七人と二匹と新たな仲間のダンジョン研究(2)
「朝から精が出ますな由依ちゃんや」
そう声を掛けられて振り向くと、懐かしのジャージ姿のとーさんが居た。
「おはようございますとーさん」
そう返事を返すものの、遣り掛けであった型の続きを再開する。
とーさんはそれを見ながら、体をほぐす様に柔軟体操をしていた。
一通り型が終わったところで、そちらを見ると柔軟体操は既に終わっていたようで、此方をのんびりと嬉しそうに見ていた。
「こちらばかり見ていましたが、何か面白かったですか」
「いやー、最初に教えてからそろそろ六十年ぐらいたつんだっけ、かなり洗練されたなあと」
「そこまでわかるものですか」
「そりゃだって、今じゃ拳神ですから」
「追い付けたかと思えば、さらに遠くに行ってしまいますねえ」
「まあ、やってみるかい久々に」
冗談っぽく言いつつも直立のまま軽く右手を前に出し、クイクイと挑発するようにしてきたが、正直なところどう打ち込んでも、触れられるイメージがまったくわかなかった。
「辞めておきますよ、触れられもしそうにないですし」
とーさんは、そっかと言うとそのまま、散歩がてらにジョギングしてここまでこれたのはいいけど、宿までどうやって変えるか悩んでたんだと言いはじめる。
それが可笑しくなってしまい、思いっきり笑わせてもらった。
既に朝日も登り、近所の皆さんが掃除を始めようとでてきたが、そんな私を珍しく思い集まってくる。
皆さんと挨拶を交わすと、人気者だねえととーさんに言われ、少し恥ずかしくなってしまった。
トーさんを宿に送り、自分は店に戻って仕入れを手伝い、仕込みをして朝食をとった。
由依ちゃんに送られて宿に戻ると、にやにやした詩歌さんが待って居た。
「若い子と朝のお散歩はどうだったのかなー」
そう言いながら頬を突いたりして挑発してくるので、腰を掴みそのまま部屋に戻ってくすぐってやった。
流石に騒ぎに成るとあれかと思い、消音魔術をかけておいたが、同じ室内で寝ていたアカレ子に、うるさいですお父さん達と叱られたところでそれもやめる。
詩歌さんはしばらく布団で引くひくと悶えていたが、立ち直ると朝食に行こうと言い出し、全員を起こしてきた。
この宿は、泊まるだけも可能で、食事毎に食べる食べないも選べるようだったので、今日の朝食は無しにしてある。
皆を連れて、朝もやっているとの事なので昨日の店に行くと、まだ早い時間だったおかげか、だれも並んでいないどころか、中に店員もおらず準備中と成って居た。
店の前でのんびりとしていると、市場の方から由依たちが戻ってきた。
こちらに気付いたのか、由依は走ってきて前に着くと挨拶をしてきた。
「おはようございますシイさんに皆さん、開店はまだ先だけど、店の中で待ちますか?」
「おはよー由依ちゃん。そうさてもらえるなら是非に!」
店内に案内され、全員で席に着こうと思ったが、ガズだけ耐えられそうな椅子が無かったため床に直接座った。
それでも、テーブルの高さはガズにちょうど良かったので問題は無いだろう。
のんびり座っているだけにどうも耐えられなかった冬夜は、問題が無いなら仕込みを手伝うと申し出て、受け入れられ手伝った結果、いつもよりだいぶ早く仕込みが終わったようで、仕込みが終わった辺りで揃っていた店員たちが賄と言う名の朝食をとりはじめていた。
此方も誘われたが、ヨダがうまそうっすーでもここのお店のメニューの方が気に成るっすと、何とも言えない葛藤と闘い、結局店が開いてから普通にメニューを頼むという事に相成った。
開店時間が近づいてくると、店の外は昨日と同じように行列ができ始めていた。
既に中に居るこちらを伺い、なぜ既に客が居るのだと野次馬まで集まっていた。
開店時間の少し前に、女中たちは店の外で昨日と同じように道に囲いを作りテーブルと椅子を並べ、開店と同時に客を案内し始めた。
こちらもさっそくメニューから頼もうと思ったが、ヨダがメニューにある物ひとつずつ全部でお願いするっすと言ってしまい、面倒になったのでそれだけで済ませる事にした。
それを聞いた店員も、一瞬呆けていたが、わかりましたメニューの全品一つずつですねと返し、厨房へ戻り、オーダー全品一つずつと伝えていた。
確かに食べようと思えばすべて食べられるし、余ればそのままヨダの収納に大量にある入れ物に移し替えて持ち帰れもするので問題は無いが、たぶん確実に余りはしないだろう。
ヨダとガズとアカレ子は、食べる気に成ると、底なしに食べるので、この三人だけでも全メニューの量にも寄るが多分二巡出来るだけは食べられる。
案の定と言うか、他の客をさばきながらも次々と届けられる料理は、今のところ既に全てが空に成り、新しい料理を待っている状態であった。
結局全てを食べ終わる頃には、朝の営業時間の終わりとなり、開店から閉店までいる事に成ってしまい、満足したヨダはここはおいらが払うっすと言って少し多めに料金を払い、冬夜がすまなかったと謝罪をしていた。
店もしまいという事だったので、そのまま相談事を持ち掛けてみる事にした。
「由依ちゃん、俺たちと一緒に行かないか」
そう言うと、由依は一瞬嬉しそうになったが、そのまま悩み始めてしまった。
それを見たソグラが、ポンと頭の上に手を置き、優しくなでる。
「おう、ユイおれんところや、この地区を心配してるんなら、気にしなくていいぞ」
「そうですよユイさん、私も収納使えますし、女中の皆さんも使えるので仕入れも大丈夫です」
「それに仕込みだって、こいつが出来るから問題ないし、地区管理に至ってはあの爺様の養子達が完全に仕切るどころか発展させてるしな」
だから行きたいなら行って来いと言われ、由依は涙を流しながら感謝を述べると、同行しますがその前に皆さんに挨拶してきますと言って、外へと出ていった。
まだ暫くは滞在するんだけどなあと言う、詩歌のつぶやきは完全に聞こえてなかったようで、今日一日で、お世話になった全員に挨拶を済ませて、旅支度を整えて夜には宿へとやってきてしまった。
やってきた由依に、まだしばらくこの街を観光するからと言うと、顔を真っ赤にしながらまた戻って行った。
店に急いで戻りながら先程の事を考える。
ソーさんもミハちゃんも出るときに行ってらっしゃいって送り出してくれてたけど、何だか少しうれしそうと言うか楽しそうだった。
きっと、今日が出発ではないと知っていて、あえて教えなかったのだろう。
店の前に戻ると、普段よりも路に広く場所をとり、大量のテーブルと椅子が並べられた場所には、この地区の主要面子が全て集まっていた。
『おう、おかえりー、準備は出来ているぜ』
赤っ恥を書いて戻ってくるまでの間に、私の送別会の準備を済ませていたようだった。
一人一人が挨拶と共に、何かしらのプレゼントを渡してくる。
嬉しさにまた泣いてしまい、ソーさんがこりゃ明日は天変地異かなどと言うと、皆が大爆笑をし始めた。
それにつられて私も笑いはじめ、思い出してしまったのでついでだからソーさんを小突いておいた。
宴は結局日付が変わるぐらいまで続き、その後は皆で片づけを済ませて解散していった。
今日の夜はなんとなく、一番大きいベッドを使い、三人で川の字に成って眠ることにした。
「ありがとねみんな」
「まあまだ暫くは、観光するみたいだし、案内してやればいいじゃねえか」
「そうですよ、こちらは今後の練習に成りますし」
「ならそうさせてもらいましょうかね」
そう言ったやり取りを少しした後ぐっすりと眠りについた。
翌朝からは、冬夜達と一緒に街を案内し、色々見て回り終わった後に漸く旅に出る事となった。
旅に出る日は、サワダ地区は何故かユイの旅の無事を祈ってと言う名目で祭りが開かれ、皆に由依たちは見送られていた。
「なんだか、私が出ていくのを喜んで祭りをされているみたいで微妙な気分ですねえ」
「まあ、無事を祈っての事だからいいんじゃないか」
「ユイ、皆に、好かれてる」
「そうですよぉ、これから先行くところを考えれば、無事を祈ってもらった方がいいですし」
「一体どこに行く気なんですか?私死んじゃいますよ」
「んーん、この世界の最難関のダンジョンに行くだけだから、問題ないよ」
「問題だらけっすよ、おいらなんか既にお腹痛くなってきたんでさあ」
「危険度は全くありません、踏破だけなら、お父さんかお母さんなら一人で出来ますから」
アカレ子ちゃんがそう言いだしたが、とーさんもシイさんもすでに人外の領域だ、詳しく聞くと私もあと一歩踏み出してしまうと、不老不死に成ってしまうらしくそうなれば時間はかかるが踏破は可能らしい。
そのまま目当てのダンジョンとやらに向けて、のんびりと旅を続けていた。
魔物の襲撃が一切なく、たまに食材を探しに森に行くも、冬夜が一緒だと何も起きることもなく採取が捗る。
詩歌がたまに大物を仕留めてきても、良く判らない魔道具で瞬時に解体され、魔石が無い事に気付き質問をすると、その魔石を使って解体をする道具なので魔石が手に入らないと聞き、勿体なさ過ぎませんかと言うも、お金に困ってないし、魔石自体もあまり使わないのと、あっちの二頭が魔石と骨だけ持ってきますからと言われた。
たしかフウタというホワイトタイガー(?)とイシアというユニコーンだった、伝承が嘘で誰でも乗せると聞いて、一度乗せてもらったが、全力で走られたときは恐怖した。
由依が旅を始めてから二十日ほどたった時に、自宅に忘れ物をしたことに今更気づき困っていたら、イシアが取りに行こうかと申し出られて、時間がかかってしまうと言ったのだが、私ならすぐだと言われ嘘だろうと思いつつも乗ったのがそもそもの間違いだった。
本気で走ると言われ、お願いしますと言った数時間後に自宅の前に着いたからだ、周りを見ようにも先の方に微かに見える以外周囲はほぼ真っ黒に覆われ、その先の方の景色すらぼやけてよく見えないありさまの中、進んで行くのだ。
確かに早く着いたのだが、心臓に悪すぎた。
必要なものを回収しついでだからお昼を食べたとき、皆にもう戻ったのかいと声を掛けられたが、又行ってきますと言ってイシアに乗り戻った、その日の夕方には皆と再度合流できてしまった。
「で、結局由依ちゃんは、どうするの不老不死行っちゃう?」
「何を気楽に、お二人はどうなんですか」
「ああ、俺たちは既に踏み外したけど、女神との約束で、この世界に飽きたらそのまま神界で手伝いかな」
「神の世界、それって私もいけるんですか、さらなる未知の食材とかありますか」
「ん~、行くのも可能だろうし、有るんじゃないかなあ。女神の言っていた倉庫とやらを探せば」
「お三人が居なくなると、非常に私たちが困るんですが」
「大丈夫です、お父さんたちは飽きると言ってもきっと、皆さんが亡くなってからでしょうし」
「それなら、別れない、寂しく、無い」
「最期を神に看取られて行けるなんて良いっすねえ」
そんな話をしていると、冬夜の魔道具に連絡が入る。




