第3話 全国大会予選
ブロロロロロ……!
セリオ砂漠に、十六台のエンジン音が響き渡っていた。
赤、青、黄色、緑。
全国各地から集まったオフロード車たちが、スタートラインに並んでいる。
そのボンネットには、どれもかわいらしいキャラクター。
しかし、車内の女子高生たちの表情は真剣そのものだった。
『さあ、いよいよ始まります! 全国女子高生オフロード選手権!』
上空を旋回する実況ヘリコプターから、興奮した声が響く。
『今年の全国大会には、各地区予選を勝ち抜いた十六校が出場! 本日は、そのうち上位六校だけが決勝へ進出できる予選レースです!』
『今年のコースは砂丘と岩場が入り交じる難しい構成ですね。特に中盤の砂地は、かなり深そうです』
『しかも決勝のスターティンググリッドは、この予選順位によって決定します! つまり、ただ六位以内に入ればいいというわけではありません!』
『ええ。上位で通過するほど、決勝のスタート位置が有利になりますからね』
スタートラインの中央付近。
白いパジェロの運転席で、高瀬夏帆がハンドルを握っていた。
「美緒! いよいよだね!」
「うん!」
助手席の橘美緒が、地図表示端末を確認する。
「最初のチェックポイントまでは比較的平坦。そのあと砂丘が続くから、序盤は無理しないでね」
「了解!」
「それと、魔法の使用回数も忘れないで」
「ミサイル四発、防御三回、加速二回!」
「正解!」
「えへへ!」
「……覚えてるだけで褒められる三年生ってどうなの?」
「いいじゃん!」
二人が笑う。
その隣では、黒いランドクルーザー『くろまる号』がエンジンを唸らせていた。
黒百合女学院のドライバー、黒瀬凛が窓越しに手を振る。
「夏帆ー!」
「凛ーっ!」
「今年も負けないからねー!」
「こっちこそー!」
凛が親指を立てた。
夏帆も笑顔で応える。
その様子を見て、美緒が小さく笑った。
「本当に仲いいよね」
「だって凛たちとは三年目だもん!」
「でもレースじゃ手加減しないでしょ?」
「当たり前!」
夏帆は前方へ視線を戻した。
「勝つよ、美緒!」
「もちろん!」
◇
『スタートまで、あと十秒!』
会場の大型モニターに数字が表示された。
十。
九。
八。
観客席から大きな歓声が上がる。
全国大会のために設けられた巨大な観客席は、ほぼ満員だった。
桜ヶ丘女子高校の応援席では、学校名の入った旗が振られている。
整備エリアのモニター前では、顧問の早乙女沙織と後輩たちが見守っていた。
「夏帆先輩! 美緒先輩! 頑張ってー!」
三好結衣が叫ぶ。
「まだ聞こえないって!」
青山菜月が笑う。
早乙女先生は腕を組んで、スタートラインを見つめていた。
「……さあ、今年も始まるね」
五。
四。
三。
「夏帆!」
「うん!」
二。
一。
『スタァァァート!!』
十六台が一斉に飛び出した。
ドドドドドドッ!!
激しいエンジン音。
巻き上がる砂煙。
色とりどりの車両が、広大な砂漠へ向かって突き進んでいく。
『始まりました! 全国大会予選レース! さあ、最初に飛び出したのはどの学校か!?』
『おっと、桜ヶ丘がいいスタートを切りましたね!』
白いパジェロが、集団の間を縫うように加速していた。
「美緒! 前、空いてる!」
「右側! そこなら抜ける!」
「了解!」
夏帆がハンドルを切る。
もちもち号が二台の間を抜けた。
『もちもち号、一気に順位を上げます!』
さらに前方。
黄色いジムニー『ぷりん号』。
緑のランドクルーザー『まめたろう号』。
その二台が激しく競り合っていた。
「夏帆! 無理に間へ入らないで!」
「分かってる!」
夏帆は少しだけアクセルを緩めた。
そして、二台が右へ寄った瞬間。
「今!」
左側の砂地へ飛び込んだ。
エンジンが唸る。
白いパジェロが、二台を一気に抜き去った。
『おおっと! もちもち号、見事な追い抜き!』
『高瀬選手、相変わらず思い切りがいいですねえ』
『さあ、先頭はくろまる号! その後方からもちもち号が迫っています!』
黒いランドクルーザー。
白いパジェロ。
二台が並ぶ。
凛がちらりと横を見た。
「……もう来たの?」
隣の夏帆が笑う。
「来たよー!」
「早すぎない!?」
「今年こそ勝つからね!」
「まだ予選だって!」
凛が笑いながらアクセルを踏み込む。
しかし、夏帆も譲らない。
二台は並んだまま、最初のチェックポイントへ向かっていった。
『並んだ! くろまる号ともちもち号!』
『昨年の全国優勝校と準優勝校が、早くも先頭争いです!』
そして。
「美緒! 前に出るよ!」
「了解!」
夏帆がアクセルを踏み込んだ。
白いパジェロが、わずかに前へ出る。
『抜いたーっ!! もちもち号、先頭に立ちました!!』
「やった!」
「まだ始まったばかりだからね!」
「分かってるって!」
夏帆は笑った。
このときまでは。
◇
『おっと! ここで後続車両に動きがあります!』
第三位を走る緑のランドクルーザー。
朝霧女子高校の『まめたろう号』。
その後部に設置された魔法発射器が、青白く輝いた。
『まめたろう号、ミサイル発射!』
「夏帆! 後ろから来る!」
「見えてる!」
夏帆がハンドルを切った。
光弾が車体のすぐ横を通過する。
ドゴォォン!!
後方の砂地で爆発。
『もちもち号、回避成功!』
『さすがですね。あの速度でよく避けました』
「へへーん!」
夏帆が得意げに笑った。
しかし。
「夏帆! 次!」
「え?」
今度は第四位を走る黄色いジムニー。
ぷりん号からミサイルが放たれた。
「また!?」
「右から来る!」
「分かってる!」
夏帆が再びハンドルを切る。
しかし、今度の光弾は車体を追いかけてきた。
「追尾型! 防御使うよ!」
「お願い!」
美緒が魔法操作盤に手をかざす。
「防御結界、展開!」
パジェロを青白い光が包み込んだ。
ドゴォォン!!
爆発。
もちもち号は無傷のまま走り続ける。
「よし!」
だが。
『おおっと! さらに後方からも攻撃です!』
今度は赤いパジェロ。
そして青いジープ。
二台がほぼ同時にミサイルを放った。
「ちょっとーっ!!」
夏帆が叫ぶ。
「なんでみんな私たちばっかりーっ!!」
「先頭走ってるからでしょ!!」
美緒も叫び返した。
『もちもち号、立て続けに狙われています!』
『二年連続全国準優勝ですからね。各校とも警戒していますし、先頭を走る車両は狙いやすいんです』
『しかし、これは厳しい! 複数の学校からの連続攻撃!』
夏帆は急旋回した。
一発をかわす。
続けてもう一発。
だが、そのたびに理想の走行ラインから外れていく。
「美緒! このままだと!」
「分かってる! 防御使って!」
「了解!」
再び結界が展開された。
爆発を防ぐ。
しかし、その間にくろまる号が横を抜けていった。
「夏帆ー!」
凛が窓越しに叫ぶ。
「お先ーっ!」
「ちょっと待ってーっ!」
「待たなーい!」
黒いランドクルーザーが前へ出る。
『くろまる号、再び先頭!』
そして、その後ろからまめたろう号。
さらにぷりん号。
次々と、もちもち号を追い抜いていった。
「うわああ! 抜かれるー!」
「夏帆! 後ろ! まだ来てる!」
「えええっ!?」
さらに別の車両からミサイル。
もはや避ける場所がない。
「美緒! 最後の防御!」
「使う!」
青白い光。
爆発。
しかし、その衝撃を避けるために速度を落とした瞬間、オレンジのジープ『ぽんぽこ号』まで横を抜けていった。
『もちもち号、順位を落とします! 現在第五位!』
『かなり苦しい展開ですね』
その直後。
追い越しをかけてきた水色のハイラックス『こむぎ号』が、左側から迫った。
「夏帆! 左!」
「ええっ!?」
夏帆は無理に進路を塞がず、相手を先に行かせた。
さらに、砂煙の向こうから青いパジェロが現れる。
その車体が放った光弾を避けるため、もちもち号は大きく外側へ膨らんだ。
『ああっと! もちもち号、さらに順位を落としています!』
やっと前方が開けたと思った、そのとき。
「……美緒」
「うん」
「今、何位?」
美緒が順位表示を確認した。
そして。
「……八位」
「ええええええっ!?」
夏帆の叫びが車内に響き渡った。
◇
『これは波乱の展開です! 昨年、一昨年と全国準優勝の桜ヶ丘女子高校が、まさかの八位!』
『車両防御魔法をすべて使い切ってしまいましたね』
『このままでは決勝進出できません!』
整備エリア。
大型モニターを見つめていた結衣と菜月も、思わず声を上げた。
「ええっ!? 八位!?」
「まだ前半なのに!」
早乙女先生は腕を組んだまま、静かに画面を見つめていた。
「……大丈夫」
「先生?」
「夏帆たちは、あのくらいで諦める子たちじゃないよ」
モニターの中。
白いパジェロは、まだ力強く走っていた。
◇
「うわー! やっちゃったー!」
夏帆が叫ぶ。
「まだやっちゃってない!」
美緒が地図を確認する。
「落ち着いて! 車は無事なんだから!」
「でも八位!」
「分かってる! だからここから取り返すの!」
夏帆は大きく息を吸った。
「……よし!」
ハンドルを握り直す。
「美緒、次の地形は?」
「二キロ先から岩場! そのあと深い砂地!」
「了解!」
「防御魔法はもうないからね」
「分かってる!」
「無理な追い抜きは禁止!」
「……分かってる!」
「今ちょっと間があった!」
「気のせい!」
美緒は苦笑した。
それから地図を拡大する。
「夏帆、聞いて」
「ん?」
「この先の岩場、去年と少し地形が似てる」
「……あっ!」
夏帆が目を輝かせた。
「去年、練習で何回も走ったところに似てる!」
「そう。だから、ここは私たちの得意な区間」
「よーし!」
夏帆がアクセルを踏み込む。
白いパジェロが加速した。
◇
『さあ、先頭集団は岩場へ突入!』
巨大な岩が点在する、複雑な地形。
幅の広い車両は進路選択を間違えれば、速度を落とさざるを得ない。
前方では青いジープが、岩の間を慎重に進んでいた。
「美緒! 右と左!」
「左! 少し遠回りだけど、タイヤを取られにくい!」
「了解!」
夏帆がハンドルを切る。
大きな岩の外側を回り込む。
ガタガタと車体が揺れた。
しかし、速度は落ちない。
「次、右!」
「はい!」
「その先、段差!」
「見えてる!」
パジェロが岩場を駆け抜ける。
そして、前方の青いジープが狭い場所で速度を落とした瞬間。
「夏帆! 今!」
「了解!」
白いパジェロが、外側の緩やかな斜面を使って一気に追い抜いた。
『抜いたーっ!! もちもち号、七位に浮上!』
『見事なコース選択でしたね。車体の大きいパジェロで、あそこをあの速度で抜けるとは』
「よーし! あと一台!」
夏帆が笑う。
しかし、美緒は首を振った。
「違うよ」
「え?」
「あと一台抜けば決勝進出。でも、それで終わりじゃない」
「……あっ!」
「できるだけ上位でゴールするんだから!」
夏帆がにやりと笑った。
「そうだった!」
そしてアクセルを踏み込む。
「じゃあ、もっと抜いちゃおう!」
「その意気!」
◇
レースは後半へ入った。
先頭を走るのは、黒百合女学院のくろまる号。
続いて、まめたろう号。
ぷりん号。
ぽんぽこ号。
そして、こむぎ号。
五台が決勝進出圏内を走っている。
その後方。
六位を走るのは、青藍女子高校の『みずたま号』。
ボンネットには、水玉模様のカッパのキャラクターが描かれていた。
そのさらに後方から、白いパジェロが迫っていた。
『もちもち号、現在七位! 六位のみずたま号との差を縮めています!』
『ただ、残り距離が少なくなってきましたね』
『決勝進出は上位六校のみ! 桜ヶ丘女子高校、ここが正念場です!』
もちもち号の車内。
「美緒! あと何キロ!?」
「五キロ!」
「前の車まで!」
「約百メートル!」
「よーし!」
夏帆がアクセルを踏み込む。
しかし、前を走るみずたま号も速度を上げた。
「速い!」
「向こうも必死だからね!」
美緒が地図を確認する。
この先は長い砂地。
その向こうに、小さな丘がいくつも連なっている。
「夏帆、ミサイル残り何発?」
「四発!」
「一発も使ってないの!?」
「だって、ずっと撃たれてたんだもん!」
「……確かに」
美緒は少し考えた。
「じゃあ、一発使おう」
「了解!」
「ただし、直接当てる必要はないから」
「え?」
美緒が前方を指さす。
「みずたま号が通ろうとしてる、あの右側の砂地」
「……あっ!」
夏帆が笑った。
「なるほど!」
美緒が魔法操作盤を操作する。
「発射!」
青白い光弾が飛び出した。
しかし、狙いはみずたま号ではなかった。
その前方。
右側に広がる柔らかい砂地。
ドゴォォン!!
爆発とともに、砂が大きく巻き上がった。
視界を遮られたみずたま号が、進路を左へ変える。
だが、そちらは小さな丘が連続する難しい地形だった。
速度が落ちる。
「夏帆! 今!」
「了解!」
もちもち号は、爆発地点から十分距離を取った左側の比較的平坦なルートを選んだ。
夏帆はハンドルを細かく操作し、砂にタイヤを取られないよう走り抜ける。
二台の距離が縮まった。
五十メートル。
三十メートル。
十メートル。
そして。
『並んだーっ!! もちもち号、みずたま号に並びました!』
夏帆が叫ぶ。
「いっけえええ!!」
白いパジェロが前へ出た。
『抜いたーっ!! もちもち号、六位に浮上!!』
「やったあああ!!」
「夏帆! まだゴールしてない!」
「分かってる!」
「後ろも来てる!」
「分かってるってば!」
夏帆はアクセルを踏み続けた。
◇
ゴールまで、あと二キロメートル。
もちもち号は六位。
しかし、すぐ後ろにはみずたま号。
さらに後方から、もう一台が迫っていた。
『さあ、決勝進出をかけた六位争い! ここにきて激しくなってきました!』
『もちもち号は防御魔法を使い切っています。後方からの攻撃には注意が必要ですね』
「夏帆!」
「うん!」
美緒が後方を確認する。
「みずたま号、まだミサイル残ってる!」
「了解!」
その直後。
青白い光弾が放たれた。
「来た!」
夏帆がハンドルを切る。
しかし、ただ避けるだけではない。
前方にある小さな岩山を利用し、車体をその陰へ滑り込ませた。
光弾は岩に激突した。
ドゴォォン!!
『見事な回避! 岩を盾にしました!』
『あの一瞬で進路を変えましたね。さすが高瀬選手です!』
「よーし!」
夏帆が笑う。
そして、白いパジェロが再び加速する。
後方のみずたま号との差が、少しずつ広がっていった。
ゴールまで、あと一キロメートル。
「美緒!」
「何!?」
「加速魔法、まだ二回あるよね!」
「あるけど!」
「使おう!」
「今!?」
「うん!」
美緒は一瞬だけ考えた。
そして頷く。
「分かった!」
魔法操作盤に手をかざす。
「加速魔法、発動!」
もちもち号を淡い光が包み込んだ。
次の瞬間。
グンッ!!
車体が力強く加速した。
『もちもち号、ここで加速魔法!』
『決勝進出を確実にするためでしょうね。これ以上の順位上昇より、六位を守ることを選んだようです』
夏帆はハンドルを握り締めた。
前方にはゴールゲート。
後方との差は、確実に広がっている。
「美緒! 見えた!」
「うん!」
「ゴールだ!」
白いパジェロが砂煙を上げながら駆け抜ける。
そして。
『ゴォォォォール!!』
もちもち号が、ゴールラインを通過した。
『桜ヶ丘女子高校、六位でゴール!! 決勝進出決定です!!』
「やったああああ!!」
夏帆が叫んだ。
美緒も大きく息を吐く。
「……よかったあ」
「美緒! 決勝行けるよ!」
「うん!」
「やったね!」
「うん!」
そして二人は顔を見合わせた。
しばらくして。
「……六位かあ」
夏帆がぽつりと言った。
「……六位だね」
美緒も答える。
「私たち、去年全国二位だったよね?」
「そうだね」
「一昨年も二位だったよね?」
「そうだね」
「……予選六位って!」
「だから、あれだけ撃たれたんでしょ!」
「ひどいよねー!」
「本当にね!」
二人は顔を見合わせて笑い出した。
◇
整備エリア。
「先輩たちーっ!!」
もちもち号が戻ってくると、結衣と菜月が駆け寄ってきた。
「決勝進出おめでとうございます!」
「もう! 途中でどうなるかと思いました!」
夏帆が車から降りる。
「いやー! 危なかった!」
「危なかった、じゃないですよ!」
結衣が頬を膨らませる。
「八位まで落ちたとき、本当にびっくりしたんですから!」
「えへへ!」
「笑い事じゃないです!」
その横で、早乙女先生がもちもち号を一周した。
タイヤ。
ボディ。
下回り。
目立った損傷はない。
「うん。車は大丈夫そうだね」
「先生!」
夏帆が駆け寄る。
「決勝行けたよ!」
「見てたよ。よく頑張ったね」
早乙女先生が微笑む。
すると美緒が、申し訳なさそうに言った。
「でも、六位でした」
「六位でも決勝には進めるんだから、まずはよかったじゃない」
「……はい」
「それに、あれだけ狙われながら車を壊さなかったんでしょ?」
夏帆が胸を張った。
「もちろん!」
「なら、上出来!」
早乙女先生が笑う。
しかし、次の瞬間。
「ただし」
「ん?」
「決勝では、六番グリッドからのスタートだからね」
夏帆が固まった。
「……あ」
美緒も顔を上げる。
「……そうだった」
予選順位によって決まる、決勝のスターティンググリッド。
一位は最前列。
二位はその隣。
そして六位は――。
「いっちばん後ろじゃん!!」
夏帆の叫びが整備エリアに響いた。
◇
「夏帆ー!」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、黒百合女学院の黒瀬凛が歩いてきていた。
隣にはナビゲーターの倉橋梓もいる。
「凛!」
「いやー、びっくりした!」
凛が笑う。
「途中、決勝に来られないんじゃないかと思ったよ!」
「大変だったんだから!」
「見てた見てた! すごい狙われてたね!」
「笑い事じゃないってば!」
「あはは!」
凛は楽しそうに笑った。
すると梓が美緒に声をかける。
「でも、よく六位まで戻したね」
「うん。かなりギリギリだったけど」
「さすがだね」
「ありがと」
美緒が笑う。
その横で、夏帆が凛を指さした。
「それより! 凛!」
「ん?」
「予選一位だったんでしょ!?」
「もちろん!」
「くやしー!」
「決勝は最前列からスタートさせてもらいまーす!」
「うわー! ずるい!」
「ずるくないって! 予選の結果でしょ!」
凛が笑った。
「まあ、せいぜい後ろから頑張ってね!」
「絶対追いつくから!」
「待ってるよー!」
「待ってなくていい! 抜くから!」
夏帆が叫ぶ。
凛はにやりと笑った。
「……楽しみにしてる」
そして拳を差し出す。
夏帆も拳を合わせた。
「決勝で勝負!」
「うん!」
◇
夕方。
大会本部の大型モニターに、予選の正式結果が表示された。
一位――黒百合女学院『くろまる号』。
二位――朝霧女子高校『まめたろう号』。
三位――星見女子高校『ぷりん号』。
四位――山吹女子高校『ぽんぽこ号』。
五位――若葉女子高校『こむぎ号』。
六位――桜ヶ丘女子高校『もちもち号』。
決勝進出、六校。
この六台で、全国一を争う。
整備エリアでは、翌日に向けて各校が車両点検を始めていた。
もちもち号のボンネットを、夏帆が丁寧に拭いている。
「……よし!」
白いウサギが、いつものように笑っていた。
「もちもち、今日も頑張ったね!」
夏帆がボンネットを撫でる。
すると、後ろから美緒が声をかけた。
「夏帆ー! タイヤの確認終わったよ!」
「はーい!」
夏帆が振り返る。
その表情は、いつも通り明るかった。
「ねえ、美緒!」
「何?」
「明日は何台抜けば優勝?」
美緒が少し考えた。
「……五台」
「五台かあ!」
夏帆が笑う。
「じゃあ、一台ずつ抜いていけばいいね!」
「簡単に言うなあ」
「だって、そうでしょ?」
美緒は一瞬きょとんとした。
そして、笑った。
「……まあ、そうだね」
「よーし!」
夏帆は白いパジェロを振り返る。
「もちもち! 明日は五台抜くよ!」
ボンネットの白ウサギは、いつものように笑っていた。
その向こうでは、夕日に照らされた広大な砂漠が静かに広がっている。
全国大会決勝。
三年間、ずっと目指してきた優勝杯。
そこまで、あと一レース。
第3話 完




