今度はちゃんと聞いててよね
今度はちゃんと聞いててよね
「私、ここから出て、家族を助けたい」
ククが静寂を破り、はっきりと自分の意思を告げた。
「……おう、そうだよな!みんな生きてるってわかったし、助けにいこうぜ!」
「手伝ってくれるの?」
驚いた顔でククが聞く。
「当たり前じゃん!俺はそのためにここに来たんだよ、きっと」
「ユウヤ、カッコイー!!」
不思議なモノを見る目で俺たちを見るクク。
「でも、私、ここから出してもらえるのかな?」
ククがライダーたちをチラッと見ると、会話内容を察したのかライダーが答える。
『問題ないかと。一応、議会への承認を得る必要がありますが』
「たぶん出れるってさ」
俺はチラッとベネの方を見る。
「ベネは……、いつか出してもらえるのかな?」
マキちゃんが抑揚のない声でそれに答える。
『信用のないアイツを出すことはできない』
『まぁまぁ。――規範がないうちは、難しいかと。危険性などをもう少し、見極める必要もあります。それに、彼は外世界を知るための重要な情報源でもあります。議会との相談の上、処遇を決めさせていただきたく』
絶対出さないって感じではないようだ。
「なんとか情状酌量をたのんます」
『善処します』
視界の端から、震えた声で小さく「ありがとう……」と聞こえた。
*****
「……よし!じゃあ、急がないとな。ライダー、承認ってすぐ得られるのか?」
『一応、先ほど議長へ通知を送りました。少々お待ちください。――それと、ユウヤさん』
ライダーが手元の端末から、俺に目線を移しながら呼びかける。
『翻訳機能の調整は無事完了できたようですね』
「……あ、ああ!どうやら、もうバッチリみたいだぜ?」
ソネットから冷ややかな視線を感じる。
『では、議長からの返事を待つ間、あらためて議会からの依頼を聞いていただいてもいいですか?』
「あ、そうか!そっちの依頼もあったんだよな。やばい……、議会からの依頼の方が先だったのに」
勝手に盛り上がってククと約束したけど、ダブルブッキングという不義理をかましてしまった。
『まぁ、方向性的には問題ないのでお気になさらなくても大丈夫です。とりあえず人払いをしたいので、あちらの部屋までお願いしても?』
俺はククへ軽く説明し、ソネットを抱えて案内された別室へ入る。守衛室といった感じの簡素な造りの部屋だった。ライダーと机を挟んで向かい合うように座ると、彼は淡々と説明を始める。
『我々のこの国は、エルグ・ネストといいます』
「ああ、それは議長が言ってたな。そこは理解できてるぜ」
『では……。ここエルグ・ネストは、実は巨大な閉鎖空間、有体に言えば大きなドーム状の巣なのです』
「ドーム?ここが!?でもあの空は?」
『外界の空を投影しているだけです。外界と同じ周期で照度を下げて、夜を再現します』
驚愕の事実を告げられるが、今まで抱いていた違和感も相まって、どこか腑に落ちる感じもあった。
『我々は四千年ほど、この中で生活をしております』
「四千年!?気が遠くなるな。ドームの外に出たりはしないのか?」
『外界に天敵がいまして。――それが、ベネたちのようなワートゥ、人間族です』
「天敵って……。昔、何かあったのか?」
『かつて我々はワートゥとの共存を望んでいたのですが、彼らは我々を魔族と称して駆逐しようとしました。最後まで対話を試みましたが、彼らは聞く耳を持ちませんでした。我々は、かたい殻に閉じこもるしかなかったのです。ワートゥが我々を忘れるまで、我々を受け入れられる度量がつくまで。――もしくは、ワートゥが自滅して滅びるまで』
思ったよりも暗い歴史だった。穏やかな性格の彼らは争うことを嫌い、閉じこもるという手段をとるしかなかったのだろう。本当に、平和的な種族なんだなと思った(小並感)
『……しかし、ワートゥは滅びておらず、この度、境界も破られました。今回は偶発的ですが、エルグ・ネストがほころび始めたのは間違いありません。なので、いつまたワートゥの侵攻が始まるともわからない状況です』
「例えば、もう一度巣を作りなおすとかは無理かな?」
ライダーが首を振る。
『四千年の間、我々は徐々に衰退しました。もう一度、コロニーを形成しなおすのは不可能に近いでしょう』
「じゃあ、俺に依頼したいことってのは?」
『一つは、ワートゥの世界の情報を入手してほしいのです。世界の勢力図、宗教の類、伝承や歴史、文明レベル、あらゆる情報です。我々に関する情報が残っているなら、それは最優先でいただきたいですね』
「正直、記憶力には自信がない。ちゃんと覚えて報告できるかな?」
『問題ありません。入手した情報はヴェスパが記憶します。それを届けてくれればいいのです』
「定期報告ってことね。……でも、たびたび帰ってきて報告ってのはかなり無理くない?」
『機動外殻にはデータ転送システムがあったはずなのですが…』
「え、そうなの?ヴェスえもん?」
《データ転送:可能》
《データ受信:不可》
「ん~、送信はできるけど、受信はできないってさ」
ライダーは右下を向いて、何か無言で考えている様子だった。
「つーかさ、今更だけど、おたくらの技術力ってとんでもないよね?正直、俺が元いた世界より数倍進んでるよ?」
『それゆえ、ワートゥに狙われた節はあるのです。私は、正直あなたの順応性の高さに驚いています。あなたの素性のほうに俄然興味が湧いてきました』
「話すと長くなるぜー」
『それは楽しみです。ですが、今は話の続きを』
「そうだったな。外の世界の情報の入手。まだ何かあるのか?」
『どちらかといえば、これが本命なのです。こちらを肌身離さず持っていてください』
試験管のようなものが渡される。入っているのは……菌糸!?
『あなたもよく知っているでしょう。我々の体を蝕むこの菌糸を。これはクヴといって、我々エルグに寄生して育つ真菌です。大昔より、我々はこのクヴに悩まされていましたが、ここ最近、活性が高まっているようで、致死性の症状が多発しているのです』
「呼吸孔への侵入、だよな?」
『はい。あなたは手指による摘出で活躍されたと聞きましたが、それもあくまで対症療法であって根本的解決には至りません。このままでは、活性がより強くなったクヴに我々は滅ぼされるでしょう。――あなたには、クヴの弱点を見つけてほしいのです』
「弱点って、どうやって?」
ライダーは立ち上がり、菌糸の入った試験管を部屋の調理台にある熱源に近づける。試験管の中の菌糸が、熱源から逃れるように上へ上へと登っていく。
『クヴは真菌類ではありますが、意思に近いものがあります。このように高熱に近づけると避けるように蠢き、我々が近づくと逆に近づくような挙動を示します』
確かに、クモ爺が灼けたコテを近づけると、嫌がっているように蠢いているのを何度も見た。
『活性が高まり、その特徴は顕著になってきています。それと比例して、呼吸孔への侵入頻度と速度も早まっています』
「つまり、この試験管に入った菌糸が嫌がるものを見つければいいってことだな?」
『はい。過度な期待を背負わすようですが、完全消滅できるほどのものがあれば』
クモ爺の地下で見た光景がフラッシュバックする
「……OK!任せておけ!この勇者ユウヤ様が全部まとめてまるっと解決してやるぜ」
『……期待しています。ユウヤ』
「今度はちゃんと聞いてたみたいだね」
ソネットちゃん、お口にチャックしようか。




