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8.『祝・召喚されました!!』

部室の椅子にしっかりと座った私に、黒野は腰に手をやり、壁にある時計を確認した。それからまっすぐ私を見つめ、こう言った。


「そいつは悪魔だ」

『そうなの! 悪魔です! 悪魔なの! 悪魔だぜ! しゃきーん!!』

「……」


彼女は私の横で嬉しそうにヒーロー者のポーズを取り出した。黒野は彼女を見つめ、ぷっ、と無言で吹き出した。


「それは彼女からきいた」

『わーい! ねえ! ねえ! この人笑ってくれたよ!! やったね!』

「少し真剣な話になるかもしれないからふざけちゃだめ」

『はーい! キャンディー食べて待ってるね! だからちょうだい!』

「ありがとう。はい、これ」


そう言って、私はかばんの中から季節限定の袋を開けて通常の味を数個彼女に手渡した。彼女はすぐに包みからキャンディーをだし、一回で二個口のなかに放り込んだ。


『サンクス! きゃああああ! やっぱり美味しいの! 甘いの! わーい! 口が幸せなの!』


瞬間、部室中を飛び回りだした。二つ同時に食べるのもいいかもしれない。私も袋の中から季節限定のりんご味をだして二つ口に含む。口の中にりんごの蜜の甘さが広がり、続いてさわやかな酸味がしてくる。頬が緩んできっと今の私は笑顔でいる。どんなに力をこめて表情を変えようとしても笑顔でいる自信がある。それくらい幸せだ。帰りにコンビニへ寄ってまた買おう。


「黒野もいる?」

「で、な……まあ……ぷっ……くっ! 遠、りょ……する。で……きっけっ」

「まだ笑ってる? そんな面白かったの……。まずは落ち着いて、待つから。 そういえば先輩は?」

「……っ! ぷ、ぐ……ぶちょ、は……でっかけ、た」


おそらく、部長は出かけた。と言ったんだろう。気付いたら性別の判断がつかない部員もいなくなっていた。奥の部屋にいったのだろうか。


『この人こわーい』


彼女が私の耳元でこそりと、ささやいた。


「そういうことは本人の前で言っちゃだめ」

『はーい!』


黒野はというと笑いを必死に絶えているようなのだけど、極悪な顔になっていた。こわいので私もできるだけ黒野の顔を見ないように――今後の黒野のにらみつけるを完全無効にできるように絶えることにした。



しばらくして


「待たせたな」


コホンと、握りこぶしを口元において黒野がかえってきた。


『キャンディーおかわりい!』

「はい、あとのは一個しかないから帰りの分ね」

『はーい』


彼女は元気よく返事をして、宙で正座をした。

「じゃ、お願い」


私も姿勢を正して黒野を真正面から見つめた。黒野は時計を眺め、一瞬目を丸くし、私と同じように姿勢を正す。


「俺が思うに、紫藤悪魔召喚したみたいだな」

「? いや、して……」

『そうなのです! 新人悪魔ティファニス召喚されましたあ!』


ない、と続きを言おうとしたら、ぱんぱかぱーん! と彼女は正座をとき、「祝・召喚されました!!」と達筆で書かれてある横断幕を持ち出した。どこからだしたんだろう。って、ティファニスって名前なのか。


「あと制服着せてるのはお前の趣味か? 召喚してすぐに服着せるとか……」


と訝しげに訊いてきた。なんだ、趣味って。失礼だろ。しかも鼻で笑いやがった。


「召喚した気は全くないんだけど……」


無視して、話を変えるが


『えへへ~似合う? あったから着たの! おそろいなんだあ!!』


嬉しそうにティファニスが、スカートの両端を指で掴みひらひらとまわりだした。私と黒野は黙りしばし生暖かい目でみつめることにした。


「昨日の博物館の本、中見たろ?」

「開いてあるまま落ちたからね。視界に入った」


不可抗力だったんだ、と言い訳をする。


「それだけ、召喚されたかったんだな……」


黒野はじっと幸せそうにキャンディーを口に含ませてるティファニスになんだか苦い顔をしながらも微笑ましそうに見ていた。視線に気付いたティファニスは『うん! 私ね、キミにすっごく召喚されかたったの!!』と私に向かって微笑んだ。


「で、お前なんだかつかれてないか?」


憑かれてないか? でいいのだろうか。


「うん? ティファニスに憑かれているね」


さっきまで私にしか見えなかったし、話していたときは知らない人に変人、痛い人という視線をもらった。話しかけたら悲鳴を上げられて逃げられたし。


「はじめて、誰かに悲鳴上げられて逃げられたさ」


あのときのおぞましいものを見ているような表情はしばらくは忘れられない。


「あー……たぶん勘違いしてるだろ。体調のほうだ、お前体調悪くなってないか?」

「いや、そんな……に?」

「なんだよ、その間」

「昨日の掃除のせいで筋肉痛になるかもしれない。あ、階段上がるのきつかった」

「運動しろ」


せっかく言ったのに黒野は冷たく一蹴した。


『はいはい! 一緒に鬼ごっこしよう!!』

「あとでね」


鬼ごっこは二人だけじゃつまらないから黒野も誘うか。ばんざいしてこたえたティファニスの頭を撫でなが……触れてる。黒野はため息をついて、言うんじゃなかったというように話を変える。


「気付いてるだろうが、悪魔は一般人には見えない」

「うん」

「不可視の状態ってやつだ。俺らが見えるようにする方法は、今の紫藤と同じように召喚するか、力をつけるか……だな。先天的には血筋とか……。たまになにもしてなくても見えるのがいる」

「血筋とかあるんだ」

「悪魔祓いとかそれ系に、悪魔と人間の間の子孫とかな」

「へー」


黒野も視えるということは、オカルト研究部に所属しているとこから後天的の線が高いのだろうか。先天的の悪魔祓いのほうなら、すぐに祓うっているのかもしれない。そもそもオカルト研究部にいるんだから後天的な気がする。それよりも


「気になってるんだけどさ。ティファニスに触れたり触れなかったりするんだけど、それはどうなってるの?」

「そいつの意思だな」

『えへへ~。気抜いたらなんでもぶつかっちゃうの!』

「? 悪魔が触るもの触らないものを選択してるってこと?」

「そうだ」


……とりあえずは納得。だから花弁はのときは触れる意思がなかったから通り抜けて、ほかのものは掴むときは触れようという意思があるから触れていたのか。壁にぶつかったのは触るように意識していたということになる? あれ。


「まあ、追々知ってくよ」


考えるのを放棄して黒野からティファニスへ視線をかえて言う。ティファニスは『らんっる~らら~』とキャンディーの余韻に浸っていた。


「そうしろ」


黒野は他人事のようにあっさりとうなずいた。


「じゃ、部活の時間は終わったから帰るか」

「え?」

「召喚した悪魔と仲良くやれよ。月曜日に」




*

お店の時間が終わりに近づくにつれ、昼間の活気と人が嘘のように減っていく。その間にできる片づけと在庫の補充をしていく。お客さんが来たらレジをして、終わったら作業を再開の繰り返し。慣れるまでは大変だったが、少しずつ覚えていくと楽なものだ。最近はというと期間限定のキャンディーが人気で閉店近くになると毎回補充している。


そんな中、一人の女子高校生がカゴを持ちすたすたと急ぐように歩いていた。


彼女はお菓子売り場につくと、カゴを置き、じっくりとお菓子の棚を見る。

どれを買うかは決まっているようで、指と目を動かしながら「これじゃなくて、あれ、ない?」と呟いている。しばらくして、また「はいはい、いまキャンディー探してるから、あとでね」と空に向かって、しっしと手で払っている。


「……わかったから。どれか一つならいいよ。キャンディー買う分なくなるのいやだし。期間限定のだから買いだめしときたいんだよって、ちがう。通常の味のはいつでも手に入るんだけど……って、ああ。店員さん困るからっ」


と、ぶつぶつ喋っていた。


そのバイトの店員は女子高校生がぶつぶつと虚空に向かって独り言を呟きながら、こちらを見たので、薄気味悪そうな顔をした。なにかご用でしょうか? そう問い返そうとしたとき、女子高校生が驚いたように「あ」と叫んだ。


バイトの店員も驚いた。そのまま、女子高校生の視線をたどるとダンボール箱の中から補充しようとしていた期間限定の商品が数個消えていた。


「? は?」


さっきまで、ちゃんとあった。不可解なことに慌ててると、女子高校生が恥ずかしそうにこちらに来ていた。彼女の手には消えていた商品があった。


「は、はははっ、すみません」

「???」


バイトの店員が理解する前に、女子高校生が「これもカゴにいれてもいいですか?」と、見ると期間限定の商品がカゴからはみ出て落ちそうなくらいにある。一目でこの商品を買っているのは彼女だ、とわかった。




黒野は「月曜日の放課後なー」というと私とティファニスに背中を向けた。


『またねー!』


ティファニスが元気よく手を振っているけど、私にはわからず混乱されたまま放置で慌てて呼び止めようとしたら


「ちょっ」

「今朝、寮近くのコンビニとスーパー行ったときキャンディー置いてあったぞ」


その一言で私には全てどうでもよくなって、そのまま売り場へ直行していた。


『ねえねえ!』

「え、キャンディー買えなくなるからだめ」


キャンディーを探している私の横から、グミの入っているお菓子の袋を指差している。


『えええ! さっきもたくさん買ってたのみたよ!』

「あれは、ティアニスが勝手に店員さんの在庫補充ようのを持ってきちゃったから買うことにしたの」


私の買い物袋にはたくさん期間限定のキャンディーが入っている。さっきのスーパーでまとめて買ったものだ。たしかにたくさんある。


『うう。だってキミが食べたそうにみてたからだもん! だからね、これが食べたいの!』


チョコ味のクマのクッキーが入ってある袋を一つ持ってきた。黒野から教えてもらった選択、をしているんだろう。


「って、また勝手に持ってきちゃだめでしょ。みんなにティファニスは見えないんでしょ。勝手にお菓子が浮いて動いてるってなるか……」

「キャンディーのぶん買えなくなるからだめ」

『やだ! 食べるの! 食べたい!』

「……ほら、次のコンビニいくよ」


と手を引っ張るも、ティファニスは宙に浮いたまま『いやああああ! クッキー食べたい! グミも! ケーキもおおおおお!!』と小さな子供のように癇癪をおこしている。


「今月はキャンディーで無理だけど、来月なら少しなら買ってあげるから」


言いながらティファニスのいる横をふりむいた。ティファニスの身体はうっすらと透けており、手に持っているものと比較するとはっきりと見える度合いというのがちがうのだ。今だってほら。ティファニスの身体を通して少し離れたとこで棚卸しているであろう(おそらくバイト)店員さんが見えて


「「……」」


案の定。棚だしをしていた、おそらくバイトであろう店員さんと目が合う。店員さんは私に、いらっしゃいませーと笑顔で挨拶をして、その視線が浮いているお菓子へといく。


『うう。わかったよおおおお』


ティファニスは猫背にしてお菓子をもとの場所へと向かった。そう、お菓子が浮いて動いているのだ。


店員さんは目をぱちくりとさせ、私と再度目が合う。


「「……」」


私と店員さんはお互いにあはははと、渇いた笑いをだす。そうして気まずい雰囲気の中、何事もなかったかのように店員さんは仕事を再開。私はキャンディーを探しだした。



『わーい! キャンディーも甘くておいしいけどクッキーもおいしいの!!』

「……そっか。それはよかったね」


ティファニスがわーい! と嬉しそうにクッキーを食べている横。私はというと重いため息を吐きベンチに座っていた。


『うう? どうしてキミは元気がないの?』

「うー、近くのスーパーとコンビニにしばらくはいけなくなったからかな……」


学校帰りに寄れて、重い荷物になっても寮まで近いから重宝していたのに。行きにくくなってしまった。


「まあ、キャンディー買いすぎて今月は行くこと少ないんだけどさ」


とほほ、と私はキャンディーを買ったときのレシートを数枚眺めた。


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