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第二十五話 用意された告白

 見つかった証拠は、王都警備隊が別々の馬車で運ぶことになった。


「一か所に集めれば、また燃やされる可能性がある」


 グレイ先生の判断だった。


 交換用魔石。


 六年前の帳簿。


 エレオノーラが残した告発文。


 魔法油の購入記録。


 どれか一つを奪われても、残りがグレゴールの不正を示してくれる。


 ヴィオレッタは、母親からの手紙だけを自分で持っていた。


「読まないのか?」


「今は読めません」


「怖い?」


「……はい」


 ヴィオレッタは素直に認めた。


「母が最後に何を伝えようとしたのか、知るのが怖いのです」


「なら、読みたくなったときでいいだろ」


「今すぐ読むべきだとは言わないのですね」


「手紙は逃げないからな」


 ヴィオレッタが、わずかに笑った。


「あなたは単純なのに、時々だけ正しいことを言いますわね」


「時々だけか?」


「時々だけです」


     ◇


 公爵家による説明は、西部市民区の中央広場で行われることになっていた。


 広場には住民だけでなく、大勢の貴族や新聞記者まで集まっている。


 木製の壇上だんじょうには、公爵家と王国評議会の旗が並んでいた。


「黒薔薇公女が来たぞ」


「本当に自分で毒を入れたのか?」


「公爵家は、全て娘の責任だったと発表するらしい」


 ヴィオレッタが現れると、あちこちから疑う声が上がる。


 彼女の足が、わずかに止まった。


「大丈夫か?」


「大丈夫です」


「手、震えてるぞ」


「これは寒いだけです」


「今日は暖かいけど」


「黙りなさい」


 俺が隣を歩き続けると、震えは少しずつ小さくなった。


 壇上へ続く階段の前で、公爵家の護衛に止められる。


「市民の学生は、傍聴席ぼうちょうせきへ」


「俺はヴィオレッタの相棒で、井戸を調べた証人だ」


「身分をわきまえろ」


「アルトは、わたくしの同行者です」


 ヴィオレッタが護衛の前へ出た。


「通しなさい」


「しかし、公女様――」


「同じことを二度言わせるつもりですか?」


 護衛は顔をこわばらせ、道を開けた。


「ありがとう」


「あなたが騒ぎを起こす前に止めただけです」


 壇上の中央には、二人の男性が待っていた。


 一人はグレゴール。


 もう一人は、深い紫色の髪をした大柄な男性だった。


 ヴィオレッタの父、レオポルト・ローゼンベルク公爵だ。


 厳しい顔で、娘を見つめている。


「ヴィオレッタ。屋敷へ戻れと命じたはずだ」


「学園の保護下で、調査を続けておりました」


「父親の命令より、学園を選んだのか?」


「公爵家が間違った命令を出しているのであれば」


 レオポルトの眉が動いた。


「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」


「はい」


「兄上。今は家族で争っている場合ではありません」


 グレゴールが、二人の間へ入る。


「住民の皆さんへ、真実を説明することが先です」


 グレゴールは一枚の紙をヴィオレッタへ渡した。


「これを読みなさい。正直に罪を認めれば、これ以上の処罰は求めない」


「わたくし一人を罪人にして、全て終わらせるおつもりですか?」


「君はまだ十五歳だ。若さゆえの過ちだったと説明できる」


「学園は退学。公爵家の表舞台からも追放するのでしょう?」


「それでも命までは取られない。君を守るためだよ」


「守る……」


 ヴィオレッタは紙を握り締めた。


 壇上へ王国評議会の調査官が上がってくる。


「これより、西部市民区の井戸汚染と強制退去に関する釈明会しゃくめいかいを始める」


 広場が静まり返った。


「初めに、ローゼンベルク公爵家から説明を」


 グレゴールに促され、ヴィオレッタが前へ出る。


 用意された紙を開いた。


『わたくし、ヴィオレッタ・ローゼンベルクは、西部市民区の再開発を進めるため――』


 声が震えている。


『井戸の交換用魔石を別の倉庫へ移し、必要な修理を意図的に遅らせました』


 住民たちから怒りの声が上がった。


「やっぱり、あの女が!」


「俺たちを追い出そうとしていたんだ!」


 ヴィオレッタの顔から、血の気が引いていく。


 俺は壇上の端から叫んだ。


「ヴィオレッタ! 自分の言葉を話せ!」


 彼女が顔を上げる。


 俺と目が合った。


 次に、住民の中にいる男の子を見る。


 水を届けたお礼に、林檎をくれた子だ。


 ヴィオレッタは、用意された紙をゆっくりと下ろした。


「この告白は、事実ではありません」


 広場が再び静まり返る。


「わたくしは、ここに書かれた罪を犯しておりません」


 黒薔薇公女は、父と叔父の前で用意された告白を拒んだ。

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