4.『……本、落ちたんだ』
「ごみ捨ていってきます」
黒野がそういって部室からでていき掃除が終わりに近づいた頃。
「こ! れ! は! なああんだああ~?」
チケットをひらひらとさせる先輩の顔が心なしかいつもより満開の笑顔だ。そこに書かれている文字を私は読み上げる。
「……く、黒魔術博物館?」
そんな博物館あんのかよ!? と意識が一瞬吹っ飛びそうになったのは内緒だ。オーバーリアクションをとると先輩は喜ぶのだ。だからだた静かに反応しただけで、一泊間を空け落ち着いて返事をした。
「いんやあ! ネットの知り合いからちょっともらったんだよねん! 」
それがどうかしましたか?
「私、家帰って宿題するんで……」
嫌な予感がし、かばんを急いで手にしたがおそかった。そのままごみ捨て空帰ってきた黒野と部長に引きずられ大きな屋敷の博物館に到着した。そうしてわけのわからないものに、気持ち悪くなるのを堪えながら、館内を連れまわされている。
「そんじゃあ、先輩。俺あっちのほう見てきます」
「わかったよん! そのときに連絡するよん」
「紫藤、お前はしっかりみとけ」
「……うーい」
黒魔術博物館、場所柄騒がしいところではなく、足音が響いていく。黒魔術に使われたという本や、悪魔召喚の生贄に使われたという美少女だった木乃伊に、刀身が赤い剣に、羊の剥製の頭の部分に頭蓋骨、人間の骨にネックレスに……解説が隣にあるのだけど読んでみても、よくわからないものがたくさんあって困……困らない。
「やっぱり部室にあるものよりもいいものが多いねん! 部費だけじゃ足りないしなあ。人から譲り受け……」
「たしかに部室にあるものより多く……て、博物館なんですし当たり前ですね」
魔女の大釜とかかれてある展示品を見ながら先輩はにこにこと笑って言う。私は入ってすぐに飽きてしまい、先輩の後ろについてただ相槌をしていた。
「紫藤ちゃんもさあ、部員なんだよ! せっかくの博物館なんだかんね。楽しまないといけないよん! 黒野を連れてきたときは興味津々! 今日の二回目だってそわそわして見てるのに」
「黒野と違って、私は興味ないですし」
黒野はオカルト研究部に興味があり活動したいと入部して、私は単なる数合わせだ。だから黒野と私の好奇心を比べても先輩が気の毒になるだけだと思う。
「もともとは帰宅部の予定でしたので」
「そうなんだけどねん。少しぐらい興味を持ってもさあ!」
「……興味を持った瞬間、変人の仲間入りじゃないですか」
なんて思っていても口にはださない。今日は知らない進学科の生徒によくわからない因縁を最終的につけられた。けれど先輩は私の表情から察したようで
「??? ふ! それは紫藤ちゃんの偏見だねん! きっとおそらく黒魔術はたぶんマイノリティーなだけだよん!」
おそらく変人筆頭の先輩は腰に手をあてながら、どや。と澄ました顔で言った。私は先輩の相手をするのが面倒なので、話題を変える。
「幽霊部員の私に言っても意味はないかと思います。……一通り回りましたし、帰りましょうか」
「しかたないなあ……わかったよん! その前に黒野と館長さんに挨拶してくるから先に出入り口のとこ行って待っててねん」
「はい」
先輩は立ち入り禁止と看板を避け、階段を上っていった。私はゆっくりと出入り口に戻るために館内を半周する。
骨に黒魔術所、木乃伊にアミュレット、タリスマンに大釜、ペンダグラムに剥製に……と幽霊部員で使う道具の名前を少し覚えたら十分だと思う。私には興味がなく知っていても使わないものだ。だから、黒野のように黒魔術について興味がある人を連れて行けばよかったのに……
「……」
部員だからといって覚える必要はない。天文部の幽霊部員も星の名前は覚えず、月に一回の観測会の日の学校に泊まるときの晩御飯だけを楽しみにしているし。まあ、郷に入れば郷に従え、がマナーなのだろうけど。少しずつ覚えていけばいい。博物館につれてこられたのも私がはやく覚えられるようにと好意なのもわかるけど。部室に長くいたせいか、博物館の空気が蒸し暑く感じる。屋敷の扉が全開にしたあり、そこから迷い込んだ虫の羽音がどこからかもきこえていた。
「?」
何かが落ちた音がした。ぱさり、と。館内を一周したとき、受付の人を除いて観覧をしていた人は私と先輩と黒野の三人しかいなかった。
――こっちだったきがする。
出入り口の道とは反対のほうへ急ぐ。どうして、急いで音のほうへ行くのかわからない。なにかが落ちても、館内の人が拾うのに。どうでもいいはずなのに。
館内の隅。三人で一通り歩いていたときには、誰も気づかないで見なかった。そう簡単には見つけられない死角になる場所、の部屋。
「……本、落ちたんだ」
壁に金具が一つだけあり隣に本が四冊飾ってある。金具の真下には本が一冊。落ちてある本を手に取る。飾ってある本と比べ、装飾も文字もない灰色の本。たしかにこれも黒魔術の本なのかもしれないが、展示されるほどのものではないとおもう。これは新品の本だ。
「紫藤じゃん、お前こんなとこでどうしたんだよ」
後ろから声をかけてきた黒野が、私の肩越しに壁をみる。
「へー、悪魔召喚の本か。お前もついに……って、なに触ってんだよ。展示品触るなって」
壁にかけられている本はともかく、新品の本が悪魔召喚の本とは……。胡散臭い。悪魔、といって連想するのは蝿の王や翼が四枚の絵画だ。他はアニメでみた人間の魂を刈り取る、というのは死神だ。この本を使って悪魔召喚を成功させて契約をした人がいるのだろうか……と、ついそんな想像をしてしまう。
「ちがう。落ちてたから拾ったの。これ、悪魔召喚の本なの? 胡散くさ。あ、先輩がそろそろ帰るって。出入り口で待ち合わせ」
「お、そうか。サンキュー! 俺ももうそろそろ帰ろうと思ってたんだよ。その本ちゃんともとの場所に戻しておけよ」
「ん、わかってる」
黒野はそういって急いで部屋から去っていった。
「悪魔召喚の本……ねえ」
こういうのは先輩の大好きそうな分野で、私は興味がないのだ。ありそうな黒野は本に興味を持たなかった。おそらく、四冊の本だと金具が一つあまるからだろう。一冊はただの本で、ただの数合わせに飾られていた。そう考え本を金具の場所に置こうとしたとき
「?!」
本の温度が上がった。そのいきなりの変化に、反射的に手を離し、落とした。そのまま目は動くものに視線をやり――床へとぱたりと本がページを開いて落ちた。そのページの文字を私は見てしまった。
「え」
一瞬で文字が微弱に発光し、数瞬で部屋中を光で埋め尽くした。そのことを意識したのは、ほんの一瞬。私はすでに別のことに関心一色だった。
「は!?」
言って。私は本から離れる。本のある付近。床には本を中心にし、わからない文様の絨毯が敷かれてあり、その文様が水が波紋を流れるように淡く光りだしたのだ。そのまま文様は上へと浮かび上がり、宙に一定の位置で丸まる。私はその光景に注視した。突然、淡い光が炸裂した。
「っ!?」
光を直視した私は慌てて顔を下げた。手で目元を隠しながら、光が弱くなったのを感じると、目を細めながら視線を向けた私は、目を疑った。
光の中で人の影が見える。悪魔召喚しちゃったけい!? 頭の中では展示品の説明の文字が理解できずに流れていく。先輩のドッキリ系かとよぎったが、目の前にうつる光景はおかしすぎた。
なんたって、薄紫色の淡い光に包まれている人影は、重力を無視してふわふわ浮いているのだ。ワイヤーで吊るすと人が浮いている、とテレビで放映されていたマジックであったけど光で反射されるはずだし天井を見ても吊るすとこの仕掛けがみえない。
そうして人影を包む光はゆっくりと集束していき、ふっと消えた。光が残した余韻が消えると静寂を取り戻した。紫色の髪を一つに束ねている、雪みたいに白い肌の美少女だ。肌も髪も特徴的であるけど、より印象深いのは瞳の色。彼女の瞳は髪と同じ紫色なのだ。透明感と深みを合わせた、さながら上質な宝石のようだ。彼女は浮きながら、どことなく動きがぎこちなくふよふよしている。
「あ」
そうして床にゆっくりゆっくり降りてくる。私は彼女が降りてくるを見るのに夢中になって
「あ、れ?」
おかしいぞ。彼女のつまさきが床につきそうなとこで止まった。
三日
・二日二三時間五十分強




