取り調べ
「俺は……遺物発掘の出稼ぎで、この辺りまで来てた」
ベネはゆっくり語りだした。「遺物って何?」って思ったけど、空気の読める俺は話の腰を折らないよう、この場はスルーする。
「けど、伝手もない新参ってことで単独での発掘は許可してもらえなかった。なわばりやら、暗黙のルールやらがあって、トラブルのもとだと思われたんだろうな。なら、どこかのグループに混ぜてもらおうか思ったけど、それもうまくいかなかった」
「わかるわー。高校デビューしようと張り切ったけど、既に同中でグループが出来上がってしまってたりすんだよね」
「ユウヤ、話の腰を折らないで」
ソネットにたしなめられてシュンとするKYな俺。
「だから、宿場町の日雇いをこなしながら機会をうかがってたんだ。でも、得た金も生活費ですぐに消えてしまう。そんな中、ある男に声を掛けられたんだ」
「何者だ?」
「カッティっていう仲介屋だ。”いい儲け話があるんだが、人手が足りなくて困ってる”と言っていた。正直、あまりいい印象のする男ではなかったけど、条件が良かったからつい俺は飛びついてしまった」
「報酬も破格で、前金までもらえる。素人でも簡単にできる仕事だと。さすがに旨すぎる話だと思ったよ。恐る恐るどんな仕事か聞くと、”珍しい生き物を捕まえて貴族に売る仕事”だと言っていた」
珍しい生き物……。ククの表情が気になったが、とても目線を向けられる雰囲気ではなかった。
「この辺にしか生息していない生物で、モノ好きの貴族がとんでもない金額で依頼したんだと。運び手が足りてないから助けてくれないか、って言いながら前金の入った袋を渡してきた。かなりの額だった。」
ふうぅ……、と大きな息継ぎをするベネ。
「……とにかく金が必要だったんだ。だから、俺はその仕事を受けることにした。その翌日の夜、カッティが別の男を連れて宿を訪ねてきたんだが、そのときこの服と仮面を着るように言われた」
「そいつは誰?どんな男だったの?」
「……悪いが、その男も仮面をつけていたから顔は直接見ていないんだ。ただ、背が高くて、低くよく通る声。あと、俺たち平民とは違ったしゃべり方……、キザったらしい貴族みたいなしゃべり方をしていたな」
悪事を働く貴族……。お約束展開のかぐわしい香りがするぜ。
「そこからは馬車に揺られて大きな山の麓まで向かった。近くで見ると、とんでもなくデカくて高い山だった。麓についたら、そこから一日かけて山の反対側までぐるっと回った。目的地に着いたかと思ったら、そこから山に登るって言うんだ。山が急すぎるからそこからは徒歩で向かうことになって」
「人数は?」
ククが真剣な目で問いかける。
「俺を入れて12人。二人は馬車の見張りで残って、あとの10人で3日間ひたすら登った。妙だと思ったのは、昼に寝て、夜に登るということだった。しかも、夜なのに明かりをつけることを禁止されていた。理由を聞くと、獲物が光で逃げてしまうからだと言っていたけど……」
「ベネはデカい鳥を捕まえるって言われてたんだよな?」
「そうなんだ。……でも4日目の夜、目的地に着いて嘘だってわかった。そこには村があったんだ」
ベネは少しククを気にするように間を置く。
「続けて」
ククが促すと、ベネが続けた。
「俺以外にも数人混乱しているやつがいた。どうやら、本当の獲物を知っていた人間は多くなかったみたいなんだ」
「本当の獲物っていうのが、クク達ってことか」
「……あぁ。二人が最初の家に忍び込んで、しばらくしたら抱えて出てきたんだ。翼の生えた人間を」
ククの表情がゆがむ。
「……さっき、殺していないって言ってたよな?」
「眠り針の吹き矢で気絶させただけだ、って言ってた。あと、死んだら価値がなくなるし、極力傷つけるなと」
「珍獣ハンターではなくて、奴隷商人だったってことか……」
「気づいたときにはもう遅かった。もうあとにはひけなかった。俺が気絶した人を縛ってたら、一人逃げたから捕まえろとリーダーに言われて、追いかけてたら洞窟みたいなところからここに落ちて……」
はあぁ……と深い息を吐き、ベネはそこから黙ってしまった。自分の身に起こったことを再確認して、改めてこれが現実だと認識したといったところだろう。
ライダーたちに今聞いたことを要約して伝えると、ライダーは『ふむ……』といって記録をとりつつ
『彼女が求める情報に対して、不必要な語りが多かったですね』
と、身もふたもない冷静なコメントを吐く。さすがはライダーさん。
『首謀者についての情報はこれ以上得られなさそうなので、ひとまず、その町の名前と仲介屋の容姿、あとは馬車の特徴を聞くべきですね』
「さすがライダー!……ベネ、あとは町の名前とカッティの見た目、それと乗ってきた馬車に何か特徴はなかったか教えてくれ」
「町の名前は、アンテリオーレ。大きな湖がそばにある宿場町で、お世辞にもきれいな町とは言えないところだったな」
「アンテリオーレ……」
ククが何か考えるようにつぶやく。
「カッティは釣り目で眼鏡をかけた小男だ。役人みたいな服を着て、長い白髪を後ろに束ねている。よく口の回るやつで、まくしたてるようにしゃべるのが特徴だな」
頭の中で、日本のオタクを想像してしまった。
「馬車は三台。1つだけ大きい馬車があって……。そういえば幌になにか模様が描いてあったな」
「どんな模様だった?」
「たしか草を食べてる赤いトーロが描かれてた。趣味の悪い金色の下地だったからよく覚えてる」
「……トーロとは?」
「トーロはトーロだろ。オスのマンツォだ。頭に角のある。ビステッカしたり、タリアータとか、スペッツァティーノにしたり」
「え?え?ヴェスパがバグった!」
ソネットが笑い転げてる中、脳内でヴェスパが解説。
《トーロ:地球で類似する生物は雄牛》
ヴェスパさん、あざす。
「なるほどね。金色の下地に、草喰ってる雄牛の模様が描かれた馬車か。かなり有力な手掛かりじゃん」
「……たぶん、俺が出せる情報はこれくらいだ」
またベネは、はぁ、と深い息を吐いて目を閉じた。どうやら、体力の限界のようだ。
「悪い、ベネ。けが人なのに、長くしゃべらせて」
「……なあ、ユウヤ。俺、これからどうなるのかな?」
半分諦めが混じったような、低いトーンでベネが問う。顔色がまた悪くなっているのは、疲弊しているのもあるけど、これから自分の身に何が起こるかわからない恐怖からでもあるだろう。
「……マキちゃん、ライダー。ベネってこのあとどうなるの?」
境遇に同情する部分もあるし、何とか悲惨な末路は避けてあげたい気持ちがあった。
『報復はもう十分受けている。これ以上の処罰は過剰だ』
いつも通りのクールな返答がマキちゃんから返ってくる。
『今回のような事態は、エルグ・ネスト形成以来記録が存在しないので、正直対応できる規範がないのです』
暴力事件が起こったことないってことは、やはり本来はかなり穏やかな種族なんだろう。もしかしたら、あのエルグ人たちによる報復行動も、彼ら自身予想外の衝動だったのかもしれない。
『今後、世界が開かれたときのために、規範をつくるべきなのかもしれませんね』
これまで暴力とは無縁だった彼らに、そんなルールは無用だったはずなのに。なんとも言えないやるせなさに、言葉を失う。
「ユウヤ……?」
ベネが恐る恐る声を掛ける。黙り込んだ俺を見て、最悪の想定をしているのが見て取れた。
「あぁ、わりぃ!……大丈夫、これ以上の処罰が下ることはないってさ」
ベネの表情に希望の色が映る。だが俺は、彼に静かなトーンで告げる。
「ベネ。状況はどうあれ、……お前は子供の腕を切り落とした。ここは、本来なら暴力とは無縁な優しい世界なんだ。ベネがやったことはここではありえないくらい、そう、とんでもないことなんだ」
ベネは表情を一転させる。目を見開いて中空を見つめたのち、目を閉じて、口を震わせる。強く悔いているように見えた。
俺は、ベネの片腕にそっと手を添えた。
「……でも、その代償はもう十分受けた。だから、彼らがお前にこれ以上何かをすることはない」
ベネの目に涙が浮かぶ。檻の中に、静けさが広がる。
ククはずっと黙って聞いていたが、目の奥には決意に似た何かがはっきりと映っていた。




