表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

18.『皮膚に火花が散る程度だ』

「悪魔の魔力が暴発し消えた。そこで俺! 一時的に戦天使フィルアンが登場!」

「なに、それ」


いや、なんとなくそこから考えられることもあるんだけど。ティファニスの魔力が暴走して、どこかへいったでいいんだろうか。期間限定の味が原因なのか。そこで戦天使の少年がでてきたのかわからない。


「どうなってんだよ!? お前何したんだよ! 拘束解けてるし悪魔も……!」


私と同じように風圧で壁に吹き飛ばされた見張りの男子生徒は、背中を丸めて苦しそうに立っている。残念ですが、まだ両手の拘束はとけてないです。


「なんでここに天使がいるんだよ!」


それは私がききたい。視線で問いかけるも、少年は私をまっすぐと見ていた。見張り番の知りあいじゃないのか。


「そう、見た目は熱いかもしれないな。だがしかし! 実際は皮膚に火花が散る程度だ。安心してくれ」


少年はそう言うとぶつりと口を閉じた。なんのことをいっているんだろう。こたえになっていない。それに火花が散るのは熱いんじゃないか。


そう思う私の視界に入る壁へ片手を出す瞬間に、少年の手を中心に黒い炎があがった。まるで黒い旋風に包まれたかのように、炎の渦が壁を覆った。少年を取り巻く炎が振動し、私のほうへ皮膚に熱のしびれを起こさせる。


「あっつ!?」


両手を固めていたなにかの重さがなくなって、びりっ! と両手が震え


「あつあつあつあつあつ! あついいいいい!! なにこれ。あっつい。熱い。あつい。水! 冰! 冷やさないと……!」

「ちぇ。 ミスな、水な! 冰な! おけ、任せろ」


そういうと少年があいている手で私の手を引くと


「っつ、つめった!?」


途端に、手が冷たい。少年の手が冷たいじゃなく、冷たさを通り越していき


「寒い! 指、指固い! 感触ない!」

「そうかそうか! これで火傷の心配はないな!」

「そうじゃなくて」

「まあ気にすんなって! あんた治癒使えるんだろ?」

「使えない!」


ニカっと、笑う少年はとてもきれいで、照れる。私の偏見であってイメージなんだけど天使なのに、黒髪黒目……というのが印象的だ。天使なら金髪銀髪に青目のイメージなんだけど。手足がすらりと長く、少年が浮いているのもあるが近づくと顔は見上げなければ入らないほどの高い位置にある。



「俺、人間界楽しみなんだよなー! いやあ、ティファニスの召喚者の紫藤だろ?」

「名前、それにどうやってきたの」

「じゃ、行くか!」


私の質問を無視してそういうと少年は私の手をぎゅっと握る。私の手は熱さも寒さも戻っていて、少年の手はティファニスとくらべるとあたたかい。少年の周りの黒い炎から熱は伝わってこない。

渦巻いていた黒い炎が壁へと直進し


「ふぁ!?」

「お」


炸裂した、黒い炎の渦の爆発に、片腕で目を覆う。ガタガタと崩れる音がし、風が吹いてきた。私の顔に硬く小さいものがあたり、少し歯を食いしばる。パタパタと小さな欠片が落ちるような音がしてから、吸う空気に埃が混じり口元を抑える。


「びんご!」


しばらくして、少年が嬉しそうに呟き、口元を手でおさえ目元を覆う手を少しずらし目線を上げた。


「お、つぎは天使も召喚か?」


え?

壁が壊れて煙が上がるなか、聞きなれた声がした。


「俺は召喚されてない!」


手の握った少年が引きつった笑みを浮かべている。


「そうか、残念だよ」

「近くにいるなら助けにきてほしいんだけど」

「もうちょっとしたら助けにいったさ」


土埃が消えていき、よく相手の顔が見えるようになった。


「月曜日の放課後も、まだまだはじまったばかりだし」


進学科の呼び出しとか放っとけよ、と黒野は私を睨みきつい口調で言った。


「委員長に頼まれたんだよ」


私の数少ない親しい知り合いだ。頼みがあるならできるだけ引き受けたくないけど、断ることは難しい。私の精神面で。


「そうだな! 召喚されて二日と残り少ない!」

「ああ、放課後はこれから中盤にはいるんだ」

「言っていること、変じゃない」


黒野のはじまったばかりにたいし、少年は二日と少ない。変だ。


「じゃ、俺は寝るか!」


少年は私の手をつきはなし、前へと歩く。私は黒野の前に放り出され、転びそうになる。黒野が手助けをしてくれることはなく、私は自分の両手でバランスをとった。その一歩先、壁の向こうは外だったようで、もう暗い。教室をでたときは、空は青く明るかったのに。


「がんばれよー」


月を背にして、ニカっと笑うと少年の翼が、バサアと広がる。羽が数枚落ち、羽は地に着く前にとけてきえた。


「よくわからなかったら仮契約でいいんじゃね?  じゃ、またな!」


少年の周りを黒い炎が包み、見えなくなる。そして爆発した。爆風が私の髪と制服のスカートをなびかせる。熱さはない。一方の私は、頭が追い付けず、何も言えず、じっと少年がいた虚空を見つめるしかなかった。


「消えたな……」


黒野は呟くと紫藤の知り合い? と意味を含ませ私に視線をやった。


「起きて、ティファニスがいなくなって、いた」

「ティファニスの知り合いみたいだな」

「名前いってたし、そうかもしれないね」


いや、確実に知り合いっぽいんだけど。私は知らないのでそういうしかない。


「じゃ、いくか」

「ちょっと待って、ティファニスは」


そういうと黒野はついてこいとでも言う風に、私に背を向け歩き出した。


「……お前、知らないんだったな」

「はい?」


黒野は深いため息をついて答えた。よくわからない。


「後ろにいるぞ」

「え」


その言葉に私はすぐに体を後ろにむかせた。後ろには少年の炎によって穴が空いた壁。その先には倒れてる見張りの男子生徒。私はもっと隅々を確認するけど、見えたのはキャンディーの包みに、壁の破片。もっと目をこらして頑張るけど暗くてわからない。


「そこじゃない」


出たばかりの部屋に入ろうとして、黒野に腕を掴まれた。


「横にいる、右」


言葉通りに、私は右に首を振り向かせるとなにもない。ティファニスの姿はみえない。


「あ」


上か。そう振り仰いでみると、夜の闇に半分くらいは溶け込んで閉まっている人影。背中より蝙蝠の羽を生やして、空にいた。


「ティファ」


私が名前を呼ぼうとすると、私の視界に紫色が掠め


『うわあああああああああああああああああああああん!! 

ごめんね、ごめんねっ! 私が守らないといけないのにいいいいいい!!』


ティファニスが抱き着いてきて、私はぺたんとしりもちをついてしまう。地面とおしりがぶつかり痛い。抱き着かれて息が苦しくなる。


「さっきいなくなったからびっくりしたんだけど……いたんだね」

『ずっといたもん! いたのに……! 気付いてくれなかったよおおおおお!!』

「ごめんごめん、気付かなかったよ」


ティファニスの背中に腕をまわし、ぽんぽんと手で軽く叩く。田所さんに襲われたときのことをいっているんだろうか。そんなふうにいわれたら、どうして上にいたのとも、天使の少年がいたときに出てくれなかったのなんてきけない。って、いや!


「魔力が爆発ってきいたんだけど! 大丈夫なの!?」


抱き着くティファニスを離し、正面に向かわせる。すると、ティファニスの動きがぴたりと止まった。そして、顔に涙が流れているのを気にしないできょとんとした顔で、私の顔をじっと見つめ


『うう? 魔力が爆発したら危ないよ?』


よくわからないといった口調で言うと


『早くコンビニ行ってキャンディー買おうよ!』


と満面の笑みを浮かべる。おぼえてない?



私はぶるり、と少し身震いさせテーブルにあるココアの入ったマグカップを手に取る。制服の上にカーディガンを羽織っているというのに肌寒い。薄暗い中、骸骨や水晶に動物の頭部を見ても驚かないのは、今はそんなに気にしている暇はないからだろうと思う。マグカップを口元に近づけると、いいにおいがした。


さっき、黒野と合流したあとついてこいと案内されたのはオカルト研究部の部室の中だった。私は堅い材木の椅子に座っている。先輩が座っていた専用の椅子は見当たらない。横で浮いているティファニスは通常の味のキャンディーを食べ、幸せそうに鼻歌を口ずさんでいる。


結局のところ、ティファニスはよくわかっていなかった。いや、覚えていなかった。期間限定のリンゴ味のキャンディーを食べた直後のことを。戦天使の少年の話をすると、笑顔で『私のお兄ちゃんだよ!』とこたえてくれた。


ちらりと、みるとティファニスと目が合う。私は無表情でいるとティファニスは微笑み


『あーん!』

「え」


ティファニスは袋から期間限定のキャンディーの包みをとりだすと包みからだし、私の口に放り込んだ。期間限定のキャンディーは酸味があって、ほんのりと甘い。ほかの人からの評価は酸味が好きじゃない、といまいちのようだけど私は好きだった。


さっきティファニスは期間限定のリンゴ味をおいしいと言っていた。私はそれを思い出すと嬉しくなる。おいしい、おいしいと五個全部食べて、さっきはショックだったけど、今はもうどうでもよかった。それにキャンディーがとられてしまうかもしれないと考えたら、ティファニスがさっきのことを覚えていなかったことにちょっと安心した。ココアを飲み終えテーブルに戻し一息つくと


「そろそろ説明するな」


私の目を見て、黒野が言う。


「おねがい」


私は窓のほうを無振り向いて行った。ティファニスも私にならって窓を見ていた。


『外、暗いね』


部室の配置の悪さの暗さもあって、夜の色が濃くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ