↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/106

第七十一話 九年ぶりの再会

 白牙砦へ戻ると、オスヴァルト侯爵が城壁の上で待っていた。


 昇降台しょうこうだいから降りたナディアを見て、侯爵の杖が手から落ちる。


「ナディア……本当に、生きていたのか」


「ええ。随分と年を取りましたけれど」


「私は……」


 侯爵が妻へ近づこうとする。


 だが、途中で足を止めた。


「抱きしめても、いいだろうか」


 ナディアはすぐに答えなかった。


「今は、まだ」


「……分かった」


「あなたが悪くないとは言いません。レティへ真実を隠し、ガルムへ任せたことは許せない」


「ああ」


「でも、私を捜してくれていたことも聞きました」


 ナディアが、二つに戻った銀狼の首飾りを見せる。


「話したいことが、九年分あります」


「聞かせてほしい」


「一度には無理です」


「なら、何日でも待つ」


 失った九年は、一度の再会では埋まらない。


 それでも二人は、互いに背を向けなかった。


 レティシアは母親の隣に立ち、父親を見つめる。


「私も同席します」


「もちろんだ、レティシア」


 今度は、最初から娘の名前を呼んだ。


     ◇


 ナディアの治療が終わると、俺たちは白牙砦の会議室へ集まった。


「白百合は、九年前から両国の争いを作ろうとしていました」


 ナディアが、採掘場から持ち出した命令書を広げる。


「王国では隣国の仕業に見せかけて魔獣を放ち、隣国では王国軍が村を襲ったという噂を流す。私は和平使節わへいしせつとして、それを調べていました」


「それで襲われたのですか?」


 ミレーヌが尋ねる。


「はい。灰氷晶を埋め込まれ、記憶を封じられました。村の方々に救われなければ、死んでいたでしょう」


「なぜ今になって、またお母様を?」


「私が白百合の魔獣誘導施設を見つけたからです。それに――」


 ナディアがレティシアを見る。


「あなたを壊すためでしょう」


「私を?」


「白牙門を開けさせ、敵兵を侵入させる。失敗すれば、あなたの姿で和平使節を殺す」


「どちらに転んでも、私は戦争を始めた女になる」


「そして国中から憎まれれば、あなたは誰も信じなくなる」


 ヴィオレッタが低い声で言った。


「私への孤立誘導と同じね」


 やり方は違う。


 けれど、目的は同じ。


 少女を独りにし、その名前と力を戦争へ使う。


和平会談わへいかいだんは、明日の正午からです」


 ミレーヌが予定表を確認する。


「今から中止を求めれば?」


「中止そのものが、相手国への敵意と受け取られる」


 オスヴァルト侯爵が答える。


「避難民に敵兵が紛れていたことで、すでに両国は互いを疑っている」


「なら、予定どおり開くしかないわね」


 ヴィオレッタが言った。


「偽物が現れる前提で、正体を暴く」


「私をおとりにしろ」


 レティシアが告げる。


「駄目だ」


「アルト。これは私が決めた」


「危ないぞ」


「分かっている。それでも、自分の名前を使われたまま隠れたくない」


 俺は何も言えなくなった。


 以前の彼女なら、命令されたから危険へ立った。


 今は、自分の意思で選んでいる。


「分かった。でも一人では行かせない」


「最初から、そのつもりだ」


 レティシアの口元が、ほんの少し緩んだ。


「擬態魔法は手を完全に再現できません」


 ミレーヌが続ける。


「会談へ入る者全員に、手袋を外していただきましょう」


「血統魔法も確認するわ」


 ヴィオレッタが計画を書き込む。


「本物のレティシアにしか出せない銀狼の紋章を、両国の前で示すのよ」


 そのとき、会議室の扉が勢いよく開いた。


「緊急報告!」


 外交官が、血の気を失った顔で駆け込んでくる。


「和平会談の予備会合で、隣国の第一使節が襲撃されました!」


「容体は?」


「重傷です。目撃者によれば、犯人は銀髪の少女」


 全員の視線が、レティシアへ集まった。


「隣国政府は、レティシア様の身柄を引き渡すよう要求しています」


 白百合は、明日の会談を待っていなかった。


 銀狼の姿をした暗殺者は、すでに両国の和平へ牙を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。