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3.『毎月第一、三の金曜日は部室の掃除の日だ』

午後の授業が滞りなく終了すると、クラブ活動やアルバイトのある生徒たちは足早に教室を出て行く。掃除当番になっている生徒は、空いた席から順番にずらしていく。どちらでもない生徒はまだ話している。私は急いで帰る準備をしながら、教室をでていく。だから急がなければ、捕まってしまう。捕まってしまったら、時間が減ってしまう。帰りのバスに乗り遅れてしまう。乗り遅れてしまったらその次のバスには立って乗らなくてはいけなくなる。人込みの中、私は無言で早足で廊下を歩く。誰にもぶつからないように。見つからないように。声をかけられないよう――


「紫藤!」


怒声に近い大声で、皆が声を聞き一瞬立ち止まった。そう、今は放課後の、みんなの帰宅時間。呼ばれた本人の、歩いていた私はだらりと立ち止まり振り返る。そのまま声の主が私のほうへやってくるのを待つ。つんつんに立つ黒髪と若干鋭い黒瞳。制服の胸元が開いていて中から黒いTシャツが覗く様から、反社会的な不良のように見えるが、それだけでどこにでもいるような男子生徒だ。彼はもちろん友人――ではなく、同じ部活の彼がそこに立っていた。確かめるまでもなく彼は軽く怒っているようであり、その原因は私にあるのかもしれない。


「どうしたの? 黒野」


黒野と呼ばれた彼がぜぇはぁと荒い息をしながら私を見た。はっきりと、黒野がなにを言おうとしているのかわかっているけど知らないふりをする。そんな私に向かって、黒野はギロリと視線を鋭くする。某ゲームでいうならば黒野がよく使うにらみつける、だ。この技を使うと相手がひるみ防御力が下がるのだ。黒野が使うならば、相手の虚勢を崩したり、ひるませたりするけど防御力は減らない。


「今日は部室掃除の日だろ」

「あれ、そうだっけ?」


私はおくびにも出さないで傾げてみせた。私はどちらかというとなるべく部活にはできるだけ参加をしたくないのだ。それと昼休みのことを忘れているわけではない。男子生徒を運ぶのを手伝ってくれず、パンも残してくれていなかった。第一、部室にはものが多く掃除をするとなると大変な目に合うのだ。帰宅時間だってあきらかに遅くなる。私が参加をしたくないのも、嘘をついているのもわかる黒野は頬を引きつらせて呆れたような顔をした。


「ああ、そうだ。毎月第一、三の金曜日は部室の掃除の日だ」

「そっか、そういえば今日は金曜日だったね」


そう、今日は金曜日。四月の第一週目だ。言いながら、私は廊下を再び歩き始めた。人にぶつからないよう、黒野は私の後ろを三、四歩遅れてついていく。横に並んで歩けば通行の邪魔になるのと、お互いが知り合いだと周りに思われたくないのだけど、大声で呼ぶ前に察してほしい。そのまま私は歩むペースを速めながら、たくさんの生徒がたむろしている角へ即座に曲りしゃがりこんだ。私は銅像。しゃがむ銅像。銅像は動かない。黒野は三、四歩後に曲がり、私を探すがいないことに気づいた。


紫藤っ(アイツ)! っち、逃げられたかよ」


黒野は立ち止まり、見回す。下を見ればいいのにと思うが下を見ても生徒同士の足で私は隠れていて見えないはずだ。黒野は制服の胸ポケットからスマートフォンを取り出し操作をするとすぐに耳元へ当てた。


すると私のかばんが震えだす。私に電話をし中に入ってある携帯電話が通常モードのバイブ機能で震えているはず。黒野は私が電話に出ないことを舌打ちし、ドカっと置いてあるごみ箱を蹴った。ごみ箱は綺麗な放物線を描いて廊下の窓から飛び出していく。周囲の生徒の小さく悲鳴が上がり、正義感があるそれか便乗しようとした生徒が黒野に声をかけるけど、一睨みされ黙ってしまった。そのまま黒野は歩き出した。私はぼんやりと黒野の姿が見えなくなるまでそのぼやけた背中を見守っていた。小さな黒野の背中がなくなったあと立ち上がり、玄関へと歩こうとしたとき。すぐにそれが失敗だと気づいた。なぜなら私の手首に圧迫感があり背後を確認すると


「掃除には、でてもらうからな」

「わかったよ」


憤怒の色で塗り固められてある顔の黒野がいた。腕は強く握られ痛い。私は降参という形で片手を軽く上げゆらした。


黒野と共に、私は部室へ行く。黒野と何か喋ることはなく、黒野も私に喋ることはなく無言で歩く。文化部室棟三階の左に曲がって一番奥。日当たりの悪いはずれくじの教室。掃除の日を除き幽霊部員として入部してから数えるほどしか行ったことのない場所への道を以外にも覚えていてすんなりとついた。オカルト研究部と、血の流れた跡のようなレタリングの文字。この文字を見て入部したがる人はそうそういないと見るたびに思う。ノックはしないでドアを開ける。何度見ても、異様な部屋だった。


「ただいまもどりました」


開けたら、黒野は先に中へ入った。


「失礼しまーす」


ドアの隙間から、少しばかり肌寒い風が流れ出してくる。今の季節は春で、ぽかぽかとしているのにこの部屋はどうしてか寒い。空調を設定しているのではないことは知っている。日当たりが悪く、三階の左側の他の部室は少し涼しいくらいなのに、ここの部屋だけは肌に感じる湿度からずっと秋のままみたいだ。夏には重宝するけど。


黒野に続いて私も急いで中へと入り、廊下と部屋を区切るドアを閉める。第二に、幽霊部員とはいえ、私はここの部員であることを誰かに知られることはできるだけ嫌なのだ。人気の少ない階のため、誰かと遭遇することはないけどもしものために。


そして、部屋の内装。何世紀か前の隠れて活動をしていた黒魔術師たちの地下室や危ない不気味な部屋やどこかの儀式部屋に祭壇を思わず連想してしまうほど、随所には水晶や杖、動物の頭部に頭蓋骨……などなど、あまり目にしたくないものがたくさんあり、オカルト研究部ではなく黒魔術研究部へ改名したほうがいいと思う。もっと人目を気にするようになるけど。


「そろそろ来るかな~って思ってたよん」


部屋の主、オカルト研究部部長が部屋の奥の真黒な皮椅子に座したまま言った。この部屋には似つかわしくないほどにへにゃらと頬を緩ませ笑っている。ツインテールに、薄汚れてはいるけど高価そうな真黒なマント。その下には私と同じ女子制服。


「活動してない幽霊部員なら他にもいると思うんですけど」

「ああ、うん。他の部員は今の時期、掛け持ちの部活のほうで忙しいからねん」

「オカルト研究部(ここ)掛け持ちオーケーなんですか」

「そだよん! 幽霊部員で名前と部室だけ欲しいだけだからねん。幽霊部員は仮入部だし。あとは月に奇数週の掃除の手伝いだけだし」

「かといってお前もかけもちすると考えるなよ」

「そんな面倒なことはしないよ」

「んじゃあ! 掃除しようか!」


部長は椅子からいいながら本棚の横にある掃除用具からほうきをとりだした。ほうきを持つ部長がマントも合わせて魔女に見えたのは気のせいにする。



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