七人と二匹と新たな仲間のダンジョン研究(1)
世界中を回り始めて五年ほどが経ち、ようやく由依の居る街のサワダ地区に到着した一行。
街中を見て、色々と刺激されたのかレグアは魔道具屋に、ヨダはそこらじゅうの食べ物屋や屋台に、アカレ子は子供たちの遊び道具らしき物に興味を示し、好き勝手に移動してしまう。
イシアとフウタは、最初に取った宿の厩舎で大人しくしているが、二匹とも意思が疎通できるので、宿の者たちを困らせてしまいそうで心配に成る。
ガズとシルヴァイルはサワダ地区記念会館なるものの存在を聞き、そこを見てくると言って出かけて行った。
冬夜と詩歌は、もともとの目的である飲食店へと向かったが、物凄い行列と成って居た。
「これお店に入れるのかなあ」
「どうだろうなあ、回転が良いわけじゃなさそうだから、ここまでの行列となると、夕方までかかりそうだな」
そう言っていると、店内の方から何人かの女中が出てくる。
そして、店の前の広い道の半分の領域にポールを立てて行き紐で囲い、囲った内側に次々と収納から取り出した机と椅子を並べていく。
列の前の方に並んでいた者たちは慣れているのか、その出来上がった席に順序良く座って行った。
これにより、長かった列の三分の一程が席に着いた事に成る。
「へえ、面白いこと考えるな、しかしこれ捌けるのかね」
「どうだろ、ここまでやったって事はこなせそうだけど」
そう言っていると、女中たちが片っ端から注文を受け付け始める。
すべてを聞き終わると、店内へと戻って行き、それから十五分ほどすると手ぶらのまま戻ってきて、各テーブルに収納から取り出し配膳していく。
すべてのテーブルに料理が並ぶのを見て、普通十五分でこれだけの量は作れないだろと疑問を抱えた。
「これはやっぱり」
「いるよねえ」
これだけの事をこなすには、あの称号が有れば出来なくはないという確信が有る。
すなわち食の女帝、まともに調理せず、称号の力を使ってしまえば、この位の状況は普通に再現できてしまう。
故にここにはあの子が必ずいるはずだと確信を持った。
暫く並んで待って居ると、自分達より後ろに居た方々は、昼休みが終わってしまうと言って、あちらこちらへと散って行き、気付けば自分たちが最後の客と成って居た。
丁度人もはけたようで道に配置されていたテーブルなどは片づけられ、店内へと案内される。
店内に入った際に確認をしたが、案の定あの子は厨房に立っていた。
「おーい、由依ちゃーん」
店内もほとんど人が居なくなっていたので、周囲も気にせず大きな声で声をかけると、此方に気付いた由依がやってきた。
「シイさんとーさん久しぶりです。今日此方に?」
「うん、さっき着いたところ、皆ばらばらに出かけたから私たちはここに来たの」
「しかしここ偉い繁盛しているな」
多少雑談をした後注文を頼むと、由依は厨房へと戻って行った。
昼時のピーク営業も終了したらしく店に残っているのは、店員以外は自分たちだけとなり、食事をとり終わると、女中たちは帰り厨房に居た竜人二人と由依がデザートを持ってやってきた。
「おう、あんたらがユイの師匠だって」
「師匠っていうか、やってた店の店員がユイだった感じだな」
「でも色々聞きましたよ、なんでもユイさんが追い付いたと思えたのは六十超えてからだとか」
「それはきっと美化しすぎなだけだよ」
「そんなことないですよ、あの自家製のジャンを再現するのにそれだけかかったんですから」
「あーあれはなあ、レシピに書いてあったままだと無理だったろうからなあ」
「まさか、前に作った物を混ぜて、そこに果物を少量摩り下ろして入れるなんて気づけませんって」
お互いに自己紹介をしつつ昔話に花を咲かせながら、雑談していると外から、「この街で一番と噂の店はここっすねーでもやってなさそうっす」という、おなじみの声が聞こえてきた。
冬夜が外をちらりと確認すると、案の定店の前にヨダが立ってしょぼくれていた。
当夜達から一緒に旅してきた仲間だというのを聞いて、賄でよければ出せるぞと、ソグラが声をかけた。
「マジっすか、それでもうれしいっす。食べられない事の方がこの街に来た価値が半減でさあ」
そう言って嬉しそうに店内に入ってきた。
ソグラが賄を作りはじめると、冬夜はそういえばこれお土産と言って、由依にこちらで再現したジャンの詰め合わせを渡した。
それを見るなり由依は、これって最近こちらでもまれに旅商人が扱っている奴じゃないですか、高すぎて変えなかったのでありがたいですと言い、早速厨房の自分専用の棚に並べた。
ソグラが作った賄料理は、生春巻きの様なものと、サラダに、スープと、混ぜご飯の様なものだった。
ヨダは、香りをかいで、なかなか独特感じがするっすねと、言うと早速食べ始め、気に入ったのかあっという間に食べきってしまった。
「めちゃめちゃうまかったっす、やっぱり噂通りの店だったっす」
食べ終わるなりそう言って、ソグラの手を握りひたすらに感謝を述べ、お代はいくらかを聞いて払おうとしたが、賄だから要らねえよと言われてしまい、それじゃこれを代わりに送るっスと言って、先ほど提供された料理などに合いそうなガラス製の器を、三セット程収納から取り出し送った。
「おいおい、いくらなんでもこんな珍しそうな物はもらえねえよ」
「気にしないで良いっす、ちゃっちゃと作った物なんでさあ」
ヨダの収納の中には大量の魔石と骨が入っており、それはフウタが一匹で狩ってきて食べた物の残りなのである。
その辺に魔石と骨をほったらかしにしておくと、アンデット化してしまうとアカレ子に言われ、それなら持っていくっすと、ヨダが回収していたのだが、何か再利用できないかと考えていた際に、魔物ガラスの作り方をアカレ子から教えられ、ヨダはレグアに頼み魔道具を開発してもらったのだ。
それにより、魔物ガラスを製造できるようになり、形などは魔道具に設定するとその指定した形が生産される仕組みに成って居た。
旅の途中で依田はそれを器などでも厚めに作り、専用の工具を使い削ったり傷を付けて柄を彫り込んだり、造形したりなどし、色々なガラスの食器を作り上げていった。
普通のガラスと違い、魔物ガラスは軽いのだが物凄く丈夫で、一般的なガラスよりも透明度が高くなっており、市場にはいまだ流していないのだが、流せば相当な価値に成るのではないかと思われている。
冬夜が、あんたらの賄がなくなってるんじゃないかと聞くと、案の定そうだったらしく、厨房を貸してくれと提案する。
了承を得られたので、少し待って居てくれと言い、厨房へ向かい収納から里から持ち出している自分用の調味料一式と調理器具を取り出し、旅の途中で補充した食材と常に補充してある炊き立ての白米も取り出すと調理を始めた。
使う肉は、ここに来る途中で見かけ愚かにも詩歌に襲い掛かろうとして又も頭を真っ二つにされた火竜の肉である。
地龍と違い、火竜はいかにもファンタジーに出てきそうな竜という見た目では有ったのだが、いかんせん不運というか、頭が悪かったと言うべきか、上空から一気にかみつこうと詩歌に斜めに突っ込んでいき、瞬間的に取り出した斧を真正面から喰らい、首の半ば程まで真っ二つにされてしまった。
血抜きなどと言った工程を面倒だと言い出した当夜の意見により、旅開始から一年ほどしたあたりでレグアが作り上げた、魔物解体魔道具により、きれいに素材へと分解され、冬夜の収納へとしまわれていた。
魔道具稼働の魔石は、倒した魔物の魔石をそのまま吸収使用されるため、魔石自体は手に入らないのだが、手間なく解体が出来るのと、解体した素材だけの売り上げでも、問題ないためあまり気にせずに愛用される一品となっている。
この集団の誰一人として、お金に困ることは一切なくなっているためにできる無茶な事だった。
火竜の肉をつかい、回鍋肉、から揚げ、麻婆豆腐、チャーハン、チンジャオロース、水煮を作り上げる。
水煮とは言うが、真っ赤であり、言うまでもなくとても辛い。
それらを作り上げ、三人の前に並べる。
「ああ、何十年ぶりかのとーさんの賄スペシャルじゃないですか」
由依は嬉しそうにしながらもほろりと涙を流した。
「この水煮とか言うの大丈夫なのか、やばいぐらい赤いんだが」
「こちらの回鍋肉というの、凄く美味しそうな臭いがします」
由依は真っ先に、麻婆豆腐に手を付け、久々に感じる痺れる辛さを堪能し、すぐさまチャーハンにも手を出し始める。
ソグラは誘惑に勝てなかったのか、水煮に手を付け辛ぇ!辛ぇけどうめぇ止まらねえと吠えながらバクバクと食べ続ける。
ミハイエはと言えば、片っ端から少しずつ味わい、気に入った料理が有ればそれを多めにとろうと考えていたようだが、二人の勢いに負けて食べそびれそうな予感がしたのか、勢いよく食べ始めていた。
少し時間がたち、全ての料理が平らげられると、材料を聞いて全員が驚いていた。
火竜の肉を使ったと言ったら、それは大金持ちが買って使うような食材で、一般ではまず食べられない代物だったそうな。
もとではタダだから気にすんなと冬夜に言われ、ユイも大概だと思ったが、師匠の方は更に化け物だったのかと言われ、火竜を倒したのは詩歌さんで一撃で他のしたことを伝えると、化け物というか既にこの世の理を無視した超越者だったかと言われてしまい、詩歌は解せぬ!と言い出していた。
その後も暫く当夜達と雑談をしていたがそろそろ、夜の店用の仕込みの時間となり、申し訳ないがと話を切り上げたが、この街に暫くは滞在するとの事を聞いて、由依は喜びソグラとミハイエは、土産でもらった調味料を使って作る料理を教えてほしいと頼み込んでいた。
その日はそのまま宿に戻り、夕食を食べて早めに全員が眠りについた。
翌日からは、全員で観光をするようだ。
翌朝を迎えると、久々の街という事もあり、夜が明ける少し前に冬夜は起きて此方の素材で作ったトレーニングウェアに着替えを済ませると、ジョギングがてらに街の散策した。
だいたい日が昇り始めたころにちょうど良い広場を見つけると、一人の少女がそこで太極拳をやっていた。
「朝から精が出ますな由依ちゃんや」
そう声を掛けられてこちらの方を見たのは、呼んだとおり由依であった。




