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14.『規則の時間はすぎるくらいじゃないかな?』

いつの間に寝たんだろう。気が付けば、既に外は明るくな


「え」


ちがう。鮮やかな月が夜を照らしていた。上半身を起こすと、いつも寝ている寮の自室のベッドの上じゃなく、地面に寝ていて、紫の波がみえて


『起きたよおおおおおおおおおおおおお!!』


頭上から耳が痛くなるようなティファニスの声がし


「っつぁ」


すぐに肩と頭に顎の三点に衝撃が走った。ティファニスが上から私の上半身に突撃してきたようで、じんじんと痛む頭には少しぷよぷよした柔らかいお腹があたっている。えと、これは選択で触っている……んだよね。


「紫藤、大丈夫か?」


私の肩と頭と顎をあたりに視線をかんじれば、横で黒野が、痛そうな声でいう。そこまで赤くなってたり、はれていたりするんだろうか。


「あんた、昼にもぶつかってたよな」

「そのままずっと寝てろよ」

「……はあ」


大根抜きに気を失っていたこともあったことを思い出すと、恥ずかしくてぼんやりとしたふうにしか返せなかった。進学科の男子生徒の一言に私の顔がいっきに熱くなった。ティファニスに抱きつかれているし、外は暗くて見えないのだけど、ぜったいに顔が赤くなってる。


「そのまま寝てればよかったのによ」


また田所さんが続けていった。田所さんにひどいことを言われたけど、今の私には夕方の恥ずかしい思い出のせいで田所さんの言葉は私の頭にはいらなかった。穴があったら入りたい。そしてはっと思い出した。頭が痛いのは扉にぶつけて、さっき落ちてきたものに当たったからだ。大根抜きのときにとっくに腫れていた。


「あ、今何時ですか?」


寮の門限は二二時だ。私が気を失っている間に時間はどれくらいたっているのだろう。そんなに過ぎてはいない気がするけど。私は急いで制服のポケットを探ろうとして、今日は財布しか持ってないことを思い出した。


「知らん」


進学科の男子生徒は即答し、黒野は胸ポケットからスマートフォンを取り出した、がすぐに舌打ちをする。


「電源切れてんのかよ」

「あ、そう」


最後に田所さんに視線をやると、私を睨みつけ


「さっき、君の攻撃で時間を確認するものは壊れた」

「え」


何かが彼の頭にぶつかることはあった。けれども腕には攻撃なんてされていなかったはず。あ、けどさっきの女の子に吹き飛ばされてたんだっけ。私はなにもしてないけど。


「す、すみません」


とりあえず謝罪をする。ないなら公園の時計をみよう。私はティファニスの背中をぽんぽんとたたく。


『うう? キミ私の背中たたいてどうしたの? どこか痛いの?』

「あ、そっか。公園の時計で時間確認したいから離れてもらってもいいかな?」


私と知り合いや友人の間にはそれで離れるというニュアンスがあるのだけど、ティファニスはないのか。ティファニスは私が何に納得したのかわからないまま「わかったよ」と名残惜しそうにいい、宙に浮いて離れてくれた。ティファニスの中で暗闇に慣れていた目に、電灯の光の強さはきつくぎゅっと目を瞬いてしまう。


「そうだね。そろそろ規則の時間はすぎるくらいじゃないかな?」


即座に、私は目を細めて彼女の顔に視線をむけながら立ち上がった。彼女は首にかけてある懐中時計をみて笑っていた。彼女の持つ人形にも胸元に時計があった。あれ、さっきまではなかったはずだけど。気づいてなかっただけなのか。気になるとこはあったけど


「お先に失礼します! ティファニス帰るよ」

「紫藤!」

「な、おい!?」



慌てた風に制止するような声だったけど、無視する。門限を破ったらあとでこわいのだ。説教で時間が潰れるかもしれない。


浮いているティファニスの手を握れば、しっかりとつかめた。私はティファニスをそのまま引っ張る。

私が寝ていたときにどうして起こしてくれなかった、と口に出そうになったのをこらえる。それは私のわがままだ。それに時間がもったいない。話してたら門限に間に合わくなってしまう。


『お菓子はー?』

「寮に帰る!」


ティファニスの問いに間髪いれずこたえた。ティファニスは『えええええ』としゅぼんと気落ちした様子だったけど「明日買うよ」といえばすぐに元通りになった。ティファニスは後ろで引っ張られていただけなのに、元気よく羽をぱたぱたとさせ、私をひっぱる形になる。速い。


『ひゃっほほーい! キャンディーが食べたいの!』

「うん。キャンディー買い占めようか。通常の味はあげるよ」


そういって、公園をでると公園の外は静かだ。こんな遅い時間だからか人もいなくて、ティファニスと喋るには好都合だ。


『わーい! わーい! 私ね! あとあとほかのお菓子も食べたいの!』

「そうだね、一緒に食べようか。あ、そっち左に曲がってね」


私は足をもつれさせないように、しっかりとし、前に進むティファニスに次の道をこたえていく。


「誰かにぶつかるとか、車の飛び出しとか、なんかいろいろあるかもしれないから気を付けてね」

『はーい! わかったよ!』


ティファニスはぐっと急ぐスピードを速め、私の握る力にこたえようとぎゅっとつかみ返した。






このときの私は、その明日もお菓子を買う予定が潰れるとは思いもせずに。

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