13.『っつぁ!?』
銃声が公園中に響いて、私の頭がすいかみたいにパカ、と割れてぶしゅり、と血飛沫をあげる直前。
「っ!?」
かっ、と全ての街灯が点灯した。公園中が暗闇を見えるところなんか一つも残さずになくしたものだった。私はそれを、もう朝になったんだあ、恐怖なんか忘れて呑気に思った。街灯の灯りだと気付くのに少し時間がかかった。
こめかみからひんやりとしたものが離れたと思ったら、背後の相手は眩しさに目をやられたみたいで、少し後ずさり、銃を手にしているほうで顔を隠しているのかもしれない。
背中に鋭い視線を感じるのは、やっぱり背後からの人物に睨まれているみたいで
「……まさか、な。ここまで予想して、いや、最初からこれを狙って……私を誘き寄せたとは……私は紫藤クンの領域に」
いやいや、違いますから。そんなのはないです。どこまで勘違いしていくんだろうと心配するのと同時にこの状況がおかしくて面白くて笑いたくなってきた。小説や漫画、ドラマに映画の中の登場人物になった気分だ。だから、つい魔がさした。というものだと思う。
「敵の領地に入るときは、それ相応の対処が必要なんですよ」
口角を左右に上げて、笑みをつくった。真正面に立っているわけではないから、相手には見えないんだけど。相手が周囲に警戒してくれるように鼻で相手を笑い、自信があるように言った。はったりだけど。
「どうしますか? 私を殺しても、ティファニスが残っています」
「紫藤クン、下級悪魔に私が負けると思うのか?」
ティファニスに視線をやると……へたりと座り込んで泣いているままだった。相手はティファニスを見下すように言った。下級悪魔ってなに。口に出そうとして、押しとどめる。そのまま不適に笑ったというのを頑張る。
「どうして、わざわざ私が囮になってあなたを連れてきたと思いますか? 領域に、しかも隠していた能力を使ってまで」
領地。テリトリー。領域。相手はそう言っていた。お願いします! このまま勘違いしてください。隠す以前に能力なんてありません。背後にいる相手の存在に今まで気づきませんでした。私はぼろがでないように必死に、能力系ものの台詞を思い出す。
「!?」
相手はその言葉にっはとして、周囲へと真剣に視線を巡らわせる。
「あなたを完全に倒せる自信が、いえ、確実に倒す確信があるからですよ」
直後。また背後の人物の頭上からがん! と何かが落ちてきた。
「ぐっ、またっ!」
私も知らない誰かが私を助けてくれている安心感ができたかもしれない。しめしめと思ったとき。
「っつぁ!?」
そして、私にもはずみで当たった。知らない誰かさん、どうして私にも……ってちがう。背後の人物に当てようとして、たまたま相手の中に私がいたから……。
「う、まさかの……」
私の呟きに、割り込むように不快な電子音が響いた。若い人にしか聴こえないといわれるモスキート音。あまり好きになれない音。
どうやら背後の相手とティファニスには聴こえていない。音源を探そうと周囲を見回そうと、顔を上げて、前を見る。街灯の灯りがあるからといっても、真っ暗なことには変わりない。あった。
木の陰、で影がじっといる。
黒い、影が、影の中ではっきりと浮かぶ、微かな灯りによってかろうじて浮かんでいる存在が、黒い、マント。フードの闇から浮かんだ光る眼光。
影と目が合い、弧がつくられた直後、影は赤い弧をつくった。
「だ――?」
続く言葉が喉まで上がり、浮かんだ思考が音になろうとする直前で
闇の中から、マントが、音もなく動き始める。影は無音、しかしとんでもない速度で私のほうへ走り寄ってくる。まだ私以外気付いていない。
「っ、何度も同じ能力をっ!」
いや、私ではない。背後の相手が発すと、ぎりり、と腕が痛む。そのまま顔を上げた相手が、影に気づき、その動きの異常さに、一瞬の戸惑い。
「――我は闇、有限の闇」
焦りの見えてきた相手がッチと舌を打つと、影の声が聞こえてきた。その声が聞こえると同時に
「お前はっ――」
相手は影の言葉の続きを止めさせようと私の腕を掴んだまま影に向かって銃口を向け打った。銃弾はそのまま影へと入っていく。
実際はちがう。通り抜けただけだ。
背後で鳴った風切音は私の全身をかけぬけ、どす、と刹那。背後からの呻き声が聞こえすぐ後にがしゃん、とものの壊れる音がした。
とたんに腕の圧迫感はなくなり、違和感が残った。
ふりむくと、人形が手をのべていた。
黒ベースのワンピースの球体関節人形。人に抱かれている。抱いてあやつっているのは、同い年か、少し年下の少女だった。被っていたいたフードを下すと、夜闇でもなお光る銀色の髪と、人形とお揃いなんだろう。影と思ったのは黒ベースの長袖のワンピース。よく見るとフリルもリボンもついていて、ゴスロリファッションなんだとわかった。銀の眼差しを私の背後のほうへ注いでいる。
「――ここまでされたらさ、黙っていられないよね」
人形の作り声で、少女は言った。私が見つめると、彼女はくすり、と笑んだ、その一瞬前に見た。少女の瞳が怪しく光る。
「その人形に服装。 人形使いのっ! お前はっ!」
く、と苦しげに少女に吹き飛ばされた相手が漏らす。ボイスチェンジャーが壊れたのかとれたのか、機械音声の高かった声から低い男の子お声に戻った。倒れた相手は同じ高校の生徒だったようで、普通科の制服を着ている。そのまま抵抗、動く気がないのか吹き飛ばされたままでいる。人形使いの、聞いたことがない。続きが気になっていると
だれか、の問いに少女は、
「じゃなくて、悪魔だよ」
と、訂正するようにいい
「はじめまして、名はモカといいます」
少女はさらに作り声で人形の頭をさげさせた。人形の名前がモカなのか、少女の名前がモカなのか。私がふと、考えていると
「っく、まさか人形使いが紫藤クンに……いや、紫藤クンに人形使いが……」
倒れた相手の言葉に、少女はなにも応えない。初対面の人なのに、知り合いと勘違いまでされる。ここははったりで、もう、何か言うとぼろがでるかもしれない。このまま私は黙る。
「もう、悪魔なら泣いてないで契約者を助けなくちゃ」
泣いているテファニスに寄ると、ティファニスの側に屈みこみ、目線の高さを合わせた。
『だって、だってえ……うわあああああああああん!』
「ちゃんと学校で契約者は大事にしましょう、って先生から教わったよね?」
えぐ、えぐ、とティファニスは大粒の涙を溢れさせ、少女は人形の手を操り、人形の服のポケットからハンカチをとりだすとティファニスの目元hwあてる。
『教わったのに、教わりましたけど、教えてもらっ……うわああああああん』
「うんうん、いきなり戦闘になるとびっくりしちゃうよね。私がいて運がよかったね」
そういうと、少女は人形を片手で抱きかかえ
「それに、隠れているキミたちもでてきなよ」
少女がするり、と片手をあげると、少女の影がゆらりゆるりと伸びていく。そのまま私が目指していたたいやき屋の屋台へ、遊具の滑り台へ、止まった。この沈黙はなんなんだろうか。風の音が目立つ。すぐ痺れを切らした少女が
「出てこないなら強制的に出すよ」
闇の底に放り込まれた光景の中、
「うちの部員になにしてんだよ」
「田所、お前やってくれたな……」
声とともに、闇の向こうから二つ人影が歩いてきた。その二人には見覚えがある。
「黒野、と進学科の……え」
「は」
「げ」
滑り台から黒野たいやき屋台から進学科の男子生徒、と二人ともお互い顔を見合わせる。それから何かを言おうと口をぱくぱくさせて――数泊を置いてから、先に黒野が
「なんで進学科がいんだよ?」
黒野の質問に進学科の男子生徒はフン、と鼻を鳴らすと仕方なさそうに、倒れたままの相手を一瞥し「……、そいつの見張り」とこたえた。
「あ、この人、昨日の……」
そういわれて見たことがあった。文化部室棟の……
「なんだよ、知っててやられたのか?」
進学科の男子生徒が、倒れている相手の襟首を掴みあげ、私に見えるよう持ち上げた。まって、片手で持ち上げてる。どこにそんな腕力があるの。
「全力で」
『ああ! 階段で走ってた人だ!』
続きを言う前に、泣き止んでいたティファニスが言うと、黒野はなんで走ってたのかと驚きの表情で目を見開き、人形の少女の持つ人形が「よくいえました!」と書かれた横断幕をだし、少女はパチパチと手を打ってみせた。
「お前なにしてたんだよ?」
進学科の男子生徒は片眉を上げ片頬をひきつらせながら、横にいる生徒を見ていた。生徒はというと「……」ものを言う気も失せているのか黙ってすごい目つきで私を見ていた。そして目が合うと。
「この借りは必ず返して、そこの悪魔を消してやるからな紫藤クン」
拳をわななかせ、頬を上げながら睨まれる。私はなにもしてないのに、なぜそこまで言うのか。そもそもなんでティファニスを消したいのか。人形の少女は悪魔なんだから、彼女を消そうとは思わないのか、と疑問に思ったけど、どうでもよくて、調子に乗っていたのが続いた私は。
「今度はしっかりと領域対策を練ってきてくださいね」
それから僅か紙一重、私と生徒の頭にがつん、と何かが落ちた。ひどい。せっかくかっこよく決めてみたのに。
『うわあああああああん!』
とティファニスの声が小さくなっていく。
やけに鮮明に、人形の少女の作り声で「ナイスヒット」と苦笑した声が聞こえ、視線をやれば少女は人形を操り手をふっていた。
誰に?
少女と同じ視線をたどろうとしてなにもない。少女へ視線を戻すと、虚空へと人形が手をふっていた。視線に気づいた少女が私へと淡々と口の動きだけで告げた。
「だーめ」
その声を聞いた途端、急激に私の瞼が重くなる。少女は「んー」と小さく唸り、
「体力があるのもいいけど、使いすぎはよくないかな」
少女のお人形とお揃いの笑みを、その顔に浮かべた。
「ちゃんと契約者は守らないと」




