりされていた』

 銀河系の勢力図が現れる。コータが言うところの、少し前のものだ。

「ねえコータ」

『なんだ?』

「あのね、当時はナーダ・コルフォ……ボルダのお隣の星が連邦の中心だったってきいたけど。本当?」

『そうだよ』

「けどナーダ・コルフォって、楽器屋さんの星だよね?あんな星で?」

『正しくは楽器工房と職人の星だね。まぁ間違ってないけど』

 無理もない疑問だった。

 ナーダ・コルフォとはそのまんま、楽器工房という意味。

 ずっと昔、知的生物がおらず森と動物たちだけの星だった惑星に、ひとりの楽器職人がたどり着いた。

 彼は無限に広がる巨大な原生林たち森・森・森の風景に魅せられ、仲間たちを呼び寄せた。

 それがナーダ・コルフォの始まり。

 その歴史は今も続いていて、今も惑星を代表するのは楽器職人ギルドだったりする。

 だが考えてほしい、職人たちが政治家や官僚の仕事などしたがるだろうか?

 いやいやそれどころか、政府の建物すら作る気がないのだ。政府代表の番号に電話をかけると、つながるのは町の製材所である。ふざけてるのでも冗談でもなく、電話があるのが工房と製材所だけなんだから仕方ない。

 ちなみに楽器は全銀河に輸出されているが、その交渉をやっているのはボルダの神官たちである……まぁ請負の代金として、楽器の予約枠を毎年何台かもらってはいるのだが、はっきりいって儲かってない。事実上の手弁当である。

 そんな、頭のおかしい星が銀河連邦の中心地をやっていたと言われても、ミリアが首をかしげるのも当然だった。

『ナーダ・コルフォに王国跡地って平原があるの知ってる?』

「知ってるよ。なにもないとこだよね?」

『当時、ナーダ・コルフォにはアルカイン王国って国があったんだ。平原はその跡地だよ。

 そうだね、地球にあった国にたとえると、バチカン市国みたいなものかな。

 アルカイン王国は銀河連邦の中枢という業務をこなす、そのために作られた国だったんだ』

「あー、バチカン」

 バチカン市国のなりたちとアルカイン王国は全く異なるが、ひとつの国の中にある別の国であること、そして目的をもって作られた国という意味では、まぁ似たようなものだろう。

「そうだったんだ……で、どうしてそのアルカイン王国はなくなったの?」

『滅ぼされたからだよ』

「え、誰に?」

『竜帝国の女王様だな』

 涼しい顔でコータは続けた。

『ケセオアルカイン事件を知ってるよね?』

「うん知ってる、人とドロイドが結婚できるようになったんだよね?」

『うんうん、で、彼らはボルダをバイオハザード認定してさ、全住民ごと抹消しに来たんだよ。

 でもその時、竜帝国の女王様が大神殿に遊びにきてたんだよね。

 それでアルカインの軍隊の真正面に立ちふさがって、帰れと説得しようとしたんだけど、なんか未開の原住民でも相手にするみたいな、ものすごい失礼なことを言われたうえに、すごい上から目線で追い払おうとしてきたらしいんだよね。

 で、あたりまえだけど女王様は大激怒……そりゃそうだよね。

 真正面から戦いを挑んでその軍隊を滅ぼしたうえに、ドラゴン軍団を率いてアルカイン上空に押し寄せてさ。ブレスの一斉攻撃で王都まるごと焼き払ったってさ』

「……銀河系の六割を支配してた国の首都を、ドラゴンのブレスで焼き払ったの?」

『そだよ』

「……」

 困惑顔で頭をかくミリアに、コータは続けた。

『それで復興するかってところで、そもそもボルダの隣で運営を続けるのはハイリスクだって話になってさ。

 それでアルカイン王国を畳み、移動することになったんだ。

 まぁ、もともと、大国の影響のない専業国家を作って連邦を運営させてみるってコンセプトだったらしいし、当初の目的は果たしただろうってね』

「ナーダ・コルフォに国を設置した時とは状況が違ったってこと?」

『正解。そもそも大家(おおや)である楽器工房も、だいぶ前から不快感を表明してたしね。

 お隣のボルダを攻撃しようとして失敗したことで、もういいじゃないかって事になったんだって』

「なるほど」

 ミリアはためいきをついた。

 

 

「ねえコータ」

『なに?』

「地球を滅ぼしたやつは捕まったんだと思うけど、お話きく限りそれって実行犯だよね?黒幕いるの?」

『ああ黒幕ね、業者に指示したやつ……そっちはちょっと不明かな。調査は進んでると思うけど』

「……だったら危なくない?」

『え?』

 コータは、目をしばたいてミリアを二度見した。

『どういうこと?』

「相手の目的が不明ってこと」

『ん?業者の目的は判明してるけど?』

「それは現場の業者の話だよね?指示を出した人の思惑は?」

『そっちは……調査中だろうな』

「だったら、まだ危険なんじゃないの?」

『む、それはなんで?』

「……」

 ミリアはコータを眼の前に置いて、改めて向き直った。

「コータ、わたしは思うの。きいてくれる?」

『おう』

「黒幕さんの目的も業者と同じなら、たぶん続きはないんじゃないかと思うけど。

 かりにだけどさ、黒幕さんの目的が地球壊滅でなく、地球人殲滅だったらどうする?」

『!?』

 コータの目が大きく開かれた。

 ミリアの静かな指摘は続く。

『まさか……オン・ゲストロが名指しで保護指定し、さらにアマルー王家も保護を名乗り出てた星域だぞ。

 そこに小惑星ぶちこんで地上を焼き払うみたいな大バカやっといて、さらに目的は地球人の方だって!?そんなバカな!?』

「んー、そっちの事情はわかんないけど、でも、それだと筋が通ると思わない?」

『……たしかにそうなんだが、割があわなさすぎだろ。

 たしかに地球人はほとんど死んだ。もはや絶滅も同然だろ。

 だけど、それと引き換えにこの銀河でオン・ゲストロとアマルーの両方を敵に回すんだぞ?意味不明だよ』

「……?」

『そうか、そのあたりのバランスが不明なのか。

 あのねミリア、地球人は銀河文明の住人じゃないんだ。

 自分の星系どころか母星からも出られない種族なんて、そもそも知的種族と見られないからな。銀河的には地球人は、ただの現住生物にすぎないんだよ』

「たしかにその話はきいたけど……銀河文明の住人じゃないって、そこまで大きいものなの?」

『そりゃそうだよ、ひと、つまり知的生命かそうじゃないか、だからね』

 コータは大きくうなずいた。

『つまり、今回のバカどもをミリアにわかりやすいよう簡単にまとめると』

「うん」

『子犬に噛まれた。小さいけど大変痛かったですと。

 でも、その子犬は、実は太平洋上の小さな孤島の保護区から逃げ出した個体で、名だたる大国が共同で大切に庇護し、人を送り込んでその歴史を見守っている個体群の一体でしたと。

 噛まれたかい、そいつはすまなかったねと謝罪があり、話し合いももたれたと。

 でもバカどもは、話し合いや賠償なんかじゃ納得しなかった。

 こちとら人間様だぞ、クソ犬なんぞ叩き殺せとわめいた。

 で、犬を始末するので引き渡せと言い放ち、それを断られたら世界中探して同種の犬を殺戮して回ったあげく、大国が守っているその孤島に核攻撃までしかけて完全に焼き払ったんだ。

 ねえミリア。

 そんな馬鹿なことをしたら、保護していた大国たちはどうなる?』

「……めっちゃ怒るんじゃない?

 だいいち、元々は噛まれた方に義があったとしても、そこまでやったら完全に悪役でしょ」

『うん、僕もそう思う。

 事実オン・ゲストロもアマルー王家も激怒、完全に連邦は銀河の悪役になっちゃった。

 さらに銀河連邦は縮小傾向を飛び越えて、もはや消滅に向かいはじめた。

 そこまでの犠牲を払って得たものが、ちっぽけな保護動物一種の絶滅だよ?

 さすがに微妙じゃないか?』

「……うーん」

『な?

 ……とはいえ、たしかにミリアの指摘も、たしかに一理あるね』

「え、あるの?利点なんかないのに?」

『そりゃあ利点はないよ。

 けどさ、実はその犬に噛まれたことで、遺伝子汚染が発生していたとしたら?』

「え、遺伝子汚染?」

『ああ。

 その人たちは、言い方は悪いけど、くさったみかんを除外するようにして人々の健康を保っていた。

 なのに、その犬のせいでくさったみかんが大増殖、農園は大変な被害を受けちゃったんだ。

 もはや昔のままの営業は無理で、業態をかえるしかないとしたら?

 どうだろう?

 たとえ合理性はなかったとしても、汚染源の犬なんて殺せと叫び続けるかもしれないね』

「……それってもしかして、メルさんたちがやったこと?」

『メルさんが望んだことじゃないけど、結果としてそうなっちゃったね』

「……そうなんだ」

『あのひと、ボルダでも始祖母様って呼ばれてるだろ?あれはそのためだよ。

 彼女の因子を受け継いだ子供たちは、この銀河に星の数ほどいて、今この時も増え続けてる。

 文字通り彼女は、銀河の始祖たる母親なのさ』 


 ひとは宇宙では生きられない。過保護なまでにコストをかけて環境を維持しないと、すぐに死んでしまう。

 そこで、ひとに少しだけ手をくわえることで、そのコストを劇的に軽減できたら?

 彼らの恩人であるメル・エドゼマールはその昔、とある事情から銀河の聖女様に見込まれた。

 そして、その遺伝情報を使って、その壮大なおとぎばなしの生きた証にさせられたのだ。

 ミリアどころかコータもいない、ずっと昔の話だが。


『とはいえ、なんで今さらって気持ちはあるけどなぁ』

「今さら?」

『メルさんの件っていうと、ケセオアルカイン事件だぜ。きみも歴史で習ったろ、何年前だ?』

「百年やそこいらじゃきかないんでしょ?」

『そうなんだよ。今さら蒸し返すかって思うよ。

 おまけに、地球人としては死亡ずみで意識も記憶も失われた、まったくの別人であることも有名だしね』

「ふうん……でもさ、黒幕がそう思ってないってことはない?」

『どうかなぁ。僕が知る限り、未だにあのひとを地球人扱いしている人なんて、それこそ強硬派筆頭の…』

 そこまで言ったところで、コータがフリーズした。

「どうしたの?」

『いや、さすがに考えすぎかも』

「考えすぎでもいいよ。あとで教えて」

『……そうだな。それはないと言いたいけど、証拠なく否定するには危険すぎるか。わかった』

「うん、よろしく」

『ああ』

 コータは大きくうなずいた。

 

 ……と、その時だった。

【ハイパードライブ終了します。座席についてください】

『おっと、もう終わりか。ミリア』

「うん」

 コータを抱いたまま、ミリアは座席に座り直した。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

 

 何もない漆黒の宇宙。

 遠くに星々のきらめきが見えているだけの、永劫に何もない場所である。

 そんな寂しい場所で、唐突に空間の一部が縦に、巨大なスリットのように細く裂けた。その向こうにはよくわからない空間が広がっているが、それを見る者は誰もいない。

 ──そこから古びた小さな宇宙船が一隻、飛び出してきた。

 その背後で、巨大なスリットは再び、何もなかったかのように閉じて消えてしまった。

 ──そして。

 何事もなかったかのように加速しつつ、小さな宇宙船は漆黒の彼方に飛び去っていった。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

  

【ハイパードライブ終了しました。通常空間に戻りました。

 本日のハイパードライブは終了です。次はボルダ時間で八時間後、計算依頼を提出する予定です。

 ご協力ありがとうございました】

「……なんで八時間後なの?」

 ミリアが首をかしげたところで、コンピュータとは違う老女の声が響き渡った。

『ちょっといいかい?』

『!?』

 その声に対するミリアとコータの反応は全く異なっていた。

 ミリアは「あれ?」という顔をした。

 そしてコータは、声の雰囲気が変わったことに露骨に反応していた。

 

『おい、ここで正体あらわす気か?えーと?』

『誰かいるのには気づいてたかい、さすがだねえ。

 ああ、一応いっておくと、あたしゃ密航者じゃないよ。いわゆる船舶頭脳体だネ』

『船舶頭脳体!?まてまてちょっとまて!!』

『ん?なんだい?』

『意味がわからないぞ。

 大型船でメカニックやったり予備頭脳やってるはずの船舶頭脳体が、なんでこんな小型船に?』

『そりゃあ、この船の来歴のせいだヨ』

 クスクスと楽しげな声は続く。

『あたしゃ元軍属でネ、教育係を担当してたんだヨ。しかも船の頭脳のね。

 ……とまぁ、言えばわかるだろ?この子も当時の教え子というわけサ』

『元軍属だったか……てっきり、トラファガーの誰かと思ったんだが』

『ああ、それは間違いないヨ。ほれ、機関員番号だ』

『おっと、ありがとさん』

「???」

 首をかしげているミリアに、コータが説明した。

『このばあさんも同僚ってわけさ。ただし職場も寮も船の中で、地上には降りないけどな』

「……えっと、どういうこと?」

『彼女は合成人間、つまりドロイドなんだけど、かなり特殊な存在なんだよ。

 船の一部として存在する限り、生命維持システムすら必要ないんだけど、逆にいうと──』

『ひとの食事はとれないし、定期的にエネルギー受諾してないと機能停止しちまうのサ。

 おかげさまで、地上は不便が多くてねエ。

 で、機関に相談して今に至るって寸法サ』

『そりゃそうだろうけど、なんでわざわざこんな小船に……まさか!』

 コータの言葉が途中で、驚愕をふくんだものに変わった。

『いっひひひ、察しのいい坊やだね。いいね、嫌いじゃないヨそういうの』

「あの、えっと?」

『ふふふ、お嬢さんにわかりやすくいえば……そうさね、あんたらの乗ってるこの船は、いわば、あたしの子供みたいなもんなのサ』

 ひひひと女の声が笑い声をあげると、別の声が割り込んだ。

【子供みたいなもん、とはどういうことでしょう?

 貴女と私たちの関係は人間でいう『育ての親子』に該当すると認識しておりますが?】

『こら、ちょっと待ってなって言ったろ?

 この子らはつい最近まで非文明圏にいたんだ。こっちの事情を知らないのサ』

【なるほど、そういうことですか】

『理解したかい息子?』

【はい】

『ならいい。あんたは自分の仕事をしときな』

【了解、母さん】

 

 コンピュータの声と親子のような会話をしている『声』に、ミリアは首をかしげていた。

「……合成人間とコンピュータでも『親子』って成立するの?」

『公式には、あたしは単にこの子の元教育係でしかないヨ。

 だから、教育がすんで再会してもなお、母さん呼ばわりされた時にはさすがに驚いたネ。

 まぁ、この世にゃ育ての親子ってのがいて、血縁も種族も関係ないって教えてやったのは確かに当時のあたしなんだが……ふふふ』

 その声はなんだか楽しそうだった。

『なるほど事情はわかった。で、いきなり声がけしてきた理由はなんだ?』

 船舶頭脳はあくまでサポーターで、つまるところ裏方だ。

 メイン・コンピュータをさしおいて乗員と話すなんてことは普通しない。

 当然、そこには理由があるはずだった。

『そんなの決まってるだろ?あんたたちが普通じゃないからサ。

 機関のドック船に再就職して駐機場係をしてたあたしに機関から命令がきてサ。

 船に乗ってあんたらのサポートをしろというから、うちの愚息を推薦したまでサ』

『あー……命令は室長か?』

『正しくは、アレのお馬鹿な指示に、あたしがブチ切れたんだけどネ』

『は?キレた?なんで?』

『事情があるとはいえ、新人ちゃんと非人類型のコンビに何させてんだって話サ。

 話を聞いた時は、それでもトラファガーかい、職員を守ってやりもしないのかいって怒鳴ってやったヨ。まったく』

『あー……あんたそっちタイプか。ごめんよ、いらない世話をかけちまって』

 どうやら彼女は、かなりのお人好しらしい。

 そもそも宇宙船から母親呼ばわりされて、それを普通に受け入れる者だ。

 変人といえば変人だが、コータたちには頼もしい存在かもしれない。

『何いってんだい、こんなの面倒のうちにも入らないヨ』

 フッと、ふたりの前に大きめの通信ウインドウが開いた。そこには老獪そうなアルカイン族の老女の顔が写っている。

『とりあえず顔だししとくヨ、船内で直接出会うことはないだろうけどネ』

『事情も知らず、生意気いってすまなかった。改めてよろしく』

『いいよいいよ、こっちこそよろしく』

「あの」

『うん?なんだいお嬢ちゃん?』

「名前は?なんて呼べば?」

『ん?あたしゃ船の一部みたいなもんだし、好きに呼びな』

「……」

『ああ、わかったわかった、じゃあ、あたしのことはローラとでも呼びな。

 坊やもそれでかまわないよ、わかったね?』

「わかった、よろしくローラさん!」

『おう了解、だけどローラってどこからきた名前だ?』

『元々は「ローラァ・ロンダルア・ロージ・ロルマイン」が正しいんだよ。ローラもそこからとったんだ』

『ロルマイン……すまん、わけありだったか』

『いいヨ、そんなんお互い様だろ』

 そういって老婆、ローラは笑うのだった。

 

 

 意外な第三者の登場に話が一度中座したのだけど。

『それで話戻すけどネお嬢ちゃん、ハイパードライブが本日最後なのは、ここが非文明領域だからなのサ。

 このあたりは警戒しながら亜光速で通過する必要がある。

 で、それから次のハイパードライブに入るのサ』

「あー……わかりました」

『敬語はいらないヨ』

「あ、うん、わかった、ありがとう」

『あいよ。

 それでね、ここからは坊やもきいとくれ』

『……このタイミングで声がけしたってことは、あんたも危険を感じてると?』

『センサーは何もとらえちゃいないサ、センサーは……だけど、静かすぎるンだよねえ』

『プロのカンか……具体的には、どんなとこが気になるんだ?』

『こういう時は、ちっとヤバいやつが動いてることが多くてネ』

 ローラの言葉は、わかりやすすぎて逆に難解だった。

 コータは首をかしげたが、ミリアの方が先に反応した。

「このあたりって、いわゆる銀河文明圏じゃないんでしょ?静かで当然なんじゃないの?」

『たしかにそのとおり。けどネ、実は非文明圏ってのは結構、いろいろなやつが行き交うモンなのさ』

『ほう、具体的には?』

『悪いけド、そこは運行上の秘密ってやつサ。どこの船舶頭脳に聞いてもダメだよ?』

『ああ了解』

「……えっと、なに?」

『暗黙の了解ってやつだな。おそらく立場を越えて情報共有しているんじゃないか?──だろ?』

『悪いけど、ノーコメントだねえ』

『おう、ありがとよ。

 こういう情報は基本、外に漏らしちゃいけないんだ。知りたいなら婆さんと同じ船舶頭脳になるしかない』

「……そういうものなんだ」

『ああ、たぶんな』

 

 暗黙の了解っていうのはどこの世界でもあるものだ。

 プロ同士、現場での限定であり、自分らだけで閉じることを前提に立場を越えて情報共有。

 ミリアはさすがに経験が足りないが、コータには理解できた。

 

『ふーむ、婆さんも危険を感じてるってことは、やっぱり備えるべきかぁ』

『できれば考えすぎであってほしくはあるヨ。けどネ』

『オーケー了解、じゃあ対策会議しようぜ。ミリアもいいよな?』

「わかった」


★ローラの詳細:


諱:ローラァ・ロージ・ロルマイン

通称:ローラ

種族:船舶管理用特殊人造人間

国籍:ボルダ(オン・ゲストロ系)

注意点:実はコアもちだったりする。

解説:

 

 本来は宇宙船の予備頭脳兼メカニックみたいな宇宙用人造人間で、機械式ではないのに有機型生物特有の生命維持が不要というものすごい存在。エネルギーが切れると単に休眠に陥る。

 宇宙船システムの中なら何でもできるがその反面、船舶システムの中にいないとエネルギーが切れた時点で活動停止するし能力も制限される。本来の肉体では喋ることすら不便。そのため地上は苦手である。


★頭脳タイプの合成人間の軍での扱いについて


 合成人間はつまるところ『製品』なのだが、人のように耐用年数が決まっていて歳をとると退役になる。

 ボルダでは機械整備用や予備頭脳用の場合、払い下げの機械類の面倒を見るなど名目で国が改めて保護登録し、当人の希望により仕事を割り振ったり、場合によっては地上用の肉体を与える。

 当人が希望すれば悠々自適も可能ではあるが……。



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