第十八話 未来で彼女の罪になる場所
軍需倉庫の建設計画を見ながら、俺は焼け焦げた本の内容を思い出していた。
黒薔薇公女ヴィオレッタ。
彼女が行ったとされる罪の一つに、西部市民区の破壊があった。
住民を強制的に追い出し、家々を取り壊した跡地へ、魔導兵器の工場を建設した。
反対した市民は捕らえられ、その多くが二度と帰らなかったと書かれていた。
その工場で量産された兵器が、後の世界大戦で大勢の命を奪った。
俺が見ていた計画書は、まさにその始まりだ。
だが、計画を作ったのはヴィオレッタではない。
叔父のグレゴールだった。
「この計画を止めないと」
思わず声が出た。
「アルトさん?」
「こんなものを建てるために、住民を追い出しちゃ駄目だ」
「ええ。この計画書も証拠として持ち帰りましょう」
セシリアが職員を呼び、認証写しを作るよう頼んだ。
ところが、戻ってきたのは先ほどの職員だけではなかった。
会計院の責任者らしき男性と、財務局の腕章をつけた二人の役人が一緒だった。
「申し訳ありませんが、記録の閲覧はここまでです」
「どうしてですか?」
「西部市民区に関する資料は、本日付で機密情報に指定されました」
「私たちがここへ来たあとではありませんか!」
セシリアが抗議する。
「公爵家財務局からの要請です」
役人たちは机に並べていた資料を、次々と箱へ戻し始めた。
「待ってください。その計画書は、強制退去に関わる重要な証拠です!」
「これは証拠品ではありません。認可前の計画書です」
「申請者の署名があるだろ!」
「市民の学生が口を挟むことではない」
俺の手から計画書を奪い取ろうとする。
抵抗すれば、こちらが盗もうとしたことにされるかもしれない。
仕方なく手を離した。
「閲覧中の資料を、急に持っていくなんておかしいだろ」
「正式な命令だ。文句があるなら、財務局長へ申し立てろ」
その財務局長が怪しいから調べているのに、本人へ言ってどうする。
全ての資料が箱へ戻され、封印されてしまった。
◇
「ごめんなさい。私の家の名を出せば、写しを作れると思っていました」
会計院を出ると、セシリアが悔しそうに謝った。
「セシリアがいなかったら、見ることもできなかった。謝る必要ないだろ」
「ですが、証拠を持ち帰れませんでした」
「いや。全部を取られたわけじゃないぞ」
ニールが自分の鞄を開く。
中から、小さな紙の束を取り出した。
「何だ、それ?」
「お前たちが計画書を見ている間に、気になる数字と文章を書き写しておいた」
「いつの間に……」
「実家の帳簿を手伝わされてたから、書き写すのは速いんだ」
住民から集めた管理費。
王都から支払われた補助金。
修理に使われたとされる金額。
ニールの写しには、記録されていた数字が細かく残されていた。
「これだけでは、正式な証拠にならないかもしれない。でも、金の流れを追う手がかりにはなる」
「十分だ。ありがとう、ニール」
「お前に一人で行かせなくて正解だったよ」
紙を確認していたセシリアの手が止まった。
「こちらを見てください」
それは、浄化装置に使う交換用魔石の納品書だった。
半年前、三つの新しい魔石が購入されている。
代金は王都の補助金から支払われ、品物はローゼンベルク公爵家の西倉庫へ届けられていた。
「新しい魔石があったのに、井戸を直さなかったのか?」
「そのようです」
「でも、受取人のところにヴィオレッタの名前があるぞ」
納品書の一番下には、こう書かれていた。
『受取人――ヴィオレッタ・ローゼンベルク』
その横に署名まである。
「やっぱり、あいつが受け取ったのか?」
「違います」
セシリアが強く否定した。
「ヴィオレッタ様の字ではありません」
「分かるのか?」
「幼い頃、何度も手紙をいただきましたから」
俺も、ヴィオレッタが調査中に書いていた手帳の文字を思い出した。
形がまるで違う。
「誰かが、ヴィオレッタの名前を勝手に使ったんだ」
交換用の魔石を隠し、井戸が壊れるまで放置した。
その責任まで、ヴィオレッタへ押しつけようとしている。
叔父が隠していたのは、金の使い道だけではなかった。
最初から全てを、ヴィオレッタの罪にするつもりだったのだ。




