18・レオルの姉(レオル視点)
気づくとディノが寝息を立て始めていた。
俺はたき火の始末をしてからディノを腕に抱いて塔へと向かう。
塔の中では石で錬金した燭台を明かりに、リシアが釜の前で何かを混ぜていた。
集中しているようなので声をかけず二階へ上がると、リシアのものだったらしい石のベッドに寝かせる。
ディノは錬金釜と一体化しているので、こうやって眠るのが正解なのかはわからなかったけれど。
「もう寝てしまったのね」
後から来たリシアが、先ほど作っていたらしい毛布をディノに掛けた。
収納箱のおすすめ解体で取り出したフォレストオークの毛皮で作ったんだな。
ディノの寝顔に向けるリシアの表情は、いつもより柔らかい。
「はい、レオルにはこっち」
俺の肩にもディノのものより大きな毛布が掛けられる。
毛皮の保温効果はそのままに、手触りもフォレストオークとは思えないほどふわりと滑らかに仕上げられている。
一体どれほどの魔力があれば、ここまで錬金釜の機能を贅沢に使いこなせるのか。
「無理してないか?」
「そんな風に見える? それに、無理をすれば倒れるのでしょう?」
「まぁ、そうだな」
「……私ね、ディノが寝てからレオルに聞いて欲しかったことがあるの」
「ん、どうした?」
「私、わかった気がするわ。人はそれぞれ、あたわったものが違うんだって」
「? まぁ、そうだろうけど」
「だから私、もう魔彫像は作らないわ」
あぁ……あれか。
あの石像の群れは確かに、今までの情熱から目が覚めるほどの怪作だったかもな……。
「だけど私、茶葉や毛布は上手くいったと思うの。だからこれからはルネの真似ではなくて、自分で満足できるものを作るつもりよ。そうだ、私が錬金釜でレオルの物を作る話は覚えてる? 何がいいか考えてくれたかしら」
「ああ」
俺は鞄から、食事の前に見つけておいた白香木の枝を出した。
「櫛が欲しい」
「櫛? 意外ね」
「リシアを見ていたら昔、俺の姉が白香木の櫛を大切にしてたことを思い出したんだ」
一階に降り、リシアが錬金釜に香木を投入すると、杖で混ぜ始めた。
「レオルのお姉様って、どんな方なの?」
「そうだな……まだ俺が隣国に住んでいた小さい頃の記憶だけど、厄災の王女フィリシアに憧れていたよ」
「変わった人ね。お姉様の影響で、レオルも古代史が好きになったのかしら」
「そうだろうな。一緒に住んでいた頃、姉さんの姿が見えないと俺は追いまわしていたけれど。そんな時は大抵、姉さんはお前の魔彫像に見とれていたよ。『こんなに澄んだ表情をした人の悪口を、歴史書に残す奴らの話は信用できない』って、像のお前を妄信してた。だけどリシアから聞いた話だと、割と当たってたのかもな」
「その魔彫像、きっとルネの習作だわ。私を彫るなんて、彼女しかいなかったもの。ルネの魔彫像はレオルの家にあるの? 私も見たいわ」
「残念だけど、俺は戦渦の混乱に遭った後この国に逃げたから……。その時失われてしまったかもな。だからフィリシアにはもう会えないと思っていたのに、今日この塔で石像を見つけて、しかも動き出して、本当に驚いたよ」




