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11.『発どっ!?』 

すっきりしないので内容に変更がでるかもしません。

そうして、どうにか公園の入り口にたどり着いたときには顔を両手で覆い隠したいほどの恥ずかしさは消えてなく。羞恥心が、悶えが。痛みよりも、もし進学科の生徒に会うことがあればこれからもこの恥ずかしい過去をなかったことにできないのだ。私には精神的にも肉体的にもそのままコンビニ寄ってキャンディーを買う気になれなくて


「頭が……」

『はやくう!』


頭を抱え公園のベンチに座っていた。


『さっき寮の門限もあるから! って急いでたのはキミだよ!』

「……」

『もう!』


ティファニスは唇を尖らせながら、私の背中をゆすっている。彼女を無視して私は総合公園の真中央にある時計を確認しようと、視線を上げると暖色系の灯りが暗闇を紛らわせていた。時刻は一九時前。門限はというとバイトをしている寮生もいるので最大二二時まで、と緩いものだ。この分だと寮まで三〇分。その前にコンビニへ寄るから一〇分とまだまだ余裕がある。こういうときはおいしいものを食べて忘れよう。


「なにか食べるか。ティファニスここでちょっと待ってて!」

『ええ! どこかいっちゃうの?』

「すぐに帰ってくるから!」


ずんだにチョコにつぶあんこしあん白あんごまあんにクリーム。そして季節限定の桜あん。味の種類を思い浮かべ、私はついニコニコと笑みを浮かべてしまう。目を閉じれば、味と匂いが一緒に瞼の裏に浮かぶ、数々のたいやき。私が好きなのはずんだのたいやき。


私はさっきまでの重い足取りとは打って変わった軽快に、鼻歌を口ずさみながら公園を進んでいく。あ、ティファニスにどんな味がいいかきくのを忘れていた。キャンディーをあとで買うから、全種類は無理だけど奮発しよう。聞きに行こうかと止めた足を前に出そうとして、私は僅かな違和感を覚えた。


「あれ?」


後ろを振り向くけど、なにもない。暗いし、人の姿が見当たらないのもそうだし。


「?」


――誰かに見られている?


それにずっと喋っていたティファニスがいないからか異様に静かだ。どうもティファニスから離れてから、視線を感じる。そのまま視界の端に人影が映った。誰だろう、と私はそちらに顔を向けると、背筋になにかいるのを感じた。


「!?」


私は慌てて後ろを振り返るが、しかしそこには誰もいない。当たり前だ。周囲には私しかいない。人の姿なんかなかったのだから。気のせい。気のせい。そう思い込み屋台へ進む。街灯が全て消えているわけでもないし、足を動かす。はやく買ってティファニスと一緒に食べよう。そうして、また足を踏み出そうとしたとき、背中になにか、空気をまとうようなものができた。


「……」


動き出したままの姿勢で止まる。だれかいる。ティファニスではない。それだけは確信できた。相手の息遣いが聞こえる。風の音や空耳だと思いたいのだけど、背中からくるものが否定し、急いでこの場から立ち去りたい。私の体は動きを一つもとることができなかった。ティファニスが心配してこないかな、なんて考える暇もなく。


突然、誰かに首を掴まれた。


「っ!?」


待つのに痺れを切らしたティファニスの悪戯かと思ったけど、やっぱりそんなはずはない。強烈な圧迫感。そのまま力を籠められればへし折れるんじゃないかと思う。暴れようとしてぎりり、ときつく締められた。


「……っ! ぁ、あ!」


息ができない。大口を開けて酸素を確保しようとしているのに、口が渇くだけで送ることができない。こういうとき暴れなければ相手の力は弱まり攻撃をしなくなると、そこで冷静になろうとどこかの本か誰かの言葉を思い出したけどそんなのは無理だ。今、落ち着こうとしているのに、それよりも苦しくて苦しくて、息をするのが優先で。こひゅっこっひゅ、と音がもれる。


「……動クナ。動ケバ殺ス」


背後からの声と同時に首の力が弱まる。殺すってなんだよと突っ込みたいけど、苦しくてそんな考えはなく。わざと片言のように喋る相手の声はボイスチェンジャ―を使っているようで、機械音声になっている。男か女もわからない。普段なら笑いを誘うようなものなのに、雰囲気が笑えるようなものじゃないし。私はその一言に勢いよくうなずく。はやく空気がほしい。


「コチラ、フリムカナイデクダサイ」

「わかっ、た、から」


首が解放され、自分で首を押さえながら、大きく息をする。短距離を全力で走ったときみたいに、はあはあと息切れがひどい。触れられていた箇所の首の皮膚が、部位が痛い。明日は学校なのに、首に痕が残っていたらどうしようか悩むなんて呑気な自分がいる。


「紫藤クン。私ハ無暗ニ誰カヲ傷ツケタクナイ。黙ッテ質問ニ答エロ」

そう言って、背後の人物は私の頭に固いものを押し付けた。おそらく銃、なのだろうか。首を絞めてきたときにはもう傷つけて、こうやって脅しているのに無暗に傷つけたくないなんてどうかしている。言いたかったけどまた苦しい思いをするのは嫌だから黙る。とりあえず私は黙って頷いた。


「ホンハドコニアル?」

「……本? 本ですか? 本って紙の……? 書物? 読み物?」


わからなくなって思わず訊きかえした。どの本を言っているんだろうか。寮の自室には本棚とダンボールの中に本が隙間なくある。その中のどれかを言っているのだろうか。自室にある本を思い出すも、大事にしている本は実家だ。寮に置いておくわけがない。


「アア、ホンダ」


本。サイン本。初版。絶版。限定本。非売品。印刷ミスがあるページの本。改変前の小説。自分の中で背後の人物がいう本を思い浮かべる。マニアの人たちが欲しがるような本はないと思う。


「ハードカバーのですか? 文庫本ですか?」

「ハードカバーダ」


背後の相手は私の質問に不可解そうに、ハードカバーであることが当たり前のように答えてくれた。その反応から私と背後の人物の本についての話の内容は食い違っている、かもしれない。何しろ相手が探すような本を持っている記憶はない。そもそも、そういった人たちならこうして脅しにくるのではなく、しっかりと礼節をもってくるんだと思う。


ハードカバー。紙の表紙の文庫本とはちがい、ハードカバーの表紙は厚手の布や皮などの材質で作られている。簡単にいえば上丈夫な本、と説明すればいいのか。どうしよう。困った。実家にはハードカバーの本があるけど、こっちにはない。一人で暮らしているのにハードカバーを買うとなれば出費がひどくなる。毎月何冊か買っているけどそれは文庫本と決めている。ハードカバーは高くて買えないのだ。寮暮らしをはじめてからハードカバーの本は一冊も買っていない。図書館で借りるか、文庫本を買うかの二択しかない。


「私、ハードカバーの本は持ってないです」


だから、正直にこたえた。そしてきいた相手はというと


「ソウカ」


という一言で、私はこれで家に帰られるかな~なんて思っていたのだけど。相手はそうでもないみたいで、小説でもこういう展開のときは「はい、そうですか」とやはり帰してくれることはなかった。


「ふざけんな」


あ、片言ではなくなってる、と思う前に私の視界は変わっていた。残っていた電灯の灯りが消えたのだ。相手は私の腕を掴み、逃がすまいとしていた。慌てて腕を振り払おうとしたけど、それは私が思っていたよりも困難なことだった。相手の力は私の予想より遥かに強くて、いくら腕を振っても、指をはがそうとしているのに、動く気配というものがない。ぎりり、と相手の指は私の腕をくいこませていく。痛い。


「質問をかえる。契約書はどこだ」


また痛いのは嫌だから、私は相手の言葉を理解しようと試みた。認めることができるのは「本は後回しで、契約書を相手は探している」ということだ。そういえばティファニスが契約しよう! と言っていた。もしかしてそれだろうか。そして「あ」と呟いて思い出す。博物館の本?


「言う気になったか?」


掴まれている腕の力が緩まる。


「オカ……」

「おそいよおおお!! 暗いの一人だとこわいんだよおおおおお!!」


こたえようとして、ティファニスの叫び声が聞こえてきた。痛みを忘れて、ティファニスのいるほうを見る。暗くてよく見えないけど、夜目に慣れてきている目はティファニスが私のほうへと突進してきているように見える。そのまま相手がティファニスに気を緩めたときに動けたらいいな、と安易に思ったけど腕を掴む力はそのままで。振りほどこうとしても動かなかった。


「悪魔!? ……やっぱいるじゃねえか」


機械音声が、どこかうっとうしそうにため息をついた。そのまま掴まれる腕が強くなる。絶対に逃がさないというふうに。私の背中を気持ちの悪い汗が濡らしていく。クリーニングから帰ってきたばかりなのに。


それよりも痛みとティファニスが来てくれたことへの安堵で、泣かないように必死で奥歯を噛みしめていた。それを勝手に解釈した相手は


「……なるほどな。紫藤クン、自分一人になって私を誘き寄せたんだな」


魔力の濃度も色も同じだ、と少し関心したように相手が呟く。私はちがいますと言いたかったけど腕の力を強められるのに耐えようと努力をしていて聞いていなかった。


直観的にわかっていることは「ティファニス! にげて! はや……」そう叫ぶ途中で、背後の相手に腕を引っ張られ、中へおさまった。私は人質になったのかもしれない。


「……が、それは無駄に終わったな。おい、そこの悪魔。契約者を無事に帰してほしければ……わかるよな?」


なんというか、それがなにかの合図だったのだと思う。相手が言った直後。


がーん! 


と背後からいい音がした。


「え」と私は驚いて背後を振り返った。


私の腕を掴んでいないほうの手で、自分の顔を押さえていた。


「こ、これも……紫藤クン。大人しいと思っていれば」


がたん、と何かが地面に落ちた。落ちたものに視線をやれば、暗い中光に反射して光っているところからおそらく金属性のもの。暗くて詳しくは判別できない。


「悪魔がくることで、発どっ!?」


相手の言う途中で、またがーん! と音がし続いてがたん、と落ちた。


私はティファニスがなにかやったのかと見るも、ティファニスも同じように私がなにかをしたのかも! とキラキラさせている瞳でじっと私を見ていた。続いて、ティファニスのほうも、がた! となにかが落ちる音がした。


「うわああああああん! ひどいよおお! 私にもあたるとこだったよおお!」


ティファニスは私に向かって、唇を尖らせる。


「癒しの力以外にも能力が使えるのは嬉しいけど私に当てようとしなくたってえええ!! うわあああああああん! キミのばかああああ!」


ティファニスはそう言って、ぷいっと両腕で自分を守るように抱きしめ、私から視線を逸らした。


「え? いや」

「ふ、そうか。ただの幽霊部員と思っていたが……癒し能力もあったとはな」


背後の相手はというと思慮深げに考え込み、ティファニスも勘違いしている。相手はというと私がオカルト研究部に仮入部の幽霊部員と知っていたようだ。


「一年間も騙し続けるとは……脳ある鷹は爪を隠す、か。 さすがオカルト研究部といえばいいのか」


と、満足げにうなずいていた。そして相手はおもむろに何かをティファイスに向け放った。


「ティファニっ」


ぷしゅ、と耳元で音がし、ティファニスへと一直線へと伸びていった

が、途中でガツンと、音がし火花が慣れた夜目に突き刺さった。


「なんかきたよおお!」


とティファニスはへたん、と座り込みそのまま四度目のがた! と何かが落ちた音がした。


「これも見越していたか」


そう言って、背後の相手は不機嫌そうに下を打ち、私の耳の上にこつり、と固いものをあてた。


「どうする? これなら、紫藤クン。能力を使えば私は驚くな。で、引き金を引いちまうかもしれないな」


相手は拳銃を、本気で撃つらしい。


「あの、これ、どういうことですか?」


私の顔は恐怖で引きつって真っ青かもしれない。


「私、なにもしてないじゃないですか! そこにいる悪魔の女の子だっていきなり現れて契約しよう! って言ってきて、なんにもわからないのに……オカルト研究部なら仮入部で幽霊部員で、楽々に過ごせるって言われたからなのに……」

「おいおい、時間稼ぎしてまた能力を発動させんのか?」


相手は楽しそうに、かろうじて少し思いとどまってくれるかもしれない。


「これ、先輩の罠かなにかですか? ドッキリとか。 それなら無関係の私を巻き込まないでほしいです」

「……」


背後の相手から吐息がきこえる。こめかみから、銃口が離れた。もう少し離れれば助かるかもし


「うわあああああん! そこのおばかさあああああん! 私の召喚者をいじめないでよおおお!」

「……ああ言ってんだけど」


相手の声から温度が消え、こつん、と慣れないものがこめかみに当たった。逃げたくても腕は掴まれてるし、相手の中にいるし、そもそも撃たれる恐怖で動けない。耳元近くだからか相手の指が引き金に触れる音まで聞こえる。


「来世では悪魔にはかかわるなよ」


ノコリヤク二日

一日ト三時間弱

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